※胸糞注意
アサガオの到着から半日後、日が暮れ真っ暗になった頃漸く明石がリンガに到着した。
「遅くなってすまないイ級……って、なにそれ?」
桟橋で待っていた木曾に連れられた先で、全身をこれでもかと太い鎖でぐるぐる巻きにされてあつみと繋がれたイ級にどうしたのかと困惑する明石に木曾が言う。
「こうしとかないとストライダーにバルムンク積んで海に飛び出すからだよ」
「超納得した」
千歳との約束を果たすためと千代田に対して過保護過ぎる姿勢を取っていたイ級の事だ。
下手をしなくとも千代田を掠った艦娘や属している泊地をバルムンクで焼き払うぐらいやらかすだろう。
「で。だ。
何があった?
それにアルファはどうしたんだ?」
千代田の誘拐に錯乱したイ級はアサガオの報告では納得出来ないと事情を問い質す。
靄靄と黒いオーラが漏れ出している辺りそう余裕は無さそうだ。
「それなんだけど…」
どう説明したものかと悩みながら明石は言う。
「リンガに向かう途中、私達はこの娘達を見付けたんだ」
そう明石は岸に上がった姿のままで身を寄せ合う鈴谷と熊野を指す。
二人とも見えない何かに怯えているように警戒を剥き出しにしている。
「逸れ艦か?」
「いや…元ダブりだよ」
「ダブリ?」
なんのことなのかと首を傾げるあつみに北上が説明する。
「簡単に言うと二人目ってこと。
あつみと島のワ級みたいな関係だね」
「分カッタ」
あつみが納得したところで明石は話を戻す。
「で、
「だったら良かったんだけどねぇ…」
歯の奥に何か挟まったような、それでいてそれ以上の説明を避けたい様子を見せる明石。
そこに明石到着の報を聞いた磐酒がやってくる。
「到着したよ「嫌ァッッ!!??」」
磐酒の姿を確認するなり悲痛な叫びを上げる熊野。
まるで死ぬより酷い絶望を前にしたような悲鳴に更に鈴谷が砲身が折れ曲がった駆逐艦用の単装砲を磐酒に向ける。
「く、来るな!!??」
そう睨みながら叫ぶ鈴谷だが、その目は恐怖でいっぱいに満ちて涙となって零れ落ち膝はがくがくと震えどうみても虚勢以外の何とさえ見えないものだった。
「ど、どういうことだ?」
初顔合わせからここまで怯えられたら磐酒だって混乱してしまう。
そんな様子にイ級は胸糞を悪くしながら言う。
「明石、そいつらブラ鎮の被害者だな?」
二次創作恒例のブラック企業張りの悪辣な艦隊運営により精神を病んだ艦娘なんだろうと、
「ブラ鎮?」
「超過労働は当然で捨て艦は当たり前。
改造時に貴重な装備を追加される艦がいるなら山ほど造っておいて牧場なんて宣い改造が完了したら装備を剥いで捨てるなんてザラな糞野郎が管理する場所だよ」
「なにそれ?
艦娘を馬鹿にしてるの?」
イ級の説明に本気で怒りを露にする北上。
しかし、イ級はそれであればまだいい。
だが、
「…違う」
イ級の言葉を否定したのは鈴谷だった。
力無く砲を下ろし、突然自分の上着に手を掛ける鈴谷。
「おいなにを!?」
夜とはいえ外で服を脱ごうとする鈴谷に、止めさせようと制止の声を放つ磐酒だが鈴谷は止まらない。
「私達は普通の泊地で建造されたんだけど、そこにはもう鈴谷も熊野も居て、私達は居ても艦の総数を圧迫するだけで活躍出来ないからって解体指示を受けたの」
「鈴谷、それは…!?」
「このほうが早いじゃん?
それに、遅かれ早かれなんだしさ」
熊野が必死に停めようとするのも構わず全てを諦めたように上着を脱ぎタイを解きながら鈴谷は続ける。
「それ自体は異論なんてなかったよ?
活躍出来ないなら居てもしょうがないし、艦娘じゃなくなっても他にいくらでも道はあるんだってそう思ってたから。
だからさ、上の指示でトラックの解体場に向かったんだ」
「トラックだと…?
しかし艦娘の解体場は桜島にしか無いはず…」
自分の知識と話が食い違う話に困惑する磐酒。
そうしている間に鈴谷はとうとうブラウスのボタンを外し、そして上を全部脱いでしまった。
「そこで、私は…」
「もういい」
説明なんて必要無かった。
服の下に隠されていた鈴谷の素肌は、無理矢理例えるなら路地裏の落書きのように無惨な状態だった。
「酷イ……」
木曾が吐き気に負け海の方に走り出し耐え切れずあつみがそう漏らした。
歯が割れたんじゃないかというぐらい歯を軋ませ拳から血を流す磐酒に鈴谷は更に言う。
「私なんかまだマシなんだよ?
中には薬漬けで壊れちゃったのとか売り物にならないからって」
「黙れよ!!??」
感情が爆発したイ級の怒りを顕すように黒い結晶が鎖を切り刻み鈴谷の肌を隠す。
「なに…これ…?」
「それ以上言わないでくれ。
じゃないと、自分を抑え切れなくなる」
戸惑う鈴谷達に悲しみでいっぱいになりながらイ級はそう頼む。
「…変な奴だね。
深海棲艦の癖に艦娘の心配するなんて」
「そんなの関係ない。
許せないから許せないんだ」
悲しみから一転イ級は黒いオーラを纏いながら怒りを湛え告げる。
「あつみ。
こいつらを氷川丸のところに連れていってくれ」
「ウン」
イ級に頼まれたあつみは投げ捨てられた鈴谷の上着を渡し、肌を隠すと纏わり付いていた結晶が消える。
「明石、アルファはどうなった?」
「二人を保護した直後に砲撃を受けてフォースを呼ぶ間もなく盾に」
「そうか」
アルファが撃墜されたと聞いて驚く磐酒を無視しイ級は海に向いて怒鳴る。
「さっさと戻ってこい、アルファァァァアアアアアアアア!!」
ビリビリと空気を震わせる凄まじい怒号に艦娘達の舎が騒がしくなるが、イ級が構わず海を睨んでいると水平線の彼方から半壊したアルファが向かって来た。
『申シ訳アリマセン御主人。
私ガ着イテイナガラ』
「謝罪は後だ」
到着と同時に腹を切らんばかりの謝罪を始めるアルファに磐酒が突っ込んでしまう。
「今さっき、砲撃の盾になったって言わなかったか?」
「何度潰されようが、波動砲じゃなければアルファは復活するんだよ」
ぶちゅりと悍ましい音を起てながら自己再生を繰り返すアルファを従え、黒いオーラを靡かせながらそうちらりと見るイ級に磐酒はゾワリと恐怖を走らせる。
しかし臆する暇も与えずイ級は磐酒に問いを掛ける。
「磐酒提督。
トラックの周辺泊地は何箇所だ?」
「…二ヶ所だ」
「その内面識があるのは?」
「古い方の第一泊地になら。
しかしあそこは」
「どうでもいい」
余計な情報はいらないとイ級は遮る。
そんなイ級を復活しか木曾が鞘に入れたカトラスでぶん殴る。
ガコン! と凄まじい音を起てた事で明石や北上を除いた磐酒と騒ぎを聞き付けやってきたその場の者達が目を丸くするが、木曾は構わず叱り付ける。
「落ち着けとは言わないが冷静になれ。
脅しても立場が悪くなるだけで千代田を取り返す事には繋がらないだろうが!」
叱り付ける木曾だが、ただならぬ気配を纏う駆逐棲鬼にそんな台詞が届く訳が無いと周りが思う中、イ級は僅かに沈黙を挟み、
「すまない。焦りすぎていた」
と、謝罪を述べた。
再び周りが呆気に取られる中、イ級は磐酒にも謝罪を告げる。
「すまない」
「いや、気持ちは分からなくもない」
磐酒もつい最近同じような境遇に遭ったばかりだ。
一刻も早くと焦る気持ちは解る。
「ともかくだ。
そんな場所が近くの泊地と関わりが無いとは考えられない。
結果次第ではトラックが地図から消えると思っておいてくれ」
静かだからこそ一切の異論は認めないという殺気にも似た威圧感を孕むイ級の言葉に磐酒は逆らう余地を見付けられない。
「アルファ、鳳翔を寄越したお偉い方に探り入れてこい。
明石はあつみと瑞鳳の改修を頼む」
『了解』
「解った」
そう指示を出すとイ級は海に向かう。
「俺達はどうするんだ?」
「皆を頼む」
そう言って海に飛び込もうとするが、木曾の手が尻尾を掴み留める。
「一人でやるつもりか?」
「流石にそれは無理だよ?」
木曾と一緒に北上も連れていけと言うが、イ級は静かに尋ねる。
「ただの人間を殺せるか?」
「それは…」
「今回は艦娘でも深海棲艦でもなく相手は人間だ。
艦娘の敵は深海棲艦で、人間を殺しちゃいけないよ」
それがエゴだとしても、境界を越えてほしくないと来る事を拒むイ級に木曾は馬鹿と批難する。
「何を間抜けな事を言っているんだお前は。
人殺し?
俺達は軍艦なんだ。
艦娘として転生しても、俺達の手はとっくに人の血で真っ赤に染まってるよ」
砲は人を吹き飛ばすために、魚雷は人を焼き払うために、この身は国を護る大義名分の名の下に殺害を求められた呪われた
だから、気を遣うなと木曾は手を放しながら言う。
「俺達にも背負わせろ。
千代田を助けるために」
「…分かったよ」
そう言うとイ級は海に降り、木曾と北上とヘ級がそれに続く。
「提督…」
途中から参じた大淀が止めるべきではと言いかけるも磐酒は言い切る。
「奴らの邪魔をするな。
これは命令だ」
「しかし」
軍が規律を犯しているらしい事は流れから解る。
だが、ならばこそ外部の者の好きにさせてはそれこそ提督の立場が危うくなる。
「いいか。
これは独り言だ」
「え…」
帽子を目深に被り磐酒は夜の海に消えていく駆逐棲鬼に背を向ける。
「俺はお前達を信頼している。
だから、それを食い物にしている輩が我慢ならん。
叶うなら全員で大本営ごと灰にしてやりたいぐらいにだ。
だが、組織に身を置く以上歯向かえう事は出来ない。
俺に出来ることは、見て見ぬふりをすることだけだ」
そう言うとパンパンと手を叩き解散するよう促す。
「ほれ、さっさと寝て英気を養っておけ。
明日も朝早くから任務は山のようにあるんだぞ」
そうやじ馬達を散らすと磐酒はぽつりとごちる。
「俺にあの時あいつらぐらいの力と覚悟があれば、家族を守ってやれたんだろうか」
そう呟き、頭振って思考を止めると立ちぼうけのまま残った大淀を促しその場を去った。
〜〜〜〜
連れ去られた千代田は艤装を無理矢理剥がされコンクリート張りの部屋に放り込まれた。
「キャアッ!!??」
剥き出しのコンクリートにたたき付けられ悲鳴を上げる千代田。
「可愛い悲鳴ね。
これからどんな声で鳴いてくれるか楽しみね」
「そうね。
でも、その前に商品を逃がしたお仕置きが先よ」
クスクスと笑う愛宕を同じ笑みを浮かべたまま窘める高雄。
「そうだったわね。
今日のお仕置きは痛いかしら?
それとも気持ちいいのかしら?」
「私は痛いほうがいいわ。
でも、気持ちいいのも好きよ」
「高雄ってば贅沢ね。
でも、私も大好きよ」
そう笑い合う二人を千代田は不気味なものに映って見えた。
(何、こいつら?
完全に壊れてる…)
引きずられている最中聞こえた耳を塞ぎたくなる身を引き裂かれるような悲鳴や淫猥な嬌声の中で、まるでそれを享受する事が幸せなんだというかのようにずっと笑っていた。
まともな神経をしていたらあんな笑顔が出来るはずがない。
「ふふふ、大人しく待っていてね?
じゃないと、ふふふ」
どうするかを明言せぬまま朗らかに笑い鉄の扉を閉めてしまう。
「……はぁ」
漸く緊張を解く事が許された千代田は息を吐く。
不意の砲撃でアルファが墜ちた直後、明石と鈴谷達を逃がすために囮になったはいいが、まさか艦娘が相手とは思わず簡単に捕まってしまった己を恨めしく思う。
「これからどうしよう?」
こんな居るだけで頭がおかしくなりそうな場所からさっさと逃げたいが、かといって艤装を奪われた艦娘は人間と変わらないため目の前の扉一つどうにも出来はしない。
というか、明石が無事にリンガに着いていてくれていればすぐにイ級が助けに来るだろう。
情けなくも思わなくはないが、貞操的な意味では大ピンチでもそういう意味では今の状況を差ほど危惧はしていなかった。
「不幸だわ…」
「っ!?」
突然響いた声に反射的に壁を背に声の主を確認すると、部屋の隅の薄暗がりで膝を抱えて蹲る先客の姿があった。
「……山城?」
薄暗がりかつ艤装が無いので判りづらいが、黒髪のショートカットに髪飾りとミニスカート風の巫女服からそうではないかと尋ねてみる。
千代田の呼び掛けに山城は顔を上げると陰鬱とした様子で口を開く。
「……そうよ。
欠陥戦艦の山城よ」
自己紹介がてらにいきなり自虐した山城に若干引く千代田。
「そういう貴女は千代田ね?」
「ええ」
「貴女も掠われたクチかしら?」
「貴女もって、山城も?」
驚く千代田に自嘲の笑みを浮かべる山城。
「ええそうよ。
私のお姉様を探しに海に出たらいきなりこんなところに連れて来られたのよ」
不幸だわと己の境遇を歎く山城にどうしたものかと頬を掻きつつ取り敢えず言う。
「多分だけど、すぐに助けが来るわよ」
「そんな訳無いじゃない」
甘いことを言うなと千代田を睨む。
「此処は大本営の管轄する解体場なのよ?
それも近隣のトラックも一枚噛んでいる。
そんな場所に助けなんか来る訳無いわ」
「詳しいのね?」
疑問に問うと山城は袖を握る手を強く握る。
「隣の部屋で艦娘を酷い目に遭わせている男達そう言っている声が聞こえるのよ」
「……」
聞かなきゃよかったかもと後悔する千代田を余所に山城は頭を膝に埋めてぐちぐちと恨み言を呟き始める。
「大体にして始めから不幸なのよ。
建造されたらいきなり囮にされて、生き残ったと思ったら今度は深海棲艦に助けられて、そして最後はこんな末路。
大和は横須賀に転属して華々しくやってるってのにどうして私だけ不幸なのかしら…」
半分も聞こえてはいなかったが、随分奇妙な境遇だなとそう思い尋ねてみる。
「ちょっといい?」
「……なによ?」
「さっき、深海棲艦に助けられたって言った?」
「……聞き間違いよ」
千代田の問いに山城はそう切り捨て黙り込んでしまう。
(もしかして、イ級が助けた艦なのかも)
鳳翔から少しだけイ級との経緯を聞いていた千代田は、その時大和と山城の三隻であったと聞き及んでいた。
だとしたら、なんという偶然なのか?
奇妙な巡り会わせもあったものだとそう思った千代田は、いざの時に備え少しでも体力を温存するため床に座り目を閉じた。
今回の敵はブラ鎮はブラ鎮でもエロ同人のブラ鎮でした。
ちなみに今回の高雄と愛宕はブラクラのヘングレみたいに終わっているという…
それと解体は各泊地でやってるというのも普通の人間になった娘達を一々輸送するコスパなんかの無駄が出るのではと不思議に思ったので専用施設があるのだろうと自分は思ってます。
そうやって考えるとデイリーの解体で修復剤貰えるのって、艦娘を売ってその支払い代金として修復剤を……やめときましょう。
鈴谷他の描写が甘いのはクズレ級の時みたく書いている内容にキレそうだったからと。
次回はさーちあんどですとろい&ジェノサイド