なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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それを台無しにする最悪が起きる運命なのか?


なんか、いい事あるとさ

「全くもうよ…」

 

 神通が初めての挑戦で案の定戦果0…かと思いきやまさかの撃破2という結果を出しやがった。

 本人曰、

 

「お二方を真似させていただきました」

 

 とのこと。

 いやさ、俺達でもデコイのランダムパターンを読み切り残像が残るレベルの速度の中ルートを固定させるための牽制と確実に当てる本命を的確に計算してもやっても命中率30パーセント下回ってるんですが?

 それを遠目でたった一回見ただけで真似してしかも当てちまうって鳳翔並の怪ぶ…もとい傑物じゃねーか。

 しかも神通を皮切りに自分もやってみたいと続々と挑戦者が現れ半ばお祭り騒ぎになったし。

 神通に次いで出た対空番町の摩耶が戦果0と失敗して、三式弾装備した榛名がやはり戦果0としくじり、別に対空砲だけが防空じゃないと瑞雲と晴嵐とカ号を何故か日向じゃなくて扶桑が持ち出したがデコイが起こす風圧に逆に墜とされ敗北して、終いには加賀が全機震電改とかおとなげないにも程がある装備で漸く一体撃破したのだが、その時に鳳翔が赤とんぼで四体仕留めていたことをうっかり口を滑らせてしまい、赤とんぼでそれ以上の結果を出してやると泊地中の空母による航空演習に発展。

 日が落ちて空母組が引き下がると今度は夜間防空演習と称して一晩中デコイの精製指示を出し続けさせされ、ようやく部屋に戻った今現在は昼前だった。

 

「うちの鳳翔は異常なんだっての」

 

 あんなのと張り合えたらソロで飛行場姫と渡り合えるんじゃねえの?

 疲れ果てて部屋に戻ると陽菜と談話しているあつみとのんびりしていた北上だけだった。

 

「あ、おかえり」

「オカエリナサイイ級」

「ああ」

 

 返事もそぞろに空いてるソファーに倒れ込む。

 

「随分お疲れだね?」

「休む間もなくデコイに指示出してしかも体験談語らせられたり実際動いて見せたりさせられたんだよ」

「ご愁傷様」

 

 へらっと笑いながらそう労う北上。

 

「燃料持ッテクル?」

「後でお願いするよ」

 

 今はとにかく休みたい。

 睡魔はないけど横になってじっとしてれば疲労は抜けるからそうしたいんだ。

 そうして横になってると陽菜が話を続け始める。

 

「私、人類が今の姿で皆幸福になるのは難しいと思うんです」

 

 そりゃそうだ。

 思想国家を始めとした個の考えという隔たりがある以上、等しく同じものなんてお腹いっぱいになった時の幸福感ぐらいしか俺には思い浮かばない。

 

「だから違う形になればきっとそれも解決すると思うんです!」

 

 ……なんですと?

 

「いや、それは」

「ソレジャダメダヨ」

 

 やんわり是正しようとした俺を遮りあつみが否定する。

 

「どうしてですか?

 皆同じになれば隔たりは全部解消出来るじゃないですか?」

「デモ、『今』幸福ナ人達ハ不幸二ナッチャウ」

「だけど…」

 

 自分の主張は間違っていないと力説しようとする陽菜にあつみは諭すよう語りかける。

 

「陽菜。

 他二陽菜ト同ジ答エヲ出シテ失敗シタヒト達ガイルノ」

「そう、なんですか?」

 

 自身が導いた結論の失敗例があると聞き戸惑う陽菜。

 って、それってバイドの事だよな?

 

「ウン。

 彼等ハスベテノ命ヲモット強クスレバッテ考エタケド、ソレハ誰モガ傷ツケアッテ何モ得ラレナイ失ウダケノトテモ悲シイ戦イノ火種ニナッタノ」

 

 バイドの結論と陽菜の結論はまったく同じだったと言われ陽菜は悲しそうに俯く。

 

「でも、じゃあどうしたら…」

「ゆっくり考えればいいんだよ」

 

 うじうじされてたらゆっくり出来ないから終わらせるために言う。

 

「一人で考えても失敗するだけなんだ。

 だから、誰かに頼って全員で考えれば陽菜がやりたい事の答えも出る筈だ」

 

 一人で考えた答えがろくなものにならないってのは嫌ってほど経験済みなんでな。

 そう言うと陽菜は嬉しそう顔を上げる。

 

「ありがとうございます!

 私、頑張りますから!」

「それはいいけど今は休ませてね。

 昨日一日働き詰めで疲れてるから」

 

 演習大会で燃料沢山消費したからって提督が今日は自主訓練禁止してる今を逃したら次はどうなるやら。

 

「休息は大事ですよね!

 分かりました!」

 

 元気を取り戻したようでなによりだ。

 さて、これでゆっくりと…

 そう思った直後、コンコンとドアをノックする音が。

 

「神通です。

 少々宜しいでしょうか?」

 

 ……休息は終わりか。

 

「開いてるぞ」

 

 というかこの部屋内側から鍵掛けらんねえし。

 失礼しますと断り神通がドアを開ける。

 

「昨日はとても有意義な訓練を体験させていただき本当にありがとうございました」

 

 そう例を述べてから部屋に入る。

 

「こっちは生きた心地がしなかったけどな」

 

 摩耶とか喧嘩っ早そうな艦娘がいつ逆切れ起こすかとクラインフィールドの準備やめれなかったんだぞ。

 俺の文句に神通は何故かくすりと笑う。

 

「この度はそのお礼にと、こちらを持って参じさせて頂いたのですが、受け取っていただけますか?」

 

 そう言って見せたのは琥珀色の液体が充たされた瓶だった。

 

「そ、それはもしかして竹鶴?」

 

 興奮して気色ばむ北上に神通はええと言う。

 

「私のとっておき、竹鶴の25年物ですよ」

「うひゃあ」

 

 狂喜乱舞とかぴったりなほど喜ぶ北上の様子から酒だってのは分かるけど、そんなに凄いのか?

 

「すまん。

 いいものだってのは何となく解るが酒は詳しくないんだ。

 どういう酒なんだ?」

「竹鶴って言ったら日本製ウィスキーの一等品だよ。

 今のご時世でそうは飲めないプレミアなお酒なんだからね」

「成程」

 

 大吟醸みたいなもんか。

 

「そんな貴重な物、本当にいいのか?」

「ええ。

 流石に惜しくないとは言えませんが、今後課していきたい訓練の草案を幾つも思い至らせてもらいましたから」

「そうか」

 

 神通がいいなら遠慮なく貰っておこう。

 

「ね、ね。

 早速一口頂戴」

 

 よっぽど飲みたいのか北上がいろいろと押し付けながらそうせがんでくる。

 普段なら困って折れるんだがな

 

「だが断る。

 こいつは瑞鳳の回復祝いまでとっとく」

「けちー」

 

 そう言うと北上はぶーぶーと唇を尖らす。

 

「でもまあ、それならしょうがないよね」

 

 文句を垂れながらも北上は素直に引き下がった。

 

「あつみ、預かっといてくれ」

「ワカッタ」

 

 神通から貰ったウィスキーをあつみに預けておく。

 

「用件は他にないか?」

「ええ。

 あまりご迷惑を掛け続けても提督に叱られてしまいますから」

 

 本当に謝礼だけが目的だったのか。

 ……そうだ。

 

「ちょっと頼みたい事があるんだがいいか?」

「頼み、ですか?」

「うん。

 一度逢ってみたいと思ってたんだけどずっと会えなかった艦がいてさ。

 多分居るはずだから、もしよかったら話をしてみたいんだ」

「はぁ…」

 

 そう頼むと神通は困った様子をみせる。

 同時に興味津々と北上が食いつく。

 

「何々?

 もしかして高雄?

 それとも愛宕かな?」

「違う」

 

 島に1番不足しているおっぱい代表の名を挙げる北上だけどさ、それ千代田で十分間に合ってるから。

 

「俺が逢いたいのは川内型三番艦の『那珂』ちゃんだよ」

「那珂…ですか?

 理由は…?」

「俺、那珂ちゃんのファンなんだ」

 

 俺の答えに二人揃って目と口を○にするけど、俺、本気で言ってるからな?

 

 

〜〜〜〜

 

 

 やっほー、皆元気してる?

 艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよ! キャハッ☆

 地方回りのお仕事も一段落して本日は那珂ちゃんはお休みなの。

 なんだけど、帰って来たら泊地の様子がちょっと不穏なんだよね?

 理由を聞きたくても川内お姉ちゃんは昼間だから寝ちゃってるし、神通お姉ちゃんはどこかにお出かけしてていないの。

 仕方ないから提督(プロデューサー)さんにちょっと聞いてこようかな?

 あ、でも那珂ちゃん今はあんまりお肌の調子が良くないし、提督(プロデューサー)さんには1番可愛い那珂ちゃんだけを見てもらいたいから我慢したほうがいいよね☆

 うん! そうと決まったらお休み前の美容体操しちゃおう!

 アイドルの道は一日にしてならず!

 こういう日々の努力が…

 

 コンコン

 

「はぁい☆

 どちら様です…か……?」

 

 ドアを開けたら深海棲艦が居たんだけど、どういうことなの…?

 なんていうか、見た目は駆逐イ級なんだけど…右目に木曾ちゃんの眼帯をしてて身体は森林迷彩の塗装をしてるイ級なんて見たことないよ?

 というか、なんで泊地の中に深海棲艦がいるのよ!!??

 

「……本物だ」

 

 え? 今、深海棲艦が喋ったの!!??

 

「本物の那珂ちゃんだ…」

 

 え? ええ?

 ちょっ、この深海棲艦なんかキラキラし始めてるんだけど!!??

 と、取り敢えずなにかしないと!!??

 艤装の無い今の那珂ちゃんに出来ること……

 

「初めまして!!

 艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよぉ☆

 キャハッ☆」

 

 って、なんで那珂ちゃんはいつもの挨拶しちゃってるのかな!!??

 しかもテンパり過ぎて提督(プロデューサー)さんの前でいつもやってる決めポーズまでバッチリ決めちゃったし!!??

 

「うおぉぉおおおお!!??」

「っ!!??」

 

 ま、まさか怒らせちゃった!!??

 深海棲艦が凄いキラキラしながら荒ぶってるけどどうしたらいいの!!??

 

「N・A・K・A、NAKAちゃあぁぁぁぁぁぁぁぁああん!!」

 

 怖い!!??

 キラキラしながら暴れ狂って本当に怖い!!??

 もうウザキャラ止めるから誰か本当に助けて!!??

 那珂ちゃんの名前を叫びながらバタバタ暴れてたイ級がキラキラしながら私に擦り寄ってくる。

 

「なななななななにかな!!??

 那珂ちゃんはアイドルだからお触りしちゃいけないんだよ!!??」

 

 どんだけ那珂ちゃんはブレないの!!??

 自分でもドン引きしちゃうんだよ!!??

 と、那珂ちゃんの言うことを聞いてくれたのか、イ級が床に頭を擦りながらザァって下がる。

 

「ごめんなさい那珂ちゃん!!

 本物の那珂ちゃんに逢えて、つい節度を忘れてしまいました!!」

 

 ええと…もしかしてあれ、土下座なのかな?

 も、もうどうしたらいいの?

 というか、どうしてこんなことになっちゃったの!?

 

「那珂ちゃん!!」

「はいっ!!??」

 

 今度は何!!??

 那珂ちゃんを呼んだイ級は、まるで恥ずかしがるみたいにもぞもぞしてからどこからともなく真っ白な色紙を那珂ちゃんに差し出して来たの。

 

「サイン下さい!!」

「ええっ!!??」

 

 なんでサイン!?

 欲しいって気持ちは嬉しいけどイ級が相手なん複雑過ぎだよ!!??

 と、とにかくサインすれば終わりなんだからさっと書いて…

 

「那珂ちゃんはサインや握手はお断りしてるんだ。

 だから、ごめんね」

 

 って、そうじゃないでしょ那珂ちゃん!!??

 受けるつもりだったのになんでお断りしてるのよ!!??

 この状況でそんな事言ったら怒らせるだけだよ!!??

 どこまでウザキャラ染み付いちゃってるのよ那珂ちゃんは!!??

 

「……」

 

 いつもの癖でついお断りしちゃったけど、これって那珂ちゃん死んだよね?

 艦隊のアイドルが陸で沈むなんて悲しすぎ…

 

「流石那珂ちゃんだ」

 

 …………………………………………………………………………………………………………………え?

 

「自分を安売りしない那珂ちゃんはやっぱり素敵だ。

 やっぱり那珂ちゃんは最高だ!!」

 

 え? ええええええええ!!??

 怒るどころかますますキラキラが凄くなっちゃったよ!!??

 あんまりにもキラキラし過ぎてミラーボールみたいに輝いちゃってるんだけどどうしたらいいの!!??

 

「逢ってくれてありがとう!!

 これからも陰ながら応援してるから頑張ってね!!」

 

 そう那珂ちゃんに言うとイ級はどこかに行っちゃった。

 ……どういうことなの?

 

「なぁに?

 うるさくて寝られないんだけど?」

 

 あんまりうるさくて川内お姉ちゃんが起きて来ちゃった。

 だけどさ、

 

「それ、那珂ちゃんが1番知りたいの」

 

 本当に、なんだったの?

 

 

〜〜〜〜

 

 

 いやぁ、本物の那珂ちゃんとお話するなんて完全に諦めてたけど、まさか念願叶う日が来るなんて今日はなんていい日なんだ。

 

「イ級、流石にアレはキモいとしか言えないんだけど」

「ちょっとどころじゃなくて本気でいろいろと考え直していいか?」

「くちくきもい」

「アネゴビョウキ?」

「疲レスギテルダケ…ダヨネ…?」

 

 ふふ、何と言われようとなんとも思わないぜ!!

 今ならあの大和をハグしろって言われたって笑顔でやり切れる自信がある。

 そう、今のこの最高の気持ちを言葉に著すならこれしかない。

 

「もう、何も怖くない!!」

「それは本気で危ないから!!??」

 

 フラグ?

 馬鹿いうなよ。

 瑞鳳は氷川丸が全身全霊で看病してるし、明石は千代田とアルファが警護しながらこっちに向かってる。

 この状況で不測の事態が起きるはずがないじゃないか!

 まさに完全勝利!!

 矢でも鉄砲でもR戦闘機でも掛かってこいやってなもんだ!!

 

「大変ネ駆逐棲鬼!!」

 

 ……え?

 物凄く焦った様子で金剛が部屋に飛び込んで来た。

 

「どうしたんだ金剛!?」

「話は後!!

 とにかく桟橋に来るヨ!!」

 

 そう促す金剛に俺達は戸惑いながらも桟橋に向かう。

 桟橋に着くと、そこには明石のアサガオだけが待機していた。

 

「何があった!?」

 

 金剛の焦り用から重大な情報を持っているのだろうと察し、アサガオがあつみに着艦したのを見届け報告を聞く。

 そして、妖精さんが語る報告に耳を疑いたいと本気で思った。

 

 

「千代田が……艦娘に…誘拐された……?」

 




ということでイ級まさかの那珂ちゃんのファンだったという。

次回はブラ鎮編というか、イ級おにもーど☆突入

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