なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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鎮守府いちぃぃぃぃぃいいいい!!


ラバウルの科学力は

 イ級が飛行場姫の依頼を受けて島を出た後、無人となった島にある泊地の艦娘が訪れていた事をイ級達は知らなかった。

 その艦娘が所属する泊地の名はラバウル。

 元は放逐するには有能過ぎるが手元に置くには厄介過ぎる連中を島流しにする前線基地だったのだが、送られた有能過ぎた彼等は急拵えの簡素な防衛設備しかなかった施設を勝手に使いやすいよう大規模な改築と増設をやらかすという信じられない真似を行い、更に独自の技術を以って数多の戦果を挙げる実績を重ねた事で本当に泊地へと昇格された鎮守府一の魔界である。

 そこでは日々、艦娘に優しく深海棲艦に厳しいを標語に奇怪としか周りから思われない兵器の開発が行われているのだが、今日も今日とて新たな兵器が産声を上げていた。

 

「完成したぞぉぉぉおおお!!??」

 

 訂正。開発主任の一人である軽巡夕張が新たな兵器の完成に奇声を上げていた。

 

「あらあら。

 また何か完成しちゃったのね」

 

 夕張の奇声にそうぼやくのはラバウルが前線基地だった頃の最初期から戦線の中核を担い、後進に主力の座を譲った今も『ラバウルの女神』と称され島の守護神と崇められる長門型二番艦の陸奥である。

 陸奥がそうぼやくのも仕方ない。

 彼女は島の要であると同時に大体の新兵器と命名された試作兵器の最初の犠牲者もとい試験運用に駆り出される被害者なのだ。

 中には陸奥の主砲とする51センチ砲なる架空戦記から再現され実際に破格の破壊力を有した兵器として完成した当たりもあるが、その多くは何故か最後に爆発してしまう。

 陸奥自身、あの爆発でよく無事だったなと思うような事故も一度や二度ではないのだが、いい年した大人や艦娘たちが妖精さん達一緒になって子供のように目を輝かせながら新しい物を造り出す姿が好きなので、頼まれるとつい断るのも忘れて使ってしまうのだ。

 

「見てください陸奥さん!!」

 

 陸奥に気付いた夕張が嬉しそうに陸奥を呼ぶ。

 

「あらあら。

 今度は何を造ったの?」

 

 前回は10連装酸素魚雷なる魚雷管のお化けみたいな物だった。

 長門型が魚雷管を持っていたという史実から陸奥が無理矢理持たされたのだが、発射直後に魚雷同士が接触してお察し下さいになったのも記憶に新しい。

 今度はどんな面白おかしい物なのかと尋ねる陸奥に夕張は楽しそうに完成したばかりの装備を披露する。

 

「今回はこれです!!」

 

 そう示すのはプロペラタンクとロケットブースターを無理矢理束ねたような大型推進基であった。

 

「これって、まさか弾道ミサイル?」

「違います!」

 

 だったら自分が使う必要もなくていいなと思う陸奥に力強く否定する夕張。

 

「これは艦娘を直ぐさま戦場に送るために開発した超高速輸送機器です。

 その名も『バニシング・オーバード・ブースター』です!!」

 

 ドドンッと効果音が付きそうなテンションで力強くそう言う夕張だが、陸奥は正直反応に困ってしまった。

 

「バニシングは消滅って意味の英語なんだけど…?」

「これを使って深海棲艦を消滅させるんだから間違ってません!!」

 

 やばそうな名前にやんわり訂正を求めるも間違っていないと言い切る夕張。

 というより既に形骸でしかないが敵性言語を使うのはいいのだろうかと陸奥は思うが、ラバウルだから仕方ないわねと納得してしまう。

 なんだかんだで陸奥もしっかりラバウルに染まっているのである。

 

「おおぅ!?

 今度のは大分ド派手ですねぇ」

「勝手に近づいちゃダメだよ青葉」

 

 そこに何処からか嗅ぎ付けたトラブルメーカーと巻き込まれ被害者改め青葉と衣笠がやってくる。

 

「夕張さん。

 今回の自信は如何なものですか?」

 

 必死に抑えようとする衣笠を尻目に早速情報を漁る青葉。

 

「勿論完璧よ!!

 これが実践配備された暁にはもう鈍亀軽巡とか東京急行のドラム缶担当なんて汚名は払拭されること間違いないわ!!」

「成程成程」

「青葉ぁ…」

 

 混沌とし始めた様相にラバウルらしいわねと微笑ましく見守る陸奥。

 

「それじゃあ早速陸奥さんに試して頂くんですか?」

「いいえ。

 これは私が使うわ」

「何故ですか?」

 

 いつもなら最初に陸奥が使いそれが爆発するのがお約束となっていたのだが、今回は夕張自身が使うといい不思議に思う青葉。

 

「バニシング…めんどくさいから略してVOBは艦毎に燃料の配合を微妙に変えないと事故に繋がるぐらい繊細なの。

 これは私用に燃料の配合をしたから今回は私が使うしかないの」

「大丈夫なの?」

 

 自分が被害に遭わないということに安心しつつも夕張に万が一があっては大変と心配する陸奥に夕張は大丈夫と言う。

 

「万が一の女神はちゃんと持っているから」

 

 どうやら事故は確定らしい。

 

 

〜〜〜〜

 

 

「じゃあ、始めるわよ」

 

 専用カタパルトに固定されたVOBに艤装を接続する夕張。

 提督に許可を貰いにいくと提督も同類故に一言「いいデータのためにもしっかり失敗してこい」とサムズアップしながら許可を出し、夕張に加え記録係として青葉と青葉の抑え役の衣笠に護衛として陸奥が抜錨して経過を観察する。

 

「今回は助かって良かったですね」

 

 VOBの発進準備が進むのを横目に、いつも被害に遭う陸奥を心配していた衣笠は本気でそう言うが、陸奥は何かを悟った様子で呟く。

 

「だといいんだけどねぇ」

「え?」

 

 その直後、VOBが点火し音速を越える速度で滑空する夕張が陸奥に直撃した。

 

「やっぱりぃぃぃいいいいっ!!??」

 

 ドップラー効果を引き連れながら夕張と共に明後日の方向に飛んでいく陸奥。

 

「……え?」

 

 何が起きたのか理解が追い付かず固まる衣笠を青葉が強引に引きずり出す。

 

「早く行きますよ!

 特ダネは待ってくれないんですから!」

「ちょっ!?」

 

 二人の心配よりネタが大事かと流石に怒る衣笠に青葉はどこ吹く風。

 

「あの程度でどうにかなるならとっくに沈んでますよ」

 

 さ、早くと衣笠を置いて追い掛ける青葉に衣笠は思わず怒鳴ってしまう。

 

「そういう問題じゃないでしょうが!!??」

 

 VOBの超加速に目を回した夕張と巻き込まれた陸奥が解放されたのは発進から数分後。

 想定外の過重にバランスが崩れたVOBが二人を乗せたまま爆発してからの事だった。

 

「痛たぁ…。

 これは要改良の必要があるわね」

 

 煤だらけになりながらも何故か無傷の夕張が早速問題点の羅列を始める横でやはり煤だらけになりながらも無傷の陸奥がやっぱりこうなったわねと遠い目で海を見る。

 

「あら?」

 

 遠くを見た陸奥は、ふと視界の先に小さな島を見掛ける。

 

「ねえ夕張、」

「どうかしたの陸奥さん?」

 

 次の改良に思考を巡らせていた夕張だが、どんな状況でも陸奥の言葉は聞き逃してはならないというラバウルの刻戒により即座に思考を切り替え陸奥が指差す先を見る。

 

「あれって建物よね?」

 

 そう指差す先にはイ級達が住む島があった。

 

「ですね。

 でも、この辺って人が住めるような環境じゃないのに…?」

 

 発進した方角がズレていなければ現在地はレイテに近いどこかであるはず。

 しかしレイテは未だに深海棲艦が活発な海域であり、あんな小さな島に人が住める環境ではない。

 

「……怪しいわね」

 

 もしかしたら深海棲艦が建設した施設かもしれない。

 もしそうであるならばあの建物を破壊すれば後のレイテの制海権を確保をする際に一役買うだろう。

 

「強行偵察をかけますか?」

「そうね…。

 でもその前に二人と合流しなきゃ」

 

 破壊工作となれば衣笠が装備している三式弾が効果的だし、そうでなくとも普段は悪辣なマスゴミでしかない青葉だが、情報収集が達者な彼女なら普通なら見落とすようななんらかの発見が見込める。

 そう陸奥は考えると水偵を来た方向に放ち情報の通達を行いながら引き返し青葉達との合流を図る。

 そうして半日を掛けて四人は合流すると、改めて強行偵察を掛けるかどうか話し合った。

 

「ほほぅ。

 これは是非とも調べなければなりませんね」

 

 瓢箪から駒とばかりに転がり込んで来た新たな特ダネの気配に目を輝かせる青葉。

 しかし常識人の衣笠はそれに反する。

 

「いくらなんでも怪し過ぎるよ。

 問答無用で焼き払うほうがいいって」

 

 普通に考えるなら衣笠のほうが正しい。

 艦娘さえ滅多に近付かないこんなシーレーンからも離れた離島に建つ謎の建物なんて、普通に考えれば敵の施設かそれに準ずるなにかであろう。

 調査だけなら破壊した後でも問題はないはず。

 

「でもね、気になるのよね」

「何がですか?」

 

 陸奥は腕組みをしながら見た感想を口にする。

 

「遠目から見ただけだけど、あの島の建物は老朽化の兆しが殆ど見られなかったわ。

 少なくともつい最近建てられたか、さもなくば建て直したものだと思うのよね。

 もしかしたらあの島の建物は漂着した誰かが建てたのかもしれないし、いきなり破壊するのはねぇ」

「そうですね」

 

 同じく目視した夕張も事前の調査は必要だとそう思う。

 

「あの島の建物が深海棲艦の施設だとしたら、あんな戦略的価値の無い場所にどうして建てたのか意図を知る必要があるわ」

「それはそうかもしれないけど…」

 

 衣笠としてはなにやら嫌な予感が止まらないのだ。

 しかもその種類が命に関わるような危険な類ではなく、青葉の無茶に振り回される前の嫌な予感の類だった故に尚更である。

 

「衣笠は心配しすぎです。

 私達にはラバウルの女神が付いてるんですから、多少の問題は女神がなんとかしてくれますよ」

 

 陸奥がいるから大丈夫と太鼓判を押す青葉に衣笠は諦めながらも突っ込む。

 

「そこは自分で何とかするって言おうよ」

「より確実な手を打つのは基本です」

 

 まさしくああ言えばこう言う。

 青葉に口で勝てる誰かいないかなぁと胃の心配をする衣笠を尻目に先ずは実物を拝もうと島に向かうことになった。

 再び島を目指す四人は周辺の深海棲艦の反応を探るが特に何も見つからない。

 

「ソナー及び電探に反応は無し」

「水偵も近辺に何も見つけられないって」

 

 この辺りは戦略的価値が殆ど無いことから元から配備された数が少なかった事に加え、海域を支配する戦艦棲姫が島の周辺には近付かぬよう指揮下にいる者達に降れているため殆ど深海棲艦がおらず、更に飛行場姫の来訪で僅かなニュービーも身の危険を感じ殆どが違う海域に流れて行ったためなのだが、知る由も無い彼女等からすればこれは異常なほど不気味に思えた。

 

「泊地近海より静かなんてどうなってるの?」

「ますます怪しいわね」

「これはまさか…」

 

 突然何かに気付いた様子の青葉。

 

「何か知ってるの?」

「ええ」

 

 見たこともないぐらい真剣な顔で青葉は言う。

 

「ここもしやすると鎮守府の闇の一つと語り継がれている、異世界から来訪した超絶殲滅兵器の再現実験施設かもしれません!!」

「「「……」」」

 

 本気で真面目な青葉だが、三人は逆に白けてしまう。

 

「それって呉の青葉が流したゴシップじゃない」

 

 そう突っ込む衣笠に青葉は心外なと憤慨する。

 

「それは真実の流出を恐れた鎮守府が流布したデマです!!

 その証拠にそのすぐ後に呉の青葉は謎の失踪を遂げたんですよ!?」

「それは単に轟沈しただけよ。

 よりにもよって戦闘中にケッコンカッコカリした直後の武蔵に取材をやらかそうとして対潜行動怠ったのが原因だって現場検証が上がってたでしょ?」

 

 どこの青葉も例に漏れずなやらかし組なんだなと情けなくなった記憶を思い出し溜息を吐く衣笠。

 

「それは陰謀なんです!!

 呉の青葉は鎮守府に消されたんです!!」

「まあとにかく、深海棲艦の姿が無い理由があの島にあるかもしれないんだし、慎重に行きましょう」

 

 陰謀説をひたすら推す青葉をそう苦笑して流し島へ上陸するため近付く。

 偵察の通り、何かしらの妨害もなく島に上陸した陸奥達はしまの様子に思わず漏らす。

 

「静かね」

 

 風が揺らす葉の音が微かに響くぐらいでしんと静まり返った島の様子に無人であろうということが察せられた。

 陸奥は早速探索に取り掛かるため二人一組で調べようといった。

 

「では私は陸奥さんと…」

「青葉はこっち!」

 

 あわよくばラバウルの最大の禁忌とされている陸奥のブラックボックス改め交際履歴を聞き出そうと企んでいるなと表情から気付いた衣笠は嫌々ながら青葉の襟首を引っ張り居住区画らしい部分に向かう。

 

「ちょっ、少しは姉を敬いなさい衣笠!?」

「敬える行動してから言って」

「私はいつも規範に則り」

「はいダウト」

 

 抵抗する青葉をずるずる引きずり建物に消える衣笠と青葉。

 

「衣笠って、たまに強いわよね」

 

 いつもはただ振り回されているだけだが、青葉が地雷原に踏み込んだ時だけは頼れる重巡に化ける。

 

「私達は外側を回ってみましょうか」

「そうですね」

 

 おそらく工廠がある区画は全員で向かうべきと考え二人は建物の外周から裏手に向かう。

 裏手に向かった陸奥達の目に飛び込んで来たのは土手に盛られた土が並ぶ菜園の姿だった。

 

「川も無い島に畑?」

 

 農家とまでいかなくともある程度の人数を賄えるだけの規模の畑に、飲み水にだって困るだろうにどうやってとそう考えた陸奥に、妖精さんがこの畑には自分達の加護が掛かっていると言った。

 

「畑に妖精さんの加護?」

 

 普通に考えたらありえないというか、艦娘と艦娘が扱う兵器以外に加護を与える妖精さんなんてラバウルにさえいない。

 とはいえ、今の話でここに住んでいるのは艦娘であるということが判明したわけだが、そもそもどうしてこの島に居を構えていのるかという疑念が沸き上がる。

 

「もしかしたらはぐれ艦が運よくこの島に漂着して泊地にも戻れず住むしかなかったとか?」

「それならつじつまは合うわね」

 

 仮にそうだとするなら別の疑問が持ち上がる。

 

「あの建物の規模から10人以上は島に住んでる事になるのよね」

 

 それだけの数が居るなら多少強行軍を敷くことだって叶うはず。

 にも関わらず島に居を構えた理由は?

 

「もしかしたら、ここは私達が考えているより複雑な事情がある場所なのかもしれないわね」

 

 そうであるなら自分達はどうするべきか?

 何も見なかった事にして速やかに立ち去るべきか。

 はたまた探索を続け保護すべきか。

 

「取り敢えず青葉達と合流しましょうか」

 

 そう夕張を促した陸奥は、夕張が裏の奥に何かを見付け硬直しているのに気付く。

 

「どうしたの?」

「あれ…」

 

 そう示す先にあったのは見晴らしの良い開けた場所に突き刺さる50近いマストの群れだった。

 

「あれって…まさか」

 

 夕張が何を想像したのか察した陸奥は行こうと促す。

 

「確かめておきましょう」

「…はい」

 

 二人が丘に向かった頃、青葉と衣笠は宿舎部分の探索に勤しんでいた。

 

「此処は潜水艦の部屋ですかね?」

 

 部屋の中心をくり抜いた水槽のあるイ級の部屋に入り、箪笥ひとつ無いその殺風景さに嘆息する。

 

「これでは誰の部屋なのかもわからないじゃないですか」

「箪笥漁りとかしないでよ」

 

 購読者サービスなためと称して駆逐艦娘達の下着を盗み解体処分された大奏の青葉の二の舞は止めてほしいと嘆願する衣笠に青葉はむくれる。

 

「失礼な事を言わないで下さい!!

 青葉にだってちゃんと分別はありますし、それに部屋を漁るのはプロファイリングの一貫として中を確かめるだけです」

「じゃあこの部屋から何か分かったの?」

 

 ジト目でそう問う衣笠に勿論ですと妹に負けてる胸を張る青葉。

 

「この部屋の持ち主は自分の身なりが嫌いな者で間違いありません。

 きっとこの水槽もいつでも自殺出来ると衝動を抑えるために用意したのですよ」

「……」

 

 白い目を向ける衣笠にドヤとばかりに笑顔を向ける青葉。

 

「そしてそこから察するにこの部屋の持ち主は鎮守府の闇の一つ、高級官僚の接待のために調教された艦娘であると考えられます!!」

 

 そう力説する青葉だが、衣笠は冷え切った声で否定する。

 

「それ、舞鶴の青葉が流した嘘じゃない」

「何を言うんですか!」

 

 衣笠の言に青葉は怒る。

 

「その後舞鶴の青葉は姿を消したんですよ!?

 それは真実を明らかにした青葉もまたその身の毛もよだつ労働奉仕に回されてしまったんです!!」

 

 可哀相な青葉とよよよと嘆く青葉だが、寧ろそのデマを本気にしている青葉が可哀相だと思ってしまう。

 

「いやさ、舞鶴の青葉は金剛四姉妹が同時にケッコンカッコカリをした時に地雷踏んでアイアンボトムサウンドに沈んだんじゃん」

 

 誰が正妻なのかと聞いてはいけない暗黙に踏み込み鎮守府を半壊させる事件を引き起こした責任から逃げるため、一人で鉄底海峡に逃げ込み深海棲艦の餌になった舞鶴の青葉。

 

「違います!!

 あれは金剛姉妹達が制裁によるものなんです!!??」

 

 舞鶴の青葉は悪くないと擁護する青葉に衣笠ははいはいと次の部屋へと促す。

 そうして他の鍵の掛かっていない部屋を漁り、最後の部屋の探索を終えた二人は結論に達する。

 

「衣笠、この施設はおそらく」

 

 固い面持ちの青葉に衣笠も真面目な顔で頷く。

 

「此処は深海棲艦の施設だね」

 

 鍵の掛かっていない最後の部屋に残されていた深海棲艦の艦載機を目撃した二人はそう結論付ける。

 急いで二人と合流しようと外に向かおうとするが、ちょうど二人が現れる。

 

「大変です二人共!!

 この施設は」

「艦娘達の施設なのよね」

「…へ?」

 

 異様に暗い雰囲気でそう言う夕張に目が丸くなる衣笠。

 

「何があったの?」

 

 自分達と違う結論を持って来た二人に珍しく真剣に尋ねる青葉。

 

「裏の丘にね、お墓があったの」

「お墓…?

 もしや艦娘のですか?」

「うん」

 

 どう表現したらいいかわからないという表情で頷き夕張は話を続ける。

 

「少し調べてみたんだけど、そのお墓が作られたのはどうも半年ぐらい前なの」

「半年前と言うと…あの装甲空母鬼の形をした怪物が現れた時期よね」

「だとするとそのお墓はあの時轟沈した艦娘のということになりますね」

 

 そこまでの結論に至り青葉達も苦い記憶が蘇る。

 空気が重さを増していく中、しかし衣笠が異論を挟む。

 

「だけどおかしくない?

 さっき私達は深海棲艦の艦載機を見付けたのよ」

「深海棲艦の?」

 

 衣笠の言葉に今度は夕張達が目を丸くする。

 

「え? じゃあつまりここには艦娘と深海棲艦とが共同で住んでいる…?」

「流石にそれはないんじゃない?」

 

 食い違う探索結果にお互いが混乱する。

 それを見かねた陸奥が青葉に確認する。

 

「青葉、調べてない場所は?」

「鍵の掛かった部屋と工廠がまだです」

「…そう」

 

 顎に手を添えしばし塾考してから陸奥は結論を下す。

 

「工廠に行ってみましょう。

 それでどちらが住んでいたのかはっきりするはずよ」

 

 夕張なら設備から情報が手に入るだろうとそう考え四人は工廠に向かう。

 

「工廠って、ここがそうなのかしら?」

 

 入口にはそう札が下げられていたが、中にはあったのは年期の入った工具箱と新品の作業机だけという状態に呟く衣笠。

 

「もしかしたら明石がいるのかも」

「かもしれませんね」

 

 明石なら大体の作業工具は艤装で賄ってしまえるため、それならばこの工廠の閑散っぷりも納得がいく。

 

「皆、ちょっとこっちに来て下さい!」

 

 何かを発見したと呼ぶ青葉の声に向かうと、そこには部屋の閑散っぷりに反するほど太い鎖で頑丈に施錠された地下への扉があった。

 

「シェルター?」

「わかりません」

 

 どちらにしろこの先に何かあるに違いない。

 

「青葉、開錠出来そう?」

「なんで私に聞くんですか?」

 

 ピッキングが得意みたいな扱いに失礼なと憤慨するが、ぼそりと衣笠が呟く。

 

「加賀に売った提督の寝顔写「さあていっちょ挑んでみましょうか!」

 

 台詞を遮って腕を捲くる所作をするなり艤装からピッキングツールを取り出し鍵と格闘し始める青葉。

 

「やっぱり青葉は青葉ね」

「しょうがないですよ青葉ですから」

「いつも青葉が迷惑かけてすみません」

 

 もはや諦めの境地に至る二人に本気の謝罪をする衣笠。

 

「うぅ、世間は世知辛いですよ…」

 

 完全に自業自得を棚に上げてそう歎く青葉だがその手は淀みなく作業を続け、やがてカチリと音を起てて鎖が解かれる。

 

「開きましたよ」

 

 立ち上がって終了を告げる青葉と入れ代わる陸奥。

 

「じゃ、早速行きましょ…」

 

 そう扉の取っ手に触れようとした刹那、バタンと扉が一人手に開き内側から溢れるように出て来た肉色の悍ましい触手の群れが陸奥を搦め捕り抵抗の間もなくそのまま中に引きずり込むとまた勝手に扉が閉まった。

 

「「「……」」」

 

 何が起きたのかというか、今のが現実だと脳が理解出来ず硬直する三人。

 更にもう一度扉が開くと陸奥の艤装とカチューシャに加えやけに丁寧に畳まれた陸奥の服がそっと置かれまたバタンと扉が閉まる。

 

「……え? ……え?」

 

 停止状態から復帰した夕張が陸奥が居た場所を二度見するがそこにあるのは陸奥が身につけていたものだけ。

 

「む、陸奥さん!!??」

 

 復活した衣笠が慌てて助けようとドアを引っ張るも艦娘の膂力を全開にしても扉はびくともしない。

 

「まさか…ラバウルの女神がこんなところでお亡くなりになるなんて…」

 

 陸奥の生存を即効で諦めた青葉が本気で悼みの言葉を手向ける。

 

「馬鹿な冗談言ってないで手伝え馬鹿青葉!!??」

「ちょっ!?

 姉に向かって馬鹿「ああんっ!?」嘘ですごめんなさいすぐ手伝わせてください」

 

 本気の殺意混じりにメンチ切られ急いで衣笠と共に扉を開けようと力を込める。

 しかし重巡二隻の本気でも扉は軋み一つ起こさない。

 

「だったら蝶番を焼き切ってしまえば!?」

 

 いつも携帯しているバーナーで溶かそうとするも蝶番はバーナーの熱に赤熱さえ発生しない。

 

「こうなったら砲撃で…」

「艤装を纏ってない中の陸奥さんに当たったら死んじゃいますよ!!??」

「じゃあどうするのよ!!??」

 

 一刻も速く助け出さねばと思い付く手段を片っ端から試していくが、まるで三人の努力を嘲笑うように扉に傷一つ付けることが出来ない。

 と、三人が息を切らせ一旦小休止に入った直後、唐突に扉が開きさっきちらっと見た気がする肉色の触手が放り出した陸奥の衣類と艤装を掴むと中に引きずり込み、今度は身嗜みも完全な陸奥本人をほうり出した。

 

「「「陸奥さん!!??」」」

 

 また扉が閉まるがそんなことより陸奥の安否が大事と近寄ると……

 

「そ、そんな…」

 

 戻って来た陸奥の姿に愕然とし後退る衣笠。

 返された陸奥に外傷こそ無いものの、その表情は全年齢で説明することは絶対出来ないほど蕩けきっていた。

 

「嘘…嘘だと言ってよね陸奥さん…?」

 

 陸奥といえば扇情的な言い回しと香り立つ色香で男を手玉に取る大人のお姉さん。

 そんな彼女がまるで快楽に堕落しきってしまったような無様を曝していることが信じられない。

 

「……ぁ」

 

 ぴくりと指が痙攣し焦点の合わない目で虚空を眺めながら陸奥がうわごとのように漏らす。

 

「ごめん…私の第三…砲…搭……爆発…しちゃっ……た」

 

 そのままがくりと気絶してしまう陸奥。

 

「そんなN○Rビデオレターみたいな台詞を遺して逝かないでください陸奥さん!!??」

 

 洒落じゃ済まないと本気で叫ぶ青葉。

 

「とにかく逃げよう!!??

 またあの悍ましいなにか捕まったら今度こそ…」

 

 入ってはいけない領域に飛び込んでしまうと陸奥を抱え脱兎の如く逃走を計る夕張達だが。

 

『申シ訳ナイガソノママ帰ス訳ニハイカナイ』

「誰!!??」

 

 自分達を阻もうという声に砲を構える夕張達だが、なにも無い空間から姿を表した異形に恐怖から固まってしまう。

 

『コノ島ノ住人ノ一人デス』

 

 直後、床の扉が四度開き抗う間も与えられず三人の視界が触手に埋め尽くされた。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 夕張が気がつくとそこはラバウルから数百km離れた海域だった。

 

「……え〜と」

 

 何故自分が此処に居るのだろうかと暫く考えてからその理由を思い出す。

 

「そうだ。VOBの試験中に三人を巻き込んで爆発しちゃったんだっけ」

 

 爆発が強過ぎて全員纏めて気絶してしまったらしい。

 もう日も暮れ海は真っ暗。

 かなりの時間気絶していたようだが、その間に深海棲艦に襲われなかった事が少し気になったが運が良かったのだろうとそう思うことにする。

 

「あたた…」

「いやぁ、酷い目に遭いましたよ」

 

 ラバウルの方角を確認していると衣笠と青葉も意識を取り戻す。

 

「二人ともごめんね」

「まあまあ。

 たまにはこんな事もありますよ」

「そうよね。いつも陸奥さんだけが巻き込まれてるのも申し訳がないし」

 

 そう言った所で三人は違和感に気付く。

 

「陸奥さんがまだ気絶している?」

 

 おかしい。

 今までどんな爆発でもすぐに復活してきた陸奥が三人より長く気絶し続けているなんて事がありえるのか?

 

「陸奥さん?」

「う…うぅん…」

 

 心配になって揺すってみると陸奥が同性でさえ唾を飲むぐらい艶のある声を漏らす。

 気絶していた間に何かあったのではないかと不安になる三人を余所に陸奥が目を醒ましゆっくりと起き上がる。

 

「あれ? 私…?」

 

 首を傾げる様子一つさえいつにも増して色香を持った陸奥に沸き上がる衝動を自覚しながら衣笠が大丈夫ですか? と安否を問うと状態を確認しながら陸奥はええと言う。

 

「特に問題無いわ。

 なんか、普段より調子がいいぐらいというより凄くスッキリしてるような…?」

 

 どうしてかしらと人差し指を顎に添えて傾げる陸奥。

 

「まあいいじゃないですか。

 全員無事だったんですし」

「……そう、よね?」

 

 何か凄く大事な事を忘れている気がする衣笠だが、その疑問さえも意志とは関係なく海面に落ちた雨水のようにすぐに消えてしまった。




 ということで気を抜くと暗くドロドロする自分に活を入れるギャグ回ですた。
 
 青葉の扱いが悪いと思われるかもしれませんが自分の青葉に対する愛が虐げることを強いられているんだ!!

 ちなみにこの翌日屑レ級とやりあいますた。

 あと、四人とも記憶を消した以外は何もしてません。

 ええ。アルファはね。

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