なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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お前に身体張らせたら俺たちの負けじゃないか


ああ、もう

 単装砲を構え体勢を低く走りながらながら北上が魚雷管の蓋を開く。

 

「角度調整1番右二度4番同じく右三度」

 

 要請に開いた管の角度を妖精さん達が急いで調整するが、先に魚雷を放ったのは大井だった。

 

「冷たくて素敵な魚雷をいっぱい味わってね北上さん!!」

 

 北上へと40射線の飽和射撃を放つ大井に対して北上は冷静に告げる。

 

「初回10射線一回、次いで5射線二回」

 

 殺気と勘違いするほどに研ぎ澄ました戦意を込め北上も魚雷を放つ。

 放たれた第一射の魚雷が次々と大井の魚雷を迎え撃ち水柱を起て、次いで放たれた魚雷が開いた隙間を縫って大井に迫る。

 

「甘いですよ北上さん!!」

 

 迫る魚雷を大井は6門の副砲を駆使し余裕を持って迎撃。

 

「ふふっ、北上さんったら手加減してくれるなんて本当に優しいんですね」

 

 そう笑った直後、足元で魚雷が爆発する。

 

「きゃあ!?」

 

 悲鳴を上げるも、大井の足元ほんの手前で爆発したためダメージはない。

 

「後発の10発は全部撃ち落としたのに…」

 

 全て迎撃した筈と驚く大井に北上は舌打ちする。

 

「ちぇっ、早爆しちゃったか」

 

 最初に放った魚雷の内一発だけ速度を下げ二回目の魚雷の直後に届くよう狙っていた北上。

 完全な不意打ちは当たれば直撃だった筈が、しかし酸素魚雷によくある早爆の発生で不発に終わってしまった。

 

「なんて素敵なの北上さんったら!?」

 

 わざと射数を減らして目眩ましを仕掛けたその手管を理解した大井は、喰らった側だというのに本心から称賛を送る。

 

「やっぱりあんな奴らの側に居ても貴女の魅力を生かしきれはしないの!!

 貴女の傍らに居るべきなのはあいつらなんかじゃなくて私よ!!

 だから、それをあいつらに教えてやるためにもっともっと素敵な北上さんを見せて頂戴!!」

「……チッ」

 

 狂喜し魚雷を放ちまくる大井に北上は単装砲と魚雷を巧みに使いながら迎撃し返しの魚雷を放つ。

 

「なんていう奴だ…」

 

 大井が気付いているか不明だが、北上が放つ魚雷は向かってくる魚雷に対してどれも必中とさえ言える精度を発揮し猛威を振るっている。

 爆雷による面攻撃と違いXYZの三軸が完全に揃わなければ魚雷による雷撃の迎撃はほぼ不可能だという事を鑑みれば、北上が実際にやっているのは魚雷による精密狙撃も同じ。

 どこでそんな技量を会得したのか戦く那智達だが、イ級はそんな北上に焦りを感じていた。

 

「まずいな…」

 

 イ級は北上の目が初めて遭ったあの時、回天を持たされ壊れかけていた頃と全く同じだと気付いていた。

 一発撃てば妖精さんの命が一つ消える絶望に正気のまま狂い壊れようとしていたあの時の目を。

 人の事を言えた義理ではないが、あのままやらせておくのはマズイ。

 

「戦闘中によそ見とは余裕だな駆逐棲鬼!!」

 

 なんとか北上の下に向かわねばと考えるイ級を阻む武蔵の怒号と砲弾。

 

「クソッ!!??」

 

 46cm砲は余波でもしゃれにならない煽りが来るためクラインフィールドで受け止めるが、武蔵の意地かフィールドに揺らぎが走る。

 

「邪魔すんじゃねえ!!」

 

 ファランクスを叩き込み迂回する隙を探すも武蔵は正面からファランクスの弾幕を受け止め隙を曝しはしない。

 

「つれないことを!!

 そんなに通りたければ私を倒していけばいいだろう!!」

 

 そうしたいのは山々だが、主砲の連装砲ちゃん達は赤城達の牽制に向かわせパウ・アーマーもデコイを使いながら球磨と千歳の足止めに徹している。

 残る武装は素の火力が貧弱なファランクスと爆雷のみ。

 後は…

 

「言ったからには後悔すんじゃねえぞ!!??」

 

 そう怒鳴りイ級はクラインフィールドを纏い更に尖端をドリルのように高速回転させる。

 

「ぶち抜いてやる!!」

「面白い!!」

 

 弾丸の如く突貫するイ級に武蔵は喜悦に満ちた獰猛な笑みを刻み、真っ向から殴り飛ばすため拳を握る。

 

「喰らえ!!」

 

 タイミングを計り正面から拳を突き出す武蔵。

 

「なぁんてな」

 

 拳がドリルと触れる刹那、イ級は突如クラインフィールドを解除する。

 

「なっ!?」

 

 更に振り抜かれた拳に念力を込めるとそのまま滑走路代わりに武蔵の腕を走り抜け宙を舞う。

 

「本命はこっちだ!!」

 

 跳躍しながら爆雷の雨を武蔵に喰らわせるイ級。

 直上からの爆雷に流石の武蔵も無傷とはいかずダメージが重なる。

 

「やるな駆逐棲鬼!!」

 

 真っ向勝負と見せ掛け真上からの爆雷投射をしてみせたイ級に武蔵は更に評価を高める。

 

「大胆にして狡猾。

 戦況を見定め敵の腹を即座に看破して利用する怜悧さまで兼ね備えているとは!

 それでこそ私の宿敵に相応しい!!」

 

 実際は偶然とその場の勢い任せでしかないが、武蔵の目にはイ級が姫さえ傅かせる最強の深海棲艦と、いつか倒すべき敵と映っていた。

 着水したイ級を逃すまいと主砲を向ける武蔵。

 

「っ!?

 止めろ撃つな!!??」

 

 何かに気付いたイ級が慌てて制止の声を飛ばすが興奮した武蔵の耳まで届かず主砲を撃った。

 直後、武蔵の主砲が破裂した(・・・・・・・・・・)

 

「武蔵!!??」

 

 砲身が破裂した衝撃で艤装にまでダメージが伝播し、そのまま航行不能に陥り膝を着く武蔵。

 

「馬鹿な!!??」

 

 出撃前の最終整備でも状態は万全だった。

 なのな何故だと呆然とする武蔵にイ級は、ダメコンの妖精さんに武蔵の損傷は発動が必要か否かを確認しながら言う。

 

「真上からの落とした爆雷の一つが砲身の中に落っこちたんだよ」

「…っ!?」

 

 致命傷が無いかチェックすると乗り移るダメコンの妖精さんを横目に信じられないと絶句する武蔵。

 確かにイ級が放った爆雷の直径は九一式鉄鋼弾と同じかやや小さいサイズだから理屈は通じる。

 だが、実際にそんな偶然が有り得るか?

 

「狙ったのか?」

「はい?」

 

 何を言っているんだと目を丸くするイ級だが、武蔵はそれを演技と思った。

 

「ふっ、敵わないな」

 

 いつもの武蔵なら砲身に爆雷が詰められた時点で気付いていた。

 駆逐棲鬼はそれを見越し自分を倒すより爆雷の撤去をさせるほうがより早く仲間の下に迎えるとそう判断して一連の策を練り実行。

 想定外だったのは自分が戦いに酔って冷静さを見失っていたことだ。

 

「今回は私の負けだ駆逐棲鬼。

 さっさと仲間のところにいってやれ」

「あ、ああ」

 

 ダメコンの妖精さんを残し北上と大井が戦う場へと去るイ級。

 妖精さん達が忙しく艤装を走り回るのを一瞥した後、武蔵は晴れやかな気持ちその背を見送りごちる。

 

「深海棲艦にしておくのは勿体ない艦だ」

 

 艦娘であったなら奴こそが人類の決戦兵器とそう呼ばれていただろう。

 奴が艦娘(仲間)で無いことを残念に思う一方、深海棲艦(いずれ打ち倒すべき敵)であることを心から喜んでいた。

 

「次に逢ったら今度こそ私が勝つ」

 

 硬く誓いを刻み、武蔵はそうイ級の小さくてとても大きな背中を見送った。

 しかしながら現実には、ただ偶然が重なっただけであった。

 

「偶然って怖え…」

 

 たまたま放った爆雷の一つが不発し、その不発弾がたまたま武蔵の主砲に潜り込んでしまっただけ。

 

「戻ったら修繕費請求されるよな…」

 

 演習で武蔵を轟沈させかけましたなんて言われたら自分なら間違いなくキレる。

 それこそアルファに死なない程度のお仕置きしてこいって命令するぐらいに怒る。

 

「飛行場姫の報酬丸々渡すぐらいで勘弁してもらえないかな?」

 

 それでダメなら明石にR戦闘機造らせて慰謝料として引き渡すか。

 そんな事を考えながら行く前に第一艦隊の状態を確かめておく。

 赤城をしまかぜが、加賀をゆきかぜが、大鳳をゆうだちがそれぞれ押さえ込み、球磨と千歳をデコイとシャドウフォースを駆使しパウ・アーマーが翻弄。

 あのまま任せておいて大丈夫だろうと判断しイ級は全速力で走る。

 北上と大井の戦いは更に激化し、フロッグマンがあちらこちらに走り回る魚雷の山を必死に処理していた。

 正直近付きたくないがそんな訳にもいかないとイ級は北上を呼んだ。

 

「北上!!」

「っ、イ級!?」

 

 武蔵を倒したのと驚く北上とトリガーハッピー紛いに魚雷を乱射する大井がイ級の接近に気付き忌ま忌ましいと殺意を向ける。

 

「薄汚い口でよくも私の北上さんの名前を!!??」

 

 名前を呼ぶだけで汚れると殺意を込め再装填された魚雷をイ級目掛け放つ大井。

 

「くっ!?」

 

 嫌な予感から反射的にクラインフィールドを展開して海中に避難すると同時に海中からファランクスを撃って迎撃。

 真上で弾ける魚雷の衝撃にこれまでの砲撃で減衰していたクラインフィールドが更に揺らぐ。

 

「そろそろ限界か!?」

 

 演習弾とはいえ武蔵の砲撃を受け止め続けたクラインフィールドは減衰が激しく、おそらく後一回か二回防げばしばらく使用不可能となるだろう。

 クラインフィールドが切れると使える手札が一気に減ると危険を承知でイ級はクラインフィールドを解除し海上に戻る。

 

「大人しく沈んでなさいな!!」

 

 浮上してきたイ級に向け副砲を放つも加減速を駆使し回避しながら叫ぶ。

 

「らしくない真似すんな北上!!

 お前はいつも通り飄々としていてくれれば大丈夫だ!!」

「だけど!!??」

 

 イ級の言葉に分かっているとそう叫ぶ北上。

 

「北上さんを惑わすどの口が!!??」

 

 堕ちていく北上を宥めようと叫ぶイ級を腹立たしいと大井は新しい魚雷を確認ももどかしいと装填と同時に放つ。

 

「沈みなさい、深海棲艦!!??」

 

 向かい迫る魚雷にイ級はクラインフィールドを展開して防ごうとした。

 

「…え?」

 

 だが、被雷した魚雷はクラインフィールドを突き破り、イ級の視界を白く塗り潰しながら凄まじい爆発でイ級を吹き飛ばした。

 

「イ級!!??」

 

 海面にたたき付けられたイ級は身じろぐ素振りすら起こさないまま傷口から黒い油を海面に垂れ流し燃え上がる炎に包まれ真っ赤な火だるまとなる。

 

「……イ級?」

 

 演習弾の被雷でこんなことは起こるはずもないと大井でさえもが硬直する中、イ級は炎に包まれたまま海中へと没していく。

 

「大井…お前…」

 

 戦いの熱が完全に冷え切る中、掠れた声で那智が問い質す。

 

「実弾を…使ったのか…?」

 

 演習中の偶然現れた深海棲艦と戦闘になっても対処できるよう持たされている実弾をイ級に使ったのかと、そう問い質す那智の言葉に咄嗟に大井は否定する。

 

「待って、いくら私だってそれは…」

 

 自身の潔白を証明しようと魚雷のストックを漁る大井だが、実弾の入っていたケースは空になっていた。

 

「…嘘」

 

 演習弾と間違えて実弾を使った事を証明してしまった大井は反射的に叫ぶ。

 

「わざとじゃないの!?

 本当に、本当に間違えただけなの!!??」

 

 北上への執心さえ吹き飛ぶぐらい焦り言い訳を重ねる大井だが、返されるのはその場に居る全員から無言で向けられる批難の視線だけ。

 それに堪えられない大井は癇癪じみて叫んでしまう。

 

「どうしてそんな目で見られなきゃならないの!!??

 あれは深海棲艦で、私達が倒すべき敵じゃない!!??

 敵を倒して何で私が!!??」

 

 開き直るつもりはない。

 ただ、自分だけが悪者扱いされる現状が堪えられずどんどん泥沼の深みへと自分を沈めていく大井。

 

「もういい。

 北上姉。ヘ級。帰ろう」

 

 イ級ならダメコンですぐに復活するだろうから、今はただこの場に残っていたくないとそう促す木曾。

 

「決着は…」

 

 どう声を掛けていいか分からずそう尋ねる木曾に木曾は振り向きもせずどうでもいいと切り捨てる。

 

「馬鹿にされた仲間が沈んでまで続ける意味なんてない」

「だねぇ」

 

 心底冷めたといいたげな北上もフロッグマンを肩に乗せ立ち去ろうとする。

 と、そこで突然大井の足元から泡が浮かび、更に大破状態のイ級が浮かび上がって来た。

 

「キャアッ!!??」

 

 自分が沈ずめてしまった駆逐棲鬼の復活に腰を抜かす大井。

 イ級の仲間以外の全員が信じられないと絶句する中イ級はいつも通りだった。

 

「あー、ビックリした」

 

 実弾の衝撃で気絶して海中で漸く発動したダメコンにより復帰したイ級は、戻って来たら空気が渇いていることに首を傾げる。

 

「……何があったんだ?」

 

 戦闘は終わってるらしいが勝敗はどうなったのか全く分からず軽く混乱するイ級に、カタカタ震えながら大井が叫ぶ。

 

「ななななな、なんで復活してんのよ!!??」

「え?」

「え? じゃないわよ!!??

 九三式酸素魚雷の直撃喰らったのになんで!!??」

 

 何をそんなに怯えているのか分からずイ級は困惑しながらも理由を言う。

 

「いや、普通にダメコン発動させただけだけど?」

「……ダメコン?」

「うん。ダメコン」

 

 そう言うイ級に完全に毒気を抜かれた武蔵が呆れ果てた様子で問う。

 

「お前はいくつダメコンを抱えているんだ駆逐棲鬼?」

「後二つ持ってるけど…?」

 

 別に知られて困るような事でもないと普通に答えると誰かが信じられないと呟く。

 

「鬼がダメコンの論者積みしてるなんて間違ってるわよ?」

 

 どっちらけな空気が流れ出す中、イ級は本当に訳が解らず呟いてしまう。

 

「なんでこんなことになったんだ?」




 超無理矢理ですが演習はおしまいです。
 いつもより雑っぽいのは書き直したからです。
 なんというかね、前のは武蔵がイ級にNTRされてるようにしか読めない文になっちゃった上、大井戦もどろっどろの昼ドラみたいになったからなんです。

 ライト路線にこれは無いなと強引に演習を終わらせてますが、イ級のクラインフィールドの下りはそのまんまです。

 次回はちょっと他所の話をば。

 目指せギャグ!!←

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