なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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黒イ交渉ハ見セラレマセン


御主人ニハ

 イ級達の演習が始まった頃、磐酒はこの事態をどう決着させたものかと頭を悩ませていた。

 

「解っていると思うが大淀。

 例えこちらが勝とうと例の話は無かった事にするからな」

「……はい」

 

 磐酒の言に絶対に勝たねばならないと勝手に連合艦隊の出動を認可した大淀に厳しい言葉を向ける磐酒。

 しかし、大淀ばかりが責められるわけでもない。

 連合艦隊に加わった面子もそうだし、なによりそうなった経緯は磐酒にあるのだから。

 磐酒は他に類を見ない経緯を以ってリンガ泊地の提督に就任した男だ。

 提督として20年以上戦果を挙げ功績を残した今もその事を理由に叩こうという者は後を絶たず、それを歯痒く思う大淀や艦娘達にとって更なるたたき台となるであろう駆逐棲鬼を招待した事を誰か(特に青葉経由で)露見する前に処理したかったのだ。

 

「今回の件に関しては多少の厳罰で留めておくが、次は無いように」

「了解しました」

 

 甘いなとは思うが、さりとて大淀を罰するならまず自分こそ罰せねばならない立場にある。

 

「人間ハ難シイネ」

 

 と、不意にあつみがそう漏らす。

 

「全くもってその通りだよ」

 

 まさか深海棲艦にそう言われるとはと苦笑してしまう磐酒。

 そして改めてあつみの方を見れば伝令に出たアルファと呼ばれた異形の艦載機がいつの間にやら帰還し警戒体制に戻っていた。

 

「……もう戻ったのか?」

 

 演習場所は泊地から100キロ以上放れた海上で行われるため、実質的には更にもう100キロは放れているはず。。

 彩雲でも片道30分以上は掛かる距離を数分で往復したのかと目を丸くする磐酒にアルファはエエと答える。

 

『R戦闘機ハ元々宇宙航行ガ前提ノ機体ガベースデスシ、本来ノ戦場ハ宇宙デスカラ2、300km程度ナラサシテ時間モ掛カリマセン』

「……」

 

 さらりとオーバーテクノロジーの塊だと告白され磐酒達は聞かなかった事にしたほうがいいと判断した。

 

「ところで、大淀が球磨と千歳を組み込んだ理由がそちらにあるようなんだが、聞いてもいいか?」

「ダメ」

 

 違和感を感じる二人の編入の理由を解体処分になっても語ることは出来ないとそう拒絶する大淀に、磐酒は切り口を変えて尋ねてみるとあつみは強い口調で拒否する。

 同時に深海棲艦とは思えない穏やかさのあつみが一瞬で深海棲艦のそれの空気を纏い、アルファがどこからともなく醜悪な肉塊を携えた。

 醜悪な肉塊から伸びる触手にとてつもない危険を感じ取った磐酒は即座に撤回する

 

「失礼した」

 

 これが駆逐棲鬼に関わる者達にとっても逆鱗なのであるとその一端に触れ察した磐酒は、下手に詮索しようものなら死ぬより恐ろしい何かが起こると完全に打ち切る旨を明言した。

 

「大淀、理由は聞かないが二度とやるな」

「はい」

 

 大淀は自分の配慮が泊地全てを奈落に続く断崖絶壁一歩手前に立たせた事を理解し青褪める。

 

「それと、侘びにもならないとは思うが演習が終わるのを待つ間に入渠してはどうだ?」

「イイ」

 

 磐酒の提案に穏やかさを取り戻したあつみは首を振る。

 

「私達ハ修復ニ沢山資材ヲ使ウカラ遠慮シテオクネ」

「リンガの備蓄を見くびってもらっては困るな。

 輸送艦一隻の入渠で揺らぐほど資材は少なくない」

 

 そう言い切る磐酒に、あつみは遠慮がちに必要な資材を算出して告げる。

 

「ジャア燃料4000ト鋼材8000オ願イシマス」

「……は?」

 

 さらりと大型建造の限界値をぶっちぎる量の申請に笑いが止まる磐酒。

 

「……燃料400と鋼材800の間違いじゃ?」

 

 これでもかなりおかしいが、武蔵の修復費だと考えればまだ理解が及ぶとそう問い直すもアルファが補足する。

 

『深海棲艦ハ修復ニ莫大ナ資材ヲ必要トシマス。

 ナノデ普段ハ修復剤バケツ10杯デ済マシテイマス』

「…バケツって単品で効果あるのか?」

「いえ、資材と併用して初めて効果を発揮するのですが…」

「私達ハバケツダケデ治ルヨ?」

 

 今までそれが当たり前だったのでどうして困惑されたのか分からず首を傾げるあつみ。

 その仕種で嘘は言っていないと判断した磐酒は命令を下す。

 

「……よし。

 大淀、お前今から罰として一人で修復剤探しな。

 今日中に最低30個だ」

 

 レ級の襲撃により大量の修復剤が駄目となり、更に残っていた分もレ級に負わされた負傷を治すのに吐き出して在庫はほぼ空だった。

 突然の命令に目を白黒させる大淀。

 

「し、しかし業務が…」

 

 バケツの探索は運がかなり絡む作業であり、30個となれば一日掛りで間に合うかかなり怪しい。

 

「罰だと言ったろ?

 当然通常業務も平行してもらう」

「あの、もし間に合わなかったら…」

「秋雲の新刊のネタになってもらう。

 衣装はスク水な」

『問題児ノ仕置キニ使ッテル触手モ付ケマショウ』

 

 そう言いながらフォースの触手を切り離し汚染不可能に加工し始めるアルファ。

 

「今すぐ行ってきます!!」

 

 うねうねと蠢く悍ましい触手にあれやこれと嫁にいけなくなる未来を予感させられ逃げるように走り去る大淀。

 それでも自分のせいで起こしかけた最悪は回避され、この程度の罰で済まされるのだから文句を垂れる権利もない。

 薄い本の題材になる悪夢を回避するため一秒でも早くと修復剤探しに遠征に向かう大淀が放れると、突然沖合で昼間でさえ視認出来る程のエネルギーの放射が起きた。

 

「今のはまさか『霧』の…」

 

 演習でまさかと戦く磐酒にアルファが違うと呟く。

 

『イキナリΔウェポンヲ使イマシタカ』

「Δウェポン…?」

『R戦闘機ノ切リ札ノヨウナモノト考エテモラエバアッテマス』

「それはどんな兵器なんだ?」

 

 後学のために教えてくれと頼む磐酒にアルファはエエと説明する。

 

『Δウェポンハフォースガ蓄積シタエネルギーヲ解放スルコトデ広範囲ニ効果ヲ及ボス殲滅兵器デス』

「その効果範囲は…?」

『最大半径300kmヲ消滅サセマス』

「……冗談と、そう言いたいが現実なんだな」

『故郷デハフォースハ悪魔ノ兵器ト呼バレテイマスヨ』

 

 アルファなりのジョークだが、磐酒からしたら笑えたものではない。

 

「お前達が人類との戦争を望んでいないことに感謝するしかないな」

 

 あわよくばその技術を取り込もうなどと欲を出せば、待っているのは人類の破滅だと改めて理解した磐酒はそうとしか言えない。

 

『私達ガ戦ウノハ私達ニ害スルモノダケ。

 ソレサエ留意シテイレバ友好的デナクトモ私達ハ必要以上ニ誰ニ害スル意志モアリマセン』

「分かった」

 

 触らぬ神に祟り無しとはこのことかと、そう磐酒は言葉の意味を身を以って理解したのであった。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 殆どの艦載機を瞬く間に凌辱し食い荒らしたバイディック・ダンスに絶望を与えられ赤城達が動けなくなる中、駆逐棲鬼の吶喊に気付きそこから這い上がっていち早く反応したのは武蔵だった。

 

「全砲門開け!!」

 

 46cm三連装砲がごりごりと音を起てながら稼動し、そして狙いを定めると同時に砲火を撃ち放つ警鐘のブザーを鳴らす。

 

()ぇぇええええ!!??」

 

 獅子の咆哮と見紛う程に激しい号令と同時に放たれる砲弾。

 しかし駆逐棲鬼は砲弾の着弾予測地点を看破し即座の減速とドリフトで軌道を変更し紙一重の差で躱した。

 

「こわぁ…」

 

 一応避けれると分かってはいたが、改めて大和型の火力に戦々恐々たる気持ちを思い出し気を引き締める。

 砲撃を避けられた武蔵はそれでこそだと猛獣の如き凶暴な笑みを浮かべ笑う。

 

「ふっ、流石と言うべきだな」

 

 そうでなくては堪らないと笑う武蔵。

 そして未だ硬直する味方をどやしつける。

 

「さっさと陣形を正せ!!」

 

 怒号のような号令に意志とは反し身体が自然と戦闘陣形を組み上げる中、漸く回復した赤城が武蔵の笑みに懐疑を投げる。

 

「どうして笑っていられるの?」

 

 叩き付けられた絶望は、リンガの古株である赤城や足柄の心さえ叩き折ってしまった。

 いくつもの激戦をくぐり抜けた自分達が折れたのに、どうしてこの武蔵(若輩)はこれほどまでに楽しげなのか。

 

「どうして?

 はっ!」

 

 赤城の問いにまるで笑い飛ばすように武蔵は鼻を鳴らす。

 

「これを笑わずにいられるか。

 私は今この瞬間、漸く私が倒すべき『敵』と合間みえる事が叶ったんだ。

 これを笑わずしていつ笑うというのだ?」

 

 武蔵が建造されて数年。

 資材との兼ね合いを理由に今日までずっと温存され続けた武蔵は演習以外での実戦経験が少なかった。

 それまではこれも大和型の宿命とそれを由しとして来たが、レ級の襲来でさえ本陣防衛に回された事が武蔵の心に影を挿していた。

 しかし、今目の前で起きた絶望(バイディック・ダンス)は武蔵に一つの感情を抱かせた。

 

 −−闘いたい。

 

 決戦兵器と温存され続けた自身が果たして本当に決戦兵器たる艦娘なのか、それを証明する機会が目の前に在る。

 それが武蔵には嬉しくて堪らなかった。

 

「臆したのなら消えろ!!

 奴と戦いたい者以外この場には不要だ!!」

 

 辛辣にさえ聞こえる武蔵の言に不思議と反発は起きなかった。

 どころか、

 

「慢心しては駄目ね…。

 誰よりも慢心していたどの口が言っていたのかしら」

 

 取り落としかけた弓を握り直し赤城が少ない艦載機を構える。

 

「加賀、大鳳、千歳、残り艦載機の報告を」

 

 背を押す赤城の声になんとか得物を握り告げる。

 

「こちらは烈風0、紫電改二4、流星改1、六○一彗星5よ赤城さん」

「六○一流星0、烈風改0、振電改5、Ju873です」

「私は…」

 

 加賀と大鳳の報告に続いて千歳も報告しようとしたが、何故か言葉が止まる。

 

「どうしたの千歳?」

「それが…」

 

 何故か非常に申し訳なさそうに千歳は報告する。

 

「六○一烈風12、流星改17、彗星一二甲9、彩雲7です」

「「「……え?」」」

 

 あの悪夢の攻撃に三人の艦載機を殆ど潰されたのに、何故か千歳の被害は微々たるもの。

 

「ど、どういう事なのかしら?」

 

 その理由はパウ・アーマーを駆る妖精さんがイ級の無意識に潜む千歳に攻撃したくないという忌避感を察して千歳の艦載機を避けるようにΔウェポンを使っただけなのだが、そんな事知る由もない彼女達は混乱を通り越し妙な溝が生まれてしまった。

 

「もしかして知ってたの?」

「し、知りませんよ!?

 あんな攻撃手段があるって知ってたら教えてますよ!!??」

「…それもそうね」

「今の間はなんですか!?」

 

 思わず食ってかかってしまう千歳に僅かな溝が亀裂へと広がり始める。

 しかしそれを武蔵の笑い声が留めた。

 

「はっ、やるじゃないか駆逐棲鬼」

「それはどういうこと?」

「奴はお前達が仲違いを起こすよう、千歳の艦載機をわざと避けたんだろうさ」

「こちらの仲を裂いて連携を崩すのが目的と?」

「他に理由があったら教えてほしいものだ」

 

 そう言われてしまえば否定する材料が無い。

 もっとも、球磨と千歳本人は口に出さないが別の可能性に行き着いていた。

 

(球磨、もしかして…)

(多分そうクマ)

 

 霧島が確認した駆逐棲鬼の僚艦は彼女等に加え千代田と鳳翔、それに明石の姿もあったらしい。

 そこから二人は自分達が呼ばれた理由をなんとなく察した。

 

(仲間の姉艦は攻撃したくないみたいね)

(クマ)

 

 おそらくそれが正解なのだろう。

 そう考えれば大淀が何故自分達を組み込ませたのか納得がいく。

 

(勝つためとはいえ…)

(かなりゲスい真似をするクマ)

 

 勝つことだけを考えれば間違ってはいないだろうが、とはいえ二人の大淀への株は下がってしまった。

 

「来るぞ!!」

 

 武蔵の警告に意識を持ち直した一同が三隻を背後に全速力で吶喊する駆逐棲鬼に砲を構える。

 

「大淀は後で説教クマ!」

「当然よ!」

 

 大淀への不満は後と二人もまた砲と残る艦載機を繰るため装備を構えた。

 

「なんでこんなことになったんだか!!??」

 

 いたたまれなくなった勢いで連合艦隊に単機で吶喊を敢行してしまったイ級は己の迂闊さを改めて阿呆だと思いながら更に加速していく。

 

「全砲門放てえぇえええ!!」

 

 武蔵の咆哮と同時に迫り来る砲撃にイ級は即座にクラインフィールドを纏う。

 

「耐えきってやる!!」

 

 黒いフィールドが直撃するはずだった砲撃を遮り音もなく忍び寄っていた甲標的と潜水艦娘の酸素魚雷を遮断する。

 

「あれだけの弾幕を全部防ぐとか反則もいいところじゃない!!??」

 

 誰かがそう怒鳴るもそれに反論する余裕はイ級には無い。

 

「退けえぇぇええ!!」

 

 無意識に球磨と千歳の位置だけを確認しファランクスを乱射しながら前面に展開する第二艦隊を突っ切り第一艦隊に飛び込むと同時にしまかぜ達とパウ・アーマーを赤城達に向かわせ自分はまっすぐ武蔵に突っ込む。

 

「抜かれた!?」

 

 最後尾の曙が慌てて反転しようとするが、それを矢矧の叱咤が遮る。

 

「前から来てるわ曙!!」

「くっ!?」

 

 反転を中断するも時遅し。

 

「アネゴジキデン、ラム・アタック!!」

 

 イ級にばかり気を回していたせいで肉薄を許したヘ級が頭を反らし、加速度を加えた頭突きを叩き込む。

 

「ギャンッ!!??」

 

 ガゴンッと物凄く痛そうな音を響かせ曙がそのまま気絶してしまう。

 

「艦首突撃なんて正気なの!?」

 

 下手しなくとも自爆しかねない暴挙に信じられないと矢矧が叫んだ直後、

 

「なの〜〜!!??」

 

 突然の水柱と同時に潜航していた伊19が真上に吹っ飛ばされる。

 

「イク!!??」

「上出来だよフロッグマン!!」

 

 北上の賛辞に目をぐるぐるにして気絶する伊19のお腹で自慢げに身体を逸らすフロッグマン。

 

「まさかあれが潜水艦に開幕雷撃を!!??」

 

 奇跡でも起きなければありえないような真似が二度も続き混乱する木曾にカトラスの峰が迫る。

 

「お前の相手は俺だ!!」

「っ!!??」

 

 反射的に軍刀を抜いて受け止めた木曾だが、無理な体勢で受け止めたせいでカトラスの一刀を抑えこめず弾かれてしまう。

 

「クソッ!!??」

 

 更にもう一太刀見舞わせようとカトラスを振り上げる木曾から距離を稼ぐため二本の副砲を向け狙いもそぞろに放つ。

 

「チッ!?」

 

 この距離なら中途半端な狙いでも当たると判断し、直撃は堪らないと木曾は海面を蹴って真横に跳び副砲の射線から逃れる。

 

「もらった!!」

 

 跳んだことで生まれた隙を狙い魚雷を放つ木曾。

 至近距離とあって回避する術は無い。

 普通なら(・・・・)

 

「ストライダー!!」

 

 木曾の呼び掛けにストライダーが海中に飛び込みバリア波動砲を発射。

 海面まで広がった波動の壁は木曾が放った魚雷を全て受け止める。

 

「はぁっ!!??」

 

 再び空へと舞い戻るストライダーに木曾はふざけるなと怒鳴る。

 

「水偵が潜水してしかも…もう目茶苦茶じゃないか!!??」

 

 理解の範疇を一足飛びで何度も振り切られ癇癪地味た叫びを上げてしまう木曾。

 しかし木曾はそんな叫びもどこ吹く風。

 

「あいつの仲間になった時点で常識なんてとっくに捨ててんだよ!!」

 

 ばっさり切り捨てカトラスを構え直す。

 

「お前には絶対謝らせる!!」

 

 そう宣いカトラスを奮う木曾を横目に北上は苦笑する。

 

「木曾ってば若いねえ」

 

 ひらりひらりと足柄と那智の砲撃をいなしながらそう苦笑する北上にだんだん苛々を募らせる二人。

 

「第一改装止まりの雷巡がどうして!?」

 

 制空権はなくとも電探でしっかり捕捉しているのに、どうしてか北上は狙い澄まされた砲撃を躱していく。

 

「ん〜?

 だってさ、正確過ぎるんだよねぇ」

 

 二人の注意をこちらに向け木曾同士の一騎打ちとヘ級と矢作のタイマンを維持するため北上は二人を挑発する。

 

「なんていうかさ、普通に上手い砲撃ぐらいじゃ当たりようがないんだよね」

 

 案の定、二人のこめかみに血管が浮かび上がる。

 

「ふふっ…さすが私の(・・)北上さんですね」

「!?」

 

 突如背中をなめ回されたような悪寒が背筋を走り、北上と何故か足柄と那智の足元が爆発する。

 

「にゃあ!!??」

「くぁっ!!??」

 

 仲間が被雷して悲鳴を上げるが大井は一切構わず感極まった様子で嘯く。

 

「素敵よ!!

 調子に乗ってポカをやらかす北上さんも本当に素敵!!」

 

 両腕で自分を抱きしめ恍惚の笑みを浮かべる大井。

 

「あっぶなぁ…」

 

 完全に気配を消して行われた魚雷の飽和射撃を辛うじて感づいたフロッグマンがバブル波動砲を放ち無力化していた。

 

「大井…貴様ぁ…」

 

 味方ごと雷撃の餌食にと企んだ大井に気絶した足柄を支えながら怒りを放つ那智だが、大井は呆れたと肩を竦める。

 

「私の北上さんの足止めをしてくれたことには感謝してますけど、避けられなかった自分の非を棚に上げられても困ります」

 

 ねえ北上さんと同意を求める大井だが、北上はすぅっと目を細める。

 

「いや、悪いのはそっちだと思うよ?」

「北上さん…?」

 

 賛同してくれると思っていた北上からの批難に大井は信じられないとたじろぐ。

 

「どうして北上さん?

 そんな、私の北上さんならそんな…」

 

 否定された事がショックだとそう態度で言う大井だが、北上は大井の素振りに軽い吐き気を催していた。

 

「あいつとおんなじだね」

 

 提督の勝利のため。

 人類の栄光のため。

 日本の繁栄のため。

 そう言葉を重ね敵と味方の屍山血河を敷いて自分達を無理矢理引きずろうとしたあの大和と目の前の大井が北上には重なって見えていた。

 

「どうして?

 どうしてそんな目で私を見るの北上さん!?」

 

 自分を拒絶する北上の視線に耐え切れずそう叫ぶ大井。

 と、不意に大井は何かに気付いたとばかりに低い笑い声を漏らす。

 

「ふふっ、そう。

 そういうことなのね北上さん」

 

 自分の求める『北上さん』と目の前の北上が乖離しているのが認められない大井はその理由を他人に押し付ける。

 

「あの薄汚い深海棲艦共に洗脳されてしまったのね!!??

 解ってるわ北上さん!!

 今すぐ「黙りなよ」」

 

 悪いのは全部だと詰る大井にぷつんとキレる北上。

 低い、ともすれば波に掻き消される程度の小さな声だったにも関わらず、周囲はおろかイ級と激戦を繰り広げる第一艦隊の武蔵さえその腕を止めてしまう程に恐ろしい声が北上から放たれた。

 

「今さ、私の仲間を薄汚いとか言ったね?」

 

 ゆらりと顔を上げた北上の目から光が消えていた。

 殺意に満ちた姫の如く怒りを湛えた北上に大井以外の全員が呆ける中、北上はフロッグマンを呼ぶ。

 

「フロッグマン。ちょっとマジになるからさ、そいつら巻き込まないように守ってやって」

 

 その命令を受け即座に北上から逃げるように全速力で那智達の前に立ちはだかるフロッグマンを確認し北上は単装砲を大井に向ける。

 

「あんたは言っちゃいけないことを口にした。

 演習だから沈めはしないけど、覚悟してもらうよ」

 

 キレた木曾の事を若いなんて笑っていたが、自分も十分若いなぁと他人事みたく思う北上。

 しかし大井は北上の変貌にこれこそ奴らが悪いんだと怒りを露わにする。

 

「北上さんをこんな風に変えてしまうなんて…。

 ふふっ、でも大丈夫。

 ちょっと痛いかもしれないけど楽にしてあげますからね私の北上さん」

 

 微塵も噛み合わない思考のままに暴走する大井に対し、北上は無言で海面を蹴り吶喊を開始した。




 ということでイ級のトラウマは秘められ大淀は大ピンチ。
 そして北上様はアルティメット北上様にぱわーあっぽしました。

 ちなみに北上がキレたのは大井にと言うより大井と被った大和(病)にです。

 つまりどっちも本人を見てないという…。

 後、どうでもいいですがクレイジーサイコレズってこんな感じでいいのかな?

   

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