※胸糞注意?
飛行場姫が帰った後、イ級は全員を集め昼間の件を全員に話すことにした。
念のため古鷹と春雨への言質に纏わるいざこざに付いては省いてだが。
「それってさあ、あらかさまに罠っぽくない?」
「そうだな。
古鷹と春雨を連れていけば三万の資材と修復剤を寄越すなんて怪し過ぎる」
北上の意見に木曾もそう苦言を提する。
「とはいえだ。
うちの財政事情は半端じゃないぐらい逼迫してるのは事実。
戦艦棲姫は待つとは言っているけど、この機会を逃すとまとまった返済がいつになるか…」
なあ明石? とイ級は明石を睨む。
「ちゃんと反省してるよ…」
イ級が睨んだ瞬間びくりと肩を震わせそう答える明石。
何があったのかと首を傾げる瑞鳳と北方棲姫の隣で明後日を見る鳳翔に、木曾達は大体の事情を察し無視することにした。
「ということでだ。
ガチの戦闘の可能性もあるから後三人の面子を誰にするか相談したいんだが」
「三人?」
イ級と古鷹は確定だとしても後一人はと問う千代田にイ級は言ってなかったかと気付く。
「飛行場姫が寄越した浮遊要塞があるからそいつをな」
「へぇ……って、浮遊要塞?」
「ああ」
こいつとイ級が呼ぶと部屋の片隅で大人しくしていた浮遊要塞が目線の高さまで浮かび上がりくるりと縦に一回転した。
「……もしかして、今の挨拶なの?」
「多分」
少し前によろしくと言ったら同じ動作をしたのでそうなのだろうとイ級は思う。
「大丈夫なのこれ?」
飛行場姫が寄越したという事に不安を持つ瑞鳳の言葉に北方棲姫が言った。
「いきゅう。
おまえ、こいつでみえてる?」
「何をだよ?」
要領が掴めない問いにどういう事かと困惑するイ級に瑞鳳が代わりに尋ねる。
「ねえ姫ちゃん。
浮遊要塞の何が見えるの?」
「えっとね、ふゆうようさいはしゅじんのめになるの」
「目になる?」
と、その台詞からイ級はふと思い出す。
「そういや戦艦棲姫と戦った時に視覚の共有してる節があったから、試すのに照明弾喰らわせた事があったな」
あの時は火力不足で戦艦棲姫の艤装にアルファ共々叩き潰された苦い記憶が強かったため今の今までイ級はすっかり忘れていた。
「…試してみるか。
どうやればいいんだチビ姫?」
「みたいっておもえばできるよ。
あとちびひめいうな!」
説明した後でぷんすかと怒る北方棲姫を遇うのを瑞鳳に押し付けイ級は言われた通り浮遊要塞の視点を使いたいと考えてみる。
すると、通常の視界に加え上空からの視点が追加された。
「どうだ?」
「出来たけど、結構気持ち悪いぞこれ」
二つの視点で物を見るという違和感から終わりにしたいと思うとすぐに視界が元に戻る。
「ともあれ、視界の共有が出来るみたいだしこいつはイ級の所持品と考えていいみたいだな」
「だな。
じゃ、改めて編制なんだが、」
「俺は絶対付いて行くからな」
「私も同伴してよろしいですか?」
台詞に被せる勢いで早速そう名乗りを挙げたのは木曾と鳳翔。
「木曾はともかく鳳翔もか?」
木曾は予測していたイ級だが鳳翔もとは意外だった。
イ級の問いに木曾は軽く拗ねてしまう。
「ともかくって、なんだよ?」
「絶対来てくれるって思ってたからだよ」
そう言うと、ならいいと機嫌を治す木曾。
周りに内心ちょろいと思われている中鳳翔は理由を語る。
「改装したアサノガワを実戦で運用してみたいのですよ。
それと、改型フラグシップのレ級との交戦記録も出来れば欲しいですから」
職務と趣味の両得なれば、これに出ない道理は無いと鳳翔は語る。
そんな鳳翔に危険を感じたイ級は釘を刺しておく。
「一応言っとくけど、必ず戦うとは限らないからな?」
「重々承知してますよ」
本当かよ? とりっちゃん達にも通じる好戦的気質を匂わせる鳳翔に内心溜息を吐いてしまうイ級。
「じゃあ後一人はどうするか…」
イ級としては実力で言うなら北上が妥当だとは思う。
瑞鳳は実力というかR戦闘機を持ってないのでレベルの低さもあって不安が残る。
とはいえそのスロットには震電改、流星(六○一空)、彗星(六○一空)、鳳翔から貸し出された夜偵改修型彩雲と半端じゃなく贅沢な装備なのだが、悲しいかなこれらでも千代田のミッドナイト・アイどころか自衛用バルカンのみの明石のアサガオにさえ勝ち目が無い。
そして深海棲艦で筆頭に上がりそうなのは北方棲姫だが、北方棲姫は確かに姫クラスだけあって桁外れな実力を持つのだが、瑞鳳がいなければいうことを全く聞かないため論外。
ならば他の深海棲艦はといえば遠征や防衛で腕は上がりいつの間にやらエリートまで育っているが、あくまで普通の深海棲艦。レ級と戦うとなれば心とも無い。
イ級の部下も同上から除外。
あつみと春雨はそもそも選択肢に入れてさえいない。
妥当に北上だなとそう名指ししようとしたイ級だが、そこで北上が奇妙な事を口にした。
「なんだったら皆で行けばいいじゃん」
「はあ?」
めちゃくちゃな事を言う北上にイ級は呆れながら反する。
「何を言ってんだ北上?
艦隊は六隻までっていう制限があるだろうが」
六隻を越えて編成するとどういう訳か艤装の機能が低下してしまう。
それでは艦隊運用に弊害が起こる事から一艦隊は機能不全を起こさない限界の六隻を上限としている。
これは深海棲艦も変わらず、姫でさえその制限を越える事は不可能なのだ。
そう言うと北上は得意そうに笑う。
「えへへ、実は可能なんだよね」
「マジ?」
素で驚くイ級に思い出したと鳳翔が言う。
「『連合艦隊』ですね」
「なんだそれ?」
ゲームの艦これについて『索敵機、発艦始め』までしか知識を持たないイ級はAL/MI作戦から実施された複合艦隊システムに困惑してしまう。
そんなイ級が面白かったらしい北上が解説する。
「簡単に言うとね、二つの艦隊を同時に出撃させるっていう方法だよ」
「でもだ。連合艦隊を組んだりしたら目立たないか?」
連合艦隊について知ってはいた木曾がそう疑問をぶつけると、鳳翔が大丈夫と言う。
「今現在大本営はバイドツリーを『世界樹』と命名しそれの攻略戦に向け集中しています。
今なら連合艦隊を動かしてもそれほど目立つことはないかと」
「…鳳翔、それって信長が大変だって事だからあんまり大丈夫じゃないよ」
「あ、」
中核として立つ信長が装甲空母水鬼として大本営と激戦を繰り広げているという事実を指摘され焦る鳳翔。
「すみません。
私ったら」
土下座しかねない勢いの鳳翔をまあまあと宥めつつイ級は北上に尋ねる。
「とはいえだ。
連合艦隊ってのはどんななんだ?」
するかどうかはさておき、知っておいて損は無いなと条件を尋ねる。
「んーとね、確か水上打撃部隊と空母機動部隊の二つがあって、空母の数でどっちかになるんだよね?」
「ね?って、はっきりしてくれよ」
曖昧なのは困ると呆れるイ級にたははと苦笑して北上は鳳翔に丸投げする。
「鳳翔お願い」
「…仕方ないですね」
そんなこんなで連合艦隊について詳しくない者(主に深海棲艦)に北上に代わり鳳翔から説明が成される。
一通り聞き終えたイ級は今後の事を考えやってみようと思った。
「折角だから今のうちに経験しておいたほうがいいかもしれないな」
「連合艦隊なら春雨を連れていっても大丈夫じゃないか?
護衛ならあつみにノーチェイサー達を連れて来てもらえば大丈夫だろうし」
「……それもありだな。
修復剤の在庫もあんまりないしな」
修復剤はなるべく見付けるようにしているが、イ級達深海棲艦等が使うときは一度に10杯分は使わなければならず既に50を切っている現状500という莫大な量を手に入れるチャンスは非常に魅力的だった。
そう考え、イ級は悩みながらも春雨を出そうと決める。
「よし。あんまり良くはないが春雨も連れていこう。
鳳翔、第一艦隊の旗艦を頼む。
春雨とあつみを含めた空母機動部隊を率いて貰えるか?」
「ええ。
承りましょう」
「後は瑞鳳と尊氏とヘ級で…」
突然北方棲姫が駄々をこね始めた。
「ままがいくならわたしもいく!!」
「いや……大丈夫か鳳翔?」
「なんとかします」
困った様子でそう苦笑する鳳翔。
「仕方ない。
ヘ級、チビ姫と代わってくれ。
第二艦隊は俺と木曾、古鷹、北上、ヘ級、浮遊要塞で行く。
千代田。明石他残りを率いて遠征を頼む」
「いいけど島を無人にするの?」
「ああ。
下手な戦力を残すぐらいなら全員出払わせたほうが心配無いしな。
それに、こういっちゃなんだが建物や作物ならいくら壊されてもやり直しが効くが、命は落としたら終わりだからな」
深海棲艦は復活出来るとしても沈まないに越したことは無い。
「ついでに氷川丸達にもしばらく留守にすると言っておいてくれ」
「うん。伝えておくね」
全ての方針が決まり、明日の明朝に起つぞと言うと解散していく一同。
「俺も休んどくか」
部屋に引っ込もうとするイ級に古鷹が待ったを掛ける。
「どうした古鷹?」
「その…」
何かを言いかけた古鷹だが、やっぱりいいと言う。
「……」
その様子から何を尋ねようとしたのか察したイ級は自分から切り出すことにした。
「やっぱり気になるか?」
「……うん」
飛行場姫は件のレ級がイ級と同じかもしれないと口にした。
それからイ級は引き受ける体勢を取り始めていたことが古鷹はどうしても引っ掛かっていた。
いい加減話すべきなんじゃないか。
そう思い始めていたイ級はこれも巡り会わせなんだろうなと思い全て打ち明けることにした。
「皆、ちょっといいか?」
突然の呼び掛けにどうしたのかと視線が集まる中、イ級はこの告白が今の生活を全部壊してしまうかもしれないという事に怯え、だけどいつまでも騙し通すことは自分には出来ないと意を決し告げる。
「今までずっと黙っていたけど、俺は、元人間なんだ」
〜〜〜〜
リンガ泊地から二百キロ程離れたとある海域にて、つい今しがた起きていた戦闘が終決した。
「おいおい?」
海上に11隻の艦娘が倒れ伏し、彼女等を率いていた旗艦の戦艦霧島はひとりの深海棲艦に髪を掴まれた状態にあった。
霧島の髪を掴み無理矢理起こしているのはフード付きのパーカーの下に水着一枚を纏うだけの青白い肌の少女。
これが飛行場姫が見付けた戦艦レ級であった。
力無くなすがままにされる霧島に、金と青に煌めくオッドアイに侮蔑と嗜虐を湛えながら嘲笑的な笑みを向け嘯く。
「たった一人に12人掛かりとか卑怯だろうよ?
常識で考えろよ。
…聞いてんのか?」
反応しない霧島に苛立ちを見せたレ級が首を更に持ち上げようとした瞬間、だらりと下がっていた霧島の右手が拳を握りレ級の顔面に叩き込まれる。
無理な体勢からの一撃だが、それでも下手な砲弾並の威力は確かに秘めた一撃だった。
……だが、
「……っ!?」
霧島の拳はレ級の左頬に浅く刺さるだけで止まっていた。
「……はぁ?」
霧島の抵抗が気に食わなかった、レ級は機嫌を悪くし、
「なに調子くれてんだよ? あぁ゛!?」
空いている手を霧島の顔面に叩き込んだ。
凄まじい威力の一撃に掴まれた髪がぶちぶちと引き千切れ、霧島の身体は水切石のように何度も水面に叩き付けられながら吹っ飛んだ。
「人がせっかく優しくしてやってるってのによぅ?
たかが金背景があんまり調子こくんだったらぶち殺してやろうかあぁん?」
血を吐きながら必死に起き上がろうとする霧島にそう怒鳴り散らすレ級。
「ケッ、やめやめ。
こんな雑魚共なんかクソつまんねえ」
そう言うと死屍累々と倒れ伏す艦娘を無視してその場を去るレ級。
「ああ、せっかく転生するってんなら艦これみてえな糞ゲーなんて選ばずにもっと別のにしときゃあ良かったぜ」
そう不満を口にしながら今日は何処を寝床にするかと考える。
そうして考える内、やがてその思考は現状への不満に磨り変わり始める。
「ちっ、くっそつまんねえな。
なにが転生だ?」
少なくとも、レ級の前世はろくなものではない。
他人を見下し省みない自分勝手が災いし、親にさえ見放され最後は面白半分で虐めていた奴に刺し殺された。
だから転生させると聞き彼は更に好き勝手出来ると喜んだ。
好き勝手出来るようになるならと自分が知る限り最強の装備を使わせることを条件に転生先は相手の好きにさせた。
そしてこの世界にまだ存在しないレ級改型フラグシップとして転生した。
だが、いざ転成してみれば彼の思い通りに等なりはしなかった。
それが気に入らず近場の泊地に殴り込みを掛け、たまたま見掛けた何人かを面白そうだからと掠ってみたが、大して面白いことにもならず既に飽きていた。
「世の中クソだな」
さっきの腹いせに取っ捕まえた艦娘を潰して憂さ晴らしでもしてやろうかとそう考え始めたレ級だが、そこでふと水平線の先に奇妙な一団を見掛けた。
「……へぇ」
巨大な艤装とそれに乗った艦娘と深海棲艦の一団。
普通に有り得ない光景に暇潰しに絡んでみようかとレ級はそちらに向かうことにした。
ということで連合艦隊初出撃となりますた。
後ね、DQNってこんな感じでいいのかな?
自分がぶち殺したくなるようなキャラを作ったらこんな感じになったんだけど、こいつなら殺っちゃってもいいよね?
ちなみにあの後イ級はあっさり信用されて逆に凹んだりしてます。
次回は屑レ級がやりたい放題かまして無双したけど……な展開の予定。
ついでに無人となった島に来客があります。
それはまた別に書きますので。