私は北上。
元は横須賀に所属する艦娘だったんだけど、いろいろあって今は横須賀から離反…なのかな? とにかくそんな感じでレイテの近くにある島でのんびり過ごしてるんだよね。
で、私は今何をしているかというと…
「あ〜もう、腰が痛いんですけど!?」
裏の畑で雑草毟りなんかしてるんだよね。
いつもなら畑は木曾かチ級が世話をしてるんだけど、今日は二人とも遠征に出ちゃってて手が空いてるのは私だけなんだよね。
まあね、文句言えるだけ贅沢なのは分かってるんだよ?
妖精さんのお陰で川もないこの島で畑に撒く水に困る心配もいらなくて水やりさえちゃんとしてれば病気なんかの心配もいらないで育ってくれるなんて農家の人からすれば石を投げられるレベルだろうしさ。
たださ、妖精さんの力は畑の植物全部が対象だから、雑草でもなんでも育ちすぎちゃって毎日取らなきゃなんないのがめんどくさすぎるんだよ。
「ああ、もう。めんどくさい」
そんな感じで可愛い妹のため、なによりもうすぐ久しぶりにカレーを食べられるんだからって投げ出したいのも我慢して雑草取りを終えた私は自分を褒めてあげながら痛くなった腰を軽く叩きつつお昼ご飯まで寝ようと部屋に向かう。
「キタカミ」
「ん〜」
この声は普通のイ級かな?
「どうしたのさ?」
振り向くと何かが入った投網を抱えたイ級が立って(?)た。
「コレ、キタカミノダヨネ?」
「何のこと?」
そう投網を見せるイ級にまじまじと眺めた私は身を固くしちゃう。
「あー、
潜水艦と魚雷を合体させたような不格好な
「
「ケイジュンガチカクニシカケタアミニサカナトイッショニカカッテタ」
微妙に噛み合ってないんだけど、深海棲艦は細かい海域なんかあんまり気にしないからしょうがないんだよね。
「そっか」
悪意でやってたんなら殴ってるけどそうじゃないから余計タチが悪いこともあるよね。
「ありがとね」
ともかく親しき仲にも礼儀あり。
そうお礼を言って私は
「ジャア、ワタシハイクカラ」
そう言うとイ級はまた漁に向かうみたいで網を抱えて行っちゃう。
「……」
一人になった私は改めて回天に目を落とす。
正直、
変な言い分かもしれないけど、私だって艦の一隻。
だから命のやり取りが必要ならそうだって割り切るし、自分や知ってる艦が沈むのだってそれは仕方ないって理解してる。
だけど、
艦の頃の私は本当に運よく
うん。分かってるんだよ。
提督は使わせたくないって上に意見具申してくれたことは。
だけどさ、私は
初めて
取り返しが付かなくなるって分かってて、それでもコレ以外武器が無いからって、使わなきゃどうしようもないんだって私は言い訳を重ねて
今思えばそれがいけなかったんだよね。
悪夢を見るのが怖くて眠れなくなって、更に心がどんどん擦り減ってさ。
どんどん自分を追い込んで、気が付いたらどうやって撃てば絶対に外さなくて済むか、一発で終わらせるにはどうしなきゃいけないのかって事しか考えられなくなってたんだよね。
だからイ級が
まあイ級や球磨の頑張りを知ってからは、そんなんじゃいけないって無理に立ち直った訳だけど…。
たまにね、撃った魚雷が回天になる悪夢をまだたまに見るんだよね。
まるで過去の怨念が
「どうした北上?」
いつの間にか目の前にイ級が居た。
右目に眼帯と迷彩柄の他とはちょっと違う私の恩人のイ級。
魚雷載せてなくて艦載機載せてたり主砲が超重力砲だったりとか本当に駆逐艦なのか怪しいけど一応駆逐艦のイ級が私を見ている。
「おい、それ…」
イ級は私が持っている回天に気付いて絶句してた。
まあそうだよね。
一度捨てた回天をまた持ってたら驚くのも当然だよね。
なるべくいつも通り、飄々とした北上様を演じながら私は口を開いた。
「ん〜? ああ、これね?
さっき、ヘ級の網に掛かってたって持って来たんだよ」
上手く笑えてるかちょっと自信がないけどへらへらと私はイ級に笑いかける。
「寄越せ。
すぐに明石に解体してもらうから」
ありゃ? やっぱり上手く行かなかったかな?
渡せって言うのも見るのも辛いだろうってそう思ってくれてるからだよね。
すごく心配そうなイ級だけどさ、そんなに心配しなくてももう大丈夫だよ。
「ん〜、いいや」
「北上?」
へへ、心配してくれるのは嬉しいけどさ、いい機会だと思うんだよね。
「せっかく戻ってきたんだし、しばらく部屋に置いとこうかなって」
「だけど…」
「そんなに心配しないでよ。
それにさ、忘れちゃいけないんだよ」
使ったことはもう覆らない。
だから、私はそれから目を逸らしちゃいけない。
事実をちゃんと見据えて、受け止めて、もう使わないために忘れちゃいけないんだと思うんだ。
だからそのために
「……分かった」
そう言うとイ級は私の横に並んだ。
「どしたの?」
「部屋まで送ってく」
「ありゃ」
これって、イ級なりの精一杯の抵抗だよね。
こういうところはちょっとかわいいと思うんだよね。
だけどさ、そういうのは私より他にやってあげなきゃいけない娘がいるんじゃない?
でも、今だけは甘えとこうかな。
「じゃあお願いしようかな」
「ああ」
イ級と一緒に部屋に向かう私は、手に持った回天の重みがほんの少しだけ軽くなったようなそんな気がした。
〜〜〜〜
ある日の昼下がり、暇を持て余してた私達を呼び出して唐突に明石がこう告げた。
「新しいR戦闘機を作るよ」
明石に集められたのは私、木曾、千代田、鳳翔、あつみの五人。
また明石の悪い病気が始まったみたいだね。
突っ込むのもどうかなって思ってると木曾が問い質した。
「新しいR戦闘機をって、イ級に止められてるだろうが?」
春雨の艤装製作の後、明石は次にイ級の許可なく開発や建造をやったらアルファに触手責めをやらせるときつく厳命されていたんだよね。
なのに明石は胸を張る。
胸を張ったらたゆんと揺れた胸にイラッとした私は悪くないよね?
「大丈夫。
今回は既存のR戦闘機の改修だからイ級との約束には触れてない」
参ったかとドヤ顔をする明石に私を含めた皆ではこう思った。
あ、ア艦これのパターンだ。
「改修と言うけれど大丈夫なの?」
私達が知る改修と言えば、その過程に同型の装備を必要とするものだもんね。
「大丈夫!」
その質問に明石は親指を立てる。
「普通の改修は改修資材を最低限にするために回数を重ねるけど、今回は改修資材を大量に注ぎ込んで一回で完了させるから」
「いえ、そうじゃなくて他の資材は…」
「賄える範囲だよ」
これはお仕置き確定だわ。
「ちなみにだ。
改修するとどうなるんだ?」
およ?
木曾は巻き込まれたいの?
まあR戦闘機が更に頼りになるのはありがたいけどさ、あんまりR戦闘機ばっかり強化すると私達の出番無くなりそうでやなんだよね。
「ん〜とね」
明石がどこからともなくファイルを取り出して説明を始めた。
「どの機体も基礎性能が向上するけど基本的に大きな変化はないね。
あ、でもフロッグマンはかなり変わっちゃうね」
「そうなの?」
最初はどうかなって思ったけど、結構可愛く思えてたんだけどな。
「ちなみにこんな感じ」
そう言って見せたのはただの潜水艦だったよ。
「えっとさ、なんでフロッグマンがこんなのになっちゃうの?」
なにもかも違うじゃん!?
しかも大型化して載せらんなくなるから単艦として運用とかどうなってんの?
「私はパス。
せっかく気に入ってるんだからこんなのになるならいらない」
そう言ってやりつつさりげなくお仕置きから逃れると、明石は強いんだけどって愚痴ってる。
「俺も今回は見送りかな」
「私も」
私に乗っかって木曾と千代田も難色を示した。
「二人はどうして?」
「強化って言っても波動砲の威力強化がメインみたいだからさ、この位のマイナーチェンジならもっと資材が貯まってからでもいいかなって」
「私も。
索敵範囲が強化されるならすぐにでもやるけど今の備蓄でやるのはね…」
あ、そっちは普通に強化なんだ。
そう言うと明石は不満そうに唇を尖らせる。
「ステイヤーもオウルライトも良い機体なのに」
「資材が貯まったらお願い」
そう千代田が切り捨てた。
ところが、鳳翔は違ったみたい。
「私はお願いしようかしら」
え? マジ?
「機体耐久度を高め機体そのものによるチャージ攻撃の追加と更に強化されたパイルバンカー…。
ふふ、これさえあれば加賀の艦載機をまるごと葬り大和を一撃で沈めることも夢じゃないわね」
な、なんか鳳翔から黒いオーラが出てる気がするんだけど気のせいだよね?
「鳳翔。
アサノガワを更に改修すればパイルバンカーは射程が倍に延びて威力も更に倍。
あの飛行場姫だって一撃粉砕できるようになるよ?」
あ、調子に乗って明石が悪魔の囁きを始めてる。
それを聞いた鳳翔の目がキラキラしてるよ。
「最高ね!
すぐにやりましょう!」
「よしきた!」
意気投合して早速改修を始める二人。
大量に投入される改修資材に紛れて鋼材やらも一緒に注ぎ込まれていく様子に木曾が零しちゃう。
「あ、これ確実にダメなパターンだ」
「だねぇ」
鳳翔はお客さんだから厳重注意で終わるかもしんないけど、明石は間違いなくお嫁にいけなくなるだろうね。
まあこんな島で隠遁してるんだし、そんな心配いらないよね?
「あつみはどうすんの?」
完全に蚊帳の外でぼうっとしていたあつみにそう聞いてみる。
「私? 私ハヤメトク。
イ級ガ困ルカラ」
くぅ、いい娘だねえ。
私達なんて保身第一なのに、あつみはイ級のことをちゃんと考えてるよ。
それに比べてあっちは…
「アサノガワの完成だよ!!」
改修されたハクサン改めアサノガワはなんか杭が一回り大きくなって風防もシールドみたいになってるね。
それを嬉しそうに囲う二人なんだけどさ、
「これで更に一撃必殺が捗るわね。
…ふふっ」
満面の笑みのはずなのに、なんでか鳳翔から真っ黒ななんかが出てる気がする。
うん、近付かないほうが賢明だね。
このまま最終段階まで行くかその前に一回ぐらい使うか話し込む二人を、ほっといて私達はあつみに害が及ばないようそろそろと工廠を出ることにしたよ。
「ん?
皆して工廠でなにやってんだ?」
あ、留守にしてたイ級が帰って来た。
「ん〜、ちょっと明石に呼ばれてね。
イ級は?」
「ファランクスのギアが欠けたみたいでな。
今のところ問題はないんだが、早めに直したほうが良いと思って明石に整備を頼むつもりで来たんだ」
そう言うとまた後でなと工廠に入っていくイ級。
「……」
「……」
「……」
「……」
私達は無言でお互いを見合わせてから全力で走りだしたよ。
その直後…
「明石!!!???」
びりびりと壁が震えるぐらいのイ級の怒声が響いたけど、私達は振り向くこともなく逃げたよ。
その後明石がどうなったか私達は知らないけど、翌日鍵が掛かった鉄の扉が工廠の床に増えてたことだけは言っとくね。
と言うことで今回は北上様回でした。
そして待っていた人は待っていたアサノガワ登場。
明石はまあ・・・ね・・・
あ、どんなお仕置きだったかは書きませんよ?
R18はあんまりね?