なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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ワタシタチノソンザイイギヲマッコウカラヒテイスル


騒々しい日常の1コマ
アタラシイジョウシハヘン


 

「さってと、やりますかね」

 

 気合いを入れてオリョールの深海に潜る俺。

 何をやってるかって? 燃料掘りに決まってんだろ。

 

「って、相変わらず誰に言ってんだ?」

 

 たまにあるし気にしたら負けなんだろうからもう気にしない。

 そんな訳で海底の油田を確認した俺はクラインフィールドをドリル状に展開して穴を掘る。

 そのまま10メートル程掘ると底から黒い原油が滲み出したので海上から伸ばさせたパイプを使い回収させる。

 恙無く吸い上げが始まったのを確認した俺はお供のヨ級にパイプを任せ一旦浮上。

 そしてそのまま海上で原油を艤装に溜め込むワ級の海上警護に当たる。

 

「後どれぐらいかかりそうだ?」

「ニジカンホドイタダケマスカオニ?」

「分かった」

 

 敬いながらそう告げるワ級に了承を告げ、俺はレーダーに注視する。

 因みにこいつらは新しく俺の部下になった艦達。

 鬼クラスに昇格という信じたくない現実と共に島の連中とは別に新たな部隊を率いる事を強制され、取り敢えず資材確保を最優先に潜水艦のカ級とヨ級の二隻と輸送ワ級を融通してもらうことにした。

 南方棲戦姫は戦艦を薦めてたけど、エンゲル係数の引き下げと借金の返済が終わるまではって辞退しておいた。

 それに伴い島に済んでいたワ級には新しく自衛隊の輸送艦「あつみ」の名前を与えることにした。

 ワ級と呼ぶと両方来ちまうから大変なのもあるけど、うん、新しいワ級は癒されないんだよ。

 ついでにってのも変だけど、ヲ級の部下にヲ級とヌ級が入ったので二人にも名前を着けた。

 ヲ級には「信長(のぶなが)」、ヌ級には「尊氏(たかうじ)」。

 元ネタは旭日の艦隊な。

 女に付ける名前でもないからアメリカ系も考えたけど、アルバコアが帰って来て万が一アメリカの空母が仲間になったら被った時面倒だから架空の名前にした。

 他の奴らもそのうち着けてやんないとな。

 しかしまあ、うちのワ級もといあつみは他のワ級に比べやっぱり優しいらしい。

 姫には艦娘との共同生活が可能な奴と要望したのだが、このワ級が辛うじてというぐらいで他は威嚇する猫のように敵対心を剥き出しにしていた。

 まあ、ワ級は通商破壊で狙われまくってたんだからしゃあないわな。

 因みに信長の旗下に入ったのはヲ級とヌ級とル級と新型の重巡と軽巡。

 鳳翔曰、大本営は軽巡をツ級と重巡をネ級と呼称するそうだ。

 で、その信長は艦娘達のバイドツリー調査を妨害するため部下を引き連れバイドツリーに行っちまった。

 一応引き留めたんだけど、姫達に島の独立権を認めさせ続けるためには多少は協力しなくてはならないと言われ引き下がるしかなかった。

 ままならないなとは思うが、こればかりは仕方ない。

 現状俺と信長は一派閥とはされていても実質戦艦棲姫の食客的な立場にいるわけで、自由に出来る領海があるわけでもないから資源の確保も自力で何とかしないと行かず肩身が狭いのだ。

 かといって深海棲艦に寄り続けるわけにも行かない。

 鳳翔という監視の目があるから木曾達が島での平穏を保てるわけで、それ故に折りを見て艦娘側にも何等かの好意的なアクションを起こす必要がある。

 忙しい話だまったく。

 

「……って、早速か」

 

 レーダーに反応あり。

 反応があったのはソナーだから、潜水艦か。

 

「ちょっと追い払ってくる。

 お前等は作業を続けていろ」

「ワカリマシタ」

 

 ワ級に指示を出して俺はソナーが反応を示した方向に向かう。

 さて、あいつならいいんだが…

 

「っと!?」

 

 先制雷撃の接近に爆雷を投下して被雷を防ぐ。

 大量の水柱が上がる中、俺はソナーの反応がある近くにあるものを投下する。

 そのまま暫く待つと、当たりだったようで潜水艦娘が浮かび上がって来た。

 

「良いイ級でち!?」

 

 旗艦の伊58ことゴーヤが嬉しそうに俺を取っ捕まえる。

 

「あー、はいはい。

 分かったから放れろ」

 

 目の下に隈を浮かべたゴーヤを引き剥がし俺は尋ねる。

 

「今日もオリョクルか?」

 

 そう尋ねるとゴーヤの目が死んだ。

 

「そうでち…」

 

 このゴーヤ、とある小さな泊地に属している潜水艦娘なのだが、その泊地の提督が別の規模の大きい泊地にたかりを受け、大本営からの補給や遠征の獲得資材をまるごと巻き上げられてしまいその泊地唯一の潜水艦であるゴーヤのオリョクルだけが生命線なのだという。

 なんとかしようにも深海棲艦の身ではどうにもならず、こうやって見付けた時に燃料を渡すぐらいしか出来ないでいる。

 一応鳳翔に聞いてみたのだが、その泊地は高い戦果を挙げている泊地なので多少の専横も本部からお目零しを受けている可能性が高いらしい。

 それでも運営に不透明な部分がないか調査の申請は出してくれたので、もしかしたらだが状況改善の目はあるとのこと。

 ただ、ゴーヤの泊地は殆ど戦果を挙げていない事もあって握り潰されるかもとも言っていた。

 パワハラを耐え忍び戦果を挙げてこそ海軍将校であり、提督の采配の見せ所であるという実に時代錯誤な悪しき習わしがいまだに横行しているからと言っていた。

 こういうのはなんとかならないのかねぇ?

 

「そろそろ行きな。

 誰かに見られたら困るのはお前の提督だろ」

 

 そう言って俺はさっき投下した燃料の入ったドラム缶を押し付ける。

 

「…そうだね」

 

 俺の側では深海棲艦を警戒しなくていい数少ない気の休まる時間の終わりを、ゴーヤは名残惜しそうにしながらも素直にドラム缶を受け取り帰途に着いた。

 

「……どうにかできないかね?」

 

 ゴーヤに必ず女神を持たせてる辺り、少なくともゴーヤの提督は艦娘を使い潰すような人間ではないようだし、そんな艦娘を大事にする提督が潰されそうになってるのは面白くない。

 

「とはいえなぁ…」

 

 ぶっちゃけ、ただ泊地を潰すだけなら怖いことに俺の超重力砲を泊地に叩き込んだ上でアルファ他R戦闘機を投入して蹂躙させれば事足りてしまうらしい。

 とはいえそんな真似をすれば艦娘に被害が及ぶし、なにより鳳翔の面目を潰すのでやるわけにもいかない。

 

「人間の事は人間に任せるしか無いかな…」

 

 歯痒く思いながらも俺は待っているワ級達の所に戻る。

 

「待たせたか?」

「ダイジョウブデス」

 

 既にパイプを回収し撤退準備を終えていたヨ級がそう言い、俺は帰るぞと促し帰途に着いた。

 

 

〜〜〜〜

 

 

「……マジか」

 

 帰って来たらようやく貯まりはじめていた資材がまた消えていた。

 こんなことをやる奴は一人しかいない。

 

「あ〜か〜し〜!!??」

 

 資材庫を飛び出し俺は工廠に飛び込む。

 

「お前今度という今度は……」

 

 アルファに触手作らせてお仕置きの場面を録画し薄い本の素材として秋雲に売り飛ばすと言いかけた俺だが、その場の光景に言葉が続かなかった。

 

「あ、お帰りイ級」

 

 そこに居たのは明石だけでなく、戦艦棲姫の所で会った春雨(仮)の姿もあったのだ。

 あの後、俺は条件なんかどうでもいいと春雨を引き取り島に連れ帰った。

 当然だがその姿に木曾達は絶句し、事情を問い質されたが俺も詳しくは知らなかったため先ずは立ち直らせようということで島に迎え入れることで一致した。

 とはいえ深海棲艦化した艦娘なんてどう扱えばいいのか誰も解らず、暫くは1番手の空いている古鷹が中心に介護しながら様子をみることになった。

 その春雨が工廠の真ん中で深海棲艦の艤装に座らされていた。

 

「どうだいイ級?

 りっちゃん達に深海棲艦の艤装のノウハウを教えてもらいながら造ってみたんだけど、中々良いと思わない?」

「どうって…」

 

 陸に上がれるよう春雨が乗せられた車椅子に深海棲艦の艤装を融合させたような形でたしかにって…

 

「これ、生きてんの?」

 

 艤装の口が微妙に呼吸してるんだけど。

 

「そうだよ。

 普通の白露型の艤装はそのままだと合わないから、その辺のニュービー取っ捕まえて補助動力に組み込んだんだ」

 

 苦労したよと自慢げに話す明石。

 

「いろいろと突っ込みたいんだが、取り敢えずさ、お前はどこに向かってんだ?」

 

 R戦闘機開発するだけじゃなく深海棲艦を加工して艤装作るとか、マッドエンジニアを通り越してもはや変態技術者の称号もらえるぐらい未来に足突っ込んでるよな?

 

「私は常に新しい技術を作るのみさ」

「絶対他所に広げるなよ」

 

 深海棲艦型から艤装が造れるなんて判明したら間違いなく世界中から狙われまくるからな?

 

「ともあれ、どうだ?」

 

 艤装を装着した春雨にそう尋ねるが、

 

「……」

 

 春雨は何も反応しない。

 まだ時間はかかりそうだな…。

 

「折角だし、少し外に出してみるか」

 

 艤装に使われた深海棲艦の補助があるから少しぐらいなら大丈夫なはず。

 

「明石。それはそれとして後できっちり話をさせてもらうからな」

 

 思い付いたら即実行の悪癖に着いての説教は忘れずと釘を刺し俺は春雨を引率して外に向かう。

 すると、春雨は俺に着いて来た。

 今まではどこかに連れていくには必ず引っ張ってやらねば身じろぎさえしなかったし、その頃に比べたら大分回復したな。

 次は自分で食事を摂ってくれるようになることか。

 

『ぽいっ!!』

 

 砂浜に着くと突然夕立in連装砲ちゃん改めゆうだちがこちらに走り寄って来た。

 

「どうした?」

『ぽいっ、ぽいぽいぽいっ!!』

 

 ゆうだちは何かを訴えたそうにぽいぽい鳴きながら春雨の周りを走り回る。

 

「……もしかして、一緒に行きたいのか?」

 

 なんとなく尋ねてみると、正解だったらしくゆうだちは嬉しそうにぽいっと鳴いた。

 そういや初日の時にゆうだちはやけに春雨を叩いたり引っ張ったりしてたし、夕立としての記憶がなくても姉妹艦の春雨が心配なんだなって話したっけ。

 

「いいぞ。

 だけど、まだ試しだからすぐに帰るからな?」

『ぽいっ!!』

 

 特にダメな理由もないから許可すると、ゆうだちは嬉しそうに跳びはねた。

 いつも一緒のしまかぜ達がいないのはゆうだちに気を遣ったのか、はたまた単に別の場所で遊んでいるだけか。

 まあ、増えても手間が掛かるだけだしさっさと行くか。

 そんな感じで春雨とゆうだちを引き連れ夕暮れが始まった海に出る。

 

「どうだ?」

 

 見た限りちゃんと浮かんでるし、組み込まれたニュービーも暴れる様子はない。

 寧ろ、春雨がバランスを崩さぬよう細かい調整をしっかりやっているぐらいだ。

 もしかしてこのニュービーは春雨の艤装に組み込まれることを自分から名乗り出たのか?

 それはともかく、上手く行ったみたいだから帰る『ぽいっ!!』…あ?

 突然ゆうだちが東に向かい走りだした。

 

「おいこら!?

 もう帰るぞ!?」

『ぽいっ!!』

 

 しかし俺の呼びかけを無視してゆうだちは走って行く。

 

「ああ、もう!?」

 

 置いて帰るわけにも行かず仕方なく春雨が付いて行ける程度の速力でゆうだちを追い掛ける。

 そうしているうちに日もとっぷり暮れ、夜が海を支配する。

 

「いい加減にしないと晩飯の時間に遅れちまうぞ!?」

 

 眼帯を外し久しぶりに探照灯を照らしてゆうだちを追い続けていると、ようやくゆうだちが走るのを止めた。

 

『ぽい〜!』

「…ったく、なんだってんだ?」

 

 ぽいぽい教団の人間ならニュアンスで理解できるんだろうけど、生憎俺はそんな奇天烈な教団とは無縁なのでゆうだちがなにをしたいのかさっぱりだ。

 

『ぽいっ!』

 

 と、ゆうだちが空を指した。

 

「なんだ?」

 

 探照灯を閉じて見上げてみると、そこには瞬く星に囲まれた大きな満月が浮かんでいた。

 

「……こいつはまた、中々どうして」

 

 天然のプラネタリウムに感嘆の声が零れてしまう。

 そういやこっちに来てからこんな風に夜空を見上げる余裕もなかったが、日本じゃどうやっても見れないこの景色を、俺は一度も眺めたことがなかったんだな…。

 勿体ないことをしてた……つうか毎日目まぐるしくてそんな余裕がなかったのが、ようやく出来たのか。

 

「……っ」

 

 と、それまでずっと黙っていた春雨が何かを言った気がしてそちらを見ると、春雨は満月をまっすぐ見上げていた。

 更によく見ると、唇が微かに震え、なにか喋ろうとしている。

 

「……」

 

 何を言うのか、じっと耳を澄まして春雨を観察していると、遂に春雨が声を発した。

 

「…つ…きが…き……れい……」

 

 月が綺麗。

 今、春雨は確かにそう言った。

 そしてその左目から零れる一滴の涙。

 ……ああ、やっぱりこの娘は艦娘なんだ。

 深海棲艦は涙を流せない。

 だから、春雨が深海棲艦化するような何かに遭ったのだとしても、まだ、春雨は艦娘なんだ。

 

「……帰ろうか」

『ぽいっ!』

 

 月を眺め続ける春雨を優しく誘導しながら俺達は、帰るために舵を切った。

 




ということで今回から日常回です。

しばらくこんな感じて大人しく、そしてたまにガチで殺しあったりなほのぼのしていきます。

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