どれぐらいの間桜を眺め続けていたのだろうか?
「もう、朝か…」
月が顔を隠し、水平線から昇る太陽の光に夜の闇が薄れていく。
白む水平線に視線を向けた俺の頭に、ふとひらりと桜の花弁が乗った。
「え?」
どんな風にも一枚たりとも落ちなかった桜の花弁が落ちたことに上を向くと、頭上に咲き誇る桜が少しづつ散り始めていた。
「バイド係数が急激に下がってる…」
雪のように降りしきる桜の花弁と千代田の報告に、俺達は確信した。
「アルファは、やり遂げてくれたんだな」
島風を倒し、地球がバイドの星となるのを防ぐことが叶った事を俺達は静かに喜ぶ。
「後は、アルファが帰ってくるのを待つだけだね」
「そう、だな」
それで、今回の事は全部終わりだ。
と、桜吹雪の中、俺はとある枝の先端にいくつかのさくらんぼが出来ているのを見付けた。
どう見てもさくらんぼなんだけど、さくらんぼにしてはかなり大きくて色が琥珀色だし多分喰ったらやばいだろうけど土産にはなるかな?
「鳳翔。
あのさくらんぼなんだが、見えるか?」
「さくらんぼですか?」
どこにと捜す皆にあそこと妖精さんに示してもらい全員で見付けたところで突然さくらんぼの一つが割れ、中から禍々しいR戦闘機らしき物が飛び出した。
「何!?」
「まさかまだバイドが悪あがきを!?」
慌てて広角砲を稼動させる木曾を俺は反射的に停めた。
「待った!?
あれは多分アルファだ」
「しかし…」
違ったらどうするんだと言外に苦言を堤するが、俺は確信があった。
「きっと、またなにかあって姿が変わっただけだ。
だから大丈夫だ」
違ったら俺が盾になればいいと胸の内に秘めて説得すると木曾は素直に広角砲を下げてくれた。
「すまない」
「いや、もしアルファだったらそれこそ悪いからな」
そう話していると、出て来たR戦闘機はゆっくり降下して来た。
「アルファ…なんだな?」
そう尋ねると、R戦闘機はハイと聞き覚えのある声で応えた。
『アルファハ無事、任務ヲ完了シマシタ』
その言葉に全員の肩から力が抜ける。
「ああ、もう。
イ級が気付かなかったら攻撃しちゃうところだったよ」
『…スミマセン』
もしかして姿が変わったことに気付いてなかったのか?
「なにはともあれ、まずはだ。
お帰り、アルファ」
約束通りそう言うと、皆もお帰りと言葉を贈る。
『…タダイマ』
皆からの言葉を噛み締めたのか、感極まった様子でそう言った。
これで約束は全部守れたかな?
「それで、その姿はどうしたの?」
俺達の疑問を千代田が代表してそう尋ねると、アルファは胸を張るように答えた。
『コノ姿ハ『バイドシステムγ』。
提督カラ餞別ト頂イタモノデス』
「提督って、前に言ってたジェイドロスって人か?」
アルファの上官でアルファと一緒にバイドになった軍人だったよな?
『ハイ』
そう自慢げに肯定するアルファ。
一体向こうで何があったんだ?
尋ねようとしたが、そこに北上が茶化すように言う。
「しかしアルファも大変だねぇ。
グロから卑猥で今度はそれでしょ?
どんどん困った姿に変身するよね」
確かに。
今までに比べたら間違いなくカッコイイと言えるんだけどさ、角とか生えてるしどっちか言うと悪者の機体って言われそうなんだよね。
『……ソウデスネ』
最初に警戒されたのとよっぽど嫌だったらしいバイドシステムβになっていた事を思い出してずーんと落ち込んだアルファだが、すぐに立ち直り俺達に言った。
『御主人。
詳シイ話ハ後ニシマショウ。
少シヤリ残シガアリマスノデ』
やり残しって、タイミングがタイミングなだけになんか嫌な響きだな。
「一応確認するが、大丈夫なのか?」
地球とかその辺りの安全的な意味で。
『大丈夫デス』
俺の問いにアルファは力強く言った。
『モウ、大丈夫デスカラ』
……一体なにがだ?
本人意外全く分からない説明だけを残しアルファは上昇すると、桜が全て散り樹に残った四つのさくらんぼを回収するなり先ニ戻リマスと言って一人で島に帰ってしまった。
「「「「「……」」」」」
一体全体訳が分からん。
「どうしましょう?」
「取り敢えず、島に帰って入渠しようか」
おいてけぼりを喰らって俺達は何とも言えない気持ちを抱えたままアルファを追って島への帰途に着く。
そうして帰り道を航海していると、一日程進んだ所でチビ姫の艤装が迎えに来た。
多分アルファが要請してくれたんだろう。
「おーい。
皆生きてるよね?」
何気に酷い呼び掛けをする明石。
ざっくばらんなのはいいけどさ、言い方ってもんがあるだろ明石?
「当たり前だ!」
木曾がそう怒鳴ると艤装に上がるための梯子が下ろされる。
「悪かった。
修復剤の準備は出来てるから早く上がりな」
そう言う明石に全くと不満を言いながら木曾から順に昇り始める。
俺? 勿論最後だよ?
いろいろ見たいからなんて下世話な理由じゃなくて、手足が無いから梯子を上るのに時間が掛かるからってだけ。
そんな訳で梯子を上ると、待っていた古鷹にに抱えられドラム缶に放り込まれた。
そのまま上からバケツを掛けられつつ俺は古鷹の目を確認して言う。
「バイド化、治ってないんだな」
古鷹の瞳の色は琥珀色のまま。
マザーを倒せば治るかもと期待していた俺に古鷹は困ったように笑う。
「アルファから聞いて分かっていた事です。
それに、これは一生抱え続けるって決めましたから」
「…そうか」
古鷹がそう言うなら俺が口を挟む事じゃないな。
修復を終えてドラム缶から這い出してみて気付いたけど、チビ姫の艤装には島の全員が乗っていた。
「随分盛大だな」
悪い気分じゃないけどさ。
「まあね。
アルファが全員でって言うから皆で来たんだよ」
「……アルファが?」
いやさ、それってもしかして…
「なんか暫く島から出ていて貰いたいみたいだったね」
やっぱりかよ。
「何を考えてんだアルファの奴?」
俺だけじゃなくて木曾もそう思うよな?
「少し工廠を使うだけって言ってたし、別に大丈夫だと思うよ」
明石はそうあっけらかんと言うけどさ、なんか変なんだよな?
先に行くって言ってた時も浮ついてるっつうか、そわそわしてるみたいな感じだったし。
あのさくらんぼが原因なのか?
ともあれチビ姫の艤装に乗って島に向かった俺達は、島が見えた辺りで呆気に取られることになった。
「なにやってんだアイツ?」
島に近付くと、島の上空でアルファが見たことが無い三機のR戦闘機と交戦していたのだ。
「アルファ!?」
一体どうしたんだ!?
まさか、また明石が黙って作ったR戦闘機がバイド汚染されて戦っているのか?
しかし、俺が呼び掛けるとアルファ達はあっさり戦闘を中断してこちらに飛んで来た。
『ドウシマシタ御主人?』
「どうしたって、そりゃこっちの台詞だ」
いきなり戦闘してるからびっくりしただろうが。
そう言うとアルファはスミマセンと謝った。
『早速飛ンデミタイトセガマレタノデ、ショウガナイノデ少シ相手ヲシテイマシタ』
「相手って…そいつらのか?」
『ハイ』
そう頷くとアルファが三機の紹介をする。
アルファから紹介されたのは三種類のカメラアイを持ったなんとなくむせそうなパウアーマーっぽい機体の『TP-1 スコープダック』、黄色い機体の下部になにやらタンクらしきものを抱えた『R-9SK2 ドミニオン』、そして沢山のブースターを装備して通常の三倍は速そうな朱い機体の『R-11S2 ノー・チェイサー』の三機。
「いきなり三機も増やして誰に持たせる気だよ…」
第一、資材はどこから捻出したと…
『おぅっ!』
って、ゲームで聞いたことがある声が…。
「……」
あまりに嫌な予感がしつつ声のした方向を振り向くと、そこには何故か連装砲ちゃんの姿。
「……アルファ?
最近よく聞いた声に振り向くと連装砲ちゃんが増えていた。
皆固まって石になるなってるし、もしかしなくてももしかして…
「なあアル『しれぇ!』……マジか?」
三度振り向くとそこには三体目の連装砲ちゃん。
いやさ、もう分かってるよ。
「アルファ」
『ハイ?』
「まさかさ、さっきお前が回収したさくらんぼって島風達だったのか…?」
それで、どんな手段か知らないが回収した島風達を連装砲ちゃんとR戦闘機に移植したのか…?
『ハイ。
デスガ三人ノ肉体ハナイノデ連装砲チャンヲ三人ノ魂ノ器トシタノデスガ、容量ガ足リナカッタノデ力ノミヲ分割シR戦闘機ニ移シマシタ』
本気で?
「突っ込み所はいっぱいあるんだけどさ、三人の記憶とどれだけ資材を使ったか聞いていいか?」
『記憶ハ肉体ト共ニ消滅シマシタ。
資材デスガ、三人ノ力ノオ陰デ各一万程度デ賄エマシタ』
まあ、一万でR戦闘機三機ならまだマシなのか…?
『おぅっ!』
『ぽいっ!』
『しれぇ!』
衝撃の真実についていけず固まる俺達なんか気にもしないでそれぞれの鳴き声(?)を上げながら楽しそうに遊ぶ連装砲ちゃん'S in 艦娘の三人。
……つうかさ、
「…あいつらどうするんだ?」
『彼女達ハ今日カラ私達ノ仲間デス。
当然島ニ住マワセマス。
何カ問題アルノデスカ?』
「…バイド汚染の心配が無いならないよ」
『絶対アリマセン』
「……そっか」
汚染の危険もなくアルファの様子からこいつらが地球を脅かす事はもうないみたいだし、来たいってなら別にいいんだよ。
けどさ、でもさ、叫ばずにいられるか!!??
「なんでこんなことになったんだ!!??」
〜〜〜〜
「……この報告をどうしろというのだ?」
駆逐棲鬼と接触するよう命を下した鳳翔からようやく届いた始めての報告書を読み終え、元帥は心の底から胃薬の必要性を考える羽目になった。
最初は非常に有意義だった。
一枚目は今まで長年の疑問であった深海棲艦の生体や言語など有用な情報がこんなにも早く判明したのかといい意味で驚かされたのだが、二枚目は別の意味で驚く羽目になった。
バイドという別の世界の未来の兵器が過去に遡り人類を脅かす等、そんなSF小説の題材になりそうな存在と戦い、それを打倒したと書かれているのだから元帥の心情は計るまでもないだろう。
おまけに数日前どの国の領海からも外れた太平洋のど真ん中に突如出現した謎の巨大樹の正体がそのバイドだというのだから、正直どうすればいいのか。
巨大樹はバイドではあるが汚染する力はなく、海上に存在しているだけでただの樹と変わらない無害な存在との調査報告も記載されているが、どちらにしろ開示するわけにはいかないだろう。
ともあれ普通ならば趣味で書いた小説の一片が誤って紛れたか、悪質な冗談の類いと流して終わるだろう。
だがしかし、これを認めたのが元帥が誰よりも信を於いている鳳翔であり、なにより…
『……』
誰にも見られず直接報告書を届けるためにと、そのバイドを鳳翔が遣したのだから信じないわけにいかない。
報告書にはこのバイドは元人間で駆逐棲鬼に敵対の意思を持たぬ者には比較的善性であるとは書かれているが、見る者に畏怖と警戒心を掻き抱かせる禍々しい外見からは微塵もそうとは思えない。
『ソレデハ失礼シマス』
「待ちたまえ」
報告書を読み終えた事を確認したアルファはそのまま帰ろうとするが、元帥はどうしても気になった事がありつい呼び止めてしまった。
「二つ、尋ねてもよいか?」
『…答エラレル事ナラ』
そう言うと元帥は質問を投げ掛ける。
「報告書の中身に目を通したのかね?」
中にはバイドのみならずR戦闘機についても言及されていた。
他にも島に住む深海棲艦や行方不明となっていた特別攻撃隊を試験装備していた北上等の存在に着いても言及されており、不利益を齎す情報は数多く記載されていた。
検閲が入っているならあまりに杜撰過ぎる手際にそう尋ねるとアルファは言った。
『シテイナイ。
ソノ必要モナイ』
「それはどういう事かね?」
こちらを舐めているのかと僅かに不快に思った元帥だが、その答えは意外だった。
『私ノ主ハ鳳翔ヲ信頼シテイル。
ナラバ、疑ウ必要ハナイ』
「……」
あまりに意外過ぎる答えに言葉を失う元帥。
その上でアルファは明言した。
『ソレニ、万ガ一ガアレバ私ガオ前達ヲ皆殺シニスレバ済ム』
そう、禍々しい殺気を僅かに覗かせながらアルファは告げる。
『主ハ甘イ。
ソレコソ戦火ヲ知ラナイ世界ニ生キル人間並ニダ。
ダケドソノ優シサニ私達ハ救ワレ、ダカラ私達ハ主ヲ信ジ集イ力ニナレル。
ダカラ、ソレヲ脅カス者ニ私ハ容赦シナイ。
我々ハ深海棲艦ト艦娘の共生体デアル以上、戦ウ必要ガアルナラバドチラトモ与シウル。
故ニ海ノ上デナラ戦ウノハ必定。
ダカラ、海ノ上デ戦火ヲ交エルナラ島ノ誰ガ沈ンダトシテモ怨ミハシナイ。
ダガ、島ソノモノニ害ヲ成スナラ人類モ深海棲艦モ関係ナイ。
アノ島ノ平穏ノタメナラバ、人類全テヲ殺戮シ全テヲ滅ボスコトモ躊躇ハシナイ』
私ハ
「……そうか」
背筋を凍らせる殺意に本気なのだと、そして今の台詞が不可能ではないと肌身で理解した元帥は努めて平静を保ちながら告げる。
「約束はしよう。
私の在任中は島に手出しはしないと」
『ソウアルコトヲ願イマス』
そう言うとアルファはもう一つの質問について促すが、元帥はいいと言った。
「聞きたいことはもう知った」
鳳翔がどんな扱いを受けているのかその待遇を聞くつもりだったが、アルファの答えでその必要はなくなった。
鳳翔の立場に似合わぬ厚遇の礼に元帥は忠告しておくことにした。
「では約束の履行としてこちらから一つ。
『
その男は
今何処にいるか不明だが、奴の目からすれば君達は得難いサンプルと映る筈だ。
注意しておきたまえ」
そう言うと報告書から島とバイドに関わる部分を全てをアルファの目の前でシュレッダーに掛け更に火の着いたマッチを放り込んで完全に処分する。
『御忠告ニ礼ヲ言ッテオキマス』
そう述べるとアルファは現れた時と同じく亜空間への道を開き去った。
一人になった元帥は小さくため息を吐いた。
「まったく、困った事になったものだ」
巨大樹ことバイドツリーは早速国連の目に留まり、深海棲艦の新たな戦略拠点なのではないかとの憶測から速やかな正体の判明をさせるよう日本に調査団の派遣を要請する通達が来ていた。
しかし鳳翔の報告であれは深海棲艦の意図したものではないことが既に判明し、派遣するだけ資源と費用の浪費になる事は明らかだ。
寧ろ、下手な刺激をすれば大規模攻略戦にまで発展してしまう可能性のほうが高い。
国連は完全に形骸化した組織ではあるが、しかし無視すれば欧州アジアの諸国の心象は悪くなる。
よって、やらなければ資源を購入している各国からのバッシングが待っていることは確実であり、元帥を面白く思っていない派閥らに叩く良い材料を与えるだけ。
無駄に無駄を重ねるだけの作戦を進めるぐらいなら通常攻略戦で深海棲艦の一隻でも沈めるほうが余程有意義と、元帥は本当に胃薬の必要性を思いながらごちた。
「ままならぬものだ」
この先、老躯のこの身にどれほどの重圧を掛ければ済むというのか。
鳳翔の煎れた茶が飲みたいとそう思う元帥だった。
〜〜〜〜
島が更に賑やかになって数日後、俺はタ級に引きずられるようにして戦艦棲姫の住まいに向かっていた。
なんでこうなったか?
原因は明石だよ。
〜回想〜
タ級「アマッタシザイノカイシュウニキタワ」
明石「ごめん。どうせ借金だからと思ってR戦闘機作るのに溶かしちゃった。テヘッ☆」
俺&タ級「……」
〜回想終了〜
そんな訳で島の責任者なんだから俺が弁明しろという謎の理屈により強制連行されたんだよど畜生。
因みに明石が今回造ったのは『R-9K サンデー・ストライク』なる機体。
珍しかった事とすれば最初にそれを見た瞬間、アルファが『R-9C ウォー・ヘッド』なる機体と間違えて戦々恐々してたんだよな。
なんでかと聞くと、ウォー・ヘッドはR戦闘機の非人道性を代表するとまで言われる機体で、話によると超性能と引き換えにコクピットが狭くなりすぎでパイロットをグロ方面に見せられないよな姿にしなきゃまともに運用出来ない機体だったそうだ。
後、わりとどうでもいい事実としてアルファの恋人がそのパイロットだったらしい。
いつ頃そうだったかは聞かなかったけど、世の中広いよね…。
とまあさておき、サンデー・ストライクはそんな真似しないでも乗れるよう改善されたまともな機体であり、性能もウォー・ヘッドを一回りマイルドにした程度のそこそこ優秀な機体らしいから戦艦棲姫の約束の品として献上することにした。
瑞鳳がめっちゃ恨めしそうにしてたが致し方なし。
なんせ島風達の力を宿した三機はパイロットがいらず、しかも目を離すと勝手に飛び回るもんだから鳳翔ですら手を焼き1番懐いているワ級が預かることになったのだ。
瑞鳳は何時になったらR戦闘機を搭載出来るんだろうか?
そして魂の入れ物となった連装砲ちゃんは巡り巡って俺の装備となった。
因みに、性能は三匹とも違う。
最初にぜかましと名前が書かれた島風の魂が入った連装砲ちゃんは火力+10の雷装+10。
同じくちだうゆと書かれた夕立の魂の入った連装砲ちゃんは火力+15の雷装+5
そしてぜかきゆと書かれた雪風の魂の入った連装砲ちゃんは火力+5の雷装+5の幸運+10。
駆逐艦専用装備としては有り得ないレベルに優秀で、しかも俺ならダメコンと同じく一スロットで纏めて装備可能といいことづくめなんだ。
しかも三匹揃うとシナジーでトータル数値は二倍、幸運に至っては五倍とまさにチート装備。
こいつらさえ居れば俺も遂に砲雷撃戦に参加出来るって喜んだけど、それも燃費が最悪を通り越して信じらんないレベルになるって知るまでのつかの間だったよ。
詳しくは連装砲ちゃん一匹につき燃料弾薬を+50追加で消耗し、かつ消費までもが何故かシナジーを起こし+150ではなく+300。
つまり、三匹纏めて装備すると一回の出撃で大和を遥かに上回る燃料と弾薬を消費し、更に損害を被れば山のような資材を溶かす事になる。
という訳で、三匹には有事の際以外では島のマスコットとして大人しく遊んでてもらうこととにした。
「ゴバッ!?」
突然海水が口の中に!?
「ナニヤッテルノ?」
慌てていたらタ級が呆れた様子でそう言った。
「潜る前に一声掛けろ!?」
いきなり過ぎてびっくりしたじゃねえか!?
「カケタワヨ。
キイテナカッタノハアナタデショ?」
「ぐっ…」
考え事してて聞き逃していたらしい。
落ち度は俺にあったみたいだから仕方なく黙る。
そのままタ級に引きずられていると見慣れた戦艦武蔵の姿。
中に入るとなんかいつもに比べ空気が重い感じがした。
「なにかあったのか?」
「ヒメガキテイルノヨ。
ソレニメンドウノモチコミモアッタノ」
そう言うと俺を促すタ級。
つうか、どの姫だ?
チビ姫と戦艦棲姫以外で俺が会ったことがあるるのは南方棲戦姫ぐらいだけど、そういえば姫ってどれぐらい居るんだ?
ちょうどいいし、聞いてみるか。
「なあ、今現在で姫は何人居るんだ?」
「…ナンデシラナイノヨ?」
常識でしょうがと呆れるタ級。
「いや、一応俺、産まれてまだ一年未満のニュービーだし」
馬鹿みたいな戦闘経験のお陰でレベル80越えてるけどな。
「……マアイイワ」
今の間はなんすかタ級さん?
その疑問を問う間もなくタ級は説明を始める。
「イマゲンザイノヒメノソウスウハ8ニン。
コノカントワタシノアルジデアルセンカンノヒメ。
ヒメトツイヲナスミナミノヒメ。
ガダルカナルノハクチノヒメ。
ポートワインノハクチノヒメ。
アナタノトコロニイルハクチノヒメノムスメノアルフォンシーノノハクチノヒメ。
ミッドウェーノハクチノヒメ。
ミッドウェーニスマウクウボノヒメ。
ソレトオニダケド『総意』ニミトメラレヒメトナッタピーコックノハクチノヒメノ8ニンヨ」
つまり、今居るのは戦艦棲姫、南方棲戦姫、飛行場姫、港湾棲姫、チビ姫、離島棲鬼と名前が分からないミッドウェーの泊地タイプの姫と空母の姫か。
装甲空母姫がいないのはやっぱりだな。
というか、さりげにチビ姫について爆弾発言があった気がするんだが……?
そんなことを考えてるといつの間にやら姫がいつもいる甲板の前に着いていた。
「シツレイシマス」
ドアをノックしてから俺を掴んで甲板に出るタ級。
そんな事しないでも逃げないんだ……が……
「あら? 久しぶりね駆逐」
「へえ、そいつが『イレギュラー』なの…」
なんで姫が全員集合してるんですかね?
「見た目は普通の駆逐ね」
「でも…怖い」
ガクブルしたい気持ちの俺を無視してそれぞれに勝手な事を言う姫様々。
つうかそこの爆乳大要塞。
俺が怖いって、あんたのほうがよっぽど怖いんですが?
七人の姫からじっと見られるとか、威圧感だけで普通に死にそうなんですが?
つうかここで借金の延滞申請とかどんな無理ゲーだよ!?
「ちょうどいいわ。
貴女も聞いておくべき話があるわ」
こちらに来なさいと促す戦艦棲姫だけど、
「あ、俺はここでいいです」
姫に囲まれた状態で話なんて頭に入るか。
「遠慮なんてしなくていいわよ。
ほら、席がないなら私の膝を貸してあげる」
そう言って飛行場姫が逃げようとした俺を捕まえて膝の上に乗せる。
冷たいと思ってたけど意外と温い。
「ご苦労様」
「え?」
唐突に小声で囁く飛行場姫。
一体何の事だ?
「これからも楽しませてね」
「一体なんの…」
真意を問い質そうとするが、詮索の暇は与えられなかった。
「それで姫、『総意』はなんて?」
俺の問いを遮り飛行場姫が泊地棲姫に尋ねる。
一方的に言いたい放題したりとか訳がわからねえぞ。
つうか、タ級も言ってたが『総意』ってなんなんだ?
「『総意』は件の樹の調査を妨害せよと言っているわ」
……樹?
まさか、バイドツリーの事か?
あれはもうバイド汚染の拡大を起こす危険もなく、今はもうただのでかい樹でしかないんだぞ?
というか、その調査をこっちでやって、鳳翔に架空の泊地からという形報告してもらった筈。
確実に届くよう発送には念には念をとアルファまで差し向けたんだがなんでまだ調査が必要なんだ?
それにそれを妨害しろって『総意』とやらの考えも解らん。
「それで、今回は誰を頭目に使うのかしら?」
自分が考えていたのと掛け離れていく展開に考え込んでいると、誰かがそう尋ね泊地棲姫がそれに答えた。
「姫の魂を宿した空母を用いよとの事だ」
姫の魂を宿した空母って、
「それって、うちに居るヲ級の事か?」
それ以外思い付かず思わず尋ねると泊地棲姫が俺を見た。
「何か異論でもあるのか『イレギュラー』?」
「え? いや、そうじゃなくて…」
物凄く怖いプレッシャーを向けられ言葉が濁ってしまう。
「ほ、本人に承諾は…」
「必要は無い。
それと、空母は鬼への昇格されたわ。
人間に倣うなら『装甲空母水鬼』と言ったところよ」
「水鬼?」
聞いた事無いカテゴリーだ。
「新しい派閥なんて面倒な事ね」
「だけど、いい刺激にはなるわ」
不満を口にしたのは離島棲鬼。
対して愉快そうに笑ったのは飛行場姫だ。
他の姫はただ黙って聞いている。
「それと、お前もそちらに昇格されたわ駆逐」
「……はい?」
え? 俺が鬼タイプ?
人間からだけじゃなく深海棲艦からもそう扱われるようになるってのか?
「辞退は…」
「しても無駄よ」
そんな気はしてたよ畜生!?
俺はただ借金の延滞のお願いとR戦闘機渡しに来ただけだってのになんでこんなことになった!!??
「行動開始は三ヶ月後。
それぞれ準備をするように」
用件はそれで終わったようで泊地棲姫を始めとした姫達が甲板を後にしていく。
「じゃあね。また会いましょう」
「あ、おい」
さっきの事を尋ねようとしたのだが、飛行場姫はさっさと行ってしまった。
そうして残ったのは俺と戦艦棲姫と南方棲戦姫と背景と一体化してたタ級の四人だけ。
「貴女も大変ね」
「まったくだよ…」
苦笑しながら労う南方棲戦姫にそう愚痴ってしまう。
「それはそれとして、今日はいかなる用件で来たのですか?」
「あー、そうだった」
いろいろとありすぎて本来の目的忘れかけてたよ。
スロットからサンデー・ストライクを外し姫に差し出す。
「まずこれ。約束のR戦闘機な」
興味深そうにそれを見る南方棲戦姫を横目に戦艦棲姫がサンデー・ストライクを受け取る。
「確かに受け取りました」
そう戦艦棲姫が確認した所で俺は本題を切り出す。
「それでなんだが、返せるはずだった資材を明石が勝手に使っちまったんで返済を少し待ってもらえないか?」
「……ふむ」
そう言うと、戦艦棲姫は少し考え込んだ。
まあ、無理を言ってんだから多少の無理難題ぐらいは覚悟しないとな。
「あ、だったらあの艦を任せたらどう?」
突然そう言い出す南方棲戦姫。
あの艦ってなんだ?
だんだん嫌な予感がしてきたところで戦艦棲姫がそうねと言った。
「あの艦を連れてきなさい」
そう指示を下すとタ級が甲板から中に入っていく。
「あの、説明をいただけますか?」
自分達だけで通じる会話にそう願うと南方棲戦姫が口を開いた。
「ついこの間、ミッドウェーより更に西から一隻の艦が流れ着いたの」
「西からってアメリカか?」
もしかしてアルバコア?
いや、だとしたら戦艦棲姫は知ってる筈だし、文脈が微妙におかしくなる。
「その艦にちょっと困ったことがあってね、『総意』に掛け合っても好きにしろとしか言わないから扱いに困っていたのよ」
そりゃまた困った話だな。
つうか、なんか艦娘っぽいけど、だとしたら姫達に生かしておく理由が無いはず。
ますます訳わからん。
解らず考え込んでいるとキィと軽く金属が擦れる音と共にタ級が帰って来た。
「……」
なんだよ……
「その艦を使えるようにしなさい。
それを受けるなら、延滞の件は了承しましょう」
戦艦棲姫が何か言っているが目の前の光景があまりにあまり過ぎて頭に入ってこない。
駆逐艦春雨。
そう呼ばれるはずのその少女だが、俺にはその確信が持てない。
何故なら彼女は一目で解るほどに
綺麗なピンク色の髪は何日も手入れをされていないようにぼさぼさに痛んで灰色にくすみ、その目は全てに絶望したように虚ろで何も映そうとしていない。
そして、なによりもその悲惨さを露にしている理由は、両足が太腿からばっさりと切断されていた事だ。
そして肌は血色の一切を失い、まるで深海棲艦の身体と同じ青白い死体のように変わり果てていた。
「…なんで…なんでだよ……?」
この世界でただ一人を除き、決してありえないとされた深海棲艦化したその艦娘に俺は思った。
俺の悪夢は、まだ始まったばかりらしい。
これにてバイド編の終了と相成ります。
次回からはメインシナリオは止まり人類対深海棲艦のバイドツリーを巡る海域攻略戦を横から眺めたり深海棲艦化した春雨を立ち直らせたりと(本来の意味で)ハートフルな日常回を送る予定です。
他にもブラ鎮とか新たな転生者とかネタは山ほどあるので100話まではネタが尽きることはない!!
…エタら無い事が最大の目標だね。