なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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終ワラナイ悪夢…。

私達ノ…永遠ニ続ク悪夢…


バイドトハ…

「お前の敗因は二つだ雪風」

 

 パイルバンカー波動砲によって塵も残さず消えた雪風に向け、手向けがわりに俺は言う。

 

「一つは俺の反則性能(チート)を知らなかった事」

 

 ファランクスや元の世界(?)でも現役のレーダーといった近代兵装。

 素の性能で60ノットを叩きだし馬鹿みたいなパラメータの航空駆逐艦とでも言うように艦載機を搭載可能な俺の身体。

 R戦闘機という反則を越えた艦載機。

 超重力砲やクラインフィールドといった『霧』の性能。

 そのどれもが有り得ないほどの反則だが、中でも本当に反則だと思うことはたった一つ。

 

 一つの装備スロットにダメコンを五つまで纏めて所持可能だということだ。

 

 流石に女神でさえ超重力砲の反動は支えきれないが、逆に超重力砲さえ使わなければ五回までなら沈んでも蘇って戦う事が出来るって言う、さながらドラクエのラスボスラッシュのようなルールを超越した反則こそ俺がなによりチートだと思うことだった。

 普段は無茶を嫌がるワ級の頼みで一個しか持って行かないようにしていたが、まさかこんな形で役に立つとはな。

 

「そして、お前は優し過ぎた。

 それがお前のなによりの敗因だ」

 

 最初から災害波動砲を全開に使って問答無用に押し潰していれば俺達に勝機は無かった。

 だけどお前はそうはしなかった。

 最後まで俺達にバイドになることを受け入れさせようとして、こちらの手を一つづつ潰しながら戦っていたのだって俺達に勝ち目がないことを理解させるためにやっていたのだろう。

 そんな優しさを捨てていれば、俺達は今頃お前達の仲間(バイド)に成り果てていた。

 

「しっかしまいったねぇ」

 

 全員の損害を確認し終えた北上がそう呆れたようにごちる。

 ダメージは最後の隕石群により全員ダメコンを使い潰して大破状態。

 砲も全て壊れ主力である木曾と北上と鳳翔は艦載機と魚雷を使い果たし、俺も超重力砲を使ったお陰で機能は低下し戦力外。

 戦えるのはフロッグマンとハクサンぐらいしかいないんじゃないか?

 

「アルファの帰還を待つしかないな」

 

 今の状態で追っても足を引っ張るだけだと悔しそうにそう木曾が言う。

 島に戻る手もあるけど、アルファが一人で戦っているのにそれを置いて帰る選択肢は俺達に無い。

 海の向こうに佇むバイドツリーに視線を向け、俺は皆に尋ねた。

 

「アルファの邪魔をしない程度にもう少しだけ近付いておきたいんだが、いいか?」

「当然だ」

 

 木曾の言葉に全員頷き、俺達はバイドツリーを目指し舵を切った。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 亜空間を経由しバイドツリーの前に到着したアルファはその巨大さを改めて確認し、そして気付いた。

 

『…違ウ。

 コレハ島風本体デハナイ』

 

 悠然と枝を揺らすバイドツリー。

 この『樹』は島風が変態したマザーそのものではなく、違う時限に姿を潜めた島風が残した『入口』だとアルファは気付いた。

 時限を挟むことで外敵から身を守るマザーの性質を発揮した島風にアルファは本当に猶予は無いなと思った。

 

『トハイエ都合ガイイノハコチラモ同ジコト』

 

 友誼を結んだ『番犬』の手によりアルファのフォースは非破壊性だけでなくΔウェポンが搭載されている。

 次元を挟むことが出来るなら被害を考えずΔウェポンが使えるということでもあり、アルファにしても願ってもない事だった。

 

『待っていたよ』

 

 と、アルファに向け『樹』を介し島風の思念が届く。

 声はどこまでも無垢にアルファの存在を歓迎する喜びの感情に満ちている。

 

『ようやく私の所に来てくれたんだね』

 

 そんな島風の思念に向け、アルファは告げる。

 

『アア。

 全テ終ワリニシヨウ』

 

 そうアルファは宣いフォースを媒介に次元を越える。

 島風の思念を追い次元の壁を越えた先に待っていた景観は、下には水が流れる形容しがたい空間だった。

 到着したアルファはその空間がありえないことに気付く。

 

『ココハ…バイド汚染サレテイナイ……?』

 

 おかしい。

 島風は確かにここにいるのに、空間には一切の汚染が感知できないのだ。

 何があっても驚かぬよう心掛けていたアルファだが、完全に想像だにしていなかった事態に僅かに混乱してしまう。

 

『こっちだよ』

 

 再びアルファに向け島風の思念が発せられると、水中から一体の連装砲ちゃんが浮かび上がり先導するようにどこかへ向かう。

 

『……』

 

 罠かとも考えたが、島風は自身を求めているのだから派手な出迎えがあってもあてずっぽうに引きずり回されはしまいと連装砲ちゃんに着いていくことにした。

 奇妙な空間を連装砲ちゃんの行くままに進んでいくアルファに意識に浸透するように空間にヴィジョンが流れる。

 髪の長い人間の女と思われるふくよかなシルエットと人間の男と思われるかっちりとしたシルエットが出会い、戯れるイメージだった。

 精神攻撃や汚染の類でもないようで、何の意味があるのか理解出来ないままアルファは黙しそのヴィジョンを眺めながら進み続ける。

 やがて、二人のシルエットは身体を寄せ合うとそのまま抱き合い一つの塊になる。

 牡と牝の交合の情景らいしが果たしてこれに何の意味があるのかアルファはますます解らなくなる。

 やがて一つになったシルエットは溶けるように沈み、今度は船舶のようなシルエットが浮かび上がる。

 アルファに解りようもないが、それは重雷装駆逐艦『島風』のシルエットであった。

 島風のシルエットはしばらく航海すように進み続け、やがてシルエットは小さくなり始める。

 シルエットが小さくなると同時にその形にも変化が現れる。

 速く、何物よりも速く海を駆けるためにデザインされた鋭角な船体はとても細い線の少女の形に変わり、腰に届きそうな長い髪を風にたなびかせながら少女は走り始めた。

 

『私はかけっこが大好き』

 

 走る少女のシルエットと共に島風の思念がこだまする。

 

『誰も私に追いつけない。

 誰も私に追い付いてくれない。

 誰も、私に挑んでくれない』

 

 思念のトーンがだんだん下がり始める。

 

『誰も私の事を理解してくれない。

 誰も私の孤独を理解してくれない。

 私はただ、楽しく走りたかっただけなのに、誰も私と走ってくれない』

『だけどそれでもよかったの。

 私を理解してくれなくても構わない。

 孤独を理解してくれなくても構わない。

 私とかけっこしてくれなくても構わない。

 私をひとりぼっちにしないでいてくれたから、私はずっと我慢していられた』

 

 ただ一人で走り続ける少女のシルエットがゆっくり立ち止まると突然沈み始める。

 

『なのに皆沈んでいった。

 私を置いて皆沈んで逝っちゃったの』

 

 少女のシルエットが完全に沈み消えると連装砲ちゃんが立ち止まり、そして水面下から強烈なバイド反応が発生。

 ゆっくり浮かび上がる傍らで島風の思念が強くなる。

 

『私はひとりぼっち。

 だからもう我慢なんて出来ない。

 私を理解してくれる人が欲しい。

 私の孤独を理解してくれる人が欲しい。

 私の速さに追い付いて追い越してくれる人が欲しい。

 皆バイドになればそれが全部叶う』

 

 浮かび上がって来たのは脈動する肉で出来た『子宮』のような塊。

 その中心部は透明になっていて、内側には胎児の様に膝を抱え丸くなった島風が眠るように浮かんでいた。

 

『もう孤独は嫌。

 無くすのも失うのも嫌。

 だから、来て』

 

 直後、水面が激しく波打ち大量の船舶の物と思しき金属片やバイドの塊が浮かび上がったかと思うとそれらが渦を巻いて島風を囲みながらアルファに襲い掛かる。

 

『クッ!?』

 

 アルファは即座にビットを展開してフォースを盾に迫り来る攻撃を防いだが、あまりの物量に防御で手一杯になってしまう。

 

『行ケ!! デビルウェーブ砲Ⅱ!!』

 

 貫通性能と誘導性のある自身の波動砲でフォースを撃ち込む隙を作ろうとするが、圧倒的な物量のせいで退路を切り開く傍から新たな障害が退路を塞ぎ有効打になりえない。

 

『ダッタラ!!』

 

 ならば直接波動砲で削り殺すと放ったデビルウェーブ砲Ⅱを島風に向けるも、波動砲は子宮に当たる事なく素通りしてしまった。

 

『何故!?』

 

 島風はこの空間内に確実に存在している。

 なのに、空間にさえ作用する波動砲が素通りしたのはいかなる理由か。

 障害を必死で捌きながらアルファは思考を巡らせる。

 

(波動ガ通用シナイナンテバイドデアル限リアリエナイ。

 ダガ島風ニハ効カナカッタ。

 ナラバ島風ハバイドデハナイ?

 ソレコソ否ダ。

 アノ島風ハ何等カノ手段デ波動ヲ遮断シテイルト考エタホウガマダ可能性ハアリエル。

 ダトシタラドウスレバイイ!?

 波動ガ効カナイ相手ニΔウェポンガ通用スルノカ?)

 

 弱気な思考が過ぎるアルファだが、すぐにそれを否定する。

 

(イヤ、Δウェポンナラ可能性ハアル。

 『番犬』ハ波動砲ガ効カナイ相手ト戦イ、ソレヲΔウェポンデ撃破シタト言ッテイタ)

 

 暗黒の森で悪夢に捕われた友人はその戦いでフォースを失い帰還が叶わなくなったとそう自虐していたが、その時友人も戦った相手はバイド中枢であったのだ。

 ならば、中枢である島風もΔウェポンまでは防ぐことは出来ないはず。

 

(ソレヲ確カメルタメニモ、マズハフォースを打チ込マネバ)

 

 確実に効果が発揮するかどうかはフォースが当たるかどうかで判断出来る。

 それにΔウェポンは強力だが、なにより威力を発揮するのは直接フォースを打ち込み零距離で発動させること。

 島風が二回もΔウェポンを使う暇を与えるとは考えられず、確認のためにも直接フォースを当てる必要があった。

 しかし、今もなお荒れ狂う暴虐の嵐にフォースを撃ち込む隙をアルファは見付けられない。

 

『ドウニカ隙ヲ…』

 

 膠着状態に陥りそう呻いたアルファに島風の思念が向けられる。

 

『どうして?』

 

 必死に抗うアルファが理解できないと島風は問う。

 

『どうして貴方は(バイド)を受け入れてくれないの?』

 

 同じバイドなのにどうしてとそう問う島風にアルファは叫ぶ。

 

『受ケ入レラレルワケガナイ!!』

 

 激昂しながらアルファは危険を承知で島風へと接近を試みながら憎悪を吐き出す。

 

『俺ハ、俺達ハバイドニスベテヲ奪ワレタ!!

 青イ空ヲ、人ノ身体ヲ、家族ヲ、故郷ノ暖カサヲ、バイドハスベテ奪イ、俺達ハ同朋に気付イテモ貰エズ銃ヲ向ケラレタ!!

 ソレナノニ、ドウシテ受ケ入レラレル!!??』

 

 終わりの無い悪夢に捕らわれ、安住の地を見付けるまで永劫と思える程の長い時間を宇宙をさ迷い続ける苦痛を強いられた。

 そして、紆余曲折あって再び地球に戻る機会を提督に与えられた。

 バイドとなった自分には身に余る程の幸福に出会えた。

 だが、その安寧は再びバイドによって脅かされた。

 憎悪を糧にアルファは島風に急接近する。

 

『俺ハオ前達(バイド)ヲ絶対ニ許サナイ!!』

 

 人としての幸福を奪い、新たな旅立ちを邪魔したバイドを今度こそ殺すとアルファはバイドフォースを子宮に押し付ける。

 バイドフォースは子宮に喰らい付くと本体から伸びる触手を突き立て子宮の内側に潜り込もうと前に進む。

 

『……そうなんだ』

 

 アルファの憎悪の慟哭を聞いた島風は本当に悲しそうに告げた。

 

『じゃあ、駄目なんだね』

 

 決してアルファと自分(バイド)は寄り添えないんだと理解した島風に向け、アルファは憎悪のままに叫んだ。

 

『クタバレケダモノ!!』

 

 アルファの憎しみを大きさを表わすようにバイドフォースがΔウェポンを発動。

 暴虐の白い光が世界を塗り潰す。

 

 しかし、アルファは確かに聞いた。

 

『私は、この子で我慢するね』




次回、F−A

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