夕立を倒し、アルファ達もオージザブトムの撃破を終え帰還するという報告が来た所で漸く張った緊張が緩んだ。
「なんとか勝てたな…」
主だった損傷は俺が夕立に蹴り飛ばされたりして小破しただけで汚染被害も無し。
砲撃はクラインフィールドが間に合って喰らっていなかったんだよ。
アルファ達もパウがアンテナを破損しミッドナイト・アイが多少航行に支障があるも応急修理をすれば継戦は可能とのこと。
総合すればA勝利は確定したと言っていいんじゃないか?
「今のうちに体制を整えておきましょう」
周辺のバイドの反応は完全に消えたらしいが、だからといって次がいつかも解らない。
鳳翔の提案にそれぞれ缶や帰還したR戦闘機の整備を始める。
そこで木曾が俺に問い掛けた。
「イ級、さっきのアレは…?」
アレというのはやっぱり失敗したクラインフィールドの応用の事だよな。
そう尋ねた木曾に確認して間違いなかったから俺は首を振る。
「一度成功したから出来ると思ったんだが、思ってた以上にクラインフィールドは扱いが難しいみたいだ」
よくよく思い出してみればクラインフィールドはナノマシン技術だからいくらでも応用は出来るはず。
そう俺は勘違いしていた。
クラインフィールドはあくまで『盾』なのだ。
いくらかの応用が効くからってそれを強引に武器に転用しようとしても無理が出るのは当然だ。
つまるところ、そういう風に扱おうとしちゃいけないということだ。
今回は運よく助かったが、そんな真似を続けていたらいつか必ずとんでもないしっぺ返しを喰らうことになるだろう。
「まあ、代わりにクラインフィールドを纏ってラムアタックなんつう必殺技が見付かったし、木曾のお陰で授業料は免除されたんだからいい勉強になったよ」
そう茶化すと木曾は苦笑しながら軽く小突いた。
「あんまり調子に乗らないでくれよ」
「分かってるさ」
とはいえ掘削にドリル造るのは問題なかったんだよな。
…まさかさ、某ロボットSRPGのドリル戦艦みたいな真似をしろって事はないよな?
確かにアレみたく、どちらにも属していない独立愚連隊と言われたら否定出来ないけど、だからってドリル○ラッシャーはないよな?
俺は嵐を呼んだ記憶もなければ天を突く気も掘りきるまで墓穴を掘る気もないぞ?
……とはいえ手札が増えれば幅が広がるわけだし、これが無事に終わったら一応試しておこう。
そんな事を考えていると北上達が俺達に呼び掛けた。
「こっちは終わったよ。
そっちはまだ掛かる?」
鳳翔の飛行甲板を借りパウとミッドナイト・アイの応急処置が終わった二人がそれぞれに回収しているのを見て俺達も大丈夫だと告げる。
損傷していなかったストライダーは軽いメンテと燃料を補給するだけで済むし、アルファはバイドだから自己修復するのを待つだけで整備も補給も必要ない。
バイドって、こういう時便利だな。
言うと角が立つから思っても口にしないけどな。
「とはいえアルファに大分負荷を掛けたし、暫く温存させていいか?」
「問題無いよ。
でも、本番には間に合わせてよ?」
ミッドナイト・アイがちゃんとカタパルトに固定されていることを確認した千代田がそう茶目っ気混じりにそう言うとアルファが済まなそうに謝った。
『アレダケ大口ヲ叩キナガラノテイタラク。
申シ訳アリマセン』
本気の謝罪に千代田が慌てる。
「ちょっ、そんなに気にしないで。
それに、アルファの指揮があったから全機戻って来れたんだよ」
そう言う千代田だが、アルファは納得しかねるのか重たい雰囲気で言う。
『ソレモ全テジェイド・ロス提督ノ戦術ニ倣ッタモノ。
私自身ハ油断ト慢心ガアリマシタ』
よっぽど納得いかないみたいで暗いというか重たい。
「とにかくだ。
アルファがいなかったら被害はもっと大きかったんだ。
それを誇って次に備えてくれ」
この話はおしまいだとそう無理矢理ぶった切ってやる。
『……了解』
どうしても納得しきれないみたいだが、構わず俺達は航海を再開。
ミッドナイト・アイに索敵を任せアルファが指示する方向へと向かう。
「それにしてもさ、静か過ぎない?」
不意に北上がそう漏らした。
「どうしたんだよ急に?」
「だってさ、今まであれだけ派手にやったのに深海棲艦はともかく鎮守府が黙ってるってのはおかしくない?」
確かにそうだよな。
装甲空母ヲ級の時は、俺が着いた時点で既に装甲空母ヲ級を標的とした大規模攻略作戦の立案と決定が既にされていた。
最初に俺が島風と出会い、その島風がマザーバイドになるための本格的な活動を開始してから既に半月近く。
深海棲艦だけじゃなくて雪風達や彩木艦隊の連中が所属していた泊地だって被害は掛かってんだし、そっちから報告が上がっているはず。
なのに、偵察隊の派遣とかそういった活動の気配が見えないのはどういうことか?
そう考えてみれば確かにおかしいな。
「致し方ないのですよ」
わからんと考えるのを止めかけたところで鳳翔が口を開いた。
「先の戦いで報告された轟沈した艦娘の総数は552隻。
この数を泊地の総数に割り当てると主力に四割に相当します。
よって大本営は半年間の再建期間を施行し、遠征以外の作戦行動は可能な限り慎む決定を下しました」
最近妙にあの彩木艦隊ばっかり見付けてたのはそういう事だったのか。
って、そうじゃなくて平均四割って…俺達が戦うまでにそれだけの艦娘が沈んだのか……?
じゃあなにか?
あの時島に流れ着いた50人以上の艦娘はその一部でしかなかったのか?
何を言っていいかわからなくなって絶句する俺達に鳳翔は淡々と続ける。
「ここからは推測になりますが、今件はまだ明確な被害も殆どなくしかも主犯が艦娘であることから大本営も作戦立案に致しかねているのかと」
その説明にそれもそうかと納得できた。
そう言われてみれば、今のところ艦娘をバイド化された所だけが被害を受けているわけだし、資材備蓄に専念しろと言った直後に艦娘を倒すために動けとは言えないわな。
北上も納得して終わろうとしたが、そこに木曾が気になる台詞を零した。
「偶然、なのか?」
「なにが?」
「南方棲戦姫が言ってただろ?
建て直すのに半年は掛かるって」
……。
「偶然じゃ…」
「俺もそうだとおもってる。
だけど同時に、やっぱり気になるんだ。
装甲空母ヲ級が誰彼構わず手当たり次第に被害を齎したってのは本当なんだろうけど、だけど、鳳翔の話を聞いてそれが誰かの意図が絡んでいたような気がしてさ」
木曾の吐露に俺もなんとなくだけどそう思う。
装甲空母ヲ級に取り込まれて、だけと渦巻いていた怨念の塊みたいなアレは俺を取り込もうというよりまるで俺の意思で全てを破壊させようというかのような行動を取っていたように思う。
だけどだ、
「考えても仕方ないだろ」
「イ級?」
たとえ全部が全部誰かの掌の上で、俺達の行動が躍らされた結果だろうと、結局のところやるかやらないかは俺の意思だ。
俺は木曾達を守りたい。
それを阻むなら艦娘も深海棲艦も人間も姫もバイドも神だって敵で、敵ならどんな理由だろうと俺の前から追い払うだけだ。
「まずは地球をバイドの星にしようとする島風を倒す。
その後の事は後で考えよう」
言葉にするとテキトーっぽく聞こえるが、そもそも俺達は正義の味方でもなければレジスタンスでも、ましてやテロリストでもないただのはぐれ者の集まり。
俺達はただ、自分を守るために戦えばそれでいいんだと思う。
「テキトーだねぇ」
「だったら世界に一石投じるために島風を倒したら俺達が地球をバイドから救った英雄だって名乗るか?」
北上に冗談を返すと北上はまさかと肩を竦める。
「英雄に興味はないよ。
私はたまに酸素魚雷を撃ちながらのんびり暮らすほうがいいね」
「私もですね」
そう賛同したのは意外にも鳳翔だった。
「英雄と呼ばれた人は、誰も帰ってきませんでしたから」
影の注した寂しそうな笑みを浮かべる鳳翔。
きっと、航空母艦の頃を思い出してるんだろうな。
しみったれた空気になんでこんなことにと思いながら千代田の固定装備の水偵に索敵を行わせつつ航海を続けた翌日、俺達は向かう先に異様な存在を見付けた。
「……樹?」
島風がいるであろうポイント付近に巨大な樹を見付けたのだ。
まだ100キロ以上離れているはずなのにはっきり樹だとわかるその存在に俺達は混乱した。
「あの辺りに島なんかあったか…?」
「大平洋のど真ん中だよ?
島なんか無いよ」
「だよなぁ…」
ということは、あの樹は海の上に立っていることになるんだが…。
混乱する俺達だが、同時にまさかと思っているとアルファが答えを口にした。
『アレハ『バイドツリー』。
植物系ノバイドデス』
やっぱりかよ!!??
「え?
ちょっ、バイドってなんでもありなの!?」
喚く千代田に窘める声は無い。
俺達だってそう叫びたい気持ちで一杯なんだから。
『ナニヲ今更。
バイドハ地球上ノ全テノ遺伝情報ヲ有シタ科学ト魔導ヲ融合サセテ生ミ出サレタ存在デスヨ?
必要ナラバ独自二生体系を形成スルコトモ確認サレテイルグライデスシ、ザブトムノ例カラモバイドツリーガ生ミ出サレテイテモ驚クニ価シマセン』
「いや、驚くし」
「というか魔導ってオカルトだよな?
そんな物まで使ってバイドを生み出したって一体誰がそんなものを…」
まったくだ。
最悪の汚染兵器なんて一体どんな宇宙人が…
『26世紀ノ人類デス』
空気が凍った。
「……マジ?」
『ハイ』
淡々と答えるけどさ、それってとんでもない爆弾発言だぞおい。
「26世紀の地球は、バイドを作らねばならないほど窮地に陥っているのですか?」
堪えてるつもりだろうけど声がおもいっきり震えてるぞ鳳翔。
気持ちは同じだけどさ。
『ワカリマセン。
私達ガ知リ得テイルコトハ、26世紀ノ人類ハ何等カノ理由カラバイドノ祖トナル惑星破壊兵器ヲ生ミ出シ、ソレガ太陽系内デ何故カ発動シテシマイ、サレド破壊出来ナカッタタメニソレヲ封印。
異次元ノ彼方ニ廃棄シタトイウコト。
ソシテ異次元ノ彼方ニ廃棄サレタソレガ進化ヲ繰リ返シ、バイドトナッテ22世紀ノ地球ニ現レタトイウ事実ノミデス』
つまり、
「アルファは未来人のケツを拭かされてそうなったのか?」
『……エエ』
いかん。
違う世界の事とはいえ諸悪の根源に関してはただの自業自得としか聞こえない。
それに巻き込まれたアルファが本気で不憫だ。
「しかしだ、なんだってその兵器は暴発したんだ?」
「反対派にやられたのかもね」
「違いますよ」
突然の第三者の声に俺達は瞬間的に身構えた。
「雪風!?」
巨利10キロ程まで接近していた雪風に俺達はすぐに武器を構えるが、雪風は気にした様子もなく滔々と言葉を紡ぐ。
「バイドの祖は太陽系を守るために自らの意思で起きたんです」
「なんだって?」
なんで俺達にそれを教えようというのか解らなくて動けないでいる内に雪風は語り続ける。
「考えてみてください。
例え太陽系の外に存在する全ての脅威が排されようと、それが地球の安寧に繋がると思いますか?」
「…知るかよ」
つうかスケールが大き過ぎて付いていくのでこっちはいっぱいいっぱいなんだよ。
雪風は気にした様子もなく答えはいいえと言う。
「バイドの祖は地球を護るためには地球そのものが進化する必要があると考えました。
いつまでも美しい星で在り続けるために住まう者全てをあらゆる諍いから介抱し地球もまた星の寿命を克服させ、宇宙が終わったその後も残し続けたかったから祖は外宇宙へ送り出される前に自ら起動したんです」
凄く大事な話なんだろうけどさ、もうさ、スケールがデカすぎて付いていけねえよ。
野暮な突っ込みいれてやろうかとする前に鳳翔が眉を顰めて問い掛けた。
「地球を守るためなら人間は必要ないと?」
「『人類』という種が不要とは言いません。
でも、」
「『人』は必要ないか」
「ええ」
……ヤバイ。
シリアスに完全に置いていかれている。
「祖は人類もまた地球の一部と共に一つになるべきと考えていました。
でも、人類は祖を次元の彼方に捨てました」
『ダカラ、『バイド』ハ人類ヲ憎ンデイル』
「ええ」
ずっと空気となっていたワ級と一緒に黙って見ていることにしよう。
シリアスさんはあっちに任せて…
「悲シイネ」
ワ級?
「皆、擦レ違ッテ、ダケド皆譲レナイカラ戦ウシカ貫ク道ガ無イノハ悲シイヨ」
……空気は俺だけだった。
ワ級の横で一人黄昏れていると雪風は小さく苦笑した。
「貴女は本当に優しいんですね。
深海棲艦とは思えませんよ。
でも、その優しさだけでは何も成せませんよ」
「ソンナコトナイ」
そう言うとワ級は俺を抱き上げた。
「私ノコノ想イハイ級ガクレタモノ。
イ級ガ優シクシテクレタカラ私モ優シクナレタ。
私ダケジャナイ。
イ級ト触レ合ッタ皆ガ変ワッタ。
ヌ級モチ級モ姫モ変ワッタ。
皆、イ級ト触レ合ッテ、イ級ノ優シサヲ受ケ入レテ変ワッタ」
「……ワ級」
ワ級の言葉に雪風は寂しそうに笑う。
「理解し会えないですね。
私はバイドを受け入れました。
だから、貴女の言う変化を受け入れることはもう出来ません」
そう言うと雪風は俺に問う。
「貴女は、私達を受け入れてくれますか?」
「……」
その問いに、俺は最後の希望を抱いて問い返した。
「島風がマザーバイドになることを諦めて貰えるか?」
答えは解り切ったものだった。
「……残念です」
「……そうだな」
どちらも譲れない。
それが俺達の唯一共通する結論だった。
だからこそ、俺達は行動で答えを示すしか出来ない。
「アルファ、出ろ」
『…了解』
ゆっくりとカタパルトから発艦するアルファ。
それに続きストライダー、ミッドナイト・アイ、フロッグマン、ハクサン、パウアーマーが飛び立ち編隊を組む。
対する雪風も連装砲を手に構えると同時に凪いでいた風が吹き始め髪が揺れる。
「…行きます!!」
海面を蹴って走り出す雪風に対し、俺は号令を発した。
「行くぞ。
こんな戦いは、もう終わらせるんだ!!」
「「「「「『了解!!』」」」」」
海を駆ける音を聞きながら、なんでこんなことになったんだとそう思った。
雪風戦まで持っていけなかったorz
バイドの祖こと惑星破壊が太陽系で発動した理由は完全に妄想です。
次回がまた艦-TYPEコレクション全開にならないよう気をつけねば。