なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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……まだ早過ぎるが、致し方ない…か



おいおい…そんな物まで持ち出すのかよ?

 

 

 俺が目を醒ましてから三日が経った。

 そして駆逐イ級となって七日目。

 その間に起きたことと言えば特にたいしたことはない。

 俺に仲間が増えた事ぐらいだ。

 

「しっかしアルファは優秀な偵察機だね。

 一体どんなエンジンを積めばあんな速さが出せるのかな?」

「合衆国の技術でないことは確かね。

 あれば今頃、エンタープライズのクソアマがいい気になってパールハーバーを取り返しているでしょうし」

 

 そう言いながらアルバコアは、砂浜に寝そべり明石の修復という名のマッサージを堪能していた。

 どういうわけか明石は海軍に籍を置きたくないらしく、この島を拠点に一人隠れて生活をしていたところで木曾と知り合い、お互い協力して日々を暮らしていたらしい。

 因みにアルバコアの潜水服はパールハーバー強行突破のために用意された特別な装備だったらしく、重たいわ見た目がださいわと文句を言ってさっさと脱ぎ捨て小屋の片隅に投げ捨てられている。

 んで、その下に着ていたのはサーファーがよく着ているボディスーツだった。

 提督指定のあの水着がとても素晴らしいものであったことを、俺はようやく理解したよ。

 そしてもう一人。

 

「イ級、燃料、見ツケタ」

 

 巨大な球体から人間の上半身を生やした『輸送ワ級』。

 こいつが新たな仲間である。

 どうしてこうなったか?

 まあ、木曾と経緯は同じである。

 自身の身体に慣れるため海上を走り回っていた際、周辺の哨戒に出していたアルファがたまたま沈みかけていたワ級を見付け、資材を強だ…もとい回収しようと拾いに行き、そして応急修理女神の暴発で助けてしまいそのままなし崩しに仲間になったのだ。

 救いがあるとすればこのワ級は非常に大人しく、かつ人懐っこい性格で俺に恩を感じ自分から力を貸すと申し出てくれた事か。

 しかしだ。

 

「駆逐艦一隻に軽巡一隻と潜水艦一隻、それに工作艦と輸送艦って…」

 

 空母ならまだ自分が艦載機を全てたたき落とせばどうにかなるが、戦艦が出て来たら完全に詰むね。

 というか戦いになった時点で負け確定だよ。

 いや、それ以前に艦娘と新海棲艦の両方を敵に回している状況に等しい現状が既にオワタだった。

 

「イ級?」

「あ、済まない」

 

 思考に没頭して無視する形になってしまった。

 

「ご苦労さん。

 それを置いたら今日はもう休んでいいぞ」

「ダケド、昨日ヨリ集メタ燃料少ナイ」

「そういう日もあるだろうさ」

「…ワカッタ」

 

 そう納得したワ級は早速集めた燃料を裏の資材置場に運んでいく。

 因みに他の新海棲艦と見分けられるよう俺とワ級の身体の一部に白と緑の迷彩が塗られている。

 アルバコアはピンクとか星条旗を塗ろうとか言い出したが却下した。

 というか、なんでアルバコアは俺達に味方するんだ?

 本人はアメリカ海軍のやり方に嫌気がさしたから強行突破隊に志願しそのまま脱走した。

 その上で日本に協力しようとも思っていないと言っていたが、それを頭から信じられるほど情況は安全ではない。

 明石や木曾も同じように考えているらしく、しかし孤立無縁の現状貴重な戦力であることも事実なので、今の所油断はならないが味方という扱いで認識を共有することになった。

 

「アルファ」

 

 ワ級に随伴させていたアルファに周辺の哨戒を任せ俺は日課としている馴らしに海に向かう。

 それにしても修理にはしゃれにならない資材が吹き飛ぶのに、通常の燃費は睦月型並と実に気持ち悪い身体だ。

 といってもそれは深海棲艦特有の仕様らしい。

 ワ級の話では、深海棲艦の精神構造は蟲に近い精神構造をしており、基本的に身体と個性はただの端末に近く使い捨てなのだそうだ。

 故に『姫』や『鬼』といった大本から独立し確固足る個人を確立した個体でなければ自分の身体を大事にしようとは考えておらず、結果、長時間活動出来るよう燃費はいいが直すには莫大なコストが発生する身体になったらしい。

 余談だが深海棲艦も身体を改造するらしくエリートやフラグシップは艦娘でいう改と改二に相当するらしく、ワ級もいつかフラグシップになりたいとのことだ。

 余談の余談だがワ級の改造に必要なレベルはエリートで50、フラグシップになるために必要なレベルは90らしい。

 …先は長いな。

 ついでに普通の駆逐イ級は10でエリート、20でフラグシップになれるそうだが、俺はどうなるやら。

 そんな事を考えながら20キロほどの沖合に移動してから俺は機関の出力を上げる。

 最初は解らなかったが腹の中で熱が生まれ、それが徐々に全身に行き渡る。

 そうして暖気が完了したところで俺は海の上を走り始める。

 スペックだけなら島風も追随を許さない60、2ノットとか出るようだが、生憎そんな速度を出しても身体が跳ね上がり安定しないどころかバランスが崩れて転覆しかねない。

 というか一回やらかして応急修理女神の無駄遣いさせられたから二度とやらねえ。

 ラス1となった応急修理女神は支払いの担保として明石に預け、代わりに今は明石が暇潰しに開発した33式爆雷投射機を積んでいる。

 お陰で潜水艦ならなんとか戦えるが、やはり砲や魚雷は無いので相変わらず回避盾のままである。

 という訳で回避盾としてまともに戦えるよう俺は海の上を走り回る。

 今の所直進なら50までは安定した状態を維持して出せるが、そのかわり舵が効きづらくなりるので最初は40で自在に走り回れるよう練習を開始する。

 40ノットまで速度が上がったところで左右に大きく身体を振りスラロームを描くように走る。

 そのまま減速と同時に反転。

 後部を大きく振り回すドリフト走行よろしくな回頭と同時に再び再加速。

 高速で海を走り回っているため派手に見えるが、実際かなり地味だ。

 しかしだ、海流の流れに時に逆らい時に従うと機を敏に最善の選択をすることが高速艦の基礎技術だと木曾に教わり、そして島風はそれを誰よりも巧みにやって見せるという。

 つまり、いくら速かろうと速いだけでは海を熟知する島風には決して敵わない。

 海を知り波を支配することが勝利への第一歩なのだ。

 と、それが木曾から教わったことである。

 

「……脱走か」

 

 木曾は言っていた。

 自分は脱走したと。

 細かい理由までは語らなかったが、横須賀鎮守府は狂ってしまったとは言っていた。

 そして、出会ったら絶対に逃げろとも。

 

「この世界で何が起きているんだ?」

 

 いや、考えても仕方ない。

 今はただ生き延びることを。

 自分がここに転生させられたことに意味があるのだとしても、生き延びる力も無いまま何かを成すことは出来ない。

 習熟に集中しようと思考を中断したところでアルファが帰還する。

 

『御主人』

「何か見付けたのか?」

 

 島からは大分離れているが、万が一を警戒しておかなければ。

 

『西200キロノ海上ニ島ヘノ進路ヲ航行スル艦娘三隻ヲ確認』

 

 哨戒だろうか? だとしても島に近付かせる訳にはいかない。

 

「艦種は確認出来たか?」

『軽空母『瑞鳳』、重雷装巡洋艦『北上』、水上機母艦『千代田』』

「……」

 

 やべえ。

 哨戒部隊だとしても思いっきり先制攻撃特化の編成じゃねえか。

 しかし、やるしかねえだろう。

 

「奴らを引き付けて島から遠ざけるぞ。

 アルファ、北東70キロの地点に移動するから奴らをおびき寄せてくれ」

『了解』

 

 アルファと同時に俺も島から離れるように進路を取る。

 そうして数時間後、アルファに誘導された三隻を確認。

 しかし、

 

「……なんだ、あいつら?」

 

 遠目なので解りづらいが様子がおかしい。

 酷く緊張しついるというか、何かに怯えているような…?

 余計な事を考えている暇は無い。

 千代田と瑞鳳がカタパルトと弓を構えたのを確認し俺はファランクスを起動する。

 それぞれから発射された艦載機。

 しかし、俺はその姿に背筋を凍らせた。

 

「っ!?」

 

 99式艦爆と瑞雲の下に装着されていた爆弾が、全く違うものにすげ替えられていたのだ。

 まるでグライダーのような、それでいて何故か風防の付いた奇妙な爆弾。

 そして、風防越しにこちらを睨む『中の搭乗者』と目が会った瞬間俺は怒鳴っていた。

 

「ふざけんじゃねえぞ!!!!????」

 

 あれは爆弾なんかじゃ無い。

 『桜花』と命名された特攻兵器だ。

 頭が真っ白になるほどの怒りのまま俺はファランクスを乱射。

 切り離される前の桜花ごと艦爆を纏めて撃ち落とす。

 

「イヤァァァァアアア!!??」

 

 撃ち落とされた艦爆の姿に千代田が狂ったような悲鳴を上げる。

 

「まただ…また、皆死んじゃうんだ…」

 

 光景に悲鳴こそ上げなかった瑞鳳だが、弓を取り落とし海上にぐったりと膝を着く。

 そして、北上はそんな二人を気にかける様子もなく酷い隈が浮かんだ顔でこちらを睨んだままぶつぶつと呟き続ける。

 

「沈め沈め沈め沈め沈め沈め沈め沈め沈め沈め沈め沈め沈め沈め沈め…」

 

 放たれる40本の魚雷。

 しかしそれもまた魚雷等では無い。

 乗り込み口が着いた魚雷なんて、そんなものがあっていいはず無い。

 

「テメエもなのか北上ぃ!!??」

 

 あれだけ嫌がっていた『回天』を乗せた北上の心情を俺には推し量る術は無い。

 だが、そこまでされたって俺はまだ死にたくないのだ。

 

「馬鹿野郎!!??」

 

 俺は即座に爆雷投射機を起動して海中に機雷をぶちまける。

 海中に没した機雷は俺を狙い進む回天の正面に展開され、即席の防御壁の役割を成して全てを海中で無力化し誘爆。

 大量に発生する爆発に水しぶきが溢れ全身がずぶ濡れになる中、俺は転覆だとかそんなものは知ったことかと機関の出力を限界まで上げ60ノットの超高速機動を開始。

 海の上を跳ねるように走りながらのろのろと回天の再装填射を行う北上のどてっ腹に体当たりをかました。

 

「ゲフゥ!?」

 

 ミシミシと身体が軋む音の中に北上の女の子らしくない苦悶の悲鳴が小さく響き、海面に何度もたたき付けられるとそのまま動かなくなる。

 沈む様子が無いので気絶させたのだろうと判断し、俺は軋む身体を無視してファランクを二人に突き付ける。

 

「艤装を棄てて投降しろ」

 

 こんなふざけたものが艦これの世界に存在することにヘドを吐きたくなるほど胸糞の悪い気分のまま、俺はそう二人に命令する。

 蹲ったまま動かない瑞鳳、そして千代田は突き付けられたファランクスをしばし茫然と眺めていたが、やがて引き攣るような笑みを浮かべた。

 

「…殺してよ」

「っ!?」

 

 俺はカッとなり手の代わりに思わずファランクで千代田を張り倒す。

 海上に倒れた千代田は張られた頬を押さえ、顔を歪め泣き出した。

 

「ひっ、うぇぇえぇ…」

 

 張り倒されたことで堪えていた感情が関を切ったようで千代田はひたすら泣きじゃくる。

 

「お姉…どこ?

 お願いだから返事をしてよ…千歳姉…」

 

 千歳の名を呼び助けを縋る姿に俺は勝ったことへの余韻も、こいつらが持ち出した兵器への胸糞悪さも無くし、ただひたすらに虚しくなった。

 

「鎮守府はなにを考えてやがるんだ?」

 

 虚しさを言葉に吐き出し、俺はこいつらの艤装を叩き壊すため明石を呼ぶようアルファに命じた。

 




 今回のアレらについて賛否は承知の上です。
 次回は普通に大ピンチの予定です。

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