なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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オ目ニ掛カルトハ思ッテモイナカッタ


ヨモヤ

 アルファがバイドの群れを蹂躙しに飛んだちょうどその頃、雪風と夕立は海原に根を張る巨大な【樹】に凭れ掛かりながらまどろんでいた。

 どこかでみたような、それでいて類似する樹などどこにもないその樹の中央部は大きく捻れまるで子を孕む女性のように大きく膨らみながら琥珀色の輝きを放ち、一葉の葉もない枝は静かに海風に揺れていた。

 

「…ん」

 

 と、夕立の耳のように跳ねた髪が揺らめき凭れ掛かっていた身体を起こすとすんすんと鼻を動かし何かを嗅ぎ分けようとするような仕種を始める。

 そして探していた匂いを嗅ぎ付けたのか夕立が嬉しそうに目を輝かせる。

 

「来タ!!」

 

 その目には待ちぼうけにされていたわんこが主人を見付けたような無邪気さに満ち、今にも飛び出しそうに喜んでいる。

 

「ワタしも行っていイ!?」

 

 うずうずした様子でそう雪風に振り返ると、雪風もまた幹から身を放し笑いながら頷く。

 

「あの人には貴女の玩具(抜け殻)程度では準備運動にもならないですからね」

 

 200を越えるバイド化した深海棲艦の殆どは夕立が沈め汚染させたモノ。

 彼等の根幹とも言える部分は全て島風と融合しており、今アルファが蹂躙しているバイドの群れは夕立の荒らぶる感情を沈めるために玩弄する玩具であった。

 雪風の言葉に夕立が頬を膨らませる。

 

「そンナことナイッぽい!

 新シイノはオトもだちニダッテ勝つカモっぽイ」

 

 何度も何度も潰し引き裂き粉砕され続けた夕立の玩具(深海棲艦)は再生と増殖を繰り返しバイドの持つ急速な進化の果てに夕立を満足させるに足る怪物(A級バイド)へと進化していた。

 お気に入りの玩具を馬鹿にされと怒る夕立に雪風は苦笑しながら謝った。

 

「すみません。

 ですが、そうするとあの人を玩具に取られちゃいませんか?」

「ソレは嫌ッポい!?」

 

 雪風の言葉に夕立は慌てて立ち上がると尻尾があれば引きちぎれそうなほど激しく振っているだろう様子で海に降りる。

 

「ジャア、行ってくルッポイ!!」

 

 そう雪風に手を振りながら戦場へと飛び出す夕立。

 あっという間に小さくなっていくその背を見送った雪風は寄り掛かっていた【樹】を見上げ語りかける。

 

「今度は帰って来ないかもしれませんね」

 

 例えそうであっても問題は無い。

 夕立も雪風もその根幹は島風と融合し終えて身体は取り替えが効かない端末程度のモノ。

 しかしそれさえも島風が完全なマザーバイドになればいくらでも生み出す事は出来るのだ。

 新たな命の始まりとなるべく姿を変えた島風はその役割を担うため静かに胎動を繰り返す。

 何も恐れるもののない夏の夕暮れは、もうすぐそこまで迫っていた。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 …なんつうかさあ、

 

「アルファが味方でよかったよな」

 

 ミッドナイト・アイを通して送られてくるアルファの奮戦は、およそ俺達が心配する次元の遥か彼方にあった。

 

「千代田、残りの反応は?」

「後120…119体よ」

 

 10分足らずで80体を仕留めるとかワロスって言うしかねえ。

 フォースを投擲してバイド化した深海棲艦の一隻を刔ったかと思いきやアルファ本人は投擲したフォースの進行方向に先回りして後部に装着すると同時に再投擲。

 更に駄目押しとばかりに波動砲を叩き込むと撃破したかの確認さえ怪しい速度で離脱し次の獲物を狩りに飛翔する。

 吶喊→フォース投擲→回収&再投擲→波動砲→離脱。

 これを主なパターンとして要する時間は大体四秒前後。

 このコンボで駆逐や軽巡どころかヲ級やル級さえ殲滅してしまう。

 つまるところアルファは殆どの深海棲艦を潰すのに四秒ぐらいしか掛けてないんだよ。

 アルファマジアルファって勢いでバイドの群れがあれよあれよという間に蹂躙されていく。

 

「上には上が居るものですね。

 私達ももっと高みを目指しましょう」

「アレは文字通り別次元の存在だ」

 

 つうかサシでアルファに対抗する存在なんか目指すな鳳翔。

 それらもう高みを目指す求道者を通り越してニンジン捩った野菜人だぞ。

 この鳳翔その内改二と称して竜飛に改名しそうで怖いんだけど。

 

「もうアイツ一人でいいんじゃない?」

 

 アルファの獅子奮迅っぷりに思わず口にする北上。

 気持ちは解るけどそうはいかねえよ。

 アルファが切り開き安全を確保された海路を進みながら俺は尋ねる。

 

「千代田、A級バイドの反応は?」

「前方12時の方向、距離60キロの地点に留まってるよ」

 

 アルファが50キロ先で戦闘しているから、更にその奥か。

 にしても、前方で一方的に味方がやられてるのになんで待ち構えてんだろうか。

 様式美ってやつなのか?

 そんなどうでもいい事を考える余裕すら出しながらアルファを追い続ける。

 もはや戦闘というよりSTGのプレイ動画を眺めてるような気分になっていると、前方に異形の怪物の姿を確認した。

 

「なんだアレは…?」

 

 甲冑のような赴きさえ感じられる装甲に覆われた四肢の無い怪物。

 それまでの肉塊が内側から溢れ出している奴がいるぐらいで真っ当な深海棲艦の姿をしていた者とは一線を画す怪物に、まだ十分離れているはずなのに俺は無意識に身構えてしまった。

 

「反応一致!

 あれがA級バイドだよ!」

 

 千代田の報告に緩んでいた気が完全に引き締まる。

 俺はミッドナイト・アイを介してアルファに尋ねた。

 

「アルファ。アレ(・・)に見覚えはあるか?」

『アレハ『ザブトム』。

 A級ノ中デモモットモスタンダードナバイド『ドプケラドプス』ノ残骸ガ寄リ集マルコトデ誕生シタバイドデス』

「ザブトム…」

 

 どれほどの強敵なんだろうか…?

 それはそれとしてだ。

 スタンダードなA級バイドってドプケラドプスってのはそんなにいるのかよ。

 本当にバイドはタチ悪いなオイ。

 ふざけんなと叫びたくなったところでアルファが要請を飛ばした。

 

『申シ訳アリマセン。

 ザブトムガ相手トナルト私一人デモ対処出来マスガ、時間ガ掛カリ過ギルタメハクサントパウヲ援軍ニ出シテ下サイ』

「分かった」

 

 いいなと鳳翔とワ級に確認すると二人も頷いた。

 

「俺達も出すぞ」

「そうだね。

 今の内に使い方を馴らしておきたいし」

 

 問題無いでしょ? と俺に確認を取る北上。

 当然俺に反する理由はない。

 

「そういうことだ。

 全機そっちに向かわせるから指揮は任せるぞアルファ」

『了解』

 

 アルファの応答と同時に四人がそれぞれのR戦闘機を発進。

 

「風向き良し。

 行きなさいハクサン!」

「パウアーマー、オ願イ」

「出番だストライダー!」

「やっちゃってよねぇフロッグマン!」

 

 号令と同時に三機が飛び立ちフロッグマンが水中に飛び込む。

 そのままミッドナイト・アイと合流すると五機のR戦闘機はアルファの下へと急行した。

 

 

〜〜〜〜

 

 

『来マシタカ』

 

 手近なヌ級バイドに波動砲を叩き込んで爆散したのを確認したアルファは到着したR戦闘機と合流する。

 最初はハクサンとパウアーマーを組ませ遊撃に回って貰うつもりだったが、全機動員してもらったので遠慮なく暴れてもらうことにする。

 

『先ズハザブトムヘノ接近前ニバイド群ヲ掃討シマス。

 ハクサンハミッドナイト・アイト共ニストライダーノ防護圏内デ待機シツツ大物ヲ狙エ。

 フロッグマンハ遊撃。

 パウハデコイ投射ト同時ニ波動砲ヲ準備シナガラ補給ノ必要ナ者ガイナイカ目ヲ光ラセヨ』

 

 提督と共に戦い培った対バイド戦術を総員し各R戦闘機に指示を飛ばすアルファ。

 波動エネルギーで構成されたパウがバイドの群れに飛び込むとすかさず汚染艦はデコイに群がり砲撃の嵐を見舞わせる。

 何発もの砲弾に曝されたデコイはたちまち原型を失うが、その瞬間アルファは指示を飛ばす。

 

『今ダ! デコイヲ自爆サセロ!!』

 

 次の瞬間霧散しかけたデコイがエネルギーの塊へと引き戻され爆発。

 波動の膨大なエネルギーがバイドを焼き飛ばす中威力圏外に逃れるも爆発の余波に曝されたバイド深海棲艦目掛けアルファ達が襲い掛かる。

 

『クタバレ!!』

 

 アルファとパウが投擲した二つのフォースが駆逐ロ級とハ級を粉砕したかと思えば回り込んだハクサンの杭がル級の胴を貫き内側から爆発。

 その横でヌ級が艦載機を飛ばそうと開いた口をカメラ波動砲が撮影と同時に頭ごと吹き飛ばしチ級の足元から浮かび上がったバブル波動砲が弾けながらチ級を蒸発させる。

 その攻勢により勢いづいたR達の蹂躙は更に加速。

 ホ級とヘ級がスタンダード波動砲に纏めて貫かれて撃破され、辛うじて発艦した艦載機群もシャドウフォースの弾幕とデビルウェーブ砲Ⅱの変則起動に付いていけず次々と撃墜。

 それでもなお生き残った艦載機群が機銃の雨に加え爆撃と雷撃まで降り懸からせるもストライダーが展開したブロック状に連なるバリア波動砲に阻まれ一発の掠りすら叶うことはなかった。

 フォースシュートと波動砲を駆使し残る艦載機を駆逐したアルファは残るバイド深海棲艦を確認。

 残る深海棲艦はおよそ20隻。

 戦艦や空母はハクサンが全て破壊し手付かずだった潜水艦タイプもフロッグマンが仕留めて残るは駆逐軽巡重巡ばかり。

 提督ならばどうするか?

 アルファは一瞬考えてから指示を出した。

 

『先行スル。

 ハクサントパウハ追従セヨ

 フロッグマントストライダートミッドナイト・アイハ残党ヲ処理シテカラ合流ヲ』

 

 情報確認のためにミッドナイト・アイを連れていきたいところだが狩り残しがイ級達に向かっては話にならない。

 確実な殲滅をと言い残しアルファは二機を引き連れザブトムへと向かう。

 アルファの接近を関知したザブトムが金切り声を上げて砲撃を開始。

 バイド粒子を孕んだエネルギー光弾が囲うように三機へと迫り来るがアルファが選ぶのは正面。

 フォースの防御力頼りのごり押しで弾幕を突っ切りに掛かる。

 視界を埋め尽くすエネルギーの雨をフォースが受け止め窮地を切り開く。

 アルファが突き進む道をパウとハクサンも追随し三機は開幕の猛攻を凌ぎきりザブトムを攻撃圏内に捉える。

 

『弱点ハ胸部ノ高出力レーザー砲台。

 レーザー発射後ノ隙ヲ狙イ一気ニ仕留メル』

 

 そのためにはザブトムの放つ攻撃を耐え続けなければならない。

 他に効果的な攻撃手段が無い以上手は無いのだ。

 機を待つ三機に対しザブトムは容赦なく弾幕を張って叩き潰そうとする。

 しかし二つのフォースが圧倒的な物量から三機を守り状況は膠着状態に入る。

 業を煮やしたのかザブトムが金切り声と共に胸の装甲を開きクリスタルのような光球を展開。

 

『レーザーハフォースデハ防ギ切レナイ!!

 全力で回避セヨ!!』

 

 アルファの警告の直後光球が極太のレーザーを発射。

 三機は散開してそれを躱すと一気に肉薄し、溜めに溜めた波動砲を一斉に解き放つ。

 デビルウェーブ砲Ⅱとスタンダード波動砲が砲台を貫き帯電式波動砲が貫いた杭を媒介に内側から爆発。

 三発の波動砲により内側から爆発を発したザブトムが爆炎に飲み込まれ姿を消す。

 何度となくその目で見て来たバイドの死滅する瞬間にアルファの意識が一瞬緩む。

 

『っ!?』

 

 その次の瞬間、爆炎の中から鋭い鎌が飛び出しアルファを切り裂いた。

 

『グゥッ!?』

 

 鋭利な鎌がアルファの鰓張ったキャノピー部をざっくりと切り裂くが、鋭いが故に切り裂かれるに留まり首の皮一枚で生き延びたアルファは信じられないと叫ぶ。

 

『馬鹿ナ!?』

 

 ザブトムの弱点を破壊し間違いなく撃破した。

 にも関わらず、爆炎の晴れた先よりザブトムが姿を顕したのだ。

 否。それだけではない。

 一度撃破された時より二周り以上小さくなっているが、代わりに四肢が生え手にはアルファを切り裂いた鎌が握られている。

 更に腰からはアオムシのように節を連ねる節々に生える疣足から鋭い爪が伸びる新たな胴体を有していた。

 

『『オージザブトム』……』

 

 アルファ達は知らない。

 夕立に玩弄され壊され続けたドプケラドプスが生き残るためにザブトムへと変化し、それでも夕立の玩具でしかなかったために生存本能のままに進化と変態を繰り返した必死の抗いであることを。

 切り裂かれた身体を癒着させ可能な限り再生させながらアルファは獰猛なバイドの本能を全開にする。

 

『イイダロウ。

 ココカラガ本番ダトイウナラ相手ニナッテヤル』

 

 バイド深海棲艦を皆殺しに合流したストライダー達三機と編隊を組み直しアルファは宣う。

 

『殺シテヤル…悪夢(バイド)!!』




 アニメ艦これ遂に始まりましたね。

 しかし私は祭日進行で仕事に追われまだ見てないという……orz

 後補足としてオージザブトムは設定のみ書かれてるザブトムの完全体です。
 もうすぐ夕立も来るし、ここからはナイトメアパーティーまっしぐらの予定です。

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