腑に落ちない違和感を抱えながらもともあれ俺は木曾と救援に向かおうと念のため陣形を組むため手の空いていた瑞鳳とイ級とチ級を連れて救援のため海に出た。
瑞鳳と一緒にチビ姫も行くと喚いていたが、明石が燃料溶かしすぎてチビ姫の艤装の分が足りず、更にでかさに比例した鈍重な艤装では間に合わないのでワ級に預けて留守番させている。
「アルファ、状態は?」
『ニ隻撃沈シテイマス。
残リハワ級三、ル級一』
かなりやべえな。
フラワならそう簡単に沈みやしないだろうけど、なんせワ級は通商破壊作戦の艦娘と燃料弾薬や近代化改修のために襲う深海棲艦に狩られまくるため、フラグシップクラス級の強力な個体の絶対数が少なく戦艦棲姫さえ数体しか従えていないから今回のも多分ノーマルだろう。
余談だけどうちのワ級も通商破壊作戦の被害者だったらしい。
ワ級のためにも通商破壊作戦を撲滅することが密かな野望だったりするがそれはさておき。
「アルファ、敵艦娘の艦種は分かったか!?」
『重巡古鷹ヲ旗艦ニ、天龍、龍田、叢雲、初春、子日ト思ワレマス』
「…なんか知ってる面子っぽいな」
つうか散々っぱらギンバイしたあいつらか?
だとしたら好都合だな。
俺はル級達から注意を引くため瑞鳳に指示を出す。
「注意をこちらにひきつける。
瑞鳳。流星と彗星で先制打撃。
続いて木曾も先制雷撃頼む。
どっちも威嚇だけで当てる必要は無い。
チ級とイ級は輸送隊の撤退支援だ」
「任せて」
「分かった」
「リョウカイアネゴ」
「マカサレタ」
指示通り攻撃体勢に移る二人と俺達から航路を外れさせるチ級イ級を確認しアルファに問う。
「アルファ、波動砲のチャージ状況は?」
『イツデモ撃テマス』
「なら待機。
島風達に感づかれたらお前に任せるぞ」
『了解』
それぞれに作戦を通達すると最初に瑞鳳が動く。
「攻撃隊、行って!!」
小さく艦娘と抵抗するル級達の姿が見えた所で瑞鳳が矢を放ち、放たれた矢が流星と彗星に変じて空を翔ける。
彗星が高く上空に上がり、流星が水面ぎりぎりの低い高度を保ちながら滑空する様に向こうもこちらに気付いたようだ。
「あれは…空母の艦載機!?」
「あら〜?
でもどうして私達に向かって来てるのかしら〜?」
周辺で起きる爆発が収まり艦載機が来た方向を確認した天龍の怒鳴り声に全員がこちらを向く。
「って、あそこに居るのはあの時の眼帯野郎じゃねえか!?」
げっ。やっぱり最後にギンバイした彩樹艦隊の連中かよ。
俺の存在に気付いた天龍の声に天龍、龍田、叢雲の三人が隊列を崩してこちらに突っ込んでくる。
「三人とも何を!?」
「あの野郎だけはぜってえブッ潰す!!」
「今までの怨みも纏めて沈めてやるわ!!」
「古鷹ちゃん、ル級はお願いね?」
「何言ってるのよ!!??」
複縦陣が崩れ爆撃と雷撃に古鷹がパニックを起こす。
「一体どうなってるのよ!!??」
そう思うよな、うん。
古鷹には悪いけど運が悪かったと諦めてくれ。
イ級達の誘導で口惜しそうにしながらもル級が退避を始めそれを追撃する初春達を横目に俺は加速しながら中ニ病全開な刀を構える天龍に向かう。
「はっ、今日は逃げねえのかよ?」
こいつらには何度も喋ってるの聞かれているから今更隠す必要もないと言い返す。
「あっちのワ級が沈められたら困るんだよ!!」
「だったらまずテメエから沈めてやるよ!!」
クロスレンジに入るなり刀を振り下ろす天龍。
「これで年貢の納め時だ!!??」
真っ赤な凶刃が俺の身体を切り裂こうと迫るが、そうは問屋が下ろさない。
「クラインフィールド!!」
瞬時に展開した黒い結晶が膜となって天龍の刀を弾く。
アルファが着艦しないから『霧』モードが解けていないのが僥倖だった。
「はぁっ!!??」
弾かれた勢いで距離が離れるなり天龍は驚愕しながらもすかさず20、3cm砲を俺に叩き込むが展開したままでいたクラインフィールドが爆風ごと衝撃を完全に遮断する。
もしかして斬ると同時に叩き込むつもりだったのか?
効率的かもしれないけど、かっこつけてやったようにしか見えないのは天龍の人徳だな。
「なんだそのカッコイイ防御は!?
しかも黒とかチョーイカスじゃねえか!?」
指を指して俺に寄越せとか怒鳴る天龍に半ば呆れつつ小さくごちる。
「クラインフィールドを知らねえ?
新参か?」
そういや木曾は『霧』を知ってたけど北上達も『霧』について知らなかったな。
この世界はアルペジオコラボが終わってすぐぐらいなのか?
じゃなきゃ横須賀が独断専横した海域作戦がアルペジオコラボだったのかも。
憶測に思考を走らせていると天龍が刀を構え直し後ろの二人に言った。
「龍田!! 叢雲!!
予定変更だ! こいつは生け捕りにしてラバウルに引き渡すぞ!!」
「は?」
何言ってんだこいつ?
「いいわね〜。
ちょ〜とお灸を据えてから、その力も貰っちゃおうかしら」
考えてんだと引いた俺の後ろから追い越した木曾がカトラスを天龍に振るう。
「イ級をラバウル送りだと!?
絶対やらせてたまるか!!??」
天龍達の話を聞いていたらしく憤怒に満ちた木曾が裂帛な気合いと共に振り下ろしたカトラスを天龍の刀が迎え撃つ。
「テメエ!!??
艦娘が深海棲艦の肩を持つのか!!??」
膂力で振り払う天龍に木曾はそれを受け流しながらカトラスを構え宣う。
「あいつは俺の仲間だ!!」
そう言い再び斬り掛かる木曾に天龍は獰猛に吠える。
「ほざくんじゃねえ!!
だったらテメエも一緒くたにしてラバウルに連れてってやるよ!!」
刀を振り上げ斬撃を繰り出す天龍。
カトラスと刀が噛み合い硬い金属音が立て続けに打ち鳴らされるのに思わず思う。
おい、砲雷撃戦しろよ
口には出さずそう突っ込むと追い付いた瑞鳳は龍田と噛み合った。
「あら?
貴女もあのイ級の仲間なのかしら?」
「そうよ」
「だったら沈んでも文句は無いわよね?」
薙刀で風を切って威嚇する龍田に瑞鳳はきっと睨み返す。
「沈むなんて冗談じゃないわ。
私の命は姫ちゃんのためにあるんだから!!」
そう弓を構える瑞鳳に龍田は笑みをきゅうと吊り上げ弓を形作る。
「姫ちゃんねぇ?
それ、詳しく聞かせてもらわなきゃいけないかしら〜」
ひゅんと薙刀を振るって構える龍田に瑞鳳は矢を放ちそれを答えとした。
「全機発艦!!
沈めちゃえ!!」
なんか、俺の今日までの懸念とか心配とか真っ向から否定する勢いで本気で沈めに掛かる二人になんでこんなことになったと叫びたくなるが、生憎そんな暇は無い。
「喰らいなさい!!」
唯一フリーの叢雲が俺目掛け砲撃を叩き込んだのだ。
「喰らうかよ!?」
黒いフィールドが叢雲の放つ砲撃と魚雷を防ぎ水柱と爆煙が間近で生まれる。
避けてもよかったんだが流れ弾が木曾やル級達に当たるのも怖いしな。
「チィッ!!??
ちょこまかちょこまか逃げ回った次はそんなものまで持ち出して!!
私達を馬鹿にするのもいい加減にしなさい!!」
そう怒鳴り声を張り上げる叢雲。
いや、馬鹿にした事は一度もないんだけど…。
まあ、遠征の報酬を横取りして逃げまくってたからそう思われても仕方ないのか?
まあいいや。
向こうがどう思おうがこっちは輸送隊を逃してお帰り願うだけだし。
そろそろ仲間とそれ以外の艦娘はきっぱり割り切らなきゃいけないのかなと考えながら俺はファランクスを展開。
「死なない程度に喰らえ!!」
魚雷管を狙い弾幕を張る。
「主砲じゃなくて機銃ですって?
舐めるのも大概になさい!!」
アームを巧みに操り広角砲を盾に魚雷管を守りながら叢雲が怒鳴るが、生憎とダメコン積んでないから使う気は無い。
積んでても使う気ないけどな。
「そらっ!!」
走りながら身を捻りハンマー投げの要領で爆雷を叢雲目掛け投擲。
直撃はしなかったが至近距離で爆発した爆雷の爆風に叢雲が煽られる。
「キャッ!?」
僅かにバランスを崩したがすぐに立て直すと忌ま忌ましそうに睨んでくる。
「…やってくれたわね。
少し服が汚れたわ」
舌打ちしそうな様子でそう文句を言う叢雲言ってやる。
「汚れが気になるってなら帰ってくれて構わねえぞ?」
いやほんと、マジでそうしてくれると助かる。
「そうね。
そうさせてもらおうかしら」
え? ホントに?
ちょっとだけ期待する俺に向け叢雲がマストを象る槍っぽい棒を突き付ける。
「その前に、私を散々虚仮にした愚か者に報いを与えてからだけどね!!」
ですよねー。
いや、分かってたよコンチクショウ。
こうなりゃヤケだ!!
「んな口利いたこと後悔させてやるよ!!」
ファランクスを構え直し缶に貯まった熱を吐き出して加速しようと俺だが、その瞬間ゾワリと悪寒が走った。
「…何……今の…?」
その悪寒を感じたのは俺だけじゃなかったらしく叢雲や木曾達も手を停め辺りを伺っている。
『御主人!!』
そして極め付けに空間を波立たせ卑猥な物体もといアルファがこちらに現れる。
「ちょっ!?
何よその卑猥な物体は!?」
叢雲がそうアルファを批難するが答えている余裕は無い。
アルファがこちらに出て来たということは答えは一つしかない。
「バイドが来るぞ!!??」
その警告に瑞鳳が艦載機を放ち島に援軍を要請。
「妖精さん! 千代田と鳳翔とワ級にR戦闘機を持ってくるよう伝えて!!」
本当はアルファを向かわせたいが先にアルファが戻る前にバイドが来る可能性が高い。
伝令を預かった妖精さんが彩雲を駆り空を飛翔したのを確認してからアルファに問う。
「島風と雪風などっちだアルファ?」
アルファが確保した対バイド兵器が使えるのは一度こっきりとのこと。
島風なら躊躇なく使うが雪風なら自力で倒すしか無い。
後ろの外野がなんか言ってるのを無視してアルファが告げる。
『アレハ…白露型駆逐艦『夕立』デス!!』
アルファの報告に耳を疑った直後木曾が叫ぶ。
「あの時の夕立か!?」
あの時?
まさか、木曾達が島風と戦っていた時に沈んだ艦娘がいたのか!?
三隻目のバイド艦娘の登場に思わず漏らしてしまう。
「なんつう悪夢だよ?」
そういや南方棲戦姫は深海棲艦化はしないって言ってたな。
深海棲艦の代わりにバイドが艦娘を味方にしてるとか悪夢以外のなんでもねえ。
『来マス!!』
千代田達の合流を待たずバイド化した夕立の姿を目視した俺達はその異様に呻いた。
「…なんだ、ありゃ?」
引き攣ったように漏れた天龍の呟きは全員が感じている感想だ。
生身の部分は夕立のそれと変わりはしていない。
瞳が赤ではなく琥珀色で服の右側が無いせいで胸とか色々見えてるしまっている事は問題だけど、俺達が驚愕したのはそこじゃない。
白露型の艤装は内側から溢れ出したかのように蠢動する朱い肉に侵食され、まるでバイドシステムαを思い出させるグロテクスさに犯されていたからだ。
そして右手に同じく肉塊が溢れ出した12、7cm連装砲を携え、左腕には鈍く光る太い鎖が絡み付きその先端にはシャークマウスが実態化したような凶悪な乱喰歯をガチガチと鳴らす顎の生えた魚雷が繋がっているのだ。
「もしかして魚雷がフォース化してんのか…?」
だとしたら連装砲ちゃん並にタチが悪いじゃねえか。
俺達を確認したらしく夕立がシィッと獰猛に笑みを浮かべた。
「いっぱイいル…みンナ沈メてとモダちたくサンっぽイ!!」
そう言うと同時に肉塊に浸食された連装砲をこちらに向ける。
まだ30km以上の距離があるのにと思った直後、夕立の右腕がバチバチとスパークを生じさせアルファが叫ぶ。
『ライトニング波動砲!?
御主人クラインフィールドヲ!!??』
アルファの警鐘に俺は反射的にクラインフィールドを展開。
ライトニング波動砲を纏った夕立の砲撃はレールガンのように超高速で飛来し辛うじて展開が間に合ったクラインフィールドを削りながら砕けて飛散する。
「今の何よ!!??
あんた達アレとどんな関係なのよ!!??」
当たってたら一撃轟沈もありえた超長距離射撃に叢雲が叫ぶが構ってる余裕は無い。
「死にたくなかったら大人しくしてろ!!」
そう切り捨て俺はクラインフィールドの情況を確認して毒吐く。
「クソ、一撃で三割持ってかれた…。
そうは持ちこたえられそうにねえぞ」
「笑えない話だな…」
連装砲ちゃんに砕かれたことはあるけどあれは超重力砲ぶっ放した後で半分ぐらいの硬度しかなかったが、今回はアルファの警鐘もあってほぼ全力だった。
なのに一撃で三割減衰させられたんだから、単純な火力なら間違いなく島風以上だ。
「千代田達を待ってる余裕は無さそうだ。
イ級、防護は任せた!!
瑞鳳、アルファ、行くぞ!!」
「ええ!!」
『了解』
木曾の号令に二人が走りだし、俺もまた三人を護り通すため後に続いた。
「お前達に傷一つ付けさせはしない!!」
ぽいぬ強襲。
最初のプロットだと実は天龍達は生贄になってたけど、今後も絡ませていきたいのでバイドの餌食にするのは中止したという。
そのお陰で中途半端にな立ち位置になった気もするけど気にしないでおこう。
因みにぽいぬも上位機体です。