さて、アルファも帰って来たことだし本格的な反撃の準備を始めるとしようか。
「姫。
俺達は一度島に戻って明石にR戦闘機の準備を進めてもらって来る」
「要望の資材は後で送っておきましょう。
ただし」
「分かってる。
全部貸すだけで借金として上乗せするんだろ」
そう言うと戦艦棲姫は首肯する。
因みに今回の融資は各三万。
ちまちま返してた分を差っ引いて、更にさっきの戦闘で受けた修復にかかった資材も併せるとトータル六万を越えていた。
やばい。雪だるま式に借金がががが…
返済計画の練り直しに内心で壊れかけた俺だが、戦艦棲姫の投げ掛けた更なる要求に現実に引き戻される。
「それと、余ったもので構いませんのでR戦闘機を最低一機こちらに引き渡すように」
「それは構わないけど…なんで?」
突然そう言われ思わず問い返してしまう。
戦艦棲姫は水偵積んでないからいらないよな。
それに明石が開発するR戦闘機は妖精さんの加護が掛かるから俺とワ級以外の深海棲艦には使えない筈。
俺の疑問に戦艦棲姫は言う。
「興味があります。
それに、いつかそのRとやらを鎮守府が用いる日が来たとして、何の対策も無いままというわけにもいきません」
まあ、確か言ってることは間違ってないな。
アルファ一機でも本気出すと震電改ガン積みした加賀6人いようと制空権確保して来れるだけのキチ性能なんだし、それがなんかの間違いで人類と深海棲艦との戦争に持ち出されれば勝ち目もくそもなくなるだろうしな。
「分かった。
終わったら持ってくる」
私としては見過ごせないんですがとごちる鳳翔は無視する。
どうせ普通の深海棲艦には使えないし、ラバウル辺りがそのうち作るだろうからとんとんだ。
「ああ。貴女は少し話があるので残りなさい」
と、そこで思い出したようにそう鳳翔を名指しする戦艦棲姫。
「私ですか…?」
意図を読めない指名に戸惑うも鳳翔は解りましたと頷いた。
「案じずともすぐに終わるわ」
「あ、ああ。分かった」
そう言われては留まるわけにもいかず俺達は艦橋を後にした。
そのまま出口に向かい鳳翔を待っていると不意に木曾が俺に告げた。
「イ級。
今回は仕方なかったかもしれないけど、これからは相手が誰だろうと俺達に気を使わないでくれ」
「木曾?」
突然の申し出に俺は戸惑った。
そこに北上も述べる。
「そうだね。
私達はもう鎮守府からみたら敵も同然なんだし、誰が相手だって戦う覚悟はあるんだよ」
「……」
だからって、俺は木曾達を艦娘と戦わせるのはやっぱり嫌だ。
だけど、あまり気を回しすぎるのも違うのかも知れない。
艦娘はその身体は人間でも根幹は艦船。
戦わせない事は逆に艦船としての誇りを蔑ろにする行為なのかもしれない。
「……すぐには難しいかな」
結局俺はそう言うしか出来ない。
艦船の誇りがなんなのかまだ解らない俺は、艦娘が掛け替えの出来ない人達としか考えられない。
だから、それが分かるにはもう少し時間が必要なんだ。
「……ま、今はそれでいいか」
完全に納得は出来ない様子で肩を竦める木曾。
「こればっかりはな」
すまないとそう言うと二人は溜息を吐いた。
「まったく」
「しょうがないね」
呆れられてしまった。
「お待たせしました」
そこにタイミングよく鳳翔が合流する。
「もう終わったのか?」
10分と経たず合流した鳳翔にそう尋ねるも鳳翔はええと頷く。
「ちょっとした質問をされただけですから」
「そうか」
聞き出す必要は…まあいいか。
「じゃあ、行くか」
島風達を、いや、バイドを倒すため俺達はカ級達に手伝ってもらい戦艦武蔵から海上に上がる。。
「アルファ、こっちに出てこなくていいから島への航路を確認してきてくれ」
『了解』
よっぽどあの姿を見られたくないらしくアルファは帰って来てから一度も着艦していない。
一体何があったのか尋ねても言いたくないの一点張りだしかなり心配なんだよな。
まあ。姿が変わって嫌な思いをする気持ちは分からなくもないし、暫くそっとしとくしかないな。
先行したアルファが戻り声を頼りに俺達は島を目指す。
「アルファ、島風達は?」
偵察機を飛ばして見つかると厄介どころではないのでバイドの波動探知能力で大まかな様子を伺わせるとアルファは答えた。
『動キハアリマセン。
マザー化ノ準備ヲ始メテイルト思ワレマス』
「あまり猶予はないみたいだな」
アルファの報告に木曾が呟くと、ふと北上がアルファに尋ねた。
「そういえばさ、あの島風ってなんでかアルファを最初に一つになりたいって執着してたよね。
島風に何をしたのアルファ?」
探るような含みを持たせて尋ねる北上。
「あんまり疑いたくないけどさ、あの島風を汚染させたのってアルファなんじゃないの?」
その問いに木曾が怒鳴る。
「北上姉!?
いくらなんでも言い過ぎだ!!」
アルファを庇おうとする木曾だが、
『ソウナノカモシレマセン』
アルファの答えに言葉が止まってしまう。
「アルファ?」
俺の呼びかけに応えずアルファは独白を零す。
『アノ島風ガ『バイドノ切端』ヲ渡シタ時、私ガ気付カズ汚染サセテイタ可能性ハ否定出来マセン』
悔悟するようなアルファの独白に俺達は何も言えず押し黙るしかない。
『ヤハリ
ドレホド焦ガレヨウト、コノ美シイ星ニバイドノ居場所ハナイノダカラ』
その声は寂しそうで、だからこそ…
「ざけんな」
『御主人?』
本気で腹が立った。
「地球にバイドに居場所が無かろうが
だから、これが終わったら出ていくなんて考えるんじゃねえぞ」
そんな事は許さない。
島風が言う通り俺は誰ともこの苦しみを分かち合えない独りぼっちだから、そんな俺と仲間になってくれて、一人にさせなかった皆が居るからバイドになる誘惑を断ち切れたんだ。
「命令だアルファ。
どこにも行くな。
バイドだろうがなんだろうがアルファは俺の艦載機で仲間なんだ。
だから、絶対に何処にも行くな」
『……了解』
アルファの答えに俺は漸く立った腹が治まる。
「え〜と、イ級。
その、ごめんね」
一区切りを見計らって北上がそう謝る。
「いや。
北上がそう疑問に感じるのもしょうがないよ」
俺だってその可能性を考えたんだ。
北上がそう考えても責められない。
「それはそうと島風がアルファを求めてる件はどうなのですか?」
そう鳳翔が先の疑問を投げ掛ける。
「それは俺も気になってたんだよな」
正直わざわざアルファを欲しがる理由が分からん。
『オソラクデスガ、島風ハバイドトシテ不完全ナ状態ナノカト』
「どういうこと?」
『バイドハアラユルエネルギーヤ物質ヲ取リ込ムコトガ出来マスガ、同時ニ地球ノ生物ト同ジ二重螺旋構造ノ塩基配列ヲ基礎トシテイマス。
コレハ推察ノ域ヲ出マセンガ、バイドハ雌雄同体デアリマスガ何等カノ理由ニヨリ島風ハ雄ノ機能ヲ持タズ、マザー化ガ完了シテモ島風単一デハ汚染サセルノガ限界ナノデハナイカト。
故ニ完全ナバイドデアル私ヲ取リ込ミ雌雄同体ヘノ進化ヲ完了スル意図ガアルノデハナイカト考エラレマス』
……うん。全く分からん。
「えっと、つまりアルファを取り込むと島風は子を成す事が出来るということですか?」
『大体正シイカト』
………マジで?
「なんていうか、質の悪い求婚相手に迫られてるみたいな話だな」
「それも叶ったら世界を滅ぼす一大恋愛ってやつ?」
「イイ迷惑ネ」
鳳翔の要約に皆が皆どっと疲れたように溜息を吐く。
本当に、なんでこんなことになったんだよ…。
凄まじく疲れた気持ちで島に帰還すると、島風達の監視にアルファが近海に残り俺達は早速工廟に向かう。
「お帰り。
一応無事とは聞いてたけど安心したよ」
そう言う明石に礼を言って俺は本題を切り出す。
「明石。至急R戦闘機の開発を始めてくれ」
「それは構わないけど資材はどうするの?」
「戦艦棲姫が融資してくれることになった。
……借金だけどな」
「……そう」
返済計画の練り直しに明石も肩を落とす。
「っと、そうだった」
肩を落とした明石だがすぐに立ち直り鳳翔にR戦闘機らしき白い艦載機を差し出す。
「取り敢えず鳳翔にこれね」
って、また勝手に開発してたのかよ。
お前は大鳳に取り憑かれ資材を溶かし続ける廃人提督か!?
そんな内心の突っ込みを余所に受け取った鳳翔はその異様に眉を寄せる。
「なんですかこれは?
まるで杭打ち機みたいな物を抱えているんですが?」
鳳翔の言う通りその白い機体の下部には機体とほぼ同程度に大きな杭を抱えていた。
よく見ればコクピットの両サイドにシールドみたいな風防も着いてるし、つかこれなんなんだ?
「その機体の名前は『ハクサン』。
電磁加速させた杭を相手に撃ち込んで内側から波動エネルギーで対象を撃破するっていうコンセプトの機体らしいよ」
そうドヤと言わんばかりに決める明石。
いやさ、
「なにその浪漫機体」
航空機にインファイトっていうかゼロ距離格闘させるって馬鹿じゃねえの?
つうか、理屈云々よりそんな阿呆な機体を鳳翔に渡してどうすんだよ?
「……悪くないですね」
「え゛」
ためつすがめつハクサンを確かめる鳳翔が本気で嬉しそうなのは気のせいだよね?
お願いだからお前だけは原作のイメージ壊さないで!!??
そんな俺の願いなんてどこ吹く風と鳳翔は自信満々に告げる。
「私の妖精さん達なら使いこなしてみせるでしょう」
なんでこんなことになったんだ!!??
『御主人!!』
頭を抱えたくなる俺に突然アルファが通信を寄越した。
「どうした!?」
まさか島風のマザー化が完了したのか!?
なるべく焦りを堪えアルファの報告に耳を傾ける。
『戦艦棲姫カラノ資材ヲ輸送シテイルト思シキ深海棲艦ノ艦隊ガ襲撃ヲ受ケテマス』
「げっ」
それはそれでヤバイ。
「相手は?」
『重巡ヲ旗艦トシタ水雷戦隊デス。
鎮守府ノ艦娘ノ模様』
その報告に走った緊張が和らぐ。
どうやら普通に通商破壊作戦している艦娘に見付かっただけらしい。
「ともあれほっとく訳にも行かないな」
資材が届かないと困るし借金だけ貯まるなんて冗談じゃない。
「ちょっくら救援に行ってくる」
「俺も行くよ」
そう名乗りを挙げる木曾。
「いや…」
「……」
う…。
俺一人で大丈夫と言いかけてじっと睨まれてしまう。
「じゃ、じゃあ手伝ってくれ」
すごく言い難いけど頑張ってそう頼むと途端に笑顔になる木曾。
「任せろ!」
嬉しそうに先に行く木曾にかなり複雑な気分になる。
なんつうかさ、腑に落ちきらないんだよな。
鳳翔にとっつき持たせてしまった…
いやね、最初はそんなつもりなかったんだよ?
たださ、あの超玄人向け機体を使えるのは限界を踏破した超絶技巧持ち妖精さんを擁する鳳翔以外無かったんだよ…。
とまあ言い訳はこの辺りにして今後もRは増えてきます。
四機は確定してて後はどうしようかな…
ちなみにうちに大鳳はいません。