なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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アマリコノ姿ハ見ラレタクナイ


戻ッテコレタケド

 イ級の要請で出撃した北方棲姫達だが、突然の波浪の連続に急いで錨を降ろし波に耐えていた。

 

「姫ちゃん頑張って!」

「くるなー!?

 くるなー!!??」

 

 100メートルクラスの巨大な艤装が幾つもの錨を下ろしてなお船体は激しく揺さ振られ北方棲姫が注水と排水を繰り返し立て直そうと頑張る中、甲板では摩耶達が船酔いを起こしのたうちまわっていた。

 

「クソが…。

 艦娘が船酔いだなんて…うぷっ」

 

 悪態を吐くもせりあがる吐き気には勝てず中身を被り空となったバケツに頭を突っ込む摩耶。

 

「大丈夫? オ水持ッテクル?」

「すみません」

「感謝ですぅ…」

 

 ワ級の介護に複雑な思いに駆られながらも船酔いには勝てず大人しく厚意を受け取る潮と春雨。

 千代田と明石は荒れ狂う波が来た方向、おそらくイ級達が戦っているだろう方向に目を向ける。

 

「これも雪風の力なのかな?」

「分からない…。

 だけど、無関係じゃないと思う」

 

 海の機嫌さえ操る事が出来るというなら雪風はほぼ無敵といって差し支えない力を持っていることになる。

 装甲空母ヲ級のような自身の力で他を圧するのとは違う強敵に明石はごちる。

 

「行く前に渡しておけばよかった」

 

 鳳翔の部屋を訪れた際、明石はイ級に内緒で開発した新しいR戦闘機を渡すつもりだった。

 このR戦闘機はおよそ戦闘機とは思えない兵装のため最初に試験した瑞鳳は、あまりのピーキーな性能に自身の妖精も含め並の妖精ではまともに扱うことは出来ないという評価を下すと共に軽くトラウマを刺激され装備を辞退したので鳳翔に渡すはずだったのだ。

 千代田から相手はバイド汚染された艦娘と聞き、あの時に渡せていればと後悔の念を募らせる。

 そこに突如荒れた海面から一隻のヨ級が北方棲姫のすぐ側に浮かび上がって来た。

 

「オマエタチ、イマスグヒキカエシナサイ!!」

 

 島の事を知っている辺りどうやら戦艦棲姫の旗下の者らしいヨ級が大声でそう指示するが、明石達は大声でそれを断った。

 

「そうもいかないよ!!

 向こうにはイ級達の救助に行かなきゃならないんだ!!」

 

 そう言うとヨ級はその必要はないと言う。

 

「アノコタチハコチラデカイシュウシタワ!!

 ダカラヒキカエシナサイ!!」

「姫が動いた…?」

 

 確かにバイドは座して眺めていい相手ではないが、戦艦棲姫はまだバイドの脅威を知っていない筈。

 

「ワタシハモウイクワヨ!!」

「ええ!!

 教えてくれてありがとう!!」

 

 礼を述べるとヨ級は手を振り水面下に消えていく。

 その様子に摩耶を介抱していた羽黒が問うた。

 

「貴女達は何者なんですか?」

 

 艦娘でありながら深海棲艦と連携を行い、かつ先の島風達に起きた異変の元凶に着いても知っている素振りを仄めかしている。

 

「何者か……ね」

 

 そう言われるのも仕方ないかなと思いながら明石は少し考えそのまま答えた。

 

「私達はただのどっちつかずだよ」

 

 艦娘として深海棲艦を祓う事を選ずに共生し、かといって深海棲艦に与して人類に砲を向けるわけでもない。

 それでいて己達の安寧に関わる敵であればどちらにも敵として立ち向かう。

 そんな、姫と大本営のどちらからも要注意される危険分子(イレギュラー)

 周りからはそう思われているとしても、明石達の本当は一つ。

 あの変な駆逐イ級に出会い、あいつが居るから集まっただけなのだ。

 

「私はただあの駆逐イ級がやりたい事に付き合うだけだよ」

 

 興味があるからねと嘯く明石に羽黒は首を横に振る。

 

「納得できません」

 

 理解したくない明石の言にそう言うと羽黒は向かうはずだった沖合に視線を向ける。

 

「そんなの、羨ましいじゃないですか」

 

 荒波に掻き消してもらうように羽黒は小さく漏らし、明石達はそれを聞かなかった事にする。

 そうしているうちに波が大分穏やかになっていた。

 

「…これならもう大丈夫かな?」

 

 そうごちて北方棲姫の方を見ると、かなり怖かったのか涙目で瑞鳳にあやされる姿があった。

 

「こわかったよままぁ」

「よく我慢したね姫ちゃんはとっても偉いよ」

 

 縋り付く北方棲姫を猫可愛がりでべたべたに甘やかす瑞鳳に明石は仕方ないなと苦笑しながら羽黒に尋ねる。

 

「波が落ち着き次第私達は引き返すけど、途中まで護送しようか?」

「いえ」

 

 明石の労りに羽黒は事態を口にする。

 

「全員の体調が調い次第降ろしてください」

「…そうかい」

 

 馴れ合うつもりはないと言い切る羽黒に何かを問うこともなく明石はごちる。

 

「厄介な事だね。全く」

 

 

〜〜〜〜

 

 

「ヒメ。

 ゼンインノカイシュウオワリマシタ」

 

 住まいとする戦艦武蔵の艦橋に設えられた椅子に座りタ級から報告を聞いた戦艦棲姫はテーブルに置かれたカップを手に取り「そう」と言う。

 

「入渠を済ませたらこちらに来るよう言っておきなさい」

「ワカリマシタ」

 

 指示を受けタ級が下がる。

 戦艦棲姫はカップをテーブルに置くと小さく溜息を吐いた。

 

「招かざる客人は無事に旅立ったようね」

 

 『彼等』はこの星にいつか来るであろう『始まりの悪夢』を滅ぼすために『総意』に招かれたと言っていた。

 その出先にイ級達の窮地を知り、逗留させてもらった駄賃と部下の不始末を賄うため彼等の保護に一役買って出て行った。

 

「度し難い事ね」

 

 『始まりの悪夢』が何なのかを聞いた戦艦棲姫は愁う。

 人の業は己を護るためなら悪夢を繰り返す事も厭わないと知ってしまった。

 それがどれだけ虚しい事か分かっていてそれでも繰り返そうというのか。

 

「……私達には関係ない事ね」

 

 『総意』はそれを容認しなかった。

 そして『彼等』はそれを認めなかった。

 故に、『総意』は『彼等』を招き、『彼等』は応じこの星に帰って来た(・・・・・)

 そんな優しい彼等に戦艦棲姫は届かないだろうと思いながらも言葉を贈る。

 

「さようならを提督。

 悪夢となっても人間で在り続ける貴方達の献身は、例え誰も知らずとも私が覚えておきましょう」

 

 戦艦棲姫が深海から空を仰いだ同時刻、太陽系の終端で空間が揺らめいた。

 それは宇宙全体から見れば海に落ちた一滴の雨粒程度の揺らぎであったが、雨水が海を作るようにその存在は何れ宇宙そのものを侵す『始まりの悪夢』と呼ばれる存在だった。

 

「漸く、ここまで来た」

 

 彼はこの行動が何を招くか正しく理解していた。

 だからこそ、帰ることも叶わぬ片道切符を受け取り『始まりの悪夢』を引き連れこの地へと向かったのだ。

 ……しかし、

 

「……なんでだよ?」

 

 彼は目の前の光景が信じられず呻いた。

 

「なんで、お前達がここに居るんだよ?(・・・・・・・・・・・・・)

 

 彼がやった事と同じように空間が揺らぎ、そこから絶望的な数の『悪夢』が姿を現していく。

 

「なんでお前達かここにいるんだ悪魔(バイド)!!??」

 

 赤い戦艦を旗艦とした大艦隊を前に彼は叫ぶ。

 

『悪夢は繰り返させない』

 

 彼の叫びに赤い戦艦が答える。

 

『我々の歴史は繰り返させない

 例えそれが、我々の歴史の滅びとなろうとも』

 

 そう宣う『声』に彼は笑う。

 

「はっ、流石バイドだ。

 なにもかも滅ぼそうっていうんだな」

 

 そうはさせないと『始まりの悪夢』は己の役割を全うするため牙を剥く。

 

「来いよバイド。

 俺達を滅ぼそうっていうなら、何度だって滅ぼしてやるからよ!!」

 

 彼の咆哮と同時に『鏑』から始まった『終幕』が光の尾を引きながらバイドの群れへと突撃。

 赤い戦艦はその突撃に対し正面から相対。追随する幾百もの『悪魔』達に命ずる。

 

『滅ぼせ!!

 悪夢の幕引きを今ここに。

 そしてあの青い星を、我等の故郷を今度こそ護るのだ!!』

 

 戦艦の号令に従い『悪夢』が牙を一斉に奮い『始まりの悪夢』へと襲い掛かった。

 

 

〜〜〜〜

 

 

『?』

 

 絶対に誰にも知られたくない黒歴史を刻んだアルファはその後も後紆余曲折を経てをなんとか目的の物を手に入れ帰還している最中、ふと懐かしい波動を感じ何故だと思った。

 

『コレハ提督ノ…?

 デモ、ドウシテ?』

 

 提督の波動を何故地球の近くで感じたのかと疑問に思うアルファだが、確認したい気持ちを堪えイ級の元へと向かう。

 そうして幾つもの次元の壁を越えて、途中平行世界に迷い込むトラブルを起こしたものの漸くイ級の居る世界に到着した。

 

『御主人ノ位置ハ…』

 

 出る前に確認した波動を探すアルファだが、先に島風の波動を捉え、その波動に異変が起きていることに気付いた。

 

『増エテイル。…イヤ、ソレダケジャナイ。

 マザーヘノ進化ガ始マッテイルノカ』

 

 新たに増えた二つのバイドの波動と島風が発する波動の変化から猶予はあまりないと確信しアルファはイ級の波動を探る。

 

『海底……戦艦棲姫ノ住居カ?』

 

 木曾やヲ級等の反応もあるので、もしかしたら偶然が重なり木曾達も巻き込んで島風と戦闘になり事情聴取に呼び立てられたのかもしれない。

 すぐに合流するべきと考えたアルファは次元航行を駆使し直接武蔵へ赴く。

 するとアルファの予想通りイ級はバイドとなった島風の対策を話している最中だった。

 

『御主人』

「!?

 …って、アルファか?」

 

 次元越しに呼び掛けたアルファにイ級は驚き尋ねる。

 

『ハイ。

 遅クナリマシタガ任務完了シマシタ』

「そうか」

 

 と、イ級はそこで訝む。

 

「なんで次元を挟んだまま会話してんだ?」

『ソレガ…』

 

 アルファとしてはあまり話したくないが、かといってこのままでもいられず理由を語る。

 

『実ハ探索中ニトラブルガ起キテ形状ガ変ワッテシマッタンデス。

 ナノデ、マズハ会話デ私デアルコトヲ確認シテモライタカッタンデス』

「姿が変わったって、大丈夫なの?」

 

 それなりに心配した様子で尋ねる北上にアルファはハイと言った。

 

『性能ハ格段ニ強化サレテイマスノデ。

 用意シタ対バイド兵器ト併セテ勝率ハ上ガッタト言イ切レマス』

 

 そう答えるアルファに木曾も安堵の息を吐く。

 

「強化はともかくアルファに問題がなかったほうが安心したよ」

『皆…』

 

 バイドである自分を本気で心配していてくれたことを言葉とそれぞれの波動が雄弁に語ってくれてアルファは本当に彼等に出会えたことを感謝した。

 

「さてと、事情も把握したしこっちは心の準備も出来たからそろそろ出てこいよ」

『ワカリマシタ』

 

 イ級に促されアルファは空間を波立たせイ級達の前に姿を見せる。

 

「「「「………」」」」

 

 更にグロテクスで醜悪な外見になっていると思っていたイ級達は新たなアルファの姿に絶句する。

 アルファは以前のような戦闘機から肉塊が沸き出したグロテクスさは成りを潜め、どちらかと言うと芋虫型の肉塊を素材に戦闘機を完成させたようなかなり纏まった姿になっていた。

 ただ、その形状は先も述べた通り芋虫に近く、更に丸い先端に続く部分が鰓張っていたりと思わず…

 

「え〜と、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲みたいになっちゃったんだね」

 

 必死に言葉を選んだ北上の苦肉の感想にアルファはがっくりとうなだれる。

 

『ヤハリソウミエマスカ?』

「……うん」

 

 下手な嘘を言うのも悪いと頷くイ級。

 さもなくば特殊な使い道のマッサージ機を彷彿して木曾と鳳翔など真っ赤になって顔を背けてしまっている。

 

『次元ノ狭間ニ戻リマス』

 

 いたたまれなくなって姿を隠すアルファ。

 

「待て待て。

 確かに驚いたけどよ、姿が多少アレな感じになっても俺は気にしないぞ」

『アリガトウゴザイマス。

 デスガ、ヤハリTPOハ弁エテ然ルベキカト』

 

 次元の狭間に姿を隠し声だけでそう言うアルファ。

 

「ま、まあアルファがそうしたいなら無理強いはしないが」

 

 よっぽど今の姿は納得いかないんだなと思うイ級。

 そんな態度がちょっと可愛いかもとそう思われつつイ級は尋ねる。

 

「因みにその姿に名前はあるのか?」

『ハイ。

 『バイドシステムβ』ト』

「じゃあベータって呼ぶほうがいいか?」

『アルファデオ願イシマス』

「分かったアルファ」

 

 と、そこでイ級は言い忘れてた事を思い出す。

 

「そうだアルファ」

『ナンデショウ?』

 

 イ級にとっては当たり前の言葉を口にする。

 

「お帰り」

『……ハイ』

 

 しかし、それは、アルファとそして地球を旅立った全員ががかつて本当に欲しかった言葉だった。

 




 ということで提督はF-Cルートを壊しに来たのでした。
 と言っても実はここはR-TYPEの26世紀じゃないので彼は運悪くルートを外れてしまっていたんですけどね。
 とはいえ地球にたどり着いたら深海棲艦が滅び艦娘が消えてR-TYPEが始まることになると言う展開ががが・・・

 それと始まりの悪夢は101っぽいですが明言はしません。

 何故ならクリアした人によって機体変わっちゃうから。←

 つまるところ提督にヌッ殺されるのは貴方で(超重力砲)

 後バイドシステムβはなんであんな形に加工したのか小一時間問い詰めたい。

 だってご立派様に見えた瞬間そうとしか思えなくなったんだよ!!

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