どうして?
「テメエ!!??
よくも雪風を!!??」
「抑えて摩耶さん!!
今はとにかく退くんです!!」
「クソが!!」
どうしてあの人は分ってくれないの?
この世界に私達の居場所なんてないのに。
誰も私達を理解なんてしてくれない。
「逃げるなんて我慢できないっぽい!!
雪風の仇討つっぽい!!」
「あの連想砲ちゃんの防御力は異常です!?
私達では突破出来ません!!」
「島風ちゃん!! もう止めてください!?」
私はあの人と一つになりたいだけなのに。
そうすれば皆一つになって幸せになれるのに。
なのに、どうして?
「島風!!??」
あの人の波動を感じ、私はそちらを振り向く。
そこにあの人はいない。
代わりにあの人の波動を少しだけ感じたから助けた艦娘が居た。
アイツはダメだったけど、この艦娘だったらあの人を説得してくれるかな?
「島風。お前、なにをやっているんだ!?」
今度は失敗しないようちゃんと説明したほうがいいかな?
「私、ずっと待ってるのにあの人が来てくれないの」
「何を…?」
「私はあの人と一つになって皆と一緒に幸せになりたいのに、あの人はそれを拒むの」
「一体何の話なんだ?」
ああ。やっぱり分かってくれないのかな?
それともこの娘もあの人と違うからちゃんと伝わらないの?
「あのさ、何がどうなった訳?」
助けた娘と似てる娘がさっき私が仲間になってもらおうとした娘に話し掛ける。
「どうもクソもあるか!?
はぐれ艦かと救助してやろうとしたらコイツ、訳の分からねえことばっかり言っていきなり雪風を沈めたんだよ!!」
何を言ってるの?
私はあの娘に仲間になってもらっただけなのに。
「本当なのか島風?」
やっぱり駄目みたい。
一緒になれば分かってくれると思うんだけど、あの人と一つになっていない私じゃちゃんと仲間に出来ないのに。
「なんとか言えよ!?
なんで雪風を沈めたんだ!!??」
理解してもらいたいけど、違うから仕方ないみたい。
もうすぐ仲間になってくれた娘が来るけど、待たないで私が皆仲間にしちゃおう。
「落ち着きなさい。
島風ちゃん。
先程から貴女は誰かと一つになりたいとおっしゃってますが、一つになるとどうなるというのですか?」
助けた娘と一緒にいる艦娘が私に尋ねる。
…あ、そうか。
私、そのことを話してないんだ。
それじゃあ皆分かってくれないよね。
違うんだもの。
「皆一つになるの」
「皆?
それは、私達もということですか?」
やっと分かってくれた。
「そうだよ。
あの人と一つになれば私はマザーバイドになれるの。
そうしたら皆みーんなバイドになって幸せになれるの」
バイドになれば皆一つになって、もう誰かがいなくなることも、分かりあえなくて辛かったり悲しかったりすることもなくなるの。
それはとっても素敵な事なんだよ。
「バイドって…正気かお前?」
「どうして?」
どうしてそんなに怯えるの?
私がやりたいことが幸せだって分かってくれたんじゃないの?
「もしかしてさ、これがアルファの言ってたバイド汚染ってやつなんじゃない?」
「そう…だよね。
一つになるって言っているし」
どうして?
ねえ、どうしてなの?
「何がバイドだ!! このイカレ野郎が!!??」
どうして みんな 私に銃をむけるの?
〜〜〜〜
始まりは唐突だった。
「…あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
摩耶が砲門を向けた瞬間、泣き叫ぶような島風の慟哭と同時に連装砲ちゃんが猛然と砲弾をばらまき始めた。
「なっ!?」
常識を越えた連射速度は機銃を、下手をすればファランクスの弾幕にも引けをとらない密度で弾幕を張り、無差別に艦娘全員に牙を振るう。
「ちょっ、冗談じゃないよ!!??」
必死に射角から逃れようと機関を全開にして走りながら北上が悲鳴を上げる。
同じく走りながら木曾が千代田に叫ぶ。
「千代田!!
ミッドナイト・アイだ!!
バイドを倒すには波動砲しかない!!」
バイドには通常兵器は効かない。
倒すには同じバイドか波動砲を用いる以外方法は無いとアルファから言われていた木曾が指示を飛ばすも千代田は無理と言う。
「この弾幕じゃ発艦させられない!!
無理に飛ばしても速度が乗る前に落とされちゃう!?」
凄まじい弾幕だが同時に密度任せで狙いも何も無いただひたすらばら撒くだけ故に被害はカス当たり程度で抑え込めているが、艦載機を飛ばすほどの余裕は無い。
「もう我慢の限界っぽい!!」
そこに夕立が無謀とも言える吶喊を敢行。
「夕立ちゃん下がって!?」
潮と春雨を防護する羽黒が制止の声を飛ばすが夕立は止まらない。
「こんなもので、夕立は止められないっぽい!!」
弾幕に身を削られながら連装砲を撃ち魚雷を投げ放つ夕立。
しかしそれを察知した島風が吠える。
「サーチ!!」
直後、連装砲ちゃんが弾幕を撃つのを止め島風目掛け飛来する砲弾と魚雷目掛け体当たりを実行。
砲弾と魚雷を正面から受け止め更に夕立目掛け襲い掛かる。
「夕立避けろ!!??」
夕立を連れ戻すため走る摩耶が叫ぶが、回避する間もなく連装砲ちゃんが夕立に迫り、艤装と左肩から脇腹までを刔り取った。
「夕立ーーーーー!!??」
摩耶が絶叫する目の前で夕立が力を失いぐらりと傾ぐ。
「ごめん雪風…仇、討てなかったっ…ぽい」
そう言い残し、ざぱんと水音を起て夕立が沈んでいく。
「そんな…夕立…」
目の前で沈んだ夕立が信じられず茫然と佇む摩耶目掛け連装砲ちゃんが迫る。
「摩耶さん!!」
潮の悲鳴が響き摩耶まで連装砲ちゃんの餌食となると思われた刹那、カシャリとシャッターを切る音と同時に連装砲ちゃんが爆発して摩耶と連装砲ちゃんが吹き飛んだ。
「がっ!?」
衝撃でバランスを崩し頭から海水を被る摩耶。
「摩耶さん!!??」
慌てて駆け付けた羽黒達に起こされようやく頭が回り始めた摩耶は自分を助けた物の正体に驚く。
「戦闘機…?」
噴式機関らしきノズルから炎を噴いて滞空する偵察機のような大型戦闘機。
それは島風のサーチ攻撃の隙に千代田が発艦させたミッドナイト・アイであった。
「今のうちに下がって!!」
千代田はそう叫ぶとミッドナイト・アイのカメラ波動砲の効果に木曾が叫ぶ。
「いいぞ!!
ミッドナイト・アイなら連装砲ちゃんにもダメージが入れられる!!」
カメラ波動砲を受けた連装砲ちゃんは身体の一部が凹み僅かだが動きが悪くなっていた。
「このまま押し切るよ!!」
千代田の号令に再びカメラ波動砲のチャージングを開始しながら島風目掛け飛翔するミッドナイト・アイ。
しかし島風もただ座して待つわけが無い。
「壊せ!!」
怒りと悲しみでぐちゃぐちゃになった顔で叫ぶ島風に呼応し連装砲ちゃんが近づけまいと弾幕を展開。
放たれた弾幕は先と違いミッドナイト・アイを中心に木曾達に集中していた。
「くぅっ!?」
これには堪らないと千代田はミッドナイト・アイへの指示を妖精さんに一任し自身も回避行動に専念。
しかしそこで鳳翔が走りながら弓を番えた。
「各員行きなさい!!」
走りながらとは思えない完璧な射を放つ鳳翔。
矢は即座にベアキャットに変化し凄まじい弾幕へと突っ込んでいく。
「無謀だ鳳翔!?」
いくら烈風とも比肩する高性能なベアキャットとはいえミッドナイト・アイでも回避は困難と距離を離さざるをえない状況に木曾が言うが、鳳翔は大丈夫と強気な笑みと共に嘯いた。
「全員鈍りは抜けています。
私に妖精は一味違いますよ」
B-29の囮となった時、妖精達は長らく続いた教導ばかりの生活にその腕を錆び付かせていた。
その結果鳳翔は傷付き多くの艦娘が死ぬ結果となった。
その事を悔やみ恥じた妖精達は錆びた腕を磨き治し、かつて空母最弱の鳳翔を姫と渡り合わせ鬼子母神という褌名まで与えさせるまでに到った最高のパイロットとしての実力を取り戻していた。
鳳翔の言葉通り弾幕の中を突っ切るベアキャットはまるで当然とばかりに迫り来る弾幕を躱し、擦り抜け、島風へと肉薄する。
「凄い…」
熟練の妖精なら九九式艦戦で烈風を圧倒する事もあることは有名な話だが、鳳翔の手繰る妖精は熟練という枠を越えている。
草江や友永といった著名な隊の名を戴く妖精にさえあれほどの動きは果たして出来るか?
そう思わせるほどにベアキャットの機動は一切臆する様子のなく勇猛で針の穴を通すように緻密だった。
弾幕を擦り抜けたベアキャットが次々と島風に機銃を浴びせると、島風は艦船時代のトラウマが蘇り半狂乱しかけながら一刻も早くベアキャットを叩き落とすため攻撃を切り替えた。
「サーチ!!」
当たれば艦娘さえ一撃で屠る連装砲ちゃんの体当たり。
だが、連装砲ちゃんはベアキャットではなく海中に向かって吶喊、海中から次々と水柱が立ち上る。
「あのさぁ、あんまり私の事無視しないでよね?」
その正体は逃げながらも機を伺い続けた北上が放った魚雷であった。
「まあなんていうの?
バイドだかバイトだかしんないけどさ、あんまり過信してると痛い目見るよ?」
直後、誰もいない方角から放たれた魚雷が島風に直撃する。
「へへっ。甲標的にはこんな使い方もあるんだよね」
魚雷を放ち浮かび上がって来た甲標的を拾いに走りながら北上はへらりと笑う。
確かに島風は圧倒的なまでに強い。
しかし、巨大装甲空母ヲ級と比較すれば付け入る隙がある分まだ余裕を持って戦える。
「……どうして?」
魚雷を喰らい自己再生のために動けなくなった島風は呻く。
「どうして分かってくれないの?
私は皆を、あの人を幸せにしたいだけなのに」
理解されない悲しみから抵抗が止まった隙をミッドナイト・アイのカメラ波動砲が捉える。
「これで、終わりよ!!」
バイドにとどめを刺す一撃が放なたれる……筈だった。
その瞬間、真下から発生した竜巻がミッドナイト・アイを飲み込み粉砕した。
「嘘!?」
なんの兆候もなく発生した竜巻に目を疑う一同。
そこに、場違いな穏やかな声が響いた。
「大丈夫」
その声の主に摩耶が信じられないと漏らした。
「どうして…」
そこに立っていたのはワンピース型のセーラー服に魚雷菅を背負い頭に電探を乗せ、手には肩紐が着いた連装砲と望遠鏡を手にした少女だった。
その少女の名をその場に居る全員が知っていた。
「雪風…?
でも、どうして!?」
沈んだはずの艦娘が何事も無かったかのように目の前に現れた事に誰もが我を忘れて呆然とする中、茶褐色の筈の瞳を琥珀に染めた雪風は島風を慰めるように優しく言う。
「貴女は何も間違ってません。
バイドになって皆で幸せになろうという貴女の考えは間違ってません」
「ふざけるな!!??」
島風を擁護する雪風の言葉に摩耶が叫ぶ。
「そいつはお前を、夕立を沈めた相手だぞ!!??
なんでそんな訳の分からない奴を味方するんだ雪風!!??」
理解できず目茶苦茶に怒鳴る摩耶。
しかし雪風は琥珀色の瞳を真っ直ぐ摩耶に向ける。
「摩耶さん。
私はバイドになってこの娘の気持ちが分かりました。
私が沈んだのも気持ちが伝わらなかっただけの悲しい事故だったんです」
「ちょっと待てよ」
聞き捨てならない台詞に木曾が震えながら問う。
「バイドになったって…島風お前、雪風をバイド汚染させたのか?」
汚染が拡大しているという事実に木曾は冷たい汗が流れる。
「汚染じゃありません。
私はこの娘に受け入れてもらったんです」
強い口調で否定する雪風に北上は笑みを引き攣らせながら口を開く。
「これはやばいわ。
アルファがバイド汚染を広げちゃいけないって言ってた意味がよく解るね」
茶化すような口ぶりだがそこに余裕は無い。
なにしろバイドに決定打を与えられる武器は今さっき突然発生して、あっという間に消えた竜巻によって失われた状態なのだから。
「逃げる?」
「どこによ?」
逃げ場などない。
撒きようにも相手は最高速艦の島風。
逃げる算段等立てようが無い。
そしてここで負ければ自分達もバイドにされ、おそらく島の明石達まで魔手は延びるだろう。
「勝つ以外道はありません」
「でもさ、波動砲無しじゃダメージ入っても倒しきれないよ?」
「それでもやるのです」
北上の発言に不退転の覚悟を表しながら鳳翔は矢を番える。
「再生といっても瞬時ではありません。
一度沈めれば時間は稼げます」
島風の受けた魚雷のダメージを再生する様子から、一度倒しきれば逃げる間ぐらいは稼げると判断した鳳翔。
その言葉に北上と木曾も艤装を構える。
「まあ、それしか無さそうだな」
「だね」
道がそれしかないのならただ行くのみと、ふとそこで北上はごちる。
「ところでさ、イ級はこの事知ってるのかな?」
「多分気付いてるだろうな」
本人は隠してるつもりだろうが、隠れてなにかしているのは島の全員が気付いていた。
「きっとあいつの事だから、バイドになっても艦娘は艦娘。
そんな風に考えて俺達が知らないところで始末を付けようとしてたんだと思う」
馬鹿な事をと僅かに苦笑いする木曾に北上も苦笑する。
「だろうねえ」
そんな気を使わず、もっと自分達を頼って欲しいと皆思ってる。
だけど、あいつはそれを良しとは思ってくれないだろう。
それを少し寂しくは思うが、だからこそイ級が深海棲艦でも信頼出来る。
胸を張って仲間だと言い切れる。
「千代田。
向こうを連れて下がってくれ」
雪風の登場で精神的なダメージを負った摩耶達は格好の獲物に成り兼ねない。
「うん。
任せるね」
ミッドナイト・アイが破壊され攻撃手段を失った千代田は素直に頷くと移動を開始。
「お願いします。
抵抗しないで私達と一緒になってください」
連装砲を手にそう頼む雪風に、木曾達は真っ直ぐ答えた。
「バイドになるぐらいなら深海棲艦になったほうがマシだ!!」
遂にやっちまった。
バイド島風に次いでバイド雪風までやらかしちゃったよ…。
因みにバイド雪風もR戦闘機の能力持ちです。
気付いてる人は気付いてるだろうけど、次で更に発揮させます。
……ああ、胃が痛い。