なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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まったく、素晴らしい悪運だな?


死んだと思ったらとんでもない奴が現れた!?

 

 刈り取られた意識が復活したのを自覚し、俺は無意識に言葉を漏らしていた。

 

「なんで生きてんだ?」

 

 着弾観測砲撃の雨の中、確かに俺は直撃弾を喰らい轟沈した筈。

 仮に応急修理女神が発動して一命を取り留めていたとしても、それをむざむざ見過ごす艦娘でもないだろう。

 

「というか、ここは何処だ?」

 

 木で囲われた小屋のような部屋の中の木枠に充たされた水の中に浮かべられていたため、ここは入渠施設なのかと考えたが、駆逐イ級である自分が浮かんでいる姿は風呂というより生簀に入った魚というほうが相応しい気がする。

 拘束されてはいないので捕まったというわけではなさそうだ。

 というか身体になんの負傷も感じないので、どうやら修理されたようだ。

 

「先ずは状況確認だな」

 

 生簀から上がり外へと向かう。

 鍵は内側から掛けるタイプなので最初からされておらず軽く押すだけであっさり開いた。

 扉の向こうは生簀と同じ木で作られた着替えのためらしき小部屋となっており、あるのは編笠の籠が一つだけのとても質素な場所だ。

 特に見るものもなさそうなので俺はそのまま通過し扉を開く。

 そうして開けた視界の先にあったのは、

 

「ジャングル?」

 

 鬱蒼と繁る熱帯地域の植物と眩しい日差しに連想しそう呟いてしまう。

 

「御明答」

 

 さほど大きくなかった自分の声にそう答えられ反射的にそちらを見る。

 

「お前は…」

 

 クレーン等およそ戦闘には適さない装備を満載した艤装を背負うピンク色の髪の艦娘に、自分は記憶を掘り返しながら尋ねる。

 

「工作艦明石…だよな?」

 

 名前を口にすると明石は興味深そうに笑う。

 

「やっぱり知っていたか。

 木曾の言った通りだね」

 

 木曾の名を口にした明石だが、別に驚く事でも無い。

 深海棲艦である自分を敵と見做していないことから、そうではないかとなんとなく予想していたからだ。

 だが同時に、いくつもの疑問が持ち上がる。

 

「ここは何処だ?」

「レイテ海域のどこか。

 地図にも載っていない小さな島さ」

 

 ゲームで扶桑がいつも口にしていたせいで興味を持ったため、そこがどんな場所かかじる程度には知っている。

 レイテと言えば日本海軍が崩壊することになった地獄の入口。

 なんでそんな場所に明石はいるのだろうか?

 

「お前が俺を直してくれたのか?」

「まあね。

 深海棲艦なんて、どう直せばいいか解らなくて苦労したよ」

 

 肩を揉みほぐす仕種を見せる明石。

 しかしその顔に嫌悪感はなく、寧ろ貴重な体験をさせてもらったことを感謝するといいたげに見える。

 

「そうか。

 感謝する」

 

 そう言い俺はアルファを呼ぶ。

 しかしアルファは何故か姿を見せない。

 まさか撃墜されたのかと考えたところで明石が先に答えた。

 

「連れなら木曾と遠征中だよ。

 あんたの修理に使った資材を貯め直すためにね」

「そう、なのか」

 

 知らない間にかなり迷惑を掛けたらしい。

 でかい借りを作ったなと思い、ふと気になり聞いてみる。

 

「因みにどれぐらい掛かった?」

「たいしたことないさ」

 

 そう言った明石だが、

 

「ざっと燃料700の鋼材1000ぐらいさ」

「……」

 

 なにその馬鹿げた出費?

 高レベル戦艦と同等の資材が低レベルの駆逐艦の修理に吹っ飛ぶってどんだけだよ?

 

「……時間は掛かると思うが必ず返す」

 

 オリョクル一万回もすれば多分払えると目算してそう言うと、明石は何故か愉快そうに笑った。

 

「ははっ、やっぱり聞いた通りだね」

「なにがだ?」

「深海棲艦らしくないっていうことがだよ」

 

 そう笑うと明石は海岸に目を向ける。

 

「噂をすればってね」

 

 その言葉に俺も視線を向けると、ドラム缶を引きずる木曾とアルファ、そして見慣れぬ奇妙な存在が居た。

 

「なんだありゃ?」

 

 潜水服というか密閉式潜水具と言うような鉄の塊に身を包んだその姿に、俺はおもわず火炎放射器を携えたインビブルな人間兵器を思い出した。

 

「元気な姿を見せてやりな。

 私は茶の用意をしておいてやるからさ」

 

 そう言うと明石が俺を押し出す。

 今更何を話せとと思いながらも俺は俺の姿に安堵の表情を見せる木曾とアルファに声を掛ける。

 

「木曾、アルファ!」

「イ級!!」

 

 ドラム缶を放り出し俺の元に駆け寄る木曾。

 

「もう大丈夫なのか?」

「ああ。

 違和感は感じない」

 

 流石明石だと頷く木曾。

 

「アルファ、無茶を頼んで悪かったな」

『問題アリマセン』

 

 そうアルファは誇らしげに言う。

 

『ジェイド・ロス提督トノ旅路ニ比ベタラ楽ナ任務デシタ』

 

 誰だよジェイドロスって?

 

「取り敢えず…」

 

 謎の三人目に目を向ける。

 

「あれは?」

 

 近付いてみて気付いたが、胸の辺りに星条旗が描かれている。

 どうやらアメリカの艦娘らしい。

 

「ああ」

 

 説明を求める俺に木曾は語る。

 

「あいつがお前を連れて来たんだ」

 

 そう言った木曾だが、その顔にはあまり歓迎する気配は無い。

 毛嫌いというより関わりたくないという感じだが、アメリカ産の艦だからだろうか?

 ともあれ直接の恩人とあれば礼を欠くのも悪い。

 

「お前が俺を助けくれたらしいな」

 

 感謝すると言うと、そいつはたいした事なんてないわ。とどこか高慢さを感じさせる口調で言う。

 

「っと、顔も見せないなんてレディとしてみっともないわね」

 

 そう言うとそいつは顔を覆っていたヘルメットを外す。

 ヘルメットの下から現れたのは緩くウェーブの掛かったゴールドブラウンの髪と透き通るような白い肌。

 そんなモデルのような美人は海軍式の敬礼と共に己の名を名乗った。

 

「ガトー級潜水艦の七番艦『アルバコア』よ。

 黄色い猿がどこまでか進歩したのか、この目で直接見せてもらうわ」

 

 ……うん。こりゃあ木曾が嫌がるのもしかたねえ。

 

 

〜〜〜〜

 

 

「Fuck!!??」

 

 荒々しく蹴り飛ばされる空のバケツ。

 怒りを矛先となったバケツは無残にひしゃげ、壁にたたき付けられた後からんと乾いた音を立てた。

 

「お気持ちは解りますが落ち着いてください姉様。

 後、婦女子らしからぬ発言は控えてください」

 

 抑え切れず当たり散らす金剛を宥めようとする霧島だが、怒発天を突き抜け切った金剛は怒鳴り散らす。

 

「ヤンキーに好き勝手されたんデスヨ!?

 これが我慢できるわけないネ!!」

 

 憂さをたたき付けるようにガンガン蹴り飛ばされるバケツ。

 容器としての機能を失っているがそれでも金剛の蹴りは止まらない。

 それも仕方ないかと霧島は溜息を吐く。

 アメリカは敗戦に次ぐ敗戦でハワイを放棄するまでに追い込まれ、現在は真珠湾を挟み東西を分断され、彼の地の現状その子細は全く分からないでいた。

 にも関わらず、今日になって突然現れ好き放題こちらを罵倒したあげく、回収しようとした件の駆逐イ級を掻っ攫われるという屈辱を味わったのだ。

 

「誰がババアだBitch!!」

 

 お陰で金剛は荒れに荒れ、旗艦でありながら報告も禄にままならないため榛名が代理で報告に出ていた。

 ちなみに部屋の中には比叡もいるのだが、金剛のあまりの剣幕に怯え部屋の片隅で体育座りでガタガタ震えている。

 そうした非常に悪い空気の中、霧島は姉二人の無様に呆れつつもその思考は全く違う方向に向いていた。

 アルバコアがこちらに来たということは、他の艦だって来ていておかしくはない。

 とすれば、あの『臆病者』も来ているのか?

 

「……ふ」

 

 そう考えた霧島の口角が、とても嗜虐的な形にゆっくりと持ち上がる。

 綾波に張り倒された事で怯みとどめも刺せず逃げ出し、死にかけてもなお牙を剥いて戦おうとした夕立の鬼気迫る姿に怯え逃げ出し、終いには自分との殴り合いで不利になるや傍観していたワシントンに泣き付いて自分を始末させたあの恥知らずなサウスダコタともう一度会えるかもと考えるだけで霧島は気分を昂揚させていた。

 

「ふふふ…」

 

 奴はどんな顔をするのか?

 あの時のように泣いて許しを乞うのか?

 はたまたまたワシントンに泣き付いて助けを求めるのか?

 どちらにしろ、両方ともぶち殺す。

 三式弾なんて生易しい物は使わず、九一式鉄鋼弾を満載した46cm三連砲でじっくりと嬲り殺しにしてあげると堅く誓う。

 

「ふふふふふふ…」

 

 必ず、必ず敵として現れなさい。

 嗜虐に充ちた笑みを湛え低い笑い声を漏らす霧島。

 

「ひえ〜〜」

 

 姉に続き妹までおかしくなってしまい、比叡はひたすら癒しである榛名が戻って来る事を部屋の隅で震えながら願うばかり。

 そんな願いが通じたのかようやく榛名が戻って来た。

 

「ただ今戻り…」

 

 しかし、部屋の中には憤怒の貌でバケツだった鉄の塊を踏み続ける金剛と部屋の片隅で震える青ざめた比叡。

 それに、更にソファーに座ったまま恐ろしい笑顔で怪しく笑い続ける双子の妹の姿に固まり…

 

「……」

 

 何も見なかった事にしようと無言で扉を閉める。

 

「待って!!??

 お願いだから帰って来て榛名ぁ!?」

 

 情けなく助けを求める姉の声に仕方なく現実を受け入れた。

 

「提督から今後の方針に付いて通達を受けてきました」

 

 その言葉に即座に食いつく金剛と霧島。

 

「Kill!?

 あの糞アメリカ女をぶっ殺すんですネ!?」

「目標艦はサウスダコタ?

 それともワシントン!?」

「違います」

 

 凄まじい剣幕で詰め寄る二人から距離を取りつつ榛名は話を続ける。

 

「私達は引き続き南西諸島の鎮守府跡の警護をするようおっしゃられました」

「Oh」

「チッ」

 

 露骨に落胆する二人。

 対して比叡は不思議だと首を傾げる。

 

「ところでさ榛名。

 どうして指令はあの鎮守府跡地にこだわるの?」

 

 最初にあの鎮守府を砲撃するよう命じられたのは比叡であった。

 作戦内容として聞かされていた話ではあの鎮守府跡地は深海棲艦に占拠されたため、深海棲艦を排斥することと言われていたが、実際には駆逐イ級すら現れず、ただの無人の地であった。

 榛名も同様に疑問を抱きそれを尋ねているが、

 

「いえ、提督も大本営からの指示としか伺っていないそうで、可能であれば内密の内に内部の調査を行うようおっしゃられておりました」

「そうデスカ」

 

 提督でさえ知らされていないとなれば、これは由々しき事態だろうと金剛も頭を冷やし考える。

 

「仕方アリマセン。

 提督のLOVEのためにも今は我慢するデス」

 

 気合いを入れ直す金剛。

 霧島も一旦は鉾を納め榛名に問う。

 

「それで、アメリカの潜水艦と喋る駆逐イ級。

 それに、」

 

 眼鏡の位置を直しながら霧島は言う。

 

「横須賀から脱走した木曾はどうすると?」

 




次回も仲間が増えていくよ。

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