「し、死ぬかと思った…」
あの後連装砲ちゃんの追撃を躱すため深く潜りすぎて水圧で潰れかけたのだが、偶然通り掛かったソ級に助けられた。
「スナオニシズメバラクナノニ」
「不沈艦目指してるんだよ」
「ヘンナクチク」
会った瞬間介錯してあげようと善意で魚雷を撃とうとしたソ級にやっぱり深海棲艦の価値観は同調出来ねえと思った。
そんなこんなで俺は海上にとんでもなく強い駆逐艦の艦娘がいるからと説明し、そのまま海中を島まで曳航して貰い辛うじて島へと帰還することが出来た。
「世話になったな。
礼に燃料でもどうだ?」
「キモチダケデイイワ」
近くの浅瀬でそう言ってソ級は海に帰っていった。
やだ、イケメン。
「って、疲れてんな」
馬鹿みたいなことしないと平静を保てないとか相当ヤバイじゃねえか。
アルファは先に戻ってるかねえ?
先ずは入渠して治そうと裏手から風呂場に向かう。
「あ、くちくぼろぼろ〜」
と、風呂場に入ると脱衣所で上がったばかりらしくタオル一枚のチビ姫に会った。
「駄目だよ姫ちゃん。
髪をちゃんと乾かさないと…って」
一緒に入っていたらしいタオル一枚の瑞鳳と目が合う。
「どうしたのその損傷?」
「かなりヤバイ目に遭ってな。
修復剤風呂空いてるか?」
「うん。
今日は誰も戦ってないから空いてるわよ」
「じゃあ使わせてもらうわ。
後ちゃんと着替えろよ」
そう言って俺は風呂に向かう。
タオル一枚の瑞鳳とかメリハリが足りないのを除けばわりと眼福な光景なんだが、艦娘の裸は正直見飽きて何も感じない。
憧れの艦娘の生肌だってのに、美人は三日で飽きるというがえらく寂しい事実だなおい。
ともあれ俺は消費量が十倍は必要な深海棲艦用の修復剤が満たされた風呂桶に身体を浸す。
「しかし、バイドか…」
いつかこういう日がくるのかもと考えたことはあるが、実際にそうなっては欲しくなかった。
バイドに侵された物はもう元には戻らない。
汚染を拡大させないよう早急に波動砲で抹消するしかない。
しかしだ、
「勝ち目が見えない」
まだ確定じゃないが、島風自身は速力に特化した進化をしていると思う。
なんせ60ノットの最大船速で逃げた俺をあっさり捉えるぐらいだ。
少なくとも俺より速いと考えるべきだろう。
それに加え三体の連装砲ちゃんが洒落にならん。
砲撃してこなかった事が気になるけど、そんな事よりフォースを防げる上たった一回の体当たりで俺の装甲を抜いちまうぐらいの攻撃力は本気で洒落にならない。
今回はアルファに一任するしかないかもしれないなと考えたところで空間が波打ちアルファが現れた。
『御主人』
「お互い無事で何よりだな」
『……ハイ』
先ずは最悪を免れた事にお互いに安心した。
『ソレデ、話ガアリマス』
「島風の事だろ?」
『ハイ』
アルファの肯定に俺は待ったを掛ける。
「そいつはここじゃマズイ。
今回は俺達だけで決着を着けなきゃならないからな」
バイドに汚染されたって島風は艦娘だ。
それの処分についてなんて、島の皆に聞かせたくない。
『ソウデスカ』
アルファとしては別の意見らしいが、こればっかりは譲れない。
「取り敢えず上がるからカタパルトに戻れ」
『了解』
修復剤で治ったカタパルトにアルファを固定して風呂から上がる。
濡れた身体を拭き風呂を出た俺は、燃料を補給しとこうとワ級が常駐している食堂に向かった。
食堂に入るとワ級とそれに千代田と明石がなにやらテーブルを選挙している姿があった。
「どうした?」
三人が一緒に居る事自体は珍しくはないが、気にはなるので呼び掛けてみる。
「あ、ちょうどいいとこに」
そう言うと千代田が手招きした。
「だからどうしたんだよ?」
ワ級が燃料を取りに席を離れた合間に尋ねてみると、千代田が微妙な顔をした。
「実は、深海棲艦の水偵を参考に新しい艦載機を開発したのよ」
「へぇ」
随分面白そうな試みだな。
「上手くいったのか?」
「開発は成功したんだけど、なんか当初と違う物が完成しちゃって」
「どんなのだ?」
「これ」
そう言って見せたのは、アルファと同程度に大きい艦載機よりかなり大型のレーダードームを上部に装備した特徴的なジェット機だった。
なんか、どことなくアルファに似ているような?
『ブッ!?』
と、突然カタパルトでアルファが吹き出した。
「ど、どうしたアルファ?」
『ナンテモノヲ開発シタノデスカ!?』
えらい剣幕に俺達はびっくりしてしまう。
「あ、アルファは知ってるの?」
カタパルトから解放してやるとアルファはその戦闘機をためつすがめつ確認してうなだれた様子で機首を下げる。
『本物ダ、コレ……』
「いや、納得してないで説明してくれよ?」
どうやらアルファに縁がある機体みたいだけど、それじゃこっちが要領を得ないから。
アルファはうなだれた様子のまま言葉を発する。
『コレハR-9E『ミッドナイト・アイ』。
偵察専門ノR戦闘機デス』
…なんですと?
「それって、アルファの仲間?」
『ソウ判断シテカマイマセン。
運用目的ノ違イヤバイド化ノ有無ハアリマスガ』
それって、とんでもない事態じゃねえか!?
顎を外しそうになる俺を余所に明石はじゃあとなにやら取り出す。
「これもR戦闘機なのかい?」
そう言って見せたのは二つのアームが取り付けられたR戦闘機っぽい機体。
それを見た瞬間アルファがガコンとか痛そうな音を起ててテーブルに墜落した。
『R-9AF『アサガオ』マデ!!??』
淡々としたイメージが崩れさせて叫ぶアルファ。
よっぽどショックだったんだな。
「ハイ燃料」
と、そこに燃料持ってきたワ級が戻って来た。
「ありがとう。
……ん?」
そういや二人と一緒にワ級も混じってたな。
もしかして…
「なあワ級。
お前も何か貰ったのか?」
「ウン。
千代田ガコレヲクレタ」
そう、球体に両足が着いた機体を見せるワ級。
『パ、パウアーマーマ…。
モウヤダ…』
「ドウシタノアルファ?」
「そっとしておいてやってくれ」
どんな心境かまでは解らないが、とんでもなくショックだったのは確かだしな。
「それはそれとして、そいつら戦えるのか?」
R戦闘機が味方をとなるのは悪い話じゃないが、役に立つのかは別問題。
俺の問いにそれぞれが出来ることを教えてもらった。
まずミッドナイト・アイは艦戦としても使える偵察機だそうだ。
おまけにデータ解析と同時にダメージを与えるカメラ波動砲を搭載している水母も運用可能な機体との事。
フォースコンダクターが搭載れていないためフォース運用は出来ないそうだ。
明石のアサガオは残念ながら波動砲もフォースも使えないらしいが、代わりに資材採掘や精製までを可能な汎用工作機で、機体修理も出来るそうだ。
そして1番洒落にならないのがワ級のパウアーマー。
これは艦への補給能力と波動エネルギーを応用したデコイ生成機能だけじゃなく、それに加えフォースコンダクターと波動砲まで装備したアルファと同等の戦闘が可能な機体らしい。
ついでに言えばバルカン装備してるからフォースと波動砲しか持ってないアルファより使い出はいいかもしれないとのこと。
可愛い見たくれからはそんな風に見えないけどな。
妖精さんの説明にアルファが真っ白になってそうな勢いで黄昏れる。
『今マデ必死二考エテイタ私ハ一体…』
俺としてはワ級と千代田の自衛手段が増えて嬉しいだけだけど、アルファとしちゃあ複雑だよな。
「それはそれとして、もう飛ばしてみたのか?」
「まだよ。
これから試験飛行させようって話してたの」
「着いていってもいいか?」
戦っていた場所は島からはかなり離れてたし、撒いたから大丈夫だとは思うが、万が一あの島風を見付でもしたら最悪も起こりえる。
そんな事には絶対させねえ。
千代田は、何があっても守りきらなきゃなんないんだ。
「じゃあ護衛よろしくね」
「イ級ト初メテ一緒ノ作業」
あっけらかんと了承する明石とワ級が嬉しそうに喜ぶ。
ホント、ワ級は天使だよな。
「千代田もいいだろ?」
「え? …うん」
何かいいたげに、でも何も言わず千代田も頷く。
……やっぱり、千歳の事だよな。
最近は少しだけ話すようになってきたけど、島を出るときは別動するよう編成に入るし。
こればかりは、しょうがない。
そんな訳で俺達は功労者であるヌ級と新型艦載機にワクテカする瑞鳳を伴い近海を回遊する。
「いいなぁ。
噴式機関搭載型のまともな艦載機、私も欲しい」
発進準備を進めるアサガオ、ミッドナイト・アイ、パウアーマーの姿にそう呟く瑞鳳。
そういや瑞鳳と千代田は桜花を無理矢理載せられたんだっけ。
「氷川丸が開発資材持ってきたら造ってあげるよ」
「約束だからね?」
目をキラキラさせてそう言う瑞鳳。
「って、開発資材350近くあったはずだよな?」
補給の対価にと置いていくが使い道が無く山となっていた開発資材。
一体どれだけ開発したんだと尋ねると明石は苦笑いを零す。
「一機につき大型建造フル投入掛けたって言ったら?」
「……オイ」
確か、最後に確認した量は各資材25000程。
まさか殆ど使ったのか?
千代田を見るとさっと目を反らしやがった。
「いや、つい…ね?」
「ついで二万以上溶かすってどうすんだよ…」
これじゃあ超重力砲使えねえじゃねえか。
「ったく。
ちゃんと矯め直せよ」
使ったものは仕方ない。
それにR戦闘機の凶悪さはアルファという実績があるんだし、それだけの価値はあるだろう。
「とにかく、気を取り直して飛ばそうじゃないか」
無理矢理転換させるため明石がそう言うと、カタパルトが稼動し細長い手の付いたアサガオが飛び立つ。
「千代田艦載機発進します」
負けじと千代田もカタパルトを突き出してミッドナイト・アイを発進。
「パウアーマー、イッテ」
パウアーマーはカタパルトを持たないワ級の艤装の一部にちょこんと乗っていたが、ワ級の指示に艤装を軽く蹴って跳躍するとそのまま飛行状態に移行。
カタパルト無しでも使えるのは足付きのパウアーマーだからこその芸当か。
「アルファ、護衛頼む」
『了解』
俺もアルファを発進させると四機はホバリング状態でフォーメーションを組んでいく。
先頭は先行偵察のためミッドナイト・アイが。
アルファがカバーしやすいようすぐ後ろに配し左右をアサガオとパウアーマーが追随するデルタ状に編隊を組み移動を開始。
「軽く索敵して今回は終了かな」
「そうだね。
万が一落とされたりなんかしたら洒落にならないボーキサイトが吹っ飛ぶしね」
まあ、そう簡単に落とされないだろうけどさとからから笑う明石。
目茶苦茶フラグ臭がする台詞はマジでやめろ。
「って、早速何か見付けたみたいよ」
通信を受け取ったらしい千代田が報告する。
「海上に一隻の艦娘を確認したって」
「…駆逐艦か?」
いきなりフラグ回収かよコンチクショウ!?
最悪の事態に身構える俺だが、千代田はいいえと言った。
「見付けたのは鳳翔だって」
「空母が一隻だけ?」
水雷戦隊の護衛無しになんて自殺行為としか言えない。
「なんか、そのまま進ませると島に向かうみたいだけどどうするの?」
「イ級の好きにしなよ」
千代田の報告に何故か明石がそう振る。
「何で俺?
お前の島だろうが?」
「リーダーとかパス。
ということで、今から島の代表に任命するから後よろしく」
なにとんでもないことさらりと言ってんだあんたは!?
「イ級、オメデトウ」
「サスガアネゴ!」
明石の爆弾発言を気楽に祝うワ級とヌ級。
拒否権無しかよ!?
「ああ、もう。
じゃあ取り敢えず保護する。
俺達は待機するから千代田と瑞鳳と明石で話を聞いてきてくれ」
島風じゃなくて安心したと思った矢先にこれかよ。
「まったく、なんでこんなことになったんだ?」
鳳翔の保護に向かう三人の背を眺めながら俺はため息混じりにそう呟いた。
と、そんな訳でまさかのR戦闘機入手と相成りました。
簡潔にそれぞれを解説すると、アサガオはTAC仕様、夜目は劣化Final仕様、パウたんは両方合体のチート仕様となってます。
夜目は青葉になんて思ったりもしたけど、まだいないんで暫くは千代田のです。
それと、全員ではありませんが他にもR戦闘機を持たせる予定の娘がいます。
ですがどれがいいとか迷ってたり。
なので、後で活動報告にアンケート設置しますのでよろしければご意見お願いします。