なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

37 / 123
 今スグ退却ヲ! 御主人!!??


アレハ…マサカ!?

 

 島風に向け舵を切りレーダーを頼りに暫く進むと、海の上に立ってぼんやりした様子の島風を見付けた。

 

「おーい!」

 

 あんまり近づくといざとなったら対処が難しくなるから少し離れたところで停止し声を掛ける。

 

「……」

 

 島風は俺の呼び掛けに少し遅れてこちらを向いた。

 

「っ!?」

 

 島風に見られた瞬間、背中にぞわりと総毛立つような悪寒が走った。

 なにかされたわけではない。

 なのに、何故か近付いたらマズイ。

 そんな直感が降された。

 なんだ?

 あの島風の何に反応したんだ?

 ガンガン鳴り響く警報を余所に島風はぼんやりした様子で口を開く。

 

「ねえ、貴女。

 私のお友達を知らない?」

「友達?」

 

 誰の事だ?

 つうか、|俺《深海棲艦》に対して反応が薄すぎる。

 違和感が募る中、俺は慎重に言葉を選ぶ。

 

「友達って、いつも一緒に居る連装砲ちゃんの事か?」

「ううん」

 

 ぼんやりした様子でだが島風ははっきりと否定する。

 

「お友達はすぐ近くにいるはずなのに、どうしても答えてくれないの」

「……」

 

 やべえ。電波にしか聞こえない。

 あれか?

 イマジナリーフレンドってやつなのか?

 

「とにかくだ。

 こんな海のど真ん中でぼうっとしてたら悪い艦に襲われちまうぞ」

 

 カテゴリー的には俺もそっち側とかいうな。

 最悪一度島まで引っ張っていくのもやむえないかと考えながら俺は近づこうとして…

 

『御主人!!』

 

 アルファの鋭い声に前に出るのを留まった。

 

 ビュンッ!

 

 刹那、鼻先を凄まじい速度で何かが掠め、島風の顔に笑みが浮かぶ。

 

「…見付けた。

 私の、お友達」

 

 その笑みに喧しかった警鐘がしんと静まる。

 

「お前、その目は…?」

 

 それはもう安全だからじゃ無い。

 琥珀色に煌めく島風の瞳に、警鐘を鳴らす余裕すら無くなったからだ。

 

「ねえ、貴女」

 

 島風の声に視界が揺れる。

 波のせいじゃない。

 俺が、島風に恐怖して震えているからだ。

 

「私のお友達、頂戴」

 

 その瞬間俺はがむしゃらに逃げ出していた。

 理由なんかどうでもいい。

 これ以上ここに居るだけで、致命的な『何か』が始まるとそんなどうしようもなく怖いのだ。

 60ノットの限界速度でひたすら逃げた俺だが、

 

「ねえ」

 

 真後ろから聞こえた島風の声に恐怖が限界を超えた。

 

「ウワアアアアア!!??」

 

 相手が艦娘とか考える余裕もなく俺は振り向きながらファランクスを真後ろに叩き込む。

 しかし、猛然と吐き出されたファランクスの弾幕はいつの間にか島風の前に現れた連装砲ちゃんに受け止められた。

 

「く、クソッ!?」

 

 さっき鼻先を掠めたのはこいつらなのか!?

 よく見れば島風の盾となって立ちはだかる連装砲ちゃんの目も黒ではなく琥珀色に変わっている。

 

『御主人!!

 通常兵器ハ効キマセン!! 私ヲ出撃サセテクダサイ!!』

 

 焦りで荒いアルファの声にアルファを発進させようとカタパルトを起動しかけるが、それを見た島風の笑みが深くなる。

 

「分かってくれたんだ」

「っ!!??」

 

 駄目だ!!

 島風はアルファを狙っている。

 今アルファを発進させたらそれこそおしまいになる!?

 

「くっそぉぉおおおおおお!!??」

 

 俺は妖精さんに無理矢理カタパルトの稼動を止めさせ爆雷をばらまく。

 

『御主人!?』

「駄目だ!!??」

 

 アルファの抗議を無視し爆雷で足止めを願いながらひたすら逃げる。

 

「……そう。

 お友達の大事な人だから皆一つになるまで待っててあげようとおもったのに。

 だったら、死んじゃえ」

 

 素晴らしいと言いたくなるぐらいの電波発言に構う余裕なんて無い。

 とにかく一秒でも速く逃げるんだ!!

 

「連装砲ちゃん。

 サーチ」

 

 砲撃が来ると回避運動に入ろうとするが、直後に身体を強烈な衝撃が襲い装甲がごっそりと刔られた。

 

「ガァツ!!??」

『御主人!!??』

 

 衝撃で吹っ飛び全身がずぶ濡れになる。

 

「な、何が…」

 

 致命的損傷だと妖精さんが慌ててダメコンを起動させる佐中、俺は攻撃の正体に気付いた。

 

「連装砲ちゃんの、体当たりだと…!?」

 

 まるで嘲るようにスラロームを描きながら連装砲ちゃんは島風の下に帰っていく。

 ダメージでスクリューが破損し動けなくなった俺に島風はゆっくりと近付いてくる。

 

「もう一度だけお願いするよ?

 私のお友達を頂戴」

 

 膝を屈め一切の揺らぎも見えない瞳で俺の目を覗き込みながらそう頼む島風。

 普通なら脅迫としか言わないんだろうけど、なんでか島風のそれは脅迫ではなく嘆願に聞こえた。

 だけど、俺の答えは変わらない。

 

「断る」

 

 命惜しさに相棒売り渡すぐらいなら死んだほうがマシだ。

 

「……そう」

 

 俺の答えに島風は気分を害した様子もなく淡々と納得した様子で曲げた膝を伸ばし宣う。

 

「さよなら」

 

 島風の宣告に連装砲ちゃんが一斉に襲い掛かる。

 しかし、俺は沈まなかった。

 

『フォース!!』

 

 異空間から召喚されたフォースがギィッン!!という聞いたこともない音を響かせながら瀬戸際で体当たりを防ぎ連装砲ちゃんを弾き飛ばした。

 

「って、今の…」

 

 いや、そんな事は後回しだ。

 

『キサマ…』

 

 拘束していたカタパルトを引き千切り無理矢理発艦したアルファが島風との間に割って入る。

 目にも見える水晶体のようなパーツが赤く染まり、まるでアルファの憤怒を表すように煌めく。

 

「アルファ…」

 

 止めろ、逃げるんだと言おうとするが、島風は嬉しそうに笑う。

 

「やっと見付けた。

 さあ、私と一つになろう」

 

 すぅっと招くように手を伸ばす島風。

 アルファの答えは簡潔だった。

 

『シュート!』

 

 引き寄せフォースを島風目掛け撃ち込んだのだ。

 

「アルファ!?」

 

 人間以上のサイズの相手にフォースを撃ち込めば相手を喰らっても喰らい切れなかった部位から汚染してしまう。

 アルファ自身がそう言って禁じてたのになんで!?

 フォースに喰らいつかれ島風が上半身を消滅させられるとそう覚悟したのだが、フォースの進路を阻むように連装砲ちゃんが飛び出した。

 

 ギィッン!!

 

 衝突する刹那、聞いたこともない音を再び響かせフォースと連装砲ちゃんが反発し合うように互いに弾かれた。

 

「なっ…」

 

 さっきもそうだったが、どんなものでも貫通してしまうフォースが防がれた事が信じられない俺に反し、アルファは承知ずくだったのか静かに『ヤハリ』と呟く。

 

『オ前モ、バイドニ成リ果テテイルノカ』

 

 ……なんだと?

 島風が、バイド化しているだって?

 訳が分からない俺を余所に島風は嬉しそうに笑う。

 

「やっと気付いてくれた。

 でも、どうしてそんな酷い事するの?

 私は貴方と一つになりたいだけなのに」

 

 意味が解らないが、島風はアルファと戦う気は無いのか?

 だけど、俺がやられたアルファは完全に頭にきているらしくフォースを呼び戻しビットまで展開する。

 

『私ハモハヤバイドダケド、人間デアッタコトヲ捨テルツモリハナイ。

 御主人ニ牙ヲ向ケタオ前ハ、敵ダ!!』

 

 拒絶するアルファに島風は泣きそうに顔を歪めた。

 

「……やっぱり、そいつが大事なんだね?

 じゃあ、そいつが居なかったら、私と一つになってくれる?」

 

 そう言って初めて敵意を露にする島風。

 あまりの恐怖に妖精さんが作業も手が付かなくなるほどがたがた震えて縮こまってしまう。

 正直俺も逃げたい。

 つうかなんでこんなことになったんだよ!!??

 

『ヤラセナイ。

 御主人ヲ害スルモノハ悉トク滅ボス』

 

 そうアルファは宣言するとフォースを撃ち込む。

 だが撃ち込まれたフォースは再び連装砲ちゃんが弾く。

 

「私は皆と一つになりたいの。

 だから、それを邪魔するなら貴方でも容赦できない」

 

 そう言うと島風は海を蹴ってアルファに駆け出す。

 

『コレデ!』

「サーチ」

 

 アルファは凄まじい速度で翻弄しようとするが、島風は全く動じず視覚から放たれたフォースを連装砲ちゃんで防ぎ更にそのまま連装砲ちゃんをアルファ目掛け体当たりさせる。

 アルファもビットを使い連装砲ちゃんの体当たりを防ぐが、立て続けに体当たりする連装砲ちゃんにビットが削れている。

 つか、なんなんだあの連装砲ちゃんは!?

 フォースを当たり前のように弾くどころか耐久性以外はフォースと同等の性能があるアルファのビットを削るとかまるでフォースじゃねえか!?

 

「って、まさか…」

 

 確か、連装砲ちゃんは島風の艤装の一部だったはず。

 もしかして、島風がバイド化した影響でフォース化したってのか?

 だとしたらアルファは俺を庇うせいで、立体的な機動を大分制限されている状態で三体のフォースを相手取っている状態って事だ。

 しかも島風自身だってバイド化の影響でどれだけキチ強化されているかわかったもんじゃない。

 

「クソッ!?」

 

 これじゃあアルファの足手まといじゃねえか!?

 アルファはまだ装備状態だからクラインフィールドも使えない。

 何も出来ない歯痒さに自沈してしまおうかとさえ考えるが、それこそアルファの行為を無駄にしてしまう。

 って、自沈?

 

「そうだ!?」

 

 俺は深海棲艦なんだから沈んでも平気なんだった。

 潜水艦みたいにうまく海中を移動することは出来ないが、ついでに一つ思い付いたことが上手く嵌まれば逃げ切れるかもしれない。

 

「アルファ!!

 異空間まで退避してそのまま島まで帰還しろ!!」

『御主人!?』

「早くしろ!!」

『ッ!? 了解!!』

 

 フォースを使い異空間へと離脱するアルファ。

 

「待って!?」

 

 追い縋ろうとするその隙に俺は海中へと自沈。

 そして思い付いた作戦を実行する。

 

「クラインフィールド!!」

 

 原作かアニメのどちらかは忘れたが、クラインフィールドを足場としているシーンがあった筈。

 それが正しければ、応用次第ではこんな使い方も出来る筈なんだ。

 俺はフィールドを魚の鰭の形になるようイメージ。

 すると、予想通り黒い結晶が鰭の形を模り水を掻いて自在に泳げるようになった。

 逃げた俺を追い連装砲ちゃんが水中まで追いかけて来たが、深海深くまで潜水していたお陰で足の浮輪のせいで浮力に負け届かず浮かんでいってしまう。

 

「すまん妖精さん。

 もう少し耐えてくれ」

 

 水圧で身体が軋むのを抑えてくれている妖精さんにそう頼み、完全に撒けるよう俺は更に深くまで沈んでいった。

 

 

〜〜〜〜

 

 

『事態ヲ甘ク見過ギテイタ』

 

 御主人ノ指示ニ従イイクツカノ空間ヲ経由シテ島ヘノ帰還ヲ試ミナガラ私ハ失態ヲ深ク後悔シテイタ。

 バイドノ切レ端ガコノ世界ニアッタ時点デコウナル可能性ハ高カッタノニ、ソレニ思イ至レズ御主人ヲ危機ニ陥ラセテシマッタ。

 

『シカシ、コノ世界デRノ系譜ト戦ウ日ガ来ルトハ』

 

 資料デシカ見タ事シカナイガ、アノ連装砲チャンナル随伴体ノ機動ハ、R戦闘機ソノ装備デモ最強クラスニ数エラレル『サイ・ビット』ノ軌道ト共通点ガ多カッタ。

 オソラクバイドノ進化機能ガ随伴体ノ特性ヲ最大限ニ活カソウトシタ結果、島風ハLEO系機体ト相似シテイッタノダロウ。

 連装砲チャンニ対抗スルタメニハ、コチラモバイド兵器ヲ運用スルコトガ最適当ダケド、ソレハ則汚染ノリスクヲタカメルトイウコトダ。

 

『イヤ。

 モウヒトツアル』

 

 非バイド製フォースノシャドウシリーズ。

 性能ニ癖ガアルガ、アレナラ汚染ノリスクハナイ。

 問題ハ入手手段トフォースヲ運用出来ルモノガ現状自分以外イナイトイウコト。

 

『御主人ニ相談シテミヨウ』

 

 最悪、汚染ノリスクヲ冒シテデモ体内ノバイド係数ヲ最大ニシタ波動砲ノ運用モ考慮シナガラ、島風カラ無事退却出来タ事ヲ確認シタ私ハ通常空間ニ戻ッタ。

 




3、2、1、絶望!!

 ということで島風はR戦闘機のスペックを手に入れました。

 はたしてあの島風を止めることは出来るのか?

 期待していただけたらなによりです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。