なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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 優シ過ギテズレテマスネ


Day Break down
御主人ハ相変ワラズ


 

 全速力で海を走ると気持ちいいんだよな。

 

「待ちなさい!!」

 

 ただし、追われていなければだけどよ!

 どうも、駆逐イ級です。

 ただ今戦艦棲姫に借りた資材の返済のため毎日頑張ってます。

 つか、誰に話し掛けてんだ俺?

 

「待つのじゃコラー!!」

「ドラム缶返して〜!!」

 

 後ろから追いかけてくるのは叢雲、初春、子日それと、

 

「今日という今日こそぶっ殺してやる!!」

「うふふ。

 私もちょ〜と頭に来ちゃったかなぁ?」

 

 怒気全開の天龍とヤバイ笑顔の龍田さん。

 見事に彩樹艦隊揃い踏みだよヤッター!

 でも捕まったら処刑だよヤダー!

 なんておちゃらけてみても現実は変わりません。

 なんでこうなったかと言うと、ぶっちゃけあいつらが受領した遠征資材を強奪した自分が悪い。

 いやね、深海棲艦の資材調達って、基本強奪と略奪なんだよ。

 つうのも、現代と違って海底資源は山ほどあるんだけど深海棲艦には石油なんかの原料加工手段がない。

 正確に言うと艦娘と深海棲艦が飲用可能な燃料や鋼材なんかに加工出来るのが妖精さんだけなんだ。

 だがしかし妖精さんは艦娘サイドにしかいないため、深海棲艦が資材を調達するには略奪が1番早いのである。

 さもなくば復活の際に何故か燃料弾薬が完全補充される深海棲艦の謎仕様を利用した備蓄作戦なんかもあるが、姫みたいに大部隊を率いてなきゃ効率悪いし死体剥ぎはアレなので勘弁願う。

 因みにワ級やヌ級達は襲っても返り討ちに遭うからと、深夜にジャンクヤードに忍び込んでせっせとかき集めていたという。

 それを聞いてそこまでしなくていいからと本気で止めさせたのは言うまでもない話である。

 俺の場合明石がいるから原材料から加工することも出来るんだけど、扶養家族もとい艦隊の消費量が馬鹿みたいに跳ね上がったお陰で備蓄量以上の精製は明石の負担になるため結局強奪して稼ぐ以外手が無いのだ。

 もしかして深海棲艦が問答無用なのっていつも腹が減ってて気が立ってたからなのか?

 だとしたらなんつう世知がらい…

 

「って、うぉっ!?」

 

 余計な事を考えていたら回避が甘くなってたらしく砲弾が真横に突き刺さった。

 

「チィッ!?

 ちょこまか逃げてないでさっさと沈みなさい!!」

 

 叢雲の怒鳴り声に俺は怒鳴り返す。

 

「誰が大人しく沈むか!?」

 

 とはいえ速いだけで逃げれないってのもアレだよな。

 まっすぐ逃げれば狙ってくださいって言ってるようなものだからランダム回避しなきゃいけず、まっすぐ追いかけてくる艦娘を振り切るのに時間が掛かる。

 長門から逃げたときもそれで何日も走り続ける羽目になったし。

 最終的には振り切れるからひたすら逃げ続けてもいいんだが…どうするか。

 

「いいか」

 

 アルファに撹乱させようかとも思ったが、チビ姫に物凄く嫌がられて気落ちしてたし、またそんな風に言われるのも気分が良くないからやめておこう。

 それに、あちらも大分疲弊してきているしもう少し逃げれば諦めるだろう。

 

「毎回毎回深海棲艦の癖に逃げるんじゃねえ!!??」

 

 天龍の負け惜しみを背に、今回も戦わずに無事に逃げおおせそうだと俺は小さく安堵した。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 レイテの名もなき島。

 明石が住まいとするその島。

 住人が増えたためハンモックでは賄いきれないと妖精さんによって建築された平建てのアパートのラウンジで千代田は憂鬱そうに溜息を吐いた。

 

「ドウシタノ?」

 

 千代田の溜息に見回りを終え休憩していたヌ級が尋ねる。

 問いに千代田はヌ級を見てから小さく溜息を吐いた。

 

「軽空母になりたい」

 

 前回の戦いで自分の無力さを改めて確認した千代田は改装を希望したものの、やるなら専用の設備と多数の妖精さんの力が要ると言われていた。

 設備だけなら製造出来なくもないが、妖精さんの数はどうしようもない。

 余所から集めてくるにしても深海棲艦と同居できる奇特な妖精さんは多くない。

 というより、妖精さんと深海棲艦の関係は最悪の一言に尽きる。

 千代田の妖精さんの中にも深海棲艦と関わりたくないからと降りた個体もいるぐらいだ。

 しかし、イ級の妖精さんのように深海棲艦に敵意を示さない例外も居るには居るのだ。

 最近はワ級にもそういった例外が何体か付いているようになってきたが、多くの妖精さんは深海棲艦が近付いただけで敵意を示してしまう。

 そんな訳で使えもしない設備を妖精さんが建造することもなく、千代田は暫く水上機母艦のままでいることにならざるをえないのであった。

 千代田の嘆息にヌ級は首(?)を傾げる。

 

「ソウ?

 スイボモイイトコロガアルトオモウケド?」

「それは当然なんだけどさ。

 でも、強くなりたいじゃない」

 

 レベルだけなら30を越える千代田だが、桜花の搭載試験のため基礎改造のみで留められていた。

 軽空母としては最高クラスのスペックを持つ千歳型軽空母になればイ級の過保護も和らぐとおもうのだが、

 

「デモサ、ケイクウボニナレテモデバンナイトオモウ」

「う…」

 

 この島の艦隊…と言って正しいかはともかく、島に居る面子と言えば明石、木曾、北上、千代田、瑞鳳にイ級と普通の(?)駆逐イ級、二級、ヘ級、チ級、ヌ級、ワ級、ヲ級、それにたまにリ級とロ級とホ級と氷川丸。

 そして最後に、瑞鳳と離れたくないという理由で着いて来てしまったチビ姫こと北方棲姫。 

 艦種別に見ると駆逐4、軽巡2、雷巡3、重巡1、軽空2、空母1、工作艦1、泊地1、輸送1、水母1、病院船1となる。

 空母は既に三隻もいるからはっきり言って需要はあまり無いのだ。

 どころか、アルファという反則というしかない艦戦のお陰で烈風や震電改さえ余程でなければいらない子扱いされる始末。

 寧ろ、倉庫で出番を待ってる大発が積める水母のほうが活躍の機会は多いのが実情だったりする。

 それでも瑞雲や甲標的があればまだ戦えるのだが、甲標的は北上と木曾の分しかなく、水偵も瑞雲はなく零観しかない。

 

「私の存在意義って…」

 

 遠征要員以外に活躍の場は無い現実に突っ伏す千代田。

 

「ミンナニホキュウスレバ?」

「ワ級の仕事を取りたくないよ」

 

 遠征内容を聞いた一同から資材集めしなくていいと言われたワ級の今の仕事は、明石が精製した資材の搬入と遠征や見回りから帰って来た艦に燃料を配る事。

 しかもそれで経験値が入る事が判明し、安全にレベリング出来るという事でワ級は実に楽しそうなのだ。

 千代田の言い分も解らなくはないと思ったヌ級は、ふと思い付いて言ってみる。

 

「ワタシタチノスイテイツカッテミル?」

「……え?」

 

 あるの? と驚く千代田にヌ級は頷く。

 

「スコシマエトオリカカッタセンカンノスイテイヒロッテタ」

 

 そう言うとヌ級は口に手を突っ込みごそごそ探り始める。

 

(……慣れって怖いな)

 

 特におかしいとか気持ち悪いとか思わなくなった自分に半ば呆れているとヌ級が一機の艦載機を取り出した。

 

「コレダヨ」

 

 そう言ってテーブルに置かれたそれはは下部にスキー板を搭載した水底のような艦載機だった。

 

「妖精さん、どう?」

 

 深海棲艦の水偵はどんなものかと妖精さんに見てもらうが、妖精さんは首を横に振る。

 

「このままじゃ乗せられないのね」

 

 規格が違うため扱えないそうだ。

 だが、代わりに興味深い話を齎す。

 

「これをベースに再現してみたい機体がある?」

 

 なんでも戦後間もなくアメリカで開発されたが空母の発展で幻の機体となったXF2Y-1という水上偵察機に随所が酷似しているそうだ。

 この機体があればそれが再現出来るかもしれないという。

 

「それって凄いの?」

 

 戦後の機体というから相応なのだろうが、沈んだ後の機体がどれぐらいなのか解らない千代田の問いに、妖精さんは彩雲の三倍は速いと言う。

 

「凄い!

 早速やろう!!」

 

 うきうきしながら艦載機を手に立ち上がる千代田。

 

「ありがとうね!」

「ドウイタシマシテ」

 

 お礼を言って出ていく千代田にヌ級ははたと思い出す。

 

「アレ、アネゴヘノオミヤゲダッタノワスレテタ」

 

 でも千代田が強くなれば姐御も喜ぶだろうなと思い、いいやとご飯を食べることにした。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 あれから2時間ほどの逃走劇を経て無事に逃げおおせた俺は、手に入れた資材を戦艦棲姫旗下の潜水艦に渡し一度帰ることにした。

 

「これでようやく3000か。

 先は長いな…」

 

 タンカーとか狙えばもっと早く済むのだが、流石に気が咎めるし間違いなく艦娘と戦わなきゃならなくなるのでそれならちまちま稼ぐほうがいい。

 しかしあんまりやり過ぎて遠征してる艦娘が酷い目に遭うのも避けたいんだけどな。

 とはいえ他に手が無いのも事実。

 被害に遭う艦娘には悪いけど暫くは我慢してもらいたい。

 そんな事を考えながら暢気気味に海を走っていると、レーダーに感あり。

 数は1。

 識別は駆逐艦のようだ。

 

「はぐれ艦か?」

 

 嵐なんかで艦隊からはぐれるケースというのは意外と多いらしい。

 そういう艦の末路は艦娘深海棲艦問わず自然の掟が適用されるそうだ。

 

「アルファ、確かめてきてくれ」

 

 レーダー圏外に仲間が居るなら関わる必要は無いし、木曾のような偶然が重なって上手く行くことはそうそうあるわけも無い。

 カタパルトを起動しアルファが飛び立つとアルファは高高度に上昇し雲に紛れて偵察を開始。

 アルファは一分と待たず戻って来た。

 

「どうだった?」

『近辺ニ僚艦ト思ワレル艦影ハアリマセン』

「う〜ん」

 

 出来れば助けてやりたいが、そう上手く行くだろうか?

 

「誰か判別しているか?」

『島風デシタ』

 

 島風か。

 もしかしたらアルファや木曾と縁がある島風かもしれないな。

 

「よし、行ってみるか」

『ゴ随意ニ』

 

 一旦アルファを格納し、俺は島風に会いに舵を切った。

 




 ということで新章突入からいきなり千代田強化フラグとイ級惨敗フラグが立てました。
 目標は70話までに完結させること!
 ……冗長大好き横道逸れまくりな俺に出来るのか?

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