なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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 頼むからいないところで好き放題言わないでくれ!?


ちょっと待てお前等!?

「以上が衛星より入手出来た『駆逐棲鬼』及び新型深海棲艦の撃沈までの報告になります」

 

 『駆逐棲鬼』。

 半月程前横須賀に襲来し、大和、長門を含む精鋭の監視網をくぐり抜け逃亡した人語を介する駆逐イ級。

 更にこれまでに見たこともない凶悪かつ醜悪な艦載機を搭載し『霧』の兵装を装備していることから大本営はイ級を鬼タイプと同等の驚異と見做し、『駆逐棲鬼』と呼称し交戦は控えるようにとした。

 全ての資料を読み終えた大淀の報告に元帥は小さく息を吐く。

 

「大山鳴動して鼠一匹。 ……そう言いたいところだが、今回我々が失ったものは大きいな」

 

 今回の作戦で各鎮守府が動員した数多の高錬度の艦娘と莫大な資材が失われた。

 そして忌むべき技術の集大成とはいえ最強の冠を与えていた大和の失踪。

 これだけの被害を被って得たものといえば、混乱に乗じた飛行場姫の本土強襲を水際で防いだ事だけ。

 結果として鎮守府は本土防衛の戦果から体面は保ったが、その実は完全な敗北と言ってなんら差し支えないものだった。

 

「大淀。

 放棄されたブルネイ他の各鎮守府が再建されるまでに必要な期間はどれぐらいだね?」

「最短でも半年は必要かと」

「…そうか」

 

 把握している限りでも深海棲艦も今回の件では被害を被っている。

 どれほどかまでははっきりしないものの、軽いものではないのは確かだ。

 

「今回は時間との戦いだな」

 

 早急な建て直しが叶わねば取り返した海域を再び奪われるだろう。

 

『これでもう、艦娘が泣かなくて済む』

 

 海域確保のため一瞬だけあの兵器の封を解くべきかと考えた元帥の頭にイ級の言葉が過ぎった。

 

(……否。

 あんなものは必要無い)

 

 建て直しを逸るばかりにあの兵器を用いようとすれば、おそらく駆逐棲鬼は今すぐにでも再び横須賀に現れるだろう。

 前回は兵器だけを破壊しただけだが、次も同じとは限らない。

 いや、間違いなく次は我々をも手に掛けるだろう。

 それにだ。

 今まで一度も使わずとも艦娘は深海棲艦の驚異を取り払い海を取り戻して来たのだ。

 ならば、敢えて賭に出ずとも良い。

 再び海域を奪われたとしても、また取り返せばいいのだ。

 

「度し難い事だな」

「元帥?」

 

 負け続けてからの快進撃に知らず慢心と驕り、そして敗北への恐怖から気を急いていたようだ。

 困惑した様子の大淀になんでもないと言い安心させてから元帥は下知を下す。

 

「各鎮守府には今回の耐え難き恥辱も糧にし、逸ることなく建て直しに専念するよう伝えよ」

「了解しました」

 

 大淀は敬礼をしてからその旨を通達するため部屋を後にする。

 そして元帥は一人になると小さく呟いた。

 

「あの駆逐棲鬼も『提督』だというのだろうか?」

 

 艦娘を率いることを可能とする唯一無二の才能。

 長年の研究でも人工的な開発は叶わず、条件さえ不明のまま発生確率百万分の一という途方もない偶然に頼るしかない絶対の才。

 今の所判明されていることといえば、『提督』の才を持つ者が、艦娘をただの道具と割り切り見ることが出来ない甘い者が大多数を占めるという事ぐらい。

 そういう点では駆逐棲鬼は『提督』の才を持っている可能性があるように元帥には思えた。

 それに駆逐棲鬼以外にも憂慮すべき謎がある。

 本土防衛にて『幽霊』を見たと報告があったのだ。

 その幽霊は艦娘の姿をしていたが、その速度は島風を越える60ノット以上で疾走し、あっという間に大半の深海棲艦を屠り姿を消したという。

 姿を見た艦娘によれば型番は島風であったが、該当する島風は件の新型、装甲空母ヲ級の爆撃により死亡が確認されている個体なのだ。

 死んだはずの艦娘が暴れたという事実は公にするわけにもいかず、これもまた新たな脅威として考えたほうが正しいと元帥は予感していた。

 

 コンコン

 

「入りたまえ」

 

 ノックの音に思考を一旦打ち切り許可を与えると、入って来たのは艤装を外した鳳翔であった。

 

「失礼致します」

 

 鳳翔の登場に元帥は懐かしいと思った。

 

「久しいな鳳翔」

「ええ。提督もお元気そうでなによりです」

 

 昔と変わらぬ笑顔に郷愁と悔悟の念が過ぎりながらも元帥は勤めて面に出さず苦笑した。

 

「その呼び方は止めたまえ。

 私はもう君の提督では無いのだ」

 

 かつて、まだ近海すら奪還も叶わぬ頃、若き元帥もまた提督の一人であった。

 そして『鬼子母神』と深海棲艦からも敬意と畏怖を持たれていた鳳翔は元帥の最も親しい艦娘であった。

 元帥の否定に鳳翔はいいえと言う。

 

「例えどの提督の下に仕えようと、私の『提督』は貴方以外にございませんわ」

 

 そう、優しく左手の指輪を触る鳳翔。

 ケッコンカッコカリに使われる限定解放の触媒でもなんでもないただの古い指輪。

 その指輪は元帥が贈った物だった。

 

「……」

 

 かつて、元帥がまだ提督であった頃、彼は鳳翔と添い遂げるつもりでいた。

 しかし、『提督』の才の研究という名目で同じ才を持つ提督と婚姻するよう命じられ、彼は国に忠するためそれを承諾した。

 結果として才は遺伝しないという結果が判明しただけで、お互い任務と割り切った夫婦生活であったが、それでも愛した女を裏切ったという事実は間違いない。

 

「そうか」

 

 既に伴侶とした相手も他界した。

 しかし、一度裏切った想いを抱く資格は自分に無いと元帥は己を殺し、鳳翔も同じくしていた。

 

「それで元帥閣下。

 私を御呼びした御用件をお伺いしても宜しいでしょうか?」

 

 愛する男との逢瀬は終わりと畏まる鳳翔に元帥もまた私を殺し任務を通達する。

 

「鳳翔。

 現時刻を以ってブルネイ勤務を解任。

 これより特務への従事を任ずる」

「了解しました」

 

 何の淀みも無い所作で敬礼する鳳翔。

 

「なお、この任務は口頭でのみ内容を伝え、一切に漏らすことを禁ずる」

「承りました」

「うむ。

 して、その内容だが、南西諸島海域にて猛威を振るった装甲空母型新型深海棲艦が撃破された。

 それを成したのは駆逐イ級を旗艦とした深海棲艦と艦娘の混成部隊だ」

 

 その言葉に鳳翔はもしやあのイ級の事なのかと小さく息を飲む。

 

(普通に考えればありえないけれど、あの深海棲艦なら艦娘との共闘も出来るかもしれないわね)

 

 恰好の獲物であったあの時の自分達を見逃すばかりか無事に逃れられるよう手引きまでしてくれた奇妙な深海棲艦。

 あのイ級ならばそんな事もやってのけるかもしれない。

 

「我々はその駆逐イ級を駆逐棲鬼と命名した。

 貴君にはその駆逐棲鬼との接触を計り信頼を得ることが任務となる」

 

 普通ならそれに異を唱え質問を浴びせ掛けるだろうが、鳳翔は一言で承諾した。

 

「十全承りました」

 

 鳳翔には元帥の考えが察せていた。

 元帥は駆逐棲鬼を足掛かりに深海棲艦の解明に乗り出そうとしているのだ。

 それだけでなく、停戦ないし休戦協定の締結の可能性を模索しようとしている。

 しかし、深海棲艦との接触は危険が伴うのは当然ながら、それ以上に艦娘の深海棲艦への敵意が邪魔になる。

 そのため、元帥は鳳翔にこの任務を言い渡したのだ。

 普通なら死んでこい、さもなくば厄介払いと取るだろうが、鳳翔はこれを元帥が自身なら完遂できると信頼しているからこそなのだと分かっていた。

 だから鳳翔は一切の質問もせず、ただ一言承諾することが出来た。

 

「では、いってきます」

 

 そう言って元帥の部屋を後にしようとした鳳翔を元帥が呼び止める。

 

「鳳翔」

「はい?」

「……いや、厳しい任務だが、無事に完遂してくれると信じている」

「…。

 勿体ないお言葉、この鳳翔見事成し遂げてみせます」

 

 激励を受け鳳翔は今度こそ退室する。

 鳳翔が退室し静かになった部屋の中で元帥は静かに呟いた。

 

「心配など、そんな資格もないというのに……歳は取りたくないものだ」

 

 

〜〜〜〜

 

 

「彼女は無事に遂げたようですね」

 

 全ての結果を聞き終えカチャリとカップが小さい音を起ててソーサーに置かれた。

 

「これで未来は不確定の海に散ったわ。

 この先に待つのは私達の滅びか、それとも…実に楽しみね」

 

 戦艦棲姫の住まいである武蔵を尋ねた飛行場姫は、まるで劇の幕間であるかのように愉快そうに笑う。

 

「…随分楽しそうですね?」

 

 そう尋ねる戦艦棲姫。

 何故なら目の前の飛行場姫は重傷を負い、決して楽しそうに笑えるような状態とは思えなかったからだ。

 しかしそんな懸念も関係ないとばかりに飛行場姫は楽しそうに嘯く。

 

「ええ。

 私はとても楽しいわ」

 

 傷さえ娯楽と言わんばかりに飛行場姫は笑う。

 

「姫が狂い今度は艦娘が狂う。

 まるでサーカスを眺めているようだわ」

 

 まるで幼女のようにはしゃぐ飛行場姫だが、戦艦棲姫はそこに違和感を感じた。

 

「艦娘が狂う?」

 

 一体何の事なのか。

 思い至るのは半深海棲艦とも言えるあの大和だが、飛行場姫のはしゃぎようはそれを指しているようには見えない。

 

「聞かせてもらってもいいのかしら?」

「勿論よ」

 

 思い返すだけで堪らないとばかりに楽しそうに飛行場姫は語る。

 

「彼等の小さな見栄と自尊心を埋めて余計な手出しをさせないようにって、逸ってた娘達を率いて本土強襲を仕掛けていたのは知ってるわよね?」

「ええ。

 結果貴女は返り討ちに遭い、人間は貯蓄していた資材を失しながらも撃退を適えた」

 

 もしかしたら、飛行場姫は最初からこうなると解っていたのかもしれない。

 だとしたら、なんのために?

 疑念を募らせる戦艦棲姫に構わず飛行場姫は楽しそうに嘯きを続ける。

 

「全ては予定通り。

 だけど、一個だけ予想外の事態が起きたわ」

 

 その瞳を思い出すだけでぞくぞくと恐怖と喜悦がない混ぜになった快感が走る。

 

「まるで沈む太陽のような琥珀色の瞳を持った駆逐の艦娘。

 彼女の横槍で予定より早めに引き上げる羽目になったわ」

 

 あれにあったのはただただ殺意だけ。

 理由等いらない。

 殺すために殺す。

 そんな狂気の沙汰を成し遂げる意思と力を兼ね備えた狂った琥珀の瞳。

 新たな破滅の落とし児の到来に飛行場姫は自身にその殺意が向けられていることさえ感謝したいぐらいだった。

 

「アレもきっと駆逐イ級(イレギュラー)とぶつかるわ。

 さあ、今度はどんな戦いが始まるのかしらね?」

 

 『総意』は何も告げない。

 いつも通り、『望むままに在れ』とだけしか指示はない。

 故に、飛行場姫はこれまでと変わらず観客席から眺め続けるだけだ。

 

「ところでさ、あの駆逐はどうしているの?」

 

 聞いたところによると戦艦棲姫から莫大な資材を借り、それの返済に奔走しているらしい。

 飛行場姫の問いに戦艦棲姫はカップを手に答える。

 

「今頃通商破壊作戦に従事している頃でしょう」

「へぇ。

 艦娘と戦いたがらないあの駆逐がねぇ」

 

 人間には容赦がないのねと呟く飛行場姫だが、戦艦棲姫は呆れた様子でその子細を言った。

 

「通商破壊作戦と言ってもその実、遠征帰りの艦娘からギンバイしているだけです」

 

 きっと今頃、奪った資材をくわえて全力で逃げ回ってるだろう。

 その姿が容易に察せられた飛行場姫は大爆笑した。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 幾度日が昇り、沈んだのだろうか?

 

 …分からない。

 

 朝も昼も夜も、ずっと終わらない夕暮れの中で、私はもやもやした想いだけしか考えられない。

 

 貴方はどこにいるの?

 

 この世界でたった一人の『お友達』。

 

 あの時引き留めていたら、それとも一緒に着いていっていればこんなもやもやに悩まされなくて済んだのかな?

 

 分からない。

 

 だけど、分かる。

 

 貴方はきっと帰って来ている。

 

 この終わらない夕暮れの中で、貴方だけがきっと、私を癒してくれる。

 

 だけど、貴方は私を求めてくれない。

 

 貴方が必要なのはあの駆逐艦だけだから。

 

 それでもいい。

 

 だけど、嫌。

 

 貴方が居なきゃ、私は生きている意味はもうないから。

 

 だから、貴方を見付けに行きます。

 

 貴方を、手に入れたい。

 

 私がいれば、貴方はもう寂しくない。

 

 皆同じになれる。

 

 夕暮れの中で、皆一つになって、幸せになれるから。

 

 だから私を求めて。

 

 寂しくないように。

 

 夏の夕暮れ、優しく迎え入れてくれるのは、海鳥だけじゃないって教えてあげるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Next Stage 『Day Break down』

 




 今回1番頑張ったパート

『爺の叶わなかったラブロマンス』

 ……何でこんなところに気合い入れてんの?

 需要無さ過ぎだろうが!!??

 とはいえ書いちまったからには投稿するよ。

 という事でこれで装甲空母ヲ級事変は完全におしまいです。

 次回からは『Day Break down』編に入ります。

 モノローグでだいたいの展開が読まれる可能性微レ?

 その前に小咄入れようか(フォースシュート

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