なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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 あ、借金返済が残ってた…


ようやく、終わったんだよな?

 

「……これで、良かったのかよ?」

 

 俺は俺の守りたいと思う者達のために装甲空母姫とヲ級の魂を取り込んだ。

 罪悪感に押し潰されそうになるが、それでも、俺は俺の意志で選んだんだ。

 だから潰れる訳にはいかない。

 それに、いまだ実感がないけどこれで全て片が着いた筈。

 

 ……いや、まだだ。

 

『コワセ』

『コワセ』

『コワセ』

『コワセ』

『コワセ』

『コワセ』

『コワセ』

『コワセ』

『コワセ』

『コワセ』

『コワセ』

『コワセ』

 

 暗闇の中に恨みつらみが凝り固まったような『声』が木霊し始めた。

 どうやら艤装の主となった俺に、自分達の怨念を晴らさせたいらしい。

 

「ざっけんな!!」

 

 テメエラの怨みなんか知ったこっちゃねえんだ。

 それに俺は今、今日までで1番っていっていいぐらい機嫌が悪いんだ。

 だからよ、

 

「黙れや」

 

 じゃねえと、ぶち殺すぞ。

 俺の拒絶に怨みの『声』が一斉に怨嗟をぶつける。

 

『ユルサナイ』『クルシイ』『コロシテヤル』『ニクイ』『ニクイ』『ニクイ』『ニクイ』『ニクイ』『ニクイ』『ニクイ』『ニクイ』…

 

 形にすらなれない負の感情が俺を飲み込もうとするが、やらせねえよ。

 

「妖精さん、やっちまえ」

 

 今なら呼び掛けに応えてくれると思った俺の言葉にファランクスが猛火を上げて怨嗟の波を薙ぎ払う。

 ファランクスの弾幕によって怨嗟が散り散りにされると同時に暗闇が晴れ、辺りがピンク色の肉が胎動する不気味な空間へと変わった。

 

「装甲空母ヲ級の腹の中ってか?」

 

 都合の良いことに海水が大分入っているらしく俺の身体はぷかぷかと浮かんでいる。

 さっきまで浮かんでいたようには感じなかったのとか損傷が全快してるとか疑問は山ほどあるが、そんな事は後で考えればいい。

 

『ニクイ!』『ニクイ!』『ニクイ!』『ニクイ!』『ニクイ!』『ニクイ!』『ニクイ!』『ニクイ!』『ニクイ!』『ニクイ!』

 

 『声』はなおも止まず、どころか肉の一部を切り離して深海棲艦の姿を形作りやがった。

 

「諦めの悪い野郎だな?」

 

 上等だ。

 もとよりテメエなんか願い下げなんだ。

 こんだけでかけりゃ借金も熨斗付けて返せるだろうから資材に解体してやるよ!!

 

「やれ!!」

 

 ファランクスをぶっ放し駆逐艦を模る肉の塊を蜂の巣にする。

 肉の塊は弾幕にぐずぐずに崩れるとすぐに新たな深海棲艦を象り反撃の砲を放った。

 

「んなばっちいもん食らえるか!!」

 

 空間に回避するほどの余裕は無い。

 だが、俺にはあの糞野郎が黙って仕込んだ|力《チート》があるんだよ。

 

「クラインフィールド!!」

 

 黒い輝きを放つ六面体の結晶体が展開して砲撃を受け止める。

 大量の砲撃を完全にシャットアウトした性能は凄いんだけどさ、

 

「黒い輝きって、中二病過ぎんだろ」

 

 凄まじくいてえ…。

 木曾はそれっぽいから喜びそうだけど他の奴らには絶対見せられねえな。

 フィールドを盾に正面から撃ち合うと新たに形作られた深海棲艦も弾幕の前に形を失っていく。

 

「はっ、テメエラの憎しみってのはその程度か?」

 

 クラインフィールドが無かったらこうも一方的にはならなかったろうけどな。

 調子に乗るつもりはないが、次は重巡か戦艦辺りでも象るだろうと警戒する俺は、次に現れた姿にギシリと歯を軋ませた。

 

「テメエラ…」

 

 奴らが次に象ったのは深海棲艦ではなく艦娘の姿だった。

 ご丁寧にもさっきまでと違い姿形だけでなく髪の色まで完全に再現しやがった。

 それも、どれも俺が出会った艦娘ばかりを選んで再現してやがる。

 沸々と煮え立つ怒りがぐつぐつと沸騰する俺を煽るように、偽物の艦娘達の口から怨嗟の声が零れる。

 

『クルシイ』

『タスケテ』

『シニタクナイ』

『モットタタカワセロ』

『コロシテ』

『シズミタクナイ』

 

 口々に零れる負の感情に俺の怒りは限界を超える寸前まで煮える。

 そして、

 

『イキュウ、タスケテクマ』

 

 偽物の球磨。

 そいつが漏らした一言が、ブツンと理性を吹っ飛ばした。

 

「っ、いい加減にしろテメエェラァァアア!!!!????」

 

 球磨の姿を真似るだけでも許せねえってのに、よくも、よくもテメエラは!!

 

 ぶち殺す。

 

 俺の逆鱗に触れたテメエラはこの世界から抹消してやる!!

 俺は何の躊躇もなく超重力砲を稼動させた。

 

『GAAAAAAAaaaaaAAAAAAAAAA!!!!』

 

 稼動した超重力砲の反動に全身が軋む。

 身の丈に合わない兵装の負荷が、強大過ぎるエネルギーの流動に全身が悲鳴を上げるが構わない。

 こいつらが何を願おうと死んだ奴らは大人しく死なせておくべきなんだよ。

 それを浅ましく弄んだこいつらは俺がぶちのめす。

 

『ヤメロ』『イヤダ』『キエタクナイ』『マダタリナインダ』『ワタシタチハイキタカッタダケナノニ』『タスケテ』『スクッテ』『ワタシタチヲミステナイデ』

 

「ウルセエ!!」

 

 助けられるなら助けてやるよ。

 だがな、俺はお前達なんか知らないんだ!!

 そんな奴を助けてやれるほど、俺の手は広くなんかねえ!!

 助けてほしけりゃ艦娘か深海棲艦に生まれ変わってこい!!

 そうしたら助けてやるよ!!

 だから、

 

「ぐだぐた言ってねえでさっさとやり直してこいやぁぁぁぁぁああああああ!!」

 

 激情をぶちまけるように俺は超重力砲を放った。

 黒い光は艦娘の偽物を飲み込み肉壁を大きく刔る。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!??????』

 

 超重力砲のエネルギーを内側からは吸収出来なかったらしく断末魔の絶叫が迸しる。

 たが、撃ち抜くだけじゃあ飽き足らない俺は全身を大きく海老反り射線を無理矢理真上に向ける。

 

「だぁぁあらぁぁあああああああああああああああああああ!!!???」

 

 背中から真っ二つに折れたんじゃないかと錯覚するほどの嫌な音を背中から立てながら俺は超重力砲を撃ち切る。

 

「ざまあみろ…」

 

 超重力砲の反動で一ミリも動けなくなりながらも俺は、胎動をゆっくりと停止する周囲の様子に倒したと確信して笑う。

 

「……って、これじゃあ相打ちじゃねえか」

 

 沈没し始めたのか空間が振動する中脱出する術もなくただ待つだけの状態にそうごちる。

 

「悪い妖精さん。

 結局道連れにしちまった」

 

 そう謝ると妖精さん達は一蓮托生だと笑う。

 

「…そうか」

 

 ホント、妖精さんは優しいな。

 間に合ったかすぐに確かめる事が出来ないのが唯一心残りだな。

 これが漫画とかゲームならタイミング良く助けが来るだろうけど、そんなの期待してもしょうが……

 

「イ級!!」

 

 ……マジで?

 

「無事なんだろ!?

 返事をしてくれイ級!!??」

 

 必死に呼び掛ける木曾には悪いが、なんつうかさ、タイミング良すぎるんだよ。

 

「こっちだ!!」

 

 ともあれ助かるってなら拒む理由は無い。

 木曾に応えながら俺は漸く勝ったことを実感した。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 ざあざあと波が起てる音を聞きながら俺達は迎えに来たチビ姫の艤装で休みながら沈んでいく装甲空母ヲ級の姿を見届けていた。

 

「これで、終わったのか?」

 

 木曾の問いに俺はああと言い切る。

 

「姫の魂は俺が取り込んだから、もう復活することは出来ないはずだ」

「…それなら確実ね」

 

 俺の答えに南方棲戦姫はしかしと苦笑する。

 

「取り込まれたと思ったら逆に取り込むなんて、貴女は本当に駆逐なの?」

「俺が聞きたいよ」

 

 半分ぐらい再生したアルファを回収し再び対空特化の性能になった自分の身体に本気でごちる。

 

「姫はこれからどうするんだ?」

 

 各鎮守府は今回の一件で大幅に戦力を失った。

 攻め立てるなら今を逃す手はないだろう。

 しかし、南方棲戦姫は肩を竦める。

 

「暫くは静かにしているつもりよ」

「なんでさ?」

 

 当然の疑問に南方棲戦姫は言う。

 

「弱った相手となんて燃えないじゃない。

 それに、やらなきゃならない事後処理も沢山あるの。

 少なくても半年は作戦行動なんて取れないわ」

 

 そういや装甲空母ヲ級の被害は深海棲艦にも拡がってたっけ。

 お偉方ってのは大変だな。

 

「それと駆逐。貴女、私の所に来ない?」

「え?」

「私の直属になるなら一海域を任せてもいいわよ?」

 

 これって、もしかしなくても勧誘だよね?

 だけどそれって、艦娘と戦うって事だよな?

 

「せっかくだけど遠慮しとく」

「そう。

 残念ね」

 

 撃たれる可能性とか本気で警戒してたんだけどあっさり引き下がったよ。

 戦艦棲姫に気を使ったのか?

 しつこくせがまれるよりいいんだけどさ。

 

「……ん?」

「どうした?」

「いや、なんか腹の中に…」

 

 違和感がと言おうとした直後、猛烈な吐き気が俺を襲った。

 

「う……おえぇぇ…」

 

 我慢できずえずくと一斉に逃げ出された。

 

「汚っ!?」

 

 北上の批難に構う余裕もなく俺は内側からせりあがってくる|なにか《・・・》を我慢できずぶちまけた。

 

「って…ええっ!?」

 

 木曾が素っ頓狂な悲鳴を上げる。

 一体何だったんだ?

 吐き出してすっきりしてからその正体を確認すると…

 

「……え?」

 

 そこにはレオタードのようにぴちりしたボディースーツを着た長い銀髪の少女が粘液まみれで倒れていたのだ。

 

「もしかして、空母ヲ級?」

 

 唖然とする一堂に訳が分からずそう呟くと俺はまさかと木曾を見る。

 

「もしかして、今俺が吐き出したの…コレ?」

「あ、ああ」

 

 どん引きしながらも木曾は頷く。

 ちょっ、あの、俺より大きい者をどうやって吐き出したんだ俺!?

 つうか、もしかしてこいつ艤装に捕われていたヲ級なのか!?

 あまりの事態に南方棲戦姫さえ固まる中、ヲ級がうっすらと目を開く。

 

「コ…コハ……?」

 

 戸惑った様子で辺りを見回すとヲ級は何かに気付いたようにハッとしてから両手で身体を抱きしめた。

 

「姫、貴女ハココニイルノネ」

 

 え?

 ごめん、全く訳が分からないんで誰か説明して。

 どうしていいか分からず固まっていると、ヲ級が俺を見た。

 

「貴方ノオ陰ナノネ?」

「はい?」

 

 なんのこと?

 よく見れば片方の目が装甲空母姫と同じ色をしたヲ級は語る。

 

「貴方ガ姫ガヤロウトシタ、私ト姫ヲヒトツノ艦ニシテクレタ」

 

 えっと、つまり?

 

「魂の融合…?

 まさか、暴走した負の思念を切り離し純粋に魂だけを融合して新たな深海棲艦として蘇らせたというの?」

 

 混乱しているらしく思考がおもいっきり口から出てらっしゃいますよ南方棲戦姫様。

 いやさ、何かしようとしたとか一切ないんですけど俺、そんな凄いことしたの?

 

「ははっ、やっぱりイ級は優しいね。

 敵だった相手を助けちゃうんだから」

「だね〜」

 

 やめてー!?

 偶然そうなっただけの結果で自分の評価上げるの本当に勘弁して!?

 

「イマノウチニショブンスベキカシラ」

 

 さりげなく物騒な台詞を口にするタ級。

 

「ちょっとこっちこようか」

「そうね。

 ゆっくりちょうきょもといお話しないといけないみたいね」

 

 耳聡く聞き咎めた木曾と南方棲戦姫に両肩掴まれてどこかに引きずられていく。

 

「ごーもんごーもん♪

 とにかくごーもんにかけろー♪」

「死なないよう手加減しなきゃ駄目だからね姫ちゃん?」

 

 なんでかチビ姫が楽しそうにタ級が引きずられていった方向に行ったな。

 つか瑞鳳、それでいいのか?

 

「ゴメンナサイィィィイイイ!!??」

 

 向こうでタ級の悲鳴が始まったけど気にしたら負けか?

 あっちは気にしないようして、差し当たり問題のヲ級に尋ねる。

 

「えっと、これからどうするんだ?」

「コレカラ…」

 

 ヲ級は遠くに沈んでいく装甲空母ヲ級の残骸を眺めた後、俺に顔を向け言った。

 

「貴方ニ着イテイク」

「え?」

 

 なんでさ?

 

「私ハ貴方ヲ赦サナイッテ決メタカラ、最期マデ見届ケル」

「…分かった」

 

 そう言われちゃ断れないじゃねえか。

 

「なんでこんなことになったんだか」

 

 つくづくそう思った。

 




 これにて装甲空母ヲ級との決着となります。
 主に尺的な方向で多少予定と狂いつつなんとか決着まで書ききりました。
 もう少しアルファの戦闘描写とか各人の無双とか書きたかったですが、それはまた次の機会に持ち越すことにします。
 次回は各勢力のエピローグと次回の中核の始点を投下予定です。

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