なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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 これ、人類終わる


……やべえ

 再び見えた装甲空母ヲ級は俺達を眼中にもなくひたすら浮遊要塞を喰らい続けていた。

 

「いい気なもんだな」

 

 こちらなんて気にする必要もないと見下げられていると思ったらしい木曾がそう毒吐くが気楽に北上が宥める。

 

「不意打ちやり放題って考えればいいじゃん」

 

 なんだったら魚雷もうちょっといっとく?なんて軽口を叩く北上。

 

「それは駆逐が仕留め損なった時に取っておきなさい」

 

 そう窘めたのは南方棲戦姫だった。

 いや、南方棲戦姫が艦娘とフレンドリーに話してるのが凄まじく違和感あるんだけど。

 一言で言うと気の良いお姉さんという感じ?

 チビ姫もそうだけど空母棲姫とか戦艦棲姫みたいな艦娘と明確に線を引いた態度がないせいで、俺の中の姫のイメージがガラガラと崩れているんだけどどうしたらいいんだ?

 いや、あの大和みたいに敵の敵は敵と艦娘深海棲艦関係なしに殺しに掛かるよりよっぽどいいんだけどさ。

 …なんか、こうやって考えると漫画とかゲームで人間が他種から蛮族扱いされてる理由が納得できるような…って、いい加減横道からもどらねえと。

 

「始めるぞ」

 

 そう言うと俺は女神が居ても轟沈は避けられないから妖精さん達に退艦するよう言ったが、最期まで共に在るとそう言うので俺は仕方ないと前に出て超重力砲の発動に入る。

 

「ぐっ、ごぉ…」

 

 腹の中からせり上がる吐き気にも似た異物感に声が漏らしながらソレが出やすくなるようおもいっきり口を開ける。

 そして身体の中から浮遊要塞というか某変態球みたいな球体が出て来ると、装甲空母ヲ級も気付いたのか反応する。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!??」

 

 文字に出来ない咆哮に付き従うようにいくつもの浮遊要塞が浮かび上がりこちらを狙い砲を伸ばす。

 

「ちっ、やっぱり大人しくなんてしないわよね」

「砲雷撃戦行くぞ!!

 イ級が超重力砲を撃つまでの時間を稼ぐんだ!!」

 

 木曾の号令に全員が武装を構える。

 超重力砲がチャージングを開始する中、浮遊要塞と南方棲戦姫とタ級とリ級の砲撃が飛び交い木曾と北上の魚雷が走る。

 しかし、装甲空母ヲ級は動かない。

 艦載機を使い潰したとは考えづらいのに、なんでだ?

 それに、どうしてか超重力砲を撃っても決定打にならない。そんな確信めいた予感がする。

 どころか、砲門に黒いエネルギーが集まるほどに更にまずい事態に陥る気すらしやがる。

 かと言って今更止めるわけにもいかない。

 中断したからといって再度撃つことは出来ないからやるしかない。

 激しい砲撃戦の中、異様に長く感じたチャージングが遂に完了。

 

「射線開け!!」

 

 俺の声に全員が一斉に散開し十分な射角が確保された直後、装甲空母ヲ級が思わぬ行動に出た。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」

 

 まるで、待ち兼ねた相手を出迎えるように自分から正面に移動したのだ。

 その瞬間全身を走った悪寒に自分が致命的な失態を犯した事を察したが、もう止められない。

 

「喰らいやがれ!!」

 

 俺の意に従い防ぐ術など思い付きそうも無い力の奔流が放たれ、ゴウッという衝撃波を撒き散らしながら黒い光が一直線に世界を蹂躙した。

 だが、

 

「バカナッ!?」

 

 超重力砲の余波が射線外の浮遊要塞を蹴散らし破砕する中、真っ正面から喰らった装甲空母ヲ級はそれに耐えていた。

 違う。

 耐えているんじゃない。

 あれは、

 

「超重力砲を…喰らっているの…?」

 

 滝から直接水を飲むように装甲空母ヲ級は超重力砲の砲撃に身を焼かれながらそのエネルギーを飲み下しているのだ。

 凄まじいエネルギーは装甲空母ヲ級を焼き焦がすが、それを上回る速度で傷が癒え、その身体が大きく膨れ上がる。

 

「…奴め、これを狙っていたのか!!??」

 

 信じられない現象に南方棲戦姫が叫ぶ。

 

「今すぐ止めろイ級!?」

 

 無理!!??

 つうかこれ止めたら余剰エネルギーでこっちがまとめてぶっ飛んじまう!!

 軌道を逸らす事も出来ずどんどん巨大化していく装甲空母ヲ級に成す術もなく自壊しながら超重力砲を放ち続ける俺。

 数分も続いた超重力砲の砲撃が終了し、海域に僅かな静寂が流れた。

 女神が沈みかけた身体をなんとか建て直してくれているが、そんなことよりも俺達は目の前の現実に目を奪われていた。

 

「冗談じゃねえぞ…」

 

 元から3、4メートルはあっただろう巨体は100倍近く膨れ上がり、本物の軍艦さながらの威容を纏う巨大な怪物へと姿を変えていた。

 

「…これ、倒せるの?」

 

 顔が引き攣って笑っているような顔の北上が零した問いは、この場にいる全員が思っている事だ。

 いやさ、リアル戦艦サイズに挑むってどう考えても無理じゃね?

 今は大人しいけど、これって動いたら攻撃してくるよな。

 

「逃げるか?」

「ニゲレルトオモウ?」

「……だよな」

 

 あ、機銃がこっち向いた。

 

「散りなさい!!」

 

 南方棲戦姫の叱咤に近い命令で一斉に散開すると同時に機銃の雨が降り始めた。

 

「機銃が主砲サイズってやってらんないよ!?」

「イイカラウチナサイ!!」

 

 混乱しながらも逃げようもないと戦いを再開したが、半ばやけくそ気味に砲撃を敢行してみるもサイズが違いすぎて全くダメージが入らない。

 

「分厚過ぎる!!??」

 

 魚雷を一点に集中させるも何発当たろうが傾斜すら起こさない。

 

「ちょっ、これ本気でヤバイよ!!??」

 

 唯一というほどにマシな事は巨大化した影響から機銃の弾幕は出鱈目にばらまかれるだけで命中率は無いに等しいため、殆ど死に体の俺でもまだ回避に余裕がある事だ。

 とはいえ装甲空母ヲ級はまだ自衛用の機銃しか使っていないからであって、これに艦載機まで持ち出されれば話は全く変わる。

 つか、使われた時点で終わる。

 かといって打つ手も無い。

 

「糞が!!??」

 

 超重力砲を使ったおかげで一門しか稼動できなくなったファランクスを無駄と分かっていても叩き込む。

 まるでフライパンを叩くような金属音を響かせるだけで傷一つ入りやしない。

 あのサイズじゃ南方棲戦姫の18インチ砲さえ豆鉄砲と変わらないんだからさもありなん。

 

「コウナッタラノリコンデウチガワカラ…」

 

 取り付こうと接近したリ級が機銃に曝され吹き飛ばされた。

 

「りっちゃん!!??」

 

 直撃はしなかったみたいだけど擬装が砕け、これ以上戦うことは不可能に見える。

 

「もう下がれ!?」

「マダヨ!!」

 

 剥き出しになった魚雷管を刃物の様に掴みそのまま殴り掛かろうとするが、真上から降って来た艤装部分の拳がリ級を躊躇なく叩き潰した。

 

「畜生がぁぁあああ!!」

 

 深海棲艦だから大丈夫なんて思わない。

 仲間を倒され頭に血が上った俺はファランクスを目茶苦茶に撃ちまくる。

 効かなかろうがどうだっていい。

 とにかく撃ちまくって注意を引き、これ以上誰も沈ませないために

 

「避けろイ級!!??」

 

 木曾の叫びの直後、装甲空母ヲ級の拳が俺を掴んだ。

 

「ガァァァアアア!!??」

 

 掴まれただけで全身が軋み装甲が砕け出したくもない悲鳴が漏れる。

 

「その手を離しやがれ!!」

 

 木曾の怒声と同時に俺を握り潰そうとする腕に向け砲撃が集中するが腕は俺を解放しようとはしない。

 

「木曾!!

 俺に構わず逃げろ!!」

 

 俺が捕まっている今なら逃げる隙もあるはず。

 

「お前を見捨てられるか!!??」

 

 頼むから俺なんかより自分を大事にしてくれ。

 じゃないと、球磨に顔向けらんねえんだよ。

 

「■■…」

 

 木曾達の砲撃を一切意に解さず、装甲空母ヲ級は俺を掴んでいる腕を艤装の巨大な口へと寄せる。

 まさか、俺を喰う気か?

 

「妖精さん!!

 お前達だけでも退避してくれ!!??」

 

 せめて喰われるのは俺だけにしようとそう叫ぶが、妖精さんが退艦する間もなく俺の身体が宙を舞い、そして、

 

「イ級ーーーーー!!??」

 

 装甲空母ヲ級に噛み砕かれ意識が断絶した。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 その瞬間をただ見ていることしか出来なかった。

 

「イ…級……?」

 

 そして仲間が、恩人が死んだのだという現実感が一挙に挙来した瞬間、木曾は溢れ出そうとした感情を歯を食いしばって強引に捩伏せた。

 

(喚き散らしてどうする!?

 そんな事で勝てるならイ級は死ななかったんだ!!)

 

 激情に身を任せても勝てるわけが無い。

 奴を倒せず無駄死にすればそれこそイ級の想いを不意にしてしまう。

 奴を倒す。

 それ以外の余計な感情は無用なんだと木曾はカトラスを抜刀する。

 

「木曾、どうする気?」

 

 おちゃらける余裕も無くした無表情の北上の問いに木曾は冷徹に研ぎ澄ました殺意を宣う。

 

「リ級がやろうとしたことをやる」

 

 装甲を打ち破る事は諦め、リ級が考えたように内側に入り込んで中から魚雷を叩き込む。

 

「勝算あるの?」

「他に思い付かない」

 

 だから邪魔をしないでくれと言外に願う木曾に北上は溜息を吐く。

 

「まぁ、他に思い付かないもんね」

「北上?」

 

 言い方が気になった木曾が北上を見ると、北上は魚雷管を構え笑っていた。

 

「九三式酸素魚雷残り127発。零距離で掃射すれば少しは効くよね」

「北上、お前」

 

 お前も相打ちを狙う気なのかと問い質そうとする木曾を先じ北上は口を開く。

 

「ああ、勘違いしないでよね。

 スーパー北上様はまだ魚雷が撃ち足りないだけだから木曾の邪魔はしないよ」

 

 それに、と北上の笑みに黒い感情が過ぎる。

 

「邪魔するってなら私だって容赦できるほど余裕無いからさ」

 

 そう言った北上の目には木曾と同じ怒りが宿っていた。

 

「……分かった」

 

 止めても無駄だ。

 自分も同じだから木曾はそれだけしか言わなかった。

 

「うん。

 死んだらイ級と球磨に怒られるから死なないでね」

「それはこっちの台詞だ。

 北上姉」

 

 この北上は自分が姉と呼んでいた北上じゃない。

 だけど、今だけはそう呼びたいと木曾は口にした。

 それを聞き、北上は笑みを深くする。

 

「いいねぇ、最高だよ。

 お姉ちゃんって呼ばれちゃ頑張るしかないよね」

 

 獰猛に、それでいて楽しそうに北上笑みを浮かべ装甲空母ヲ級に向け舵を切る。

 数瞬遅れで木曾も駆け出し、殺意に反応したのか吶喊する二人に機銃が集中する。

 しかし、機銃に向けて飛来した砲弾が直撃。

 破壊には至らないが衝撃で射角をずれ見当違いの方角に機銃がばらまかれた。

 

「私達を無視するとはいい度胸ね姫!!」

 

 浮遊要塞を呼び出した南方棲戦姫が木曾達を援護するように砲撃の雨を降らせる。

 

「行きなさい!!」

「南方棲戦姫!?」

 

 自分達の援護をする南方棲戦姫に声を上げる木曾に南方棲戦姫は吠えた。

 

「言葉は不要!

 その意、貫きなさい!!」

「感謝する!!」

 

 南方棲戦姫に注意が向いた隙に更に接近する二人。

 流石に南方棲戦姫の妨害までは無視できなかったのか浮遊要塞が浮かび上がり南方棲戦姫の浮遊要塞に襲い掛かる。

 

「ヒメ、コレイジョウハ」

 

 浮遊要塞の弾幕に撤退を進言するタ級に南方棲戦姫は猛々しく吠える。

 

「戯言を申すな!!

 雷巡の露払い一つ出来なくて何が戦艦か!!??」

 

 駆逐イ級の超重力砲を知った南方棲戦姫はこいつに任せてしまおうと日和見を決め込んだ。

 その結果事態は更に悪化し、もはや自分の身命総てを賭しても勝ち目も見えない|姫《化物》を生み出してしまった。

 

「貴様も戦艦の端くれなら泣き言を喚く前に手傷を与えなさい!!」

 

 

 


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