なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

29 / 123
 キツすぎる!!??


勝てるのかこれ?

 意味はないかもしれないが一応安全を考慮してチビ姫から20km程の間隔を挟み戦隊を組んで海を走りながら、ふととある漫画の狂人が発した『戦争音楽』という狂った言葉を思い出していた。

 殺すものと殺されるものが放つ肉声と銃火器が奏でる発射音。

 それに兵器が鳴らす重低音を指揮官が振るう手が奏でる狂気の坩堝。

 ここに来る前も来た後もそんなものは漫画かアニメの中にしかないとずっと思っていた。

 だけど、まだ遠くにだが聞こえる装甲空母ヲ級の雄叫びとB-29が放つエンジン音、それに加え大和と浮遊要塞と南方棲戦姫が放つ砲撃の音が重なると、まるで野外フェスでもやってるんじゃないかと錯覚するような爆音が海上を支配する。

 

「あー、ロックは嫌いなんだよね」

 

 同じ感想を抱いたらしい北上がそうぼやく。

 こんな状況でそれを言える北上って、なんつうか大物だよな。

 ちょうど肩の力が入りすぎていたから乗っかることにする。

 

「だったら普段はユーロビートか?」

「うんにゃ。クラシック専門」

「ニアワナイワネ」

「失礼な!?」

 

 確かに。

 タ級が食いついたのには驚いたが、北上って演歌とか好きそうってイメージあるのは俺だけだろうか?

 

「因みにタ級と瑞鳳は?」

「ボサノバ」

「え? テクノ」

 

 どっちもイメージじゃねえんですが。

 

「じゃあイ級はどうなのよ?」

「スクリーモ」

「うわぁ…」

 

 いいじゃねえかよスクリーモ。

 

「デスボとかマジ理解できないよ」

「北上、お前後で説教な」

 

 スクリーモとデスボを混合する俄かは修正してやる。

 

「と、そろそろ行くか」

 

 チビ姫は無視していたせいで気付かなかったが、アルファからリ級達もあの場所で戦ってるそうだ。

 

「アルファ、艦戦を潰して道を開けてくれ」

『了解』

 

 フォースを呼び出しビットを装着するアルファに、ついでだから尋ねてみる。

 

「そういやアルファも音楽の好みはあるのか?」

 

 半ば答えを期待せずに尋ねてみると、加速のタメ|《・・》を行いながらアルファは言う。

 

『アニソン』

「は?」

『特二アンパンマンマーチガ好キデス』

 

 重過ぎるわ!!??

 意味を理解しそう叫ぶ間もなくアルファは音速さえ置き去りに飛び立つ。

 

「って、俺達も続くぞ!!」

 

 戦闘が始まった事を告げる空の爆発音に俺達も速度を上げて走り出す。

 フォースとビットで武装したアルファは正に悪夢のような速さで次々と空を覆い尽くしていた艦戦と艦爆を貫き鏑矢のように俺達の存在を知らせる。

 

「りっちゃん!!」

 

 最高速度を持つ俺が先行し三つ巴として砲雷撃戦の真っ只中を突っ切る。

 

「クチク!?」

 

 アルファの存在と声で気付いたリ級が驚いた様子で俺に振り向く。

 

「ナニヲシニキタノ?」

「あいつを倒しに来たんだよ」

 

 見ればリ級の損傷は大分激しい。

 中破か下手すれば大破まで行ってるかもしれない。

 

「急いでチビ姫の所まで下がれ!」

「イヤヨ。

 ワタシハサイゴマデタタカウ!」

 

 そう言うリ級。

 今更気付いたが居るはずのホ級とロ級の姿が無い。

 おそらく轟沈したのだろう。

 復活するから大丈夫とは思えず俺は大声で言う。

 

「最後までやりたいなら言うこと聞け!

 チビ姫に高速修復剤を大量に詰ませてある。

 そいつを使ってついでに艤装の工作艦と水上機母艦から燃料弾薬貰ってこい」

 

 そう言うと南方棲戦姫が呆れたようにごちた。

 

「姫を前線基地にするなんてたいした駆逐ね」

 

 そう言う南方棲戦姫の目には警戒の色が見える。

 まあ姫クラスを基地扱いさせていればさもありなん。

 南方棲戦姫はリ級の様子を再確認して言った。

 

「重巡、貴女は一回補給してきなさい」

「…ワカッタ」

 

 そう言うとリ級は俺が来た方角に向かう。

 

「姫はいいのか?」

「そうね」

 

 獰猛な笑みを浮かべながら南方棲戦姫は言う。

 

「補給が出来るっていうなら、もう少し撃ってからさせてもらうわ!!」

 

 その言葉と同時に擬装の18インチはありそうな砲が弾丸を放ち浮遊要塞が一撃で葬られる。

 

『御主人』

 

 突然空を掃除していたアルファが急行し、全く気付かなかった俺目掛け降り懸かって来た九一式鉄鋼弾を辛うじてフォースで防いだ。

 

「大和か!!??」

 

 白い面で顔を隠しているが、滲み出る狂気にも似た殺意は忘れようもない。

 大和は俺を見ながら同時にB-29の爆撃を副砲から放つ三式弾で防ぎ、更にもう一基の46cm砲で装甲空母ヲ級を狙い撃つなんて馬鹿げた所業の真っ最中だった。

 南方棲戦姫でさえ損傷があるというのに、大和には損傷らしい損傷は一切見受けられない。

 その姿は正しく『怪物』だ。

 殺意は滾るが奴は迷惑な囮と割り切り俺は装甲空母ヲ級のみを狙い定める。

 

「あまり無理はするなよ。

 後、雷巡と軽空は味方だから間違っても撃つな」

 

 そう言い残すと俺は南方棲戦姫から離れ遅れて来た北上達と合流と同時に装甲空母ヲ級へと突貫。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

 俺達の存在に気付いた装甲空母ヲ級が咆哮を轟かせ新たな艦載機を飛ばす。

 

「北上、瑞鳳!!」

 

 俺の呼び掛けに先ずは瑞鳳が動く。

 

「数は少なくても、精鋭なんだから!!」

 

 ショートボウから真上へと放たれた矢がプロペラを後ろに有した独特の形状を持つ震電改に変じ高高度まで飛び上がる。

 させじと艦戦が立ち塞がるが、そこにアルファが割って入る。

 

『フォースシュート及ビビット攻勢陣形展開』

 

 解き放たれたフォースが震電改に追い縋る艦戦の幕を一直線に貫き、更にアルファの周囲を固める目玉にしか見えないビットが複雑な螺旋を描いてアルファの周囲を猛回転し周囲の艦戦と艦爆を次々と食らい尽くす。

 相変わらず無双だなおい。

 アルファを驚異と見做したのか艦戦の殆どがそちらに向かい、幕が薄くなった隙間を抜けて震電改が上空へと上がった。

 

「よしっ!!」

 

 そのまま史実を覆す勢いでB-29に食らい付く震電改と同時に北上も攻撃を開始する。

 

「20射線の酸素魚雷、2回なんてケチな事言わず纏めて10回いっちゃいますよ!!」

 

 後の事等一切考えない魚雷の一斉掃射。

 ピラニアの魚群のように魚雷が犇めきながら装甲空母ヲ級に立て続けに群がり次々と水柱を立てる。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!??」

 

 大量の魚雷は流石に効いたらしく装甲空母ヲ級の艤装というか怪物の部分が悲鳴を上げる。

 

「流石に一回じゃ無理か」

 

 とはいえ予想通り大分ダメージを与えられたみたいだ。

 

「北上、すぐに補給を…」

 

 そう言いながら振り向いた俺は、北上の様子がおかしい事に気付いた。

 

「どうした北上?」

「あ〜、大丈夫大丈夫」

 

 肩で息をしながら北上は顔を赤くしている。

 

「全魚雷打ちっぱなしなんて初めてだったからさ。

 ちょっと悟り開いただけだよ」

 

 心配して損したわ!!

 

「さっさと補給してこい!!」

「撃ちすぎて癖になったら責任取ってね?」

「いいから行け!?」

「…いけず」

 

 唇を尖らせながら補給するため反転する北上。

 艦爆が猛追を掛けようとするが、アルファのフォースシュートによって消し飛ばされ難無く離脱を成功させた。

 どこまでもマイペースな北上に緊張感どころかシリアスまで崩されたが、とにかく最高の皮切りは出来た。

 

「瑞鳳、震電改の残りは?」

「あと十機!!」

 

 性能差と瑞鳳自身のレベルの低さが仇となってかこちらは想定より損耗が早い。

 

「お前も補給に戻れ、制空権はなんとか維持しておく」

「分かったわ」

 

 フォースシュートでは巨大なB-29を汚染してしまうため撃破可能な瑞鳳が抜けるのは軽くないが、そこは俺がカバーする。

 タ級は回復を少しでも遅らせるため16インチ砲を放ち続けているが当たっても弾かれる始末。

 

「主砲を弾くってどんだけ固いんだよ…?」

 

 つうか北上の魚雷で削れたかも実は怪しくねえか?

 とはいえ今の所有効そうな手だても他に無い。

 もって来た弾薬三万全部吐き出しても駄目なら、もう核兵器でも持って来るぐらいしか思い浮かばない。

 といっても核兵器はこの世界の連中がとっくに試しているだろうから多分無駄だ。

 艦娘ようでもあればまだ分からないけど、とにかく無い物ねだりしても始まらない。

 

「大和には気をつけろタ級」

「ワタシヨリアナタデショ」

「そりゃそうか」

 

 とにかく今は北上が戻るまでの時間稼ぎだ。

 震電改という天敵の消失で再びフリーになったB-29の爆撃が開始される中、俺は浮遊要塞の視界に入るよう間取りを取りながら直上から降ってくる爆弾目掛けファランクスを掃射する。

 ファランクスの束ねられた砲身が猛然と回転し蜂の羽ばたきのような重低音と共に吐き出された弾丸が幕となって爆弾の着弾を防ぐが、防ぐだけで押し返すことが出来ない。

 アルファも無限に沸く艦載機に制空権を奪われぬよう維持するのに必死でこちらに構う余裕もあまりない。

 切り札の波動砲はチャージングが半端だがそれでも一回仕切直すことが出来るだろう。

 だけどその貴重な一発を無駄撃ちするわけにはいかない。

 そこにレーダーが嫌な反応を捕らえた。

 

「またテメエか大和!?」

 

 この状況でもまだこっちにまで撃ってくるとかどんだけしつけえんだよ!?

 着弾までの数秒でぎりぎりカス当たりの位置に退避するが、着弾の衝撃で発生した津波のような高波に大きく煽られてしまう。

 

「糞が!?

 狙うならあっちを狙え!!」

 

 毒吐くが聞いちゃいねえだろう。

 そこに南方棲戦姫が通信を投げて来た。

 

「大和の足止めに要塞を回してあげる。

 それで貸し借りは無しよ」

「助かる!」

 

 どんだけ燃料弾薬を貪るか不安だとか浮遊要塞が大和に向かって手数が更に減るとか懸念は山ほどあるけど、厚意を無下にする暇も惜しい。

 

「お待たせ〜」

 

 そこに北上の通信が飛んでくる。

 

「二回目いっちゃうよ〜」

「予想以上に装甲が硬い!

 全弾当てるつもりでやってくれ!」

「無茶苦茶言うね〜?

 でも、出来たらかっこいいし頑張っちゃいますか」

 

 へらっと北上は笑うと再び魚雷の一斉掃射を開始。

 更にリ級と瑞鳳も戦列に戻り、リ級はまともに攻撃が通る浮遊要塞目掛け砲撃を、瑞鳳は再び震電改を飛ばしB-29へと艦載機を差し向ける。

 装甲空母ヲ級はB-29を飛ばす傍ら一回り小さい浮遊要塞を丸呑みにして回復を計ってるみたいだが、さっきな不安よりは北上の雷撃は効いているようで僅かづつだが損耗は積み重なり大きくなっているようだ。

 

「あ〜、また撃ちきっちゃった。

 補給戻るね」

「っ、北上!?」

 

 しゅたっと手を挙げる北上の真横に装甲空母ヲ級の浮遊要塞が放った砲弾が着弾した。

 

「うわっ!?

 装甲は紙なんだから手加減してよ!?」

 

 衝撃でスカートが吹き飛びパンツ丸出しでそう喚く。

 

「急いで修復剤使ってこい!?」

 

 目測ではまだ小破ぐらいだが、主に目のやり場的な意味で万が一が心配過ぎる。

 

「言われなくてもそうするよ!」

 

 上着を腰に巻いてスカートの代わりにするとさっきより早い速度ですたこらと撤退する北上。

 

「イ級は大丈夫なの!?」

 

 二回目とあってさっきより震電改の損耗を抑えられている瑞鳳の問いに大丈夫だと返す。

 戦闘開始からまだ三時間。

 燃料は問題なく、弾薬の消耗率から最低後6時間は粘れる。

 

「グッ!?」

 

 錐揉みしながら落下して来た艦爆がタ級に直撃弾を叩き込んだ。

 

「タ級!?」

「マダヨ!!」

 

 副砲の一本がダメになったがまだ大丈夫とタ級は下がらず砲を撃つ。

 

「ヒメナフッキマデモタセル!!」

 

 砲弾は弧を描いて飛翔しリ級が被害を与えた浮遊要塞にとどめを刺す。

 

「ワタシノエモノ!?」

「ダッタラキッチリトドメヲサシナサイ!!」

 

 喚くリ級を切り捨て再び砲を放つタ級。

 

「クソッ、オボエテナサイ!!」

 

 魚雷缶を振り装甲空母ヲ級目掛け魚雷を放ちながら負け惜しみを言うリ級。

 魚雷は装甲空母ヲ級を外れ、何故か大和に当たった。

 

「っ!?」

 

 上空ばかりに注意が向いていた大和は足元から上がる水柱に僅かに傾ぎ、その結果三式弾の起動がズレ撃墜を免れた爆弾の一発が大和の顔に当たり爆ぜた。

 

「…ア」

 

 アレは逝ったかと声を漏らすリ級だが、あんなもんで死ぬとは到底思えない。

 事実、爆煙が晴れた先から現れた大和の首から先が消えているという事態は起きていなった。

 だが、無傷というわけでも無い。

 髪は煤に汚れ、電探の髪飾りは一部欠けている。

 なにより…

 

「……見たわね?」

 

 顔を覆っていた仮面が壊れ、その素顔が露になっていた。

 

「私の顔の傷を、よくも見たわね!!??」

 

 右目から半分に酷い火傷を負った大和がとてつもない怒気と憎悪を撒き散らし装甲空母ヲ級て同等の咆哮を放った。

 




 大和発狂モード入りました。

 これで戦場は更に混迷すること請け合いですね。

 ということで、次回は更なる激戦。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。