なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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ものすっげえ逃げたいけど


行きましょうかね

 自分が改めて流され続けていたんだと思い知らされた翌朝、俺は三人の遺体を荼毘に伏してから後片付けをする氷川丸と話をしていた。

 

「ままならないよね」

 

 妖精さんと役目を終えたシーツを洗いながら氷川丸は独白する。

 

「手を差し延べたいって気持ちがあっても、現実に何も出来ないって経験は私にもあるから分かるわ。

 私は病院船として沢山の人を助けてこれたけど、それでも助けられなかった人も沢山いたわ。

 こういうのはどうやっても馴れないものよ」

 

 馴れたくもないけどねと困ったように笑う氷川丸。

 

「それに、彼女達は選べたわ。

 それだけで救いになるのよ」

「だけど、俺は…」

 

 彼女達に選ばせたなんて偉いことは言えない。

 ただ、後で恨まれたくないから選択肢を丸投げにしただけだ。

 

「それでも、助けたいと思ったんだよ」

 

 あの後からアルファは一言も発してはいない。

 俺に呆れたのか、それとも…

 どちらにしろ、アルファの言う通り今の俺はあの糞野郎以下だとそう思う。

 強要して拒絶されることが怖い癖に、逃げることも出来ず立ち止まったまま。

 選ぶことが出来ない今のままで、俺は本当にこの世界に居る意味があるのだろうか?

 

「さてと」

 

 シーツを干し終えた氷川丸は俺に言う。

 

「私は今回の件が落ち着くまでもう少しここに留まらせてもらうわ。

 また流れ着いてくる娘もいるかもしれないしね」

「そうか」

 

 安全とは言い難いが、海に出るよりはマシだろう。

 

「なんかあったらすぐ逃げろよ。

 ヌ級達にも護衛するよう言ってあるし」

「勿論よ。

 まだまだ救える人は沢山居るんだから、こんなところで沈む気はないわ」

 

 そう微笑む氷川丸に挨拶して俺は明石の下に向かう。

 

「もういいのかい?」

 

 壊れた艤装から取り外した装備の入ったドラム缶を準備しながら明石は言った。

 

「ああ。

 明石こそいいのか?

 もう一日ぐらいなら大丈夫だぞ?」

 

 開発には明石の艤装を使うため、数日逗留して開発に集中するつもりだったからまだ日数的には余裕がある。

 俺の問いに明石は苦笑する。

 

「全部終わらせてからのんびりさせてもらうよ」

「……そうだな」

 

 いつ艦娘の遺体が流れ着くか警戒しながらの休暇なんて、それこそ気の休まる暇もない。

 

「じゃあ行くか」

「行きたくないけどね」

「俺もだ」

 

 お互いに冗談混じりに本音をぶちまけ、俺はドラム缶を引きずりながら海に出る。

 帰途の最中は特に何もなく、俺達は姫の住まいの近くになったところで呼び出し用の爆竹の入った爆雷を投下する。

 そうしてしばらく待つと水面に潜水ヨ級が浮かび上がって来た。

 

「ハヤカッタワネ」

「いろいろあってな。

 姫のとこまで頼む」

「ワカッタワ」

 

 ヨ級は頷くと同じく浮かび上がって来たカ級と共に俺達を抱いて水中に潜る。

 今更だけど水圧とか大丈夫なのか?

 まあ明石も苦しそうじゃないし気にしたら負けなんだろうな。

 しばらく潜るとヨ級達は海中を進み姫の住まいにたどり着く。

 横たわる事なく海底に佇む武蔵の姿は、人が大艦巨砲主義に魅了される訳をなんとなく理解させる。

 大きいってのはそれだけで浪漫なんだ。

 それが戦場で活躍するかはともかく。

 海水を遮断する結界みたいな理解不能な幕を抜けると甲板に降り立ち髪だけが濡れた明石は溜息を吐く。

 

「濡れるのだけなんとかならないかな」

 

 出迎えてくれた後期型イ級にタオルを貰って髪を拭いながらごちる明石。

 

「アルバコアの潜水服使えばいいんじゃねえか?」

 

 島に転がっていたのを思い出した尋ねると明石は微妙な顔になる。

 

「サイズが合わないのよ。胸とか胸とか胸とか」

「……そうか」

 

 デリケートな問題に関わってはいけない。

 例え一応女の体だとしても。

 いいね?

 

「とにかく、持ってきた装備の準備をしよう」

 

 あんな光景はもう見ないで済むようにしないと。

 そう思い俺はドラム缶を抱えて中に進んだ。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 御主人ノカタパルトニ固定サレタ状態デ私ハ進メラレル準備ヲ眺メテイル。

 

「いいねぇ。

 五連装酸素魚雷論者積みなんて初めてだよ。

 ね、ね、試し撃ちしていい?」

「誰に撃つつもりだよ?」

「そりゃあ…」

「俺かよ!?」

 

 楽シソウニ御主人ニ魚雷ヲ向ケル北上。

 北上ハ出会ッタ頃ニ比べ笑ウヨウニナッタ。

 

「ぜろ〜♪ぜろ〜♪」

「違うよ姫ちゃん。

 これは震電改だよ」

「しんでんかい?

 ぜろじゃないの?」

「ん〜。

 まあ、零式だしゼロの兄弟かな」

「ぜろ〜♪」

 

 瑞鳳ハ膝ニ乗セタ姫ニ搭載予定ノ震電改ヲマルデ玩具ノヨウニ遊バセテイル。

 互イノ関係カラ良イ傾向デハナイヨウダケド、二人ハ楽シソウニ笑ッテイル。

 

「仕方ないって言っても装備がドラム缶で埋まるってのは中々楽しくないね」

「夕張が泣いていた気持ちが少し分かったわ」

 

 明石ト千代田ハ沢山ノドラム缶ヲ前ニ肩ヲ落トシテイル。

 ダケド、悲壮感ハナイ。

 昔、マダ人間ダッタ頃ニPOWアーマーノパイロットニナッタ仲間モアンナ顔ヲシテイタノヲ思イ出シタ。

 …提督。

 提督ハ今、ドコニイルノデスカ?

 醒メナイ悪夢ニ囚ワレナガラモ人デアッタ事ヲ思イ出シ、自ラ地球ヲ離レタ提督ハ今安ラカデショウカ?

 私ガ生キテイル事ガ提督ノ生存ヲ教エテクレマスガ、側ニイナイ事ハ少シ寂シイデス。

 コレガ贅沢ナ悩ミナノダト分カッテイテモ、ヤハリソウ思ッテシマイマス。

 一度考エテシマウト記憶ガ次々ト蘇ル。

 着任シタテノ新入リ時代。

 初メテA級バイドト遭遇シタアノ絶望感。

 ソノA級バイドヲ撃破シタ感動。

 ソレニ気ヲ良シタ上層部ノ無茶ナ中枢破壊作戦。

 航海中ニタマニ発症シタ提督ノ微妙ナユーモア。

 ソシテ……

 

 キガツクト ワタシタチハ バイドニナッテイタ

 ソレデモ チキュウニ カエリタカッタ

 ダカラ テキハスベテタオシタ

 ソシテ オワラナイユウグレニ コウカイダケガ ノコッタ

 

「アルファ」

『……ハイ』

 

 イツノマニカ全員ノ装備ノ換装ハ済ンデ私ト御主人ダケニナッテイタ。

 思考ヲ停止シ御主人ノ言葉ニ注意スル。

 

「お前は、なんで俺に付き従ってくれるんだ?」

『……』

 

 御主人ハヤハリマダ迷イ続ケテイル。

 周リガ何故自分ニ期待スルノカ解ラナイノカラ自信ヲ持テナイデイル。

 ドウシテ周リガ貴方ニ期待スルノカ、気付イテイナイカラコソノ魅力ダトワカッテイテモ、私ハソレヲ知ッテ欲シイト思ウ。

 

『御主人ハ、私ヲドウ思イマスカ?』

「は?

 …俺より強い頼れる相棒だと思ってるけど?」

『醜イトハ思イマセンカ?』

「…。思わないって言ったら嘘だがよ、だからって気にはしてないぞ」

『ソレガ理由デス』

 

 御主人ハアリノママニ受ケ入レテクレル。

 艦娘モ、深海棲艦モ、私ノコトモ。

 自身デハ気付イテイナイカラコソナノカモシレナイケド、私達ハソノ優シサニハ救ワレタ。

 アノ二人モソウダッタ。

 ズット抑エ込メテイタ私ノバイドトシテノ本能ヲ刺激スルホドニ強烈ナ憎悪ニ満チタ強固ナ再起ヘノ執着ヲ抱イテイタ。

 ダケド、二人ハ御主人ニ思イ留マラセテ貰エタ。

 ソシテ、御主人ガ呵責ニ苛マレヌヨウ拒絶シテクレタ。

 御主人ハ悔ヤンデイルケレド、アノママ悪夢ニ囚ワレテイタラモット苦シム事ニナッテイタ。

 ダカラ私モ留マレタ。

 バイドニ意識ヲ奪ワレズ御主人ノ艦載機トシテ在リ続ケラレル。

 オソラク、私ガ離レテイタ間ニモ、ソウヤッテ救ワレタ者ガイタノダロウ。

 

『御主人ハ私ヲ相棒ト呼ンデクレル。

 ソレ以上ノ理由ハイリマセン』

「……そうか」

 

 釈然トシテイナイケレド、私ハ戦ウコトデ救ワレタ恩ヲ返ス。

 ソレガ今ノ私ノ望ミ。

 

「なら、行こうアルファ。

 装甲空母ヲ級を止めるために」

「了解」

 

 私ノ名ハアルファ。

 御主人ノ空ヲ護ル力。

 ソウ在リ続ケル事ガ私ノ『希望』(望ミ)

 

 

〜〜〜〜

 

 

 今揃えられる限りの装備を整え、俺達はチビ姫の巨大な艤装に乗って装甲空母ヲ級の居る海域を目指していた。

 なんだけど…

 

「落ち付かねえ」

 

 少しでも燃料は節約しなきゃなんないのはわかってんだけど、目の前に海があるのに泳げないってのはすんげえストレスになってんだよ。

 とはいってもワ級が不安だからと現在進行形で俺を抱えてるから出たくても海には出れないんだけどな。

 まあ、これでワ級の不安が和らぐならそれでいいんだけどよ。

 

「我慢我慢。

 出番になったら走り続けるんだから休んどきなって」

 

 最後の余暇を楽しむように飛行甲板に組立式のリクライニングチェアーを設置してひなたぼっこをしていた北上がそう言う。

 

「だらけすぎんなよ?

 艦娘に見付かって戦闘になるかもしれないんだからな」

「大丈夫だって。

 それにいちゃついてるイ級だって似たようなもんじゃん」

 

 いちゃついてる訳じゃねえよ。

 こうすればワ級が落ち着くっていいからしてるだけだっての。

 気楽にそう言う北上に溜息を吐いてしまう。

 しかしだ、チビ姫の艤装も大概だなと思う。

 でかいだけの事もあって姫を含めた俺達全員が乗ってもなんの支障もきたしていないってのは泊地タイプと呼ばれるだけの事はある。

 しかもその気になれば今回みたいに載せた深海棲艦を装備扱い出来るそうだ。

 因みに装備枠は明石(修理設備相当)千代田(補給設備相当)ワ級(ドラム缶相当)と自衛用の艦戦。

 今回は機動要塞として運用させたけど、使い方次第ではかなり戦術の幅が広がりそうだ。

 例えばドラクエの馬車とかメガテンのCompみたいな即時交代を可能とする待機部隊の詰所的な役割もありだろう。

 問題は、それを安易に出来るのは深海棲艦側だということか。

 実際やったら人類終わるな。

 

「チビ姫、近く艦娘の気配はあるか?」

「ちびじゃない!!

 わたしはひめなの!!」

 

 瑞鳳に抱っこされた姿で人の質問を無視して喚くチビ姫。

 ったく。

 

「で、どうなんだよ?」

「おしえない!」

 

 …このやろう。

 泣かされたのがよっぽど気にくわないらしく、姫の言い付けなんてどこ吹く風と言うことなんて聞きやしない。

 これだからガキは嫌いなんだよ。

 仕方ないなといった様子で瑞鳳が代わりに尋ねた。

 

「姫ちゃん、私達以外に近くに誰かいない?」

「んっとねえ、かいぶつとひめとへんなかんむすがいるの」

 

 変な艦娘?

 手の平の返しようはさておき奇妙な事を言うチビ姫。

 

「変って、どんなふうに変なの姫ちゃん?」

 

 同じ疑問に至った瑞鳳が尋ねると、チビ姫は困ったように首を傾ける。

 

「わかんないの」

 

 そうチビ姫は言う。

 

「わたしたちなのによーせーさんのかんむすなの。

 だけどよーせーさんがあんまりかんじなくてひめみたいなの」

 

 取り敢えず三つ巴が始まってる事は確定したけど、それ以外要領が全く得られないんだが?

 深海棲艦で在りながら艦娘で、更に妖精さんの気配が薄くて姫みたいだって訳がわからねえぞ。

 

「他に誰か居る?」

「んっとね、いないよ」

 

 ……何だって?

 

「装甲空母ヲ級を相手に単機だと…?」

 

 奴には鬼クラスの火力を持つ浮遊要塞が従っている。

 そんな輩に単身で挑む馬鹿は…

 

「アイツか」

 

 姫をサシで潰せる力を持つ艦娘なんて一人しか思い当たらない。

 横須賀の切り札、戦艦大和。

 あいつが出番っているというのか。

 俺は意を決しワ級に下ろすよう頼むと千代田に話し掛ける。

 

「千代田」

「…何?」

 

 あまり会話したくないという雰囲気を放つ千代田に俺は告げる。

 

「どうやらあの大和が来ているらしい」

「……」

 

 千代田の顔に暗い影が射した。

 

「……そう」

「手を出すなとは言わないが、無理は…」

「いいえ」

 

 役割をほうり出して大和に挑み掛かっても停めないからと言う俺を千代田は遮る。

 

「役割を放棄したりなんかしない。

 だからイ級は戦うことに集中して」

 

 そう言う千代田に無理をしている様子はない。

 

「……分かった」

 

 これ以上は余計なお世話だなと俺はその場を離れる。

 

「アルファ、先行偵察してくれ」

『了解』

 

 大和がいるというなら彩雲でも危ない。

 次元潜航でこちらから干渉できなくなるアルファなら確実に帰還出来るしなにより速い。

 とはいえ利点ばかりでもない。

 何故かレーダーは優秀なのに通信機能が非常に弱いためアルファとの連絡手段は極短距離の通信か、でなければ普通に会話する以外に無かったりする。

 アルファもアルファでバイドの通信は念話みたいなものが主だからと通信機能は非常に弱く、結局偵察結果は帰還待ちになってしまう。

 そういった訳で今回の様に先行偵察ならアルファが絶対だけど、索敵なら多数の水偵を放てる千代田や彩雲を使う瑞鳳の方が有用だったりする。

 やっぱり数は大事なんだな。

 カタパルトから発進したアルファが空間を波立たせ次元の壁を抜ける。

 そして差ほど待つこともなくアルファが詳細な状況を持ち帰り、俺と北上と瑞鳳とタ級はチビ姫の艤装から海に着水する。

 

「作戦開始!!

 生きて帰るぞ!!」

 

 そう激を飛ばし、俺達は海を駆け出した。

 




 駆逐イ級はギャルゲー主人公だったんだ!!

 とまあ半分冗談はさておき、イ級はゲーム的に言うとスキル《カリスマ》持ってます。
 といっても無自覚だから気付きもしません。

 ギャルゲー主人公だからしょうがないよね!

 ついでにスキル《不幸》も持ってるよなこいつ。

 次回からいよいよ決戦。
 

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