なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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なのになんでこうなるんだ!!??


お、俺は悪くねえ!?

「それで、わざわざ私の手を煩わせたその所在をはっきりしてもらいましょうか?」

 

 煙りを吐く副砲相当の顎を手に不快そうにそう尋ねる戦艦棲姫。

 その砲弾を喰らって再び小破した俺と瑞鳳は戦艦棲姫を前に(俺は気分だけだけど)正座する羽目になっていた。

 ちなみにチビ姫は泣き付かれて今は戦艦棲姫の艤装に引っ付いたまま寝ている。

 

「いや、そいつが姫としての威厳が無さ過ぎるのがだなぁ」

「だから可愛いんだから威厳なんてなくていいのよ」

 

 俺の主張に噛み付く瑞鳳。

 そんな姿に姫は呆れたと溜息を吐いた。

 

「貴女方の主張はよく分かりました。

 取り敢えず、姫は没収します」

「そんなぁ〜」

 

 いや、残念がるよりもおもいっきり物扱いしてることに突っ込めよ。

 

「って、そいつは困る」

「何故?」

「姫退治に使うつもりだから」

 

 そう言うと俺のプランを説明する。

 

「……中々面白い案ですね」

 

 最初は驚いた戦艦棲姫だが、想定の範囲外かつ意義のあるプランだったらしく本気で考え込んでいる。

 いつの間にか戻って来た北上達も概要は聞いていたようで真剣な顔で考えている。

 ……そういや説明忘れてたっけ。

 

「絶対反対よ!」

 

 と、半ば予想通り瑞鳳が反対の意を挙げる。

 

「こんな可愛い子を戦場に出すなんて、あんた何考えているのよ!?」

「ざけんな。

 可愛かろうがそいつは深海棲艦のそれも姫だ。

 チビ姫が嫌だってならともかく、手段を問えるほど余裕なんかねえよ」

「だからって…」

 

 自分の進退が関わっていても、情に解されきった相手を使うことは反対だと瑞鳳は漏らす。

 だが、構うほどの余裕なんか本当にないんだ。

 

「明石、今の案は実行出来るか?」

 

 尋ねてみると明石は腕を組んで難しそうに眉を寄せる。

 

「安全な足場があるって言うなら戦場でも補給を出来ないとは言わないよ?

 だけど、その姫の艤装がどれぐらいの大きさで、その艤装に作業スペースが確保できるか、出来ても実際に出来るのかってのは別の話だからね」

「でも出来たら最高だよね。

 九三式酸素魚雷のお代わり自由撃ち放題祭なんて痺れるぐらい憧れちゃうよ」

 

 明石の懸念に被せるように目を輝かせる北上らしい答えに俺は苦笑を零してしまう。

 

「確かにその方法が実現可能なら、あの姫だった者を打倒するにも明確な活路も見えてくるでしょう」

 

 戦艦棲姫も戦略的観点からそう是とするが、

 

「ですが、認めるわけにはいきません」

 

 だけど答えは否でした。

 

「なんでだよ?」

「その姫は姫より預かった身。

 連れ出すなら姫の許諾を取ってきなさい」

 

 預かったって、ここは託児所かなんかなのか?

 プライベートルームってこともあるんだろうけど、身の回りの世話をしているという深海棲艦以外あんま見ないらしいからマジでそうなのかもな。

 

「ならしゃあねえか。

 別の手を考えるしかないな」

 

 隣で安堵してる瑞鳳が地味にムカつくが、実際あんなん連れてっても不安なのは事実だし。

 なにより、流れからして強硬に走れば港湾棲姫か飛行場姫のどっちか、下手したら両方まとめてガチバトルに発展なんて笑えない展開は勘弁願いたい。

 

「うにゅ…」

 

 話し声に反応したのかチビ姫が目を醒ましやがった。

 まったく、良いタイミングだこって。

 

「……ままぁ、どこ?」

 

 眠そうに目を擦りながら辺りを見回し瑞鳳を見付けるなりト級から降りてテテテと走り抱き着く。

 

「ままぁ」

「ママだよ〜」

 

 抱き着かれて頬を緩めきってる瑞鳳に思わずごちる。

 

「艦娘としていいのか?」

「いいんじゃないの?

 艦娘だって言っても私達は鎮守府に見捨てられたはぐれ者だし、深海棲艦と馴れ合ってるような変な奴が居たっていいじゃん」

 

 思わず出た言葉に気楽にそう笑う北上。

 

「まあ、俺みたいな艦娘を好きな深海棲艦もいるんだしな」

 

 と言ってもガワだけで中身は人間の筈。

 最近どうでもよくなりつつあるけどさ。

 そういえばさっきから戦艦棲姫がなんも言わないのが気になったからちょっと聞いてみるか。

 

「姫はアレをほっといていいのか?」

 

 べたべた甘やかす瑞鳳と甘やかされて嬉しそうなチビ姫を指して尋ねると、戦艦棲姫は特に感情も見せず言う。

 

「害さなければ構いません。

 どちらの意味でも手を出したら殺しますが」

 

 さいでっか。

 そんな台詞が出る辺り二次創作で深海棲艦のお艦とか言われてるまんまだな。

 つうか、人類に仇成す深海棲艦にとってはあの時点で害な気もするけど甘やかしは許容範囲なのか?

 

「ねえ、まま。

 ままはひめだったのをころすの?」

 

 聞いていたらしくチビ姫が無邪気にそう尋ねる。

 無邪気に物騒な単語が出る辺り子供特有の残酷さが垣間見えて薄ら怖いんだが。

 

「うん。

 やんないとママ、もう姫ちゃんに会えなくなっちゃうんだって」

「そんなのや!

 ままをないないするやつはわたしがころす!!」

 

 無垢な感情のままにチビ姫は瑞鳳にしがみつくと突然背筋を薄ら寒くさせる台詞を吐いてくれやがった。

 

「駄目だよ姫ちゃん。

 姫ちゃんはそんな危ない事なんかしなくていいんだよ」

 

 ぎゅーとか擬音が付きそうな様子で抱きしめる瑞鳳だが、チビ姫はやぁとワガママを言う。

 

「ままにあえなくなるのや!!

 ままをいじめるやつはころすの!!」

 

 子供って、こう非常識な容赦のない台詞をぽんぽん出すよな。

 しかも紛いなく姫なんだからマジになればどうなるか。

 

「姫、我が儘を言うなら姫に告げますよ」

 

 わりと厳しめにそう窘める戦艦棲姫に、チビ姫は地雷を踏み抜きやがった。

 

「おばちゃんはだまってて!!」

 

 その瞬間、空気が冷えた。

 深海とか南極なんて目じゃない。

 月の裏側か外宇宙にでも放り出されたような、そんな錯覚を覚えるぐらい魂まで凍るような冷たい空気が辺りを包み、そのうえゲームの夜戦のBGMの幻聴まで始まってる。

 一言で言うならアレだ。

 

 オワタ\(^O^)/

 

「………ほぅ?」

 

 静かなのが逆に恐怖を煽りまくる戦艦棲姫の声。

 幻聴と合間って本気で怖い。

 がたがた震えながらも瑞鳳はチビ姫を放り出す様子も見せずなんとか鎮めようと口を開きかけるが…

 

「ひぃ…」

 

 じろりと見られただけで竦み上がり何も言えなくなる。

 明石と北上は安定の逃げ足の速さ。

 テメエラ覚えてろよ。

 後ろでオロオロする艤装を尻目に戦艦棲姫は言う。

 

「そんなに行きたいのであれば、その駆逐を倒してみなさい」

「……はい?」

 

 なんで俺を指差すんだよ?

 あの、まさかやれと?

 

「拒否権は…」

「まるかじり」

「やらせていただきます!!??」

 

 こりゃマジだ。

 艤装が本気で?と言わんばかりに俺と姫の間を交互に動かした辺りマジで命じかけやがった。

 艤装に喰われるとかマジ勘弁。

 というか、腹に据えかねたのは解るけど俺まで巻き込むなよ!?

 

「そいつころしたらころしにいっていいの?

 じゃあころす!!」

 

 条件を出された途端チビ姫は目を輝かせると瑞鳳から飛び降りててててと走り去ってしまった。

 

「……あの、」

「早く行きなさい。

 今回だけは殺しても目をつむりますから徹底的に仕置いてきなさい」

「アッ、ハイ」

 

 逆らうとかそんな余禄はありません。

 出口を確認してから俺は言われるまま理不尽な戦いを再び強いられ事にごちるしか無かった。

 

「なんでこんなことになったんだよ?」

 

 当然ながらそんな呟きに誰も答えてなんかくれない。

 出口に待っていた案内役の輸送隊の潜水艦に引っ張られ、途中で海中では上手くは動けないけど呼吸は苦しくなかったっていう新たな発見をしつつ海上に上がると、全長100mはあろうかという巨大な艤装が待っていた。

 あれがチビ姫の艤装なのか?

 本人と比べてデカすぎなんだが。

 

「おそい〜!!」

 

 艤装の真ん中辺りに小さく見えるチビ姫がぶーたれながら文句を言う。

 

「ったく、」

 

 仕置きと言うが、あんな馬鹿でかい艤装をどうやって潰せってんだ?

 

「アルファ、行けるか?」

『波動砲使用不可。

 ソレトザイオング慣性制御システムガ万全デハナイノデ最大速度ガ著シク低下シテイマスガイケマス』

「なにそれ?」

『…推進基デス』

 

 後ろのブースターの事か。

 そんなカッコイイ名前とか付いてたんだ。

 

「まあ仕方ない。

 無茶はさせたくないが、いつでも出れるようスタイバイはしといてくれ」

 

 外したのは対空レーダーの方だから大分制度は落ちてるし、アルファ無しだと艦載機を封殺しきれないだろう。

 

『了解』

 

 と、待ちきれなくなったらしく艤装からマスコットじみた耳付きの白いミニチュア浮遊砲台が飛び立ち始めた。

 

「たべちゃえ!」

 

 チビ姫の号令と同時に俺目掛け飛び掛かるミニ砲台。

 それ艦載機なのかよ!?

 

「チッ、」

 

 急いでファランクスを起動させながら温まりきっていない缶に無理矢理活を入れて走り出す。

 射程圏に入ったと同時にミニ砲台目掛けファランクスが火を噴くが、数機が撃ち落とされるも猛然と吐き出される弾幕をかい潜ってミニ砲台が俺に迫る。

 全機撃墜に至らなかったのはミニ砲台が速いのもそうだが、対空レーダーが欠けているせいで精度が甘くなっているのが最大の理由だ。

 シナジーの偉大さを改めて感じながらいつもより動きの鈍いファランクスに弾幕を引かせながら俺はミニ砲台の口から放たれた爆弾を…

 

「……っえええ!?」

 

 放たれた爆弾が着水しないまま尻から煙を吐き出して飛んでやがる。

 まさかミサイル!?

 あれ本気でミサイルなの!?

 

「だあわわわっ!?」

 

 慌ててファランクスの照準をミサイルらしき群れに向け弾幕を張ると辛うじて撃墜に成功するが、今度はフリーになったミニ砲台が錐揉みしながら上から襲い掛かった。

 

「ドチクショウが!?」

 

 機銃を撃ちながら牙で直接かじりつこうとするミニ砲台をドリフトしながらギリギリで回避する。

 が、完全には避けきれず機銃に撃たれ身体の一部が削られた。

 

「アルファ、妖精さん、無事か!?」

 

 浮上しようとするさっきのミニ砲台を蜂の巣にしながら報告を受ける。

 

『損傷無シ』

 

 アルファに次いで妖精さん達からも人的被害はないと報告が上がるが、これまでに加え今の機動で無理が祟ったらしくギアに無視できない損耗が発生していると言われた。

 

「終わったら明石にフルで頼むから持たせてくれ!」

 

 了解と返事を受けたところでチビ姫が癇癪を起こした。

 

「くちくのくせになまいきだよ!!

 さっさとしんじゃえ!!」

 

 気に入らないと喚き、追加のミニ砲台だけじゃなく更に水中から戦艦棲姫のより二回り程小さな浮遊要塞まで持ち出してきやがった。

 

「駆逐艦舐めてんじゃねえぞ!!」

 

 やられっぱなしで頭に来ていた俺はアルファに命ずる。

 

「アルファ発進、頭を抑えろ!!」

『了解。

 バイドシステムα発進』

 

 背中が開きアルファが垂直に飛び立つ。

 

「うぇ〜、きもちわるい」

『……』

 

 アルファを見た姫のまっすぐな罵倒が余程効いたらしく、アルファは黄昏れた様子で俺に着艦しようとする。

 

「待て待て待て。

 何戻ろうとしてんだ!?」

『申シ訳アリマセン。

 流石ニ堪エマシタ』

 

 子供って容赦ないもんな。

 

「気持ちは解るがお前までギャグに逝くな!?」

 

 ともあれ気を取り直してアルファが離陸するとフォースを召喚する。

 チビ姫が空間を波立たせて現れたフォースに気持ち悪いと喚くがアルファは無視してフォースを引き寄せる。

 

『フォースコンダクター正常稼動。

 ビット展開』

 

 え?

 そんな装備何時揃えたなんて尋ねるより前にフォースの触手が切り離され、眼球に変態しながらアルファの上下左右を囲った。

 

「きもちわるい!?

 あっちいけ!!??」

 

 そう叫んでミニ砲台を殺到させるチビ姫。

 いやさ、生理的に忌避したくなる肉と機械が混ざった浮遊物が目玉四つに囲まれて触手の生えた肉の塊を携えたグロテクスさは筆舌しがたいものがあるから解るんだけどさ、一応それ、俺の無二の相棒だからあんまり言われ続けるのも腹が立つんだよ。

 

『殲滅シマス』

 

 アルファも多少は苛ついているらしく口数少なく、いつもより多少ぎこちなさを感じる挙動だが殺意全開で空を引き裂き数多のミニ砲台を蹂躙する。

 いやぁ、フォースは相変わらずだけど目玉ことビットもパネェ。

 アルファの周囲を縦横無尽に回転しながら機銃を防いだり体当たりで喰らったりと、フォースを万能の槍とするならビットは至近距離を確実に食いつぶす盾といった感じか?

 アルファの動きの悪さをしっかりカバーしていつもと変わらぬ、下手すればいつも以上の圧倒的な力でチビ姫のミニ砲台を潰しまくっている。

 

「くるな!!??」

 

 優位が覆されたのを感じたのかチビ姫が混乱した様子で全火力をアルファに集中する。

 この好機を逃す手はない。

 

「耐えろアルファ!!」

『了解』

 

 手薄というよりほぼ放置になった俺はアルファに指示を残し走る。

 走る足に違和感を感じたが、妖精さんの報告にあったギアの摩耗だと分かっているので無視して俺はチビ姫に目掛け走る。

 

「っ!?

 かえれ!!??」

 

 アルファに集中し過ぎて俺への注意が散漫になっていたのに気付いたチビ姫が慌てて艤装の砲門を向けるが、俺の速さに付いていけず砲を右往左往させるばかりで撃てやしない。

 

「喰らえ!!」

 

 一気に接近した俺はそのままチビ姫にラム・アタックを叩き込む。

 

「ぎゃんっ!?」

 

 鳩尾というか腹に体当たりを喰らいチビ姫が悲鳴を上げる。

 しかし感触から衝撃は全て艤装に流れダメージは殆ど入ってない。

 なんで解るか?

 これやるとバックファイアでこっちもダメージ喰らうんだが、その度合いが大体同じぐらいなんだよ。

 がりがりと体表を艤装で削りながら後退してファランクスと爆雷の投射準備に入ったのだが、

 

「いたいよぅ…ままぁ…」

 

 当のチビ姫は殆どダメージ入ってないにも関わらず、戦いを放棄してへたりこみえぐえぐと泣きながら瑞鳳に助けを求めてた。

 

「お前どんだけ甘やかされてたんだよ…?」

 

 あってもせいぜい2か3にも満たない筈のダメージだけで戦意喪失するなんて真剣にやってたこっちが情けなくなる。

 

「……あ?」

 

 突然レーダーが反応をキャッチしたのでそちらを振り向くと…

 

「よくも姫ちゃんを泣かせたわね!!」

 

 艤装を装備した瑞鳳が俺目掛け九九式艦爆を放っていた。

 

「って、なんでだよ!?」

 

 流石に妖精さんをアルファに相手させたくはないので必死に降り懸かる爆弾を避ける俺。

 チビ姫はそんな様子に構わず艤装を捨て瑞鳳に泣き付いた。

 

「ままぁ!!

 あのくちくがいじめるの!?」

 

 てめえは俺を殺しに掛かってたろうが!?

 

「よしよし大丈夫よ姫ちゃん。

 悪い駆逐艦はママがぶち殺してあげるからね」

 

 言うなり首がぐりんとこっちを向き爛々と殺気を輝かせながら艦爆に命じる。

 

「ブッチkill!」

「トチ狂うのも大概にしろぉぉぉぉおおおお!!??」

 

 本当に旧型なのかと疑いたくなる凄まじい操縦技術で俺に襲い掛かる九九式艦爆に翻弄され続けた俺が解放されたのは、それから3時間も時間を要する必要があった。

 




 シリアルさんが出番寄越せって喚くからこうなった。

 いやほんとはこの降りはすっ飛ばしてダークサイドから始まるはずが、おちゃめな戦艦棲姫さんが書きたくなってつい飛ばす内容に手を付けちゃったんです。

 次回はちょっと時間が進んで今度こそダークサイドから始まります。

 いや、本当だからね?

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