「ということで、第一回装甲空母ヲ級撃破作戦の作戦会議を始めます」
わざと軽い口調でそう宣う。
当然ながら滑った訳だが完全に流しておく。
ちなみにメンバーは俺、北上、明石、ワ級、タ級の五人。
瑞鳳は疲れきって可哀相だったのでお休み。
千代田は北上が後で伝えるとのこと。
「え〜と、この戦力でアレを倒そうってのかい?」
そう言ったのはこの中で最もレベルが低い戦力外No.1の明石。
「状況によっては」
「…ま、しょうがないか」
がっくりうなだれるも、自身の平穏を取り戻すためだから仕方ない。
「じゃあまず装甲空母ヲ級の性能の確認から」
そう言うとタ級が情報を出してくれた。
「ワカッテイルカイブツノブソウハB-29ト、カンコウトカンバクノサンシュ。
カンサイキノセイノウハ、カンムスノシンデンカイトスイセイノ2バイトスイサツサレテイルワ。
トウバツヲダンネンシタヒメニヨルト、トウサイスウモドレモ300ハコエテイルソウヨ」
なにそれこわい。
空を埋め尽くすB-29とか悪夢意外のなにものでもねえよ。
とはいえ空はアルファがいるからなんとかなるとは思う。
問題は、相手が単身かどうかだ。
「他に戦力は?」
「フユウヨウサイダケヨ。
ダケドカナリキョウカサレテ、オニクラスヲアイテニスルカクゴガヒツヨウネ」
うわぁ…。
「実質敵が全部鬼タイプってなると、流石に明石とワ級は戦列に入れられないね」
北上の言葉に仕方ないなと思う。
ゲームのような慈悲の無い、艦娘の一撃轟沈は目の前で見せられているんだ。
そんな場所に自衛力の低い明石やワ級を連れていっても的になるだけだ。
同様に千代田も危ういし、こっちから戦力として連れていけそうなのは北上と瑞鳳ぐらいか?
どっちも装甲が薄いのは同じだけど、火力が必要だからそうも言ってられないんだよ。
「姫から借りれる戦力は?」
「ショウジキニイウケド、カイブツトタタカエソウナノハワタシグライヨ」
お前だけかよ。
いや、アレ相手に戦えると言える奴が一人でもいるだけマシか。
「アト、カイフクソクドガハヤイカラ、タオスナライチドデキメルヒツヨウガアルワ。
ソノセイデ、ヒメモタオシキレナカッタッテ」
イメージで言うとゲージ回復ありか。
質悪いな。
ますますきつくなる条件に、この中で最大火力を持つ北上に俺は確認する。
「北上、先制雷撃って最大どれぐらいいける?」
「ん〜…いつもは装備の兼ね合いで四隻しか積んでないから8発ぐらいだけど、魚雷管全部外して甲標的ガン積みにすると10機までいけるから、開幕打ち切りでいいなら20発は行けるよ。
けど、それで倒せると思う?」
当たればでかい酸素魚雷は飽和射撃することで真価を発揮する博打みたいなもんだし、甲標的でも20発撃って全弾直撃なんて有り得ないから多分無理だよな。
それに、仮に当たったとしてもそれだけで沈むとは実際考えづらい。
「とにかく手数が足りないんだな」
相手の攻撃は俺が囮になって引き付けるとしても、こちらの攻撃手段が北上と瑞鳳とタ級だけではどうしようもない。
鎮守府の艦娘の攻撃に合わせるって手段もあるにはあるんだが、こっちは艦娘と深海棲艦の混成部隊ってのが大き過ぎるネックなんだよな。
最悪、北上達が裏切り者って判断されて装甲空母ヲ級を倒した直後に攻撃を受ける可能性だって有り得る。
つうか、俺ならそうするよな。
無い無い尽くしで完全に八方塞がりなんだけど、出来なきゃ出来ないで戦艦棲姫に消されるだろうし。
「せめて、補給が出来ればいいんだけど…」
それが出来る明石を見るが、明石は首を横に振る。
「流石に海上では無理よ」
「だよねぇ」
まあ、当然なんだけどさ。
「これって、倒すのに移動要塞でもなきゃが無理じゃない?」
「おいおい」
投げやりにそう感想を漏らす北上。
「そんなもんがあるなら誰も苦労は…」
「アルワヨ」
あっさり言うタ級。
「「「……え?」」」
なんでそんなもんがあるんだよ?
目が点になる俺達に呆れたようにタ級は言う。
「セイカクニイワセテモラエバ、イドウヨウサイジャナクテ、ソウイウセイシツヲモツ、オオガタギソウヲ ショジスルヒメガイルノヨ」
「……あ」
その言葉に俺達は気付く。
「あー、『泊地型』ね」
魚雷が効かない代わりに三式弾で恐ろしいダメージを受けるタイプの姫。
確かにあのタイプは移動要塞とも言えるな。
「ダケド、ホキュウハデキナイワヨ」
まあ泊地っても姫だしそんな設備を装備するぐらいなら艦載機積みまくるよな。
……って、
「ドウシタノ?」
「いけるかも」
自衛出来る姫を拠点として明石に北上に補給し続けてもらえば、ほぼ断続的に酸素魚雷を撃ち続けることが出来るんじゃないか?
それにそれが出来るなら弾薬以外だって出来る筈。
千代田がいれば燃料の補給だって可能だし、ワ級がいれば燃料や弾薬の搭載限界分を預かってもらえば持ち運ぶ暇も省ける。
姫には悪いが装備全部下ろしてもらって修復剤を積んでもらえば損傷を治す事だって可能だ。
問題は、艦娘との共闘かつそんな馬鹿げた作戦に乗ってくれる姫が居るかどうか。
「タ級、手を貸してくれそうな姫って居るか?」
「エ?
ハクチノヒメナラヒトリココニイルケド、タブンムリヨ」
「多分?」
なんか、考えているのと違う理由っぽい言い方だな。
「ドウシテモトイウナラ、アッテミレバイイ」
「あ、ああ」
そう言うので、一旦休憩としてその姫に会いに行くことにする。
「それで、どこにいるんだ?」
「瑞鳳の所よ」
「なんでさ?」
意外過ぎる答えに思わず突っ込んじまった。
そんな突っ込みに北上達は苦笑いを零す。
「瑞鳳の事をえらく気に入っちゃったらしくてね、今じゃその相手で寝る暇も無いみたいなんだよ」
ああ、それであんなに死にかけてたんか。
とにかく先ずは会ってみようと北上の案内で瑞鳳のところに行くと、そこには手にガラガラを持ち死んだ魚のような目で小さな白い女の子を抱く瑞鳳が居た。
「なにやってんだ?」
泊地棲姫か港湾棲姫がいると思い覚悟していたので肩透かしを喰らった俺の問いに、瑞鳳は指で静かにとジェスチャーをしてから小さな声で言う。
「やっと寝付いたんだから静かにして」
「え、すまない」
よく分からないが、姫からその幼女を寝かし付けるよう言われたらしい。
とにかく今はその所在を確認しないとな。
「そ、それはそうと、ここに泊地型の姫が居るって聞いて来たんだが、今何処に居る?」
そう尋ねると瑞鳳はあらかさまに不機嫌そうに言う。
「この娘に何か用事?」
「……え?」
今、なんつった?
それが姫?
「え〜と、姫?」
「そうよ」
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はぁ!?
「その幼女が姫ぇ!?」
なんで幼女が泊地型の姫なんだよ!?
「ぅ…」
「ヤバッ…」
思わず大声を出したせいで姫が起きてしまったらしい。
直後、建物がビリビリと振動するほどの泣き声が部屋中に木魂する。
「ああ、よしよし、大丈夫だから泣かない泣かない」
痛みは感じない筈の俺にさえ痛いと思う泣き声の中で瑞鳳は必死でその姫らしい幼女をあやす。
因みに北上達は逃げ出している。
「まぁま!!まぁま!!」
「大丈夫だよ〜。
ママならここにいるよ〜」
小さい女の子をあやすようによしよしと宥める瑞鳳。
本当に姫なのかと疑う程に泣きじゃくる幼女にだんだんいらついてくる。
つうかさ、瑞鳳さんあんたなにやってんだ?
あれか? どこぞの深海棲艦にエロ同人みたいな真似されて産んだってのか?
自分に非があるのは分かってるし、平常なら今頃一緒に泣き止ませようと四苦八苦してるんだろうけど…
「ぎゃあぎゃあうっせえんだよチビ姫がぁっ!!」
ついキレちまった。
俺の冷静な部分が頭を抱えている気がするけど、もう手遅れ。
「っ!?」
怒声に驚いてビクッと跳ねたチビ姫は一瞬呆けた後、赤い目に大きな滴を溜めてから、それを一気に決壊させた。
「うぇぇぇぇぇえええええん!!??
まぁま、あのこがいじめるのぉ!?」
びぃびぃ泣きじゃくりながら瑞鳳に助けを求めるチビ姫。
「ちょっと、こんな小さな子になんてことするのよ!?」
「喧しい!
お前こそ深海棲艦甘やかしてんじゃねえよ!?」
「小さい女の子を可愛がって何が悪いのよ?」
「こいつは最強クラスの姫だろうが!?」
なんかアルファが子供の教育方針が噛み合わない夫婦喧嘩みたいだとか呟いてた気もするけど、完全に聞き流してチビ姫の泣き声をBGMにお互い言いたい放題怒鳴り合う。
なにしに来たのかも忘れて怒鳴り合う俺達が落ち着いたのは、チビ姫の泣き声で遠征隊の潜水艦達が帰れないと訴え終いには戦艦棲姫が重い腰を上げる事態にまで発展してからの事であった。
シリアスなら有休取ってバカンスしてるよ。
というわけで初めて完全なコメディー回。
やっぱりこういうワンクッション挟まないと鬱いばっかじゃ胃がもたんのです。
ちなみにイ級の知識はAL/MI作戦前で止まってますのでチビ姫ことほっぽちゃんは知りません。
ほっぽちゃんがただの幼女で瑞鳳が篭絡されてる降りもちゃんと書かなきゃな…
次回からはまた暗いシリアスさんと横鎮大和も帰ってきますので、そっちを期待している人はもう少しお待ちください。