なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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そういや俺、砲も無えのになんで駆逐艦なんだ?


負けるわけにいかねえんだよ!!

 

 開幕と同時に俺は最大船速へと加速して戦艦棲姫に突っ込む。

 俺が戦艦棲姫に勝るのは回避のみ。

 ならば、勝機はいかに避け続けられるか。

 

「なんて、やってられっか!!」

 

 そりゃあ常套手段は大事だ。

 だが、そんなちまちましたやり方じゃ最初からじり貧なのに拍車を掛けるだけで、勝つなんて夢のまた夢。

 俺が姫にダメージを与える手段は自爆覚悟のラム・アタックと爆雷の直撃だが、ラム・アタックでは装甲厚が違いすぎて確実に自滅するので、実質肉薄しての爆雷直接投下ただ一つ。

 故に俺は前に加速する。

 加速しながら接近する俺に向け戦艦棲姫は腕を持ち上げる。

 

「薙ぎ払え」

 

 その言葉に従い浮遊要塞と巨大ト級が一斉に砲を発射。

 避ける隙間など見付からない濃密な弾幕に、俺は臆せず突っ込む。

 

「アルファ!!」

『了解。

 バイドフォース射出』

 

 直撃コースを見極めた俺の命に、アルファが位相から呼び出した肉の塊を盾とする。

 バイドフォースに接触した砲弾はフォースに喰われ爆発する間もなく消失。

 挟差着弾に身体を煽られるがそれを加速度で強引に捩伏せ更に接近。

 人一人より太い腕を振り上げるト級を注意深く意識しながら爆雷の投下射程に入るが、俺は投擲を行わず更に前に突っ込んだ。

 

「肉薄では…まさか特攻!?」

 

 このままでは突撃は確実となり目を見開く戦艦棲姫。

 

「そんなわけねえだろうが!!」

 

 振り上げた腕で戦艦棲姫を拾い上げるト級の真横をそのまま通過する瞬間、俺は一度に放てる全ての爆雷をト級に向け放射。

 

『グゥゥ…』

 

 炸裂する爆雷でちょっとはダメージが入ったのか低い呻き声を漏らすト級に、初撃は上手くいったとすぐに二の手の準備に入る。

 

「…考えましたね」

 

 小さくだが、戦艦棲姫の声がはっきり聞こえた。

 

「こちらが避けることを狙って無謀な突撃を仕掛け肉薄攻撃を敢行するとは。

 しかし、その手はもう効きません」

 

 言われなくても分かってるよ。

 こんなもんはただの奇策。

 一度上手く行けば上等の手品と同じだ。

 再び飛んでくる砲弾をかい潜り俺は相手の砲弾に注意しながら回避に専念する。

 当然だが相手に容赦も油断もない。

 立て続けに降りしきる砲弾の雨を走りながら、俺はふと浮遊要塞の砲撃に違和感を感じた。

 浮遊要塞ってもしかして…。

 

『御主人!』

 

 思考に耽りかけたせいで回避が疎かになり、あわや直撃の一発を飛来したフォースが辛うじて受け止め難を逃れた。

 

「すまない。

 予定変更。もうしばらく耐えるぞ」

『了解』

 

 試す価値はあると俺は考えていた策を捨て別の策に移る。

 直撃はアルファが隙なくフォースを盾に防いでくれるので、自分から直撃しに飛び込まないよう気をつけながら太陽の位置を確認。

 太陽はとっくに中点を過ぎ、僅かに赤みがかる夕暮れに俺は早く落ちろ太陽と内心毒を吐く。

 

「夜戦に持ち込む気ですか」

 

 バレテーラ。

 いや、当然か。

 駆逐艦が戦艦を落とそうと考えれば夜戦に持ち込もうとするのは当然。

 まあ、火力も雷撃もゼロの俺にはデメリットばっかりなんだけどさ。

 とはいえ全部が全部デメリットだけでもない。

 ニュービー共と戦っていてふと思い付いた戦術があり、ヌ級達に確かめた上で効果があると確認しそれを実践するための改装を施してある。

 想定通りに決まれば、ダメージこそ期待できないが相手に大きな隙を与え味方が一方的に攻撃する状況を生み出してくれる。

 今回は自分一人だから決め手にはならないだろうけど、使える手段は全て使って少しでも戦艦棲姫の予想の斜め上を狙わなきゃ勝ちは見込めない。

 後は、俄か仕込みの戦術が本当に嵌まってくれるかどうか。

 必死に走り回り至近弾に煽られながらもじりじりと沈む太陽を待ち続け、そして太陽がその身を隠し世界が闇に沈む。

 

「耐えきりましたか」

 

 僅かに感心を含む姫の呟き。

 さあて、細工は隆々とはいかないが、出来るだけのことはやれた。

 後は、上手くいってくれるかどうか。

 

「我、夜戦ニ突入ス!!」

 

 博打を打つため夜の闇に足を踏み込む。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 薄い月明かりと微かな星の瞬きだけが明かりとなる夜の海は、命ならざる命である深海棲艦であっても完全に見通すことは叶わない。

 何故か砲を用いない彼女がこの闇の中でどう私を凌駕しようというのか、不謹慎だけどそれが楽しみでもあるわね。

 だけど、手を抜くつもりは塵芥にもないわ。

 お互いに食われなければ朽ちることのない永劫に呪われた身。

 故に、不殺と留める意味もないわ。

 浮遊要塞と感覚を繋げ、彼女の位置を探る。

 

 …見付けた。

 

 闇に隠れようと缶の火を落としたようだけど、艦娘が見分けやすいようにと彼女が自分で塗った塗装が夜の闇の中に違和感として浮かび上がったわ。

 それでも見付けるまでに多少掛かったせいで、彼女を最後に見た時より大きく距離を開けた位置にいた。

 さあ、そこから何を狙うというの?

 彼女が魚雷を持っていないのは確実だけれど、砲を使うにも距離がありすぎる。

 それにあの肉の塊で包まれた水偵のようななにか(・・・)の姿が見えないけれど、浮遊要塞の砲弾を防ぐ信じられない防御力を手放すとは思えないので警戒は緩められないわね。

 出方を伺ってもいいのだけど、私は浮遊要塞に一斉掃射を命じる。

 

「もう見付かったのか!?」

 

 慌てて走り出す彼女。

 

「…避けますか」

 

 今のなんて死神とさえ言われた不沈艦でも当たってましたよ?

 大量の至近弾に煽られながらもそれでも当たらず私目掛け走る姿に、何故当たらないのかと感心を通り越して呆れさえしてしまう。

 良い電探を積んでいるようで、浮遊要塞の砲撃に惑いながらも夜闇の中を真っすぐ私目掛け吶喊してくる。

 先は騙されたけど、今回は構わない。

 もし本当に自爆するつもりで体当たりをするというなら、それを正面から受け止めるだけ。

 さあ、来なさ…

 

「アルファ!!」

 

 攻撃の気配に身構えた瞬間、突然真後ろに肉の塊が現れた。

 どうやって!?

 驚く間もなく強烈な光が私の目を焼いた。

 

「あああああ!?」

 

 深海棲艦の身といえどこの身体は艦娘と同じ人間のもの。

 更に彼女の右目からも強烈な光が発せられ、強烈過ぎる光が目を潰し視覚を繋げた浮遊要塞が見てしまった分まで一度に襲い掛かったせいで全てが白に塗り潰されてしまった。

 

「食らえぇぇぇえええ!!」

 

 彼女の咆哮と同時に身を貫く断続的な衝撃。

 一発一発はたいしたものではないけれど、ほぼ接射距離らしく数百以上が一度に身を叩けばそれは駆逐の砲撃並の痛みとなって私の痛覚を激しく揺さぶる。

 目と身体の痛みに思考が鈍るけれど、私は何が起きたのか漸く理解した。

 水偵が急に姿を現した理由は解らないけれど、あの水偵が『照明弾』を放ち視界を封じたのだ。

 更に彼女も眼帯に仕込んだ探照灯を駄目押しに私に当て完全に視界を潰している。

 成る程。上手い手ね。

 二つの強烈な光源で視覚を潰し、その上で猛攻を掛ければ大体の艦娘や深海棲艦は抵抗の間もなく致命打を受けるだろうし、姫である私達さえダメージは必至。

 

 だけど、相手が悪かったわね。

 

『グォォオオオオオオオ!!』

 

 私の艤装が咆哮を上げ水偵と彼女をまとめて殴り飛ばす。

 

「があぁぁあっ!!??」

 

 肉が潰れる音に次いで凄まじい金属音が響き、彼女が悲鳴を上げる。

 暫くして漸く回復してきた視界に彼女を見留ながら私は言った。

 

「見上げた策略でした。

 正直、これほどのものとは想像以上ですよ」

 

 潰れた肉片となった水偵に塗れた状態でゆっくりと沈み始める彼女。

 あの状態では意識もないのだろうけど、それでも私は言葉を続ける。

 

「ですが、一歩、いえ、三歩届かなったです」

 

 彼女の火力が足りず、手数が足りず、なにより相手が私であった事が致命的だった。

 私の艤装は他の姫と違い唯一独立した意志を持ち、いざとなれば己の判断で戦闘を継続することが出来る。

 それは浮遊要塞も同様だけれど、命令がなければ複雑な戦術行動が取れない浮遊要塞と違い、私の艤装は浮遊要塞への指示は出来ないが私と同様の戦術指揮まで執り行うことが出来る。

 

「ですが、確かにその力は見せてもらいました。

 蘇ったら、次は私から逢いに来ましょう」

 

 殆ど沈んでしまった彼女にそう約束を残し、この場所を後にしようとしたのだけれど、

 

『グルルルル…』

 

 何故か艤装が唸りを上げ、その場を離れようとしない。

 まるで、まだ敵がそこにいて、背を向ければ食い破られると警戒するように。

 それは艤装だけでなく浮遊要塞も同様に恐れるように警戒を解いていない。

 

「まさか…」

 

 そんな筈はないと思いながら私は振り向き。

 

「……そんな」

 

 沈んだ筈の彼女が、まるで仕切直しだというかのようにその身を黒いオーラで包みながら浮かび上がろうとしていたのだ。

 

「エリート化?

 …いえ、早過ぎる」

 

 不死身であっても復活には一日は掛かる。

 それに、エリート化なら纏うオーラは赤であるはず。

 まるで闇が燃えているようなあのような黒いオーラなんて、私でさえ知り得ない。

 

「GAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

 完全に浮上した彼女は、まるで産声を上げるように吠える。

 そこには先程までの戦意はなく、ただ己の存在を世界に知らしめようと泣く赤子のような無垢な咆哮。

 その声に私は初めて未知への恐怖を知った。

 高度な知性を有した存在が抱く感情を、私は初めて刺激された。

 そして、彼女が割れる程大きく開いた顎から初めて『砲身』が顔を覗かせた。

 

「なん…ですって…?」

 

 何故アレ(・・)を彼女が所持しているというの!?

 アレ(・・)は幾度もの戦闘で生じた歪みを利用して『総意』が戯れに招いたモノ(・・)達が用いた力。

 あまりに強大過ぎたため、この力が常々となることは危険だと早々と消し去った規格外。

 それを、彼女は用いるというの?

 

「撃て!!」

 

 アレ(・・)の存在を許してはならないと恐怖に背を押されるまま私は使える全てを持って攻撃した。

 しかし、

 ギィィン!!

 黒く輝く結晶が展開し、姫とて何度も食らえない放火の雨が防がれた。

 

「『クラインフィールド』…」

 

 間違いない。

 色こそ違うがアレ(・・)は『霧』と名乗るモノ達が用いた絶対防御障壁。

 ならば、あの『砲』もそれ以外に有り得ない。

 

「貴方は…『霧の深海棲艦』だというのですか!?」

 

 悲鳴にも聞こえる私の声に答えるように彼女は『超重力砲』を私目掛け放った。

 




 諸君、私は浪漫兵器が好きだ。

 諸君、私は浪漫兵器が好きだ。

 諸君、私は浪漫兵器が大好きだ。

 ドリルが好きだ。
 パイルが好きだ。
 マスケットが好きだ。
 火炎放射器が好きだ。
 チャージ兵器が好きだ。
 一発限りの切り札が好きだ。
 

 唐突に何を言っているかと言えば則ち、強力過ぎる故に性能が尖りすぎた揚句使い勝手が悪くなり使い手を選ぶ武器が大好きなんです。
 地球防衛軍のプラズマやフュージョンブラスター。
 ACのパイルやコジマ兵器。
 Rシリーズの波動砲とスペシャルウェポン。
 バイオ1のロケラン。
 特にACは使い勝手が最悪なネタ兵器の温床。
 あれらを敵に当てた時の爽快感といったら堪りません!
 …って、歪んだ性癖曝してないで本題本題。

 そんな訳で主人公の主砲を遂にお目見えさせましたが、勿論縛り満載です。

 先ず前提。
 姫の推察通り使ってた時点では本人に意識はありません。
 陶然ながら存在すら知りませんし、使えたのも今回限り。
 ついでにこいつにも高いリスクと使用条件あります。
 なので、次に使うのは何時になるやら。

 ちなみにアルファ君はバイドフォースと共に次元潜航して身を隠し、合図と共にアルファだけ次元の壁を抜けて現れていました。
 なので艤装はアルファに触ってますが姫は汚染されていません。
 じゃなかったらとっくに駆逐イ級や木曾は汚染されてますから。

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