なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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少しサービスがすぎたか?


俺の身体馬鹿過ぎんだろ!?

 

「うーみーはーひろいなおおきいーなー」

 

 いやもう本当に広いよね。

 人間サイズの怪物一匹が泳ぐには地球の海は広すぎるよ。

 駆逐イ級となって早一日。

 俺は当てもなくただ流されるままに海に浮かび続けていた。

 幸か不幸かはともかく、丸一日経っても睡魔も空腹も感じないことは唯一の慰めだろう。

 この時点で艦娘はおろか深海棲艦一匹すら見てない。

 ……餓えで死ななくても孤独死しそう。

 ってかさ、深海棲艦はどこにいるんだよ?

 海を封鎖したとかいうなら姿見せろよ!?

 そう目茶苦茶喚けば見つかるかもとも思ったけど実際やって効果はなく、仕方なく俺はこうして波の気の向くまま流されていた。

 どこかに行こうにも現在地が解らないのでどうしようもなく、悪戯に燃料を消費しても後で困ると判断したからだ。

 というか、この身体馬鹿かと聞きたくなる。

 

艦名【駆逐イ級】

Lv【1】

装備1【CIWCファランクス】

装備2【OPS−28D 水上レーダー】

装備3【SPY−1D 対空レーダー】

装備4【応急修理女神×5】

装備5【バイドシステムα(非武装)】

耐久【50】

装甲【50】

回避【1000】

搭載【1】

速力【超高速】

射程【超短】

火力【0】

雷装【0】

対空【1500】

索敵【−】

運【1】

 

 何この間違った性能?

 駆逐艦なのにスロットが5もあってしかも応急修理女神は1スロットに纏めて突っ込めるとかチートだろ。

 おまけに超高速とか四桁の対空と回避なんてふざけた数値だし、索敵に到っては数値に直せないとか馬鹿にしてんのか?

 だがしかし、主砲も魚雷も無いから自衛手段は限られ砲雷撃戦にも参加出来ないのは不安だ。

 というか俺、回避盾ですか?

 やはり肉盾はだめでござるwですか?

 

「あ、そうだ」

 

 折角偵察機があるんだから、こいつに周りを見て来てもらえばいいじゃん。

 バイドシステムとか聞いた事無い名前だけど、αとか付いてるし深海棲艦の艦載機の名前かなんかだろう。

 

「偵察機発進!」

 

 取り敢えず離陸させてみた俺は、その姿を確認しすぐに後悔した。

 自分の背中(?)から飛び立ったそれは、全体が生肉に包まれたような気持ち悪い物体であった。

 

「うわグロッ!?」

 

 目にして思わずそう口に出してしまう。

 え? なにこれ? どこの世界のバケモノ?

 間違いなく艦これ以外の世界の物体だろうその偵察機は俺の指示を待つように空中で待っている。

 

「……えーと」

 

 困った俺は取り敢えず命令してみる。

 

「周囲200キロ圏内に何か無いか探してきてくれ」

『了解』

 

 俺の要求にくぐもった声で応じたバイドシステムαは、触手のような肉片で敬礼らしき動作をしてから反転し、一瞬で姿を消した。

 

「は?」

 

 え? もしかして速過ぎて見えなかったのか?

 ……確かにあれなら数値になんか直せないな。

 

『御主人』

「うぇっ!?」

 

 考え事していたらもう戻ってきやがった!?

 つか、心臓に悪いぞこいつ。

 

「な、何か見付かったか?」

『海上ニ人型浮遊ヲ発見』

「人型か…」

 

 海のど真ん中で浮かぶ人型なんて艦娘かそれとも雷巡以上の艦種の深海棲艦かの二択だろう。

 

「どんな奴だ?」

『発見直後ニ転進シタタメ詳細ハ不明』

 

 探せと言われたから見付けて戻ってきたのかよ。

 次からは詳細な情報も収集するよういわねえと。

 ともかく今は見付けたそいつのことだ。

 いい加減こいつと二人(?)っきりというのも辛い。

 

「状態は?」

『沈没寸前』

 

 なんでそんな情報はしっかり確認してんだよ?

 しかしこれは困った。

 一応今の自分は深海棲艦なのだから、艦娘なら助けるのはマズイだろう。

 が、放っておくのも後味悪いな…。

 

「しゃあねえ」

 

 取り敢えず確かめてみよう。

 艦娘だったらケースバイケースでいざとなったら逃げりゃあいいと、俺はバイドシステムαにどこで見付けたのか案内させる。

 こんな身体だが機関を稼動させて泳ぐのは歩く感覚でいけるらしい。

 どういう理屈なのか分からず内心頭を捻っているとその浮遊物はすぐに見付かったか。

 

「こいつは、木曾か?」

 

 前世の知識そのままの右目に眼帯をしたセーラー服の少女。

 艤装はほぼ全壊で服もボロボロの今にも沈みそうな状態だ。

 

「……どうしたもんか」

 

 まだ息はあるようだし助けるのは簡単だ。

 だが、助けてどうするというのか?

 悩む俺の目の前で眠るように目を閉じていた木曾の身体が沈み始める。

 

「やば!?」

 

 思わず(ないけど)手を伸ばす。

 すると背中から船に乗った妖精が飛び出し木曾の救助を始めた。

 どうやら無意識に応急修理女神を使ってしまったらしい。

 ……これは気をつけなきゃまずいな。

 しかし助けたものは仕方ない。

 

「近くに無人島が無いか探してこい」

『了解』

 

 バイドシステムαに休めそうな場所を探させ、今のうちに最低限に抑えの補修をされた木曾を牽引する準備に取り掛かっておく。

 妖精がワイヤーを艤装に巻き付けるのを見ていて気付いたんだけど、こいつら両方にいるのか?

 …もしかしたら俺だけかもしれんが。

 手際良くワイヤーを繋いだ妖精が敬礼してから自分の身体に入った所でバイドシステムα…長ったらしいからアルファが報告した。

 

『北西500キロノ地点ニ指定ニ適ウ島ヲ発見』

「そうか」

 

 とにかく先ずは休みたい。

 そう思いアルファにその島へと先導させる。

 

「……うっ」

 

 移動を始めてから一時間程した頃、牽引していた木曾が小さく呻いた。

 

「俺は…」

「起きたか?」

 

 移動を中断して木曾に声を掛ける。

 

「っ!?

 深海棲艦!!??」

 

 自分を見るなり慌てて武器を構えようとする木曾を俺は制する。

 

「待ちな」

「……え?」

 

 俺の言葉に目を丸くする木曾。

 

「……喋ってる?」

 

 あ、やっぱり深海棲艦って喋らないんだ。

 混乱しているようなのでこのまま煙に巻けるか試してみよう。

 

「とりあえず武器を下ろせ。

 それとも艦娘ってのは、敵なら助けてもらった相手も殺すような野蛮な連中の集まりか?」

「……」

 

 そう言うと木曾は構えた砲を下げる。

 とりあえず一難は去ったかな?

 油断は出来ねえが。

 

「なんで俺を助けた?」

 

 当然の質問に、情報収集も兼ねて俺は答える。

 

「見付けたら死にかけてたから。

 …納得して貰えねえよな?」

「当たり前だ」

 

 武器こそ構えてないが警戒はそのままに木曾は言う。

 

「お前等は海に出るすべてを皆殺しにしている。

 そんな奴らの言葉をどう信じろというんだ?」

「じゃあ勝手にしな」

 

 俺は牽引していたワイヤーを外す。

 

「俺はたまたまお前を助けたが、それが気に入らないってなら勝手にすればいい」

 

 少なくともこの世界の深海棲艦の動きというものは分かった。

 情報は欲しいが欲を出さず、ややこしくなる前にここで別れたほうがいいだろう。

 

「じゃあな」

 

 アルファが待っている方向に反転しそのまま別れようとするが、そこで木曾は俺に声を掛けた。

 

「待て」

「ん?」

 

 まだなんかあるのかと振り向くと、木曾はばつが悪そうにそっぽ向いていた。

 

「別に気に入らないわけじゃない。

 理解できないだけだ」

「……」

 

 あれ? 木曾ってこんな奴だっけ?

 いや、性格まで完全にゲームと同じとは限らないか。

 

「助けてもらっておいて礼も出来ないなんて海軍の名折れだ。

 それに、俺を助けた事といい、お前は俺達の知っている奴らとは違う気がする」

 

 一応元人間だし。

 と言っても信じないだろうから俺はそうかいと反す。

 

「とりあえず向こうに腰を落ち着けられる無人島があるらしいから、そっちに移動する。

 少し聞きたいこともあるし道すがら情報交換しようぜ」

「…ああ」

 

 最悪は回避できたことに胸を撫で下ろし、俺はアルファに先導させ移動を開始した。

 

「ところでだ。

 お前なんだ?」

「みたまんま。

 お前らが駆逐イ級と呼んでいる深海棲艦だよ」

 

 名前も思い出せないのでそう言うしかなくそう名乗る。

 

「んで、お前は木曾でいいんだよな?」

「…なんで名前を?」

 

 僅かに硬くなった木曾の声に、俺はまずったと思いながら適当な理由を付ける。

 

「俺は元艦娘なんだよ」

 

 沈んだ艦娘が深海棲艦になるという説があったのでそれを採用する。

 

「なんだって?」

 

 驚く声に構わず俺は言う。

 

「といっても自分がどこの所属の誰だったかも思い出せねえがな」

「……そうか」

 

 …なんだか空気が重くなった。

 妙な沈黙に耐え切れなくなった辺りで木曾が尋ねた。

 

「お前みたいに深海棲艦になった艦娘は他にいるのか?」

「さあな」

 

 あくまでそれは説の一つだし、決め付けて後で違ったら目も当てられないから適当に濁す。

 

「俺だけがそうなのか、それとも全ての深海棲艦がそうなのかは解らない。

 気が付いたら海に浮かんでいてそのまま一人だったからな」

「…そうか」

 

 そう言うと木曾は再び黙り込んだ。

 だから黙んなよ。

 この空気本当に嫌なんだから。

 

「で、だ。

 ここがどの辺りか全く見当も付かないんだが、どこらへんだ?」

「多分、南西の沖ノ島海域に近いどこかだと思う」

 

 随分流されたようだから確定ではないがと注釈する木曾に、意外と日本に近い場所だなと思った。

 まあ、場所が分かったところで鎮守府や戦場に近付く気もあまりないが。

 お、どうやらあれらしい……おい。

 

「……まさか」

「どうし…」

 

 俺の漏らした声に反応した木曾も、俺の嫌な予感に気付き声を失う。

 

「あれが目的地かアルファ?」

『ハイ』

 

 マジかよ……

 背後で息を飲む木曾の気配。

 無理も無い。

 俺達が目指していたのは、ここからでも見える程に黒煙が立ち上る『泊地』だったのだから。




この先も仲間(道連れ)は増える予定です。

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