なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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 こいつら見てたら少し気が楽になった。


さあて、やるか

 深海棲艦が人命救助に赴いてるって聞いたらどう思う?

 普通は正気を疑うよね。

 でもさ、

 

「イソゲイソゲ!!」

「ヒャッハー!!

 タスケテヤルヨ!!」

 

 救難信号を受けて急行する深海棲艦が実際にいるんだから仕方ないよね。

 

「というか、一体誰なんだ?」

 

 さっきからあの娘あの娘としか言わないからさっぱりわからん。

 信号は海軍の使う周波数だったから取り敢えず艦娘だろうとは思うんだが、鳳翔達の時とは打って変わった積極的な態度に訳が解らなくなる。

 

「なあ、」

「ナンダ?」

「どうして助けるんだ?

 相手は艦娘じゃないのか?」

 

 そう尋ねると、リ級は笑った。

 

「ヒメトノヤクソクダカラ」

「姫?」

 

 つうかさ、前から思ってたんだがこいつらの個体認識はどうにかならないのか?

 こいつらにとって特定を指す場合、艦種だけで通じてしまうせいで誰を指すのかさっぱりわからねえんだよ。

 今だってこいつらの言う姫はどの姫なのか解らないし、こいつらだって重巡とか軽巡とかで済んでしまうから混乱しちまうんだよ。

 そういやワ級にそれぞれの名前を覚えさせるのに丸一日掛かったっけな。

 そんな俺の胸の内に構う様子もなくリ級は言う。

 

「ヒメハ、チカラハツヨイモノドウシガフルウカラ カチガアルッテイッタ。

 サイショハワカラナカッタケド、ツヨイヤツトダケタタカウト ジブンガスグニツヨクナレルッツキヅイタ。

 ダカラ、ワタシタチハヒメニヤクソクシタ。

 ツヨイヤツハ ゼンリョクデタタカウ。

 ムカッテクルヤツモ ゼンリョクデタタカウ。

 ヨワイヤツハ ツヨクナルマデマツ。

 タタカエナイヤツハ タタカワナイッテ。

 ソウイッタラ ヒメハヨロコンダカラ、ワタシタチハ ヤクソクヲマモル」

 

 そう自慢そうに笑うリ級。

 

「ヒメハタダシイ」

「ワタシタチハ ヒメトノヤクソクマモッタカラ イチバンハヤクフラグシップニナッタ。

 ホカノヤツハ ヒメトヤクソクシナイカラ、イツマデタッテモヨワイママ」

 

 リ級の言葉に同意の声を上げるロ級とホ級。

 ……ああ。ようやくわかった。

 こいつら、掛値なしの馬鹿だ。

 強い奴と戦えば早く経験値が貯まるのは当たり前なのに、こいつらは約束を守って姫の誇りに倣うから強くなれたって勘違いしてやがるだけのただの馬鹿だ。

 だけどよ、

 

「嫌いじゃないぜ」

 

 此処(地獄)が、こんな馬鹿な奴が馬鹿なままで居られるような世界なら、そんなに悪い世界でもないのかもしれない。

 あれ? もしかしたら、この世界に来て初めて良かったと思えたんじゃねえの?

 

「まあ、いいさ」

 

 端から見れば俺だってこいつらと同類なんだ。

 だったら、余計な事なんて考えてないで、お前達との約束をただ果たすだけの馬鹿になっちまってもいいよな? 千歳、球磨。

 

「先行する!」

 

 後先考えるのをやめ、目の前の誰かを助けるため缶の熱を最大限に高める。

 高まった熱が蒸気を生み出してファンを回し、回されたファンがギヤに力を伝え、伝わった力がギヤを通してスクリューを回す。

 そして船速は最大の60ノットまで跳ね上がり三馬鹿をあっさりと追い抜いた。

 

「ナニソノハヤサ!?」

 

 驚くロ級に俺は言う。

 

「ちんたら走ってんと手柄独り占めにしちまうぜ!」

 

 相変わらずこの速さを御しきれているとはいえないが、手綱を手放す事なく俺は波を見極め快速を維持する。

 そうして三馬鹿を置き去りに俺は走り続けると、レーダーの射程に反応を捉える。

 距離は70km。大和だって砲が届かない距離でも見付けられるんだから流石日本の変態技術だな。

 とはいえ状況は良くないらしい。

 一隻に対して五隻が追う形に反応があるから、この五隻が深海棲艦だろう。

 

「ちょうどいい」

 

 横合いから割り込んでT字有利に突っ込める状況に、舐める唇は無いので喉を鳴らし俺は絶好の機会だと笑う。

 更に数分も走ると水平線に小さな影が見えて来た。

 

「って、なんだありゃ?」

 

 追われている艦娘の姿に俺は疑問の声を上げてしまう。

 艤装は確かに艦のそれなのだが、砲や甲板、カタパルトや機銃といった武装が一切載っていない。

 しかも船体は目立つことこの上ない電燭のデコレーションがされた上で白一色に塗られ、更に緑のラインと赤い十字架をペイントしてあるのだ。

 めちゃくちゃ目立つだけの艤装だが、しかし、俺は船体自体をどっかで見たことある気がするんだよね。

 って、相手の素性は後でもわかるだろと俺は戦いに集中する。

 両者ともこちらに気付いたようで、艦娘は敵が増えたと焦り、ヌ級を旗艦とする襲撃者は手駒が増えたと喜び勇む。

 

「馬鹿が」

 

 合流するように見せ掛け、俺は最大速度で同じイ級の横っ腹にラム・アタックを噛ましてやった。

 

「ガハッ!?」

 

 相対速度100ノット近くでの激突にミシミシと身体が軋むが、不意打ちで喰らったイ級のダメージはそれ以上で、追突部から真っ二つに引き裂かれ耐える暇もなく沈んでいる。

 

「ナニヲスルキサマ!?」

 

 直衛のヘ級が砲を回頭させるが遅いんだよ。

 

「らぁっ!!」

 

 俺はその場でスピンする勢いで回頭すると同時に爆雷を発射。

 弧を描き飛んだ爆雷がヘ級の艦橋に当たり爆発の花を咲かせる。

 

「キャー!?」

「ヒヲハヤクケスノヨ!!」

 

 弾薬に火が回ったらしく間抜けな悲鳴を上げてあわてふためく様に俺は違和感を覚えるも、取り敢えず注意が逸れたので一旦退避し艦娘の方に向かう。

 

「大丈夫か?」

「え? ええ。まだ沈むほどダメージはないけど…」

 

 リブ生地のセーターの上に白衣に眼鏡と、女医というより保健室の先生っぽい艦娘は戸惑いながらも無事を伝える。

 

「もしかして、救難信号を受け取ってくれたの?」

「他に助けた理由があるのか?」

 

 嘘を言う理由もないしな。

 そう言うと艦娘は苦笑した。

 

「言葉も上手いし変な奴ね」

 

 まるでりっちゃんみたいと言う艦娘。

 こいつ、深海棲艦の言葉が解るのか?

 いろいろと聞きたいことはあるが、先にあっちだな。

 

「オマエ、カンムスニミカタスルノカ!?」

「見て分かれよ馬鹿が」

 

 怒るヌ級を更に挑発するよう言うと、ヌ級は怒り狂い怒鳴った。

 

「ブッコロス!?」

 

 同時に口から艦載機が飛び出す。

 阿呆。

 その程度の数で俺が倒せるかよ!

 飛んで来た数機の艦載機目掛けファランクスが猛然と弾丸をばらまくと、ろくな回避も出来ずあっさり撃墜された。

 

「イッキノコラズウチオトサレタ!?」

 

 驚くヌ級に次いで砲撃が自分目掛け飛んで来たが、それも難無く回避。

 ……え? もう終わり? 正直弱過ぎる。

 

「ダッタラコレハドウ!」

「ギョライイッセイハッシャ!」

 

 そう叫びニ級とチ級が魚雷を発射させる。

 いや、そんな馬鹿正直に撃ってどうすんの?

 しかも三門二射線って飽和になってなくね?

 俺は以前会得した爆雷シールドで魚雷を無効化するが、魚雷は囮でもなかったらしくあらかさまにうろたえ始める。

 

「ナニソノハンソクワザ!?」

「バクライハ センスイカンヲコウゲキスルブキデショ!?」

 

 ホントに何言ってんだお前ら?

 ……もしかして、こいつらゲームの仕様にしか攻撃できないの?

 え? ちょっとそれはいくらなんでもおかしくないか?

 絶好の隙を曝してるってのにぎゃあぎゃあ文句を言うだけの奴らに呆れていると、横からリ級の砲撃が降って来た。

 

「キャアアアア!?」

「ニゲロ!?」

「チクショー! オボエテナサイ!!」

 

 そう捨て台詞を吐いて逃げていってしまう。

 ……なんだこれ?

 

「クチク、ハイカワ、フタリトモブジ?」

「あ、りっちゃん。

 この娘のお陰で私はこの通りたいした怪我もしてないよ」

 

 やっぱりりっちゃんってこいつかよ。

 それにハイカワってそんな名前の艦いたっけなぁ?

 ようやく追い付いたリ級に俺はどっと疲れを感じながら尋ねた。

 

「すんげー弱かったんだけど、あれってどうなんだ?」

「ニゲカタモトウセイトレテナイシ、タブンニュービー」

 

 あ、やっぱり雑魚だったんだ。

 いや、姫の率いた大部隊とか金剛達の連携とか大和の…あいつを思い出すのはやめて、今まで原作のルールなんて鼻紙に丸めて放り投げるような戦闘ばっかり経験してたから正直戸惑ったよ。

 

「ソレニシテモツヨイノネ」

「そうか?」

「エエ。

 ショウジキジハイカワノタテトシテ ジカンカセギニナレバッテオモッテタ」

 

 囮要員ですか?

 いや、砲雷撃出来ないから間違っちゃいないんだけどさ。

 

「レベルドレグライ?」

 

 ロ級の問いに俺もふと気になった。

 

「そういや気にしてなかったな」

 

 まあ、せいぜい10もあれば上等だろうなとごちつつデータを調べてみると…

 

【Level48】

 

 ……。

 

( ゜д゜) ・・・

 

(つд⊂)ゴシゴシ

 

(;゜д゜) ・・・

 

(つд⊂)ゴシゴシゴシ

  _, ._

(;゜ Д゜) …!?

 

「よんじゅうはちぃっ!!??」

 

 え? 一体いつの間にかそんなに上がってたんだよ!?

 やったね那珂ちゃん改二になれるよ!

 

「……オイ」

 

 テンパる思考をひんやり冷やすように、コツンと頭に砲が押し付けられる。

 

「イキナリオオゴエヲダスナ」

 

 頭を押さえてそう言うリ級。

 あ、これあかんやつだ。

 

「すまない。

 予想してたより高くて驚きすぎた」

 

 そう言うとリ級は呆れたようにごちる。

 

「ジブンノカンリモデキナイノカ?」

「…最近イベント目白押しだったんでな」

 

 正解には転成してから休む暇も無かっただけどな。

 

「フラグシップニナラナイノ?」

「そうだなぁ…」

 

 ワ級の話だととっくにフラグシップになれるらしいんだが、改造ってどうやるんだか知らないんだよな。

 

「改造に必要な資材が貯まったらな」

 

 あいつらがどんだけ資材を貪ったかわからないし、その辺りも整査しておかないと。

 

「ナニヲイッテイルノ?

 カイゾウハ、イッカイシズムダケヨ?」

 

 造り直せってか。

 

「…前言撤回。改造はしないで行く」

 

 いやマジで砲を構えるな。

 

「…カンムスミタイナコトヲイウヤツネ」

 

 肩を竦めてリ級は砲を下ろした。

 助かったぁ。

 こいつらのこれがマジで善意だから困るんだよ。

 そうして一段落したのを見計らってたようで、ハイカワが口を開く。

 

「りっちゃん。

 前から言ってるけど私の名前はハイカワじゃなくてひ・か・わ。

 由来だって由緒正しいんだから間違えないで」

「ハツオンムズカシイノヨ」

 

 唇を尖らせるハイカワ改めヒカワに困った様子で言うリ級。

 ……って、ヒカワ?

 

「もしかして…山下公園のアレか?」

「あら?

 貴女私の事知ってるの?」

 

 マジカヨ!?

 驚きすぎて片言になる俺にヒカワは嬉しそうに名を名乗る。

 

「私は病院船『氷川丸』。

 戦いは参加できないけど、大和型に負けない居住性と最新の医療設備が自慢なの。

 よろしくね」

 

 そうドロップみたいな自己紹介をする氷川丸。

 その姿に俺は心底思ったんだ。

 

 あきつ丸より使い道に困る奴なんてどうしろってんだ!!??

 




 という事でオリジナル艦娘は氷川丸でした。

 当たった人がいたら本気で驚くチョイスだったんだけど、どうなんだろう?

 最近どんどん上がってくけど、やっぱりすぐおちるよね?
 というか、装甲空母ヲ級が近くでアップしてるしね。

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