なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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あ、俺の運1だった。


虚ろの巨艦
ツイてねえ…


 

 俺は駆逐イ級。名前はまだない。

 

 ふと、そんなくだらないフレーズが頭を過ぎり、気が抜けているなと集中し直す。

 球磨と別れ、五日掛けて長門の追跡を完全に振り切った俺は、スリガオ海峡へと舞い戻り、再びあの島へと向かっていた。

 目的は明石達と過ごしたあの島を拠点として使うためだ。

 明石達が戻って来ている可能性もなくはないが、道中で縄張りに入ったからと襲い掛かって来た雷巡チ級を旗艦とした艦隊に襲われた際に得た情報からそれは無いと思っている。

 スリガオ近海、いや、レイテはあの装甲空母ヲ級が暴れ回った結果勢力図が目茶苦茶に破壊され、討伐に乗り出した南方棲戦姫の力で辛うじて落ち着いてはいるものの文字通り水面下ではニュービー共が縄張り争いに明け暮れる非常に不安定な状態らしい。

 当然だが装甲空母ヲ級は人間側をも襲ったそうで、近海の泊地は全て投棄され今はラバウルとショートランドが最前線に指定されレイテの攻略準備が進んでいるらしい。

 そんな危険な場所を敢えて拠点とするメリットは二つ。

 一つはそれだけ熾烈な場所なら鍛える機会に事欠かないこと。

 チートだろうがなんだろうが、俺自身という地盤がしっかりしていなければ無価値だということは骨身に染みて理解した。

 だから多少無理を重ねることになっても、可能な限り早く強くならなきゃならない。

 それに、多少だがこの辺りの地理は頭に入っている。

 万が一になっても地形の利を生かして逃げることも出来るようにとこの地を選んだ。

 そしてもう一つは、情報だ。

 明石達の行方を知るにも、1番に海の情報を握る深海棲艦に片端から当たることが出来るし、そうやって探していれば明石達のほうが俺に気付いてくれる可能性もある。

 ……いや、もう一つ。

 俺は、ほんの数日だったけど得ることが出来たあの島での穏やかな日々が懐かしいんだ。

 もう無いと分かっていても、それがもう一度欲しくて俺はあの島を目指した。

 そして、俺はあの島に戻って来た。

 

「…あの時のままか」

 

 時間にして二月以上は経っているというのに、島の様相はそのままだった。

 全てが嘘だったようにこの島は静かだ。

 ……いや。

 

「レーダーに反応あり…か」

 

 数は3。場所は裏手の備蓄置場。

 明石達かもしれないが、数が合わないから油断は出来ない。

 チ級達を返り討ちにしたついでに分取った弾薬をファランクスに詰め、俺は慎重に扉の横に移動する。

 聴覚を全開にして中の様子を伺うと、ごそごそと燃料缶を漁っているような音が聞こえる。

 …まだ気付いていない?

 それとも罠か?

 しばし考えた後、俺はこの程度も払えないなら千代田達を守れないと意を決し一気に戸を開いた。

 

「動くな!」

「っ!?」

 

 ファランクスのモーター音をわざと響かせながら相手を確認すると、そこに居たのは大破した飛行甲板を肩に背負った薄紅色の着物の女性と同じく大破したごちゃごちゃとした巨大な艤装を床に置いた短い髪の巫女服の女性、おそらく軽空母鳳翔と戦艦山城だろうか。

 そしてもう一人は…

 

「……っ」

 

 大破した艤装にもたれ掛かるように力無く横たわるその姿を、その巨大過ぎる艤装の46cm三連砲は忘れたくても忘れられるものじゃ無い。

 

 戦艦大和。

 

 千歳を、球磨を殺した憎い相手と寸分違わぬ顔に一度は蓋をした憎悪が再び顔を覗かせるが、寸での所で俺は踏み止まった。

 

「ここで何をしている?」

 

 こいつは横須賀の奴じゃ無い。

 あいつへの憎しみをこいつにぶつけたって、それはただの八つ当たりにすぎないんだ。

 膨れ上がった憎悪を強引に蓋をしてそう尋ねると山城が困惑した様子で呟く。

 

「深海棲艦が、喋ってる?」

「質問に答えろ」

 

 戸惑う山城の代わりに鳳翔が答えた。

 

「私達はブルネイに所属していた艦娘です。

 泊地の放棄の際に殿隊として戦闘したものの、損傷が激しくラバウルへの退避の途中でこの島に漂着しました」

 

 様子からそんな気はしていたが、予想通りか。

 次いで鳳翔は礼儀正しく尋ねて来た。

 

「駆逐イ級とお見受けしますが、貴方は?」

「前にこの島に住んでいた奴に世話になった事があってな。

 避難したと聞いてはいたが一応様子を見に来たんだ」

 

 多少脚色は混ぜたが一応本当の事を言う。

 

「そうですか」

 

 深海棲艦を助けるなんてと吐き捨てる山城を無視し俺は言う。

 

「事情は把握した。

 正直、この島を壊したくはないからお前達の事は見なかったことにしておく。

 必要なものがあれば好きに持って行ってくれて構わないから、早々に出ていってくれ」

 

 そう言うと俺はファランクスを下ろし背を向ける。

 

「あの、」

「なんだ?」

 

 半身だけそちらを見ると、戸惑った様子で鳳翔は尋ねる。

 

「どうして私達を見逃すんですか?」

「……言ったはずだぞ。

 俺は、この島を戦場にしたくないって。

 それだけだ」

 

 殺るなら絶好の機会だが、そんなものを望んでいるわけじゃ無い。

 俺は備蓄庫を出るとそのまま海に出てレーダーを頼りに深海棲艦のグループを捜す。

 程なく三隻ほどのグループを見付けると俺は弱った振りをしながら接触を試みる。

 

「ちょっと、いいか?」

「ナンダ、キサマ?」

 

 リーダー格らしい重巡リ級が俺に話し掛ける。

 

「ズイブンテヒドクヤラレテイルナ?

 カンムスカ? ソレトモアノカイブツニヤラレタノカ?」

 

 こいつの言う通り、自分でも忘れていたが俺の体はまだ中破以上の損傷が残ったままだ。

 

「まあ、そんなところさ」

 

 襲って来たチ級達みたいにお陰でいいカモとして見られるか、今みたいに同情を引いて有利に事を運ぶのに役立ってたりする。

 

「この辺も慌ただしくなってきたし、一度ラバウルの方に逃げようと思うんだが、安全な航路が無いかと探しているんだ」

「ラバウルニカ?

 イマアソコニハカンムスガアツマッテイテキケンダゾ?」

「そう、なのか?」

「アア。

 マア、ソレデモココヨリハアンゼンダカラ、ホンキデイクキナラセベレスカイヲトオルトイイ。

 マチガッテモパシー、オリョールホウメンニハチカヅクナ。

 イマ、アソコニハイツモニマシテセンスイカンノカンムスガウヨウヨシテイルカラ、ホトンドノヤツハニシニヒナンシテイルヨ」

「分かった。感謝する」

 

 近くまで送ろうかと言うリ級を丁重に断り俺は島に戻る。

 島に戻るとちょうど島を出ようとしていたらしい全損した艤装を背負う鳳翔達に出会った。

 

「深海棲艦…」

 

 砲を失っているため為す術が無いと警戒する大和を諌める鳳翔。

 

「大丈夫。

 今だけは彼は敵ではありません」

「え?」

 

 困惑する大和を尻目に鳳翔は頭を下げる。

 

「お世話になりました」

「俺は何もしていない」

 

 どうにか出来なくもないが、俺は自分の目的のためにこいつらを見捨てようとしているんだ。

 感謝されるような資格は無い。

 

「行くならオリョールに向かえ。

 潜水艦達が資材の収集に躍起になっているらしいから、深海棲艦は近付かないようにしているそうだ」

 

 そう教えてやると、鳳翔はもう一度頭を下げた。

 

「何からなにまでありがとうございます」

「だから…」

 

 感謝するなと言いかけたところでレーダーが反応を捉えた。

 数からしてさっきの奴らか?

 

「チッ、お節介な奴らが」

 

 あまりにもタイミングが悪すぎる。

 いや、海に出る前だっただけ水際ってか?

 

「急いで隠れろ!」

「え?」

「早くしろ!!」

 

 追い払う勢いで近くの茂みに隠れさせると、ぎりぎり間に合ったのかリ級達が警戒心が薄い様子で近付いて来た。

 

「どうした?」

「ヤッパリシンパイダカラ、オクラセテホシイ」

 

 気持ちは嬉しいんだが、なんつうタイミングだよ。

 しょうがない。

 こうなったらこいつらを引き離して鳳翔達の時間稼ぎに回るしかないか。

 

「せっかくだし、お言葉に…」

「マテ」

 

 好意に甘える振りをしようとしたところで、取り巻きのロ級が口を開いた。

 

「アソコニカンムスノスガタガ」

「ナニ!?」

 

 見れば、山城の砲身が茂みの中からこんにちわしてやがった。

 山城ェ…

 

「サガレイキュウ」

 

 俺を庇うように砲を構え前に出るリ級。

 こちらの様子を伺っていた向こうも残った砲や弓を番え一触即発の雰囲気になってしまう。

 

「やっぱり深海棲艦は深海棲艦ね」

 

 そう俺を睨む山城。

 いや、これはおもいっきりお前が悪いんだよ。

 とはいえこのまま戦闘になるのは避けたい。

 リ級達も悪い奴らでは無いみたいだし、なにより島の中でドンパチはマジで勘弁願いたい。

 と、そこで俺の頭の中に一つの策が思い浮かぶ。

 が、だ。

 はっきり言って上手く行くように思えないんだよな…。

 最悪俺が沈められるし。

 しかしだ。上手く行けば双方砲火を交えずに済むかもしれないと、藁にも縋る思いで俺は大声で制止した。

 

「両方共落ち着け!!」

「!?」

「ナニヲ!?」

 

 全員の視線が俺に集中する中、俺はリ級に語る。

 

「なあリ級。

 俺はこいつらを安全な場所に送ってやりたいんだが、だめか?」

「カンムスニナサケヲカケルノカ!?」

 

 向こうに向いていた砲が一世にこちらに向くが、俺は平然と話し続ける。

 

「実はな、こいつらと少し話しをしたんだが、どうにも可哀相な境遇でな」

「?」

 

 いきなりの話に毒気を薄れさせるリ級達。

 向こうも俺が戦いを回避しようとしているのを察し、やる気を見せる山城を鳳翔が宥めている。

 失敗は許されないなと覚悟しながら、俺はリ級に即席ででっちあげた話を始めた。

 

「こいつらさ、人間達が助かるためだけに捨てられたらしいんだよ」

「ステラレタ?」

「ああ。

 ブルネイの基地は知ってるよな?」

「エエ。

 コノマエカイブツガオソッタ」

「その時に人間達はこいつらに『自分達を助けるために死ぬまで戦え』って命令されたんだと」

「ヒドイ!?」

「ニンゲンハオニダ!?」

 

 うわ、マジで信じてるよこいつら。

 向こうは向こうで俺の事すっごい恨めしそうに睨んでるし、やっぱりまずったかな?

 とはいえ今更嘘でしたなんて言えばリンチ確定だし、引くわけには行かない。

 

「それなのにだ。

 こいつらは健気にも、あんなにボロボロに使い潰されても、まだ人間を信じてるんだよ。

 そんな可哀相な奴らを見捨てることが、俺にはどうしても出来なくてな。

 だから頼む!

 今回だけで良いからこいつらを見逃してやってくれ!」

 

 そうリ級達に土下座して頼み込む。

 実際は砂浜に頭を突っ込んでいるだけだけど気にしない方向で。

 

「……」

 

 ダメか?

 異様な沈黙が辺りを支配した後に、リ級が俺の頭に手を置いた。

 

「ワカッタ。

 オマエニメンジテニガシテヤル」

「本当か!?」

 

 え? 本気で上手くいっちゃったの!?

 

「ワタシタチモキョウリョクスル!」

「テツダウゼ!」

 

 リ級だけでなく、ロ級とずっと黙っていたホ級までそう言い始める。

 ……って、手伝う?

 

「あの、」

 

 展開に付いていけない艦娘を代表して鳳翔が尋ねる。

 

「どうなったんですか?」

 

 そういや艦娘には深海棲艦の言葉が通じないんだったか。

 

「こいつら、安全な海域まで護送するって言い出してる」

「…はぁ?」

 

 信じられない気持ちは解るが、こうなった原因はお前だからな山城。

 

「サア、グズグズシテイルヒマハナイゾ!」

 

 威勢良く舵を取るリ級。

 

「信じても良いんでしょうか?」

 

 困惑する大和に困ったように苦笑する鳳翔。

 

「事を構えずに済むというならそれでいいんじゃないでしょうか?」

「……不幸だわ」

 

 戸惑いながらもリ級の先導で海に入る一同。

 そして通訳として当然の如く組み込まれる俺。

 

 本当にさ、なんでこんなことになったんだ?

 




 いっつも殺し愛ばっかじゃないんだよ!

 ということで、必死で戦闘回避に奔走する主人公でした。
 たまにはこういうライトでコメディチックな展開だってあってもいいよね?
 毎回誰かが死ななくたっていいんだよね?
 後ブルネイの大和は原作通りの綺麗な大和です。(ここ重要)
 イ級は大和が苦手になったけど、作者は大和が大好きです。(重要)

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