なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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 流されて生きられると思うな。
 足掻かなければ、いつまでも地獄は続くぞ。


もう、やめてくれ…やめてくれよ!!

 電と雷に連れられ向かった先に待っていたのは、大和と長門それと球磨と千歳、最後に阿武隈の5人だった。

 

「連行してきました」

「御苦労」

 

 しっかり敬礼する二人に同じく敬礼を反す長門。

 敬礼を解き、俺を見ると長門は律義にも移送予定を教えてくれた。

 

「これから貴様を我々がラバウルまで護送することになる。

 途中硫黄島、サイパン、トラックを経由する航路を使う。

 それと移送中は脱走を防ぐため、最低限の燃料を逐次千歳から補給する形を取らせてもらう」

 

 まあ妥当だな。

 逃げられないよう燃料を規制しても随時補給を行える上、索敵も出来る水上機母艦はこういった任務では適任だろう。

 大和と長門は艦隊戦と万が一の警戒を、球磨と阿武隈は潜水艦を警戒する水雷戦隊といったところか。

 

「エアカバーが薄いが大丈夫か?」

 

 レイテには近付かない航路を訪ったとしても、別海域の空母との海戦の危険だってあるはず。

 そうなれば瑞雲か晴乱で空戦を強いることになるだろうと尋ねると、長門はお前が気にする事じゃないとばっさり切り捨てられた。

 

「さいですか」

 

 まあ、俺が気にしてもしょうがないのは本当だな。

 誘引用というより脱走防止のためにワイヤーが俺と長門を繋がれ、缶を温め短距離の航海が可能なだけの最低限の燃料が俺に与えられたのを確認した大和が旗艦らしく宣った。

 

「抜錨。

 第一艦隊、出撃します」

 

 その言葉に従い長門達が海へと降り、引っ張られないよう俺も久しぶりに海に身を浸す。

 

「……なんだかんだで俺も船舶なんだな」

 

 普段は全く感じていなかったが、久しぶりだと海の上に居ることが凄く落ち着く。

 波の揺れがいいんだよ。

 なんつうか、地に足が着いている感覚はなんか落ち着かない。

 身も心も船になっちまったんだなぁとしみじみ考えていると、ぐいっと長門に引っ張られた。

 

「気持ちは解るがぼさっとするな」

「はいはい」

 

 大和が先頭に立ち、俺は最後尾の一つ前、後ろから阿武隈が見張る状態で海を歩き出す。

 うん。やっぱり海は落ち着くね。

 この感覚は艦娘や深海棲艦にしか解らんね。

 出だしから特に波乱もなく、俺は足並みを乱さぬよう意識して穏やかな海を時速16ノットぐらいで航海する。

 と、3時間程した頃に不意に長門が千歳に命令する。

 

「一回補給してやれ」

「了解」

 

 そう応じ艤装から燃料缶を一つ取り出す。

 

「どうぞ」

「ああ」

 

 実の所、最初に与えられた燃料はまだ殆ど使っていない。

 燃費が良いだけじゃなく、16ノット程度ならまだ歩く感覚で殆ど缶の熱を上げる必要がなかったからだ。

 使い捨ての身体ってのもこういうときは便利だなと思いつつ、断ったら後が面倒かと俺は受け取った少量の燃料(ココア味)を飲んでおく。

 これで最初のを含め合計メモリ換算一個分は補給されたなと思いながら俺は、いつ木曾の眼帯を球磨に渡すべきかと迷いながら航海を再開する。

 そうして航海を続けて一晩が過ぎた辺りで不意に球磨がぼやく。

 

「電探も水偵もなんも反応なし。

 静か過ぎるクマ」

 

 球磨のぼやきに長門から注意が飛ぶ。

 

「気を抜くなよ。

 それに、ラバウルまで後十日も掛かるんだ。

 そうそう艦隊決戦が起きてもらっても困るさ」

「そう、クマね」

 

 なんか、含みがある言い方をするな。

 そんなことは無いと思うが、頼むから俺を逃そうとかそういうことは止めてくれよ。

 俺はもう、俺のために艦娘が傷付くのに耐えられないんだ。

 俺はそんな事が起きないことを願いながら従順に航海を続けた。

 

 だけど、俺は忘れていた。

 

 この世界は俺にとって地獄なんだって事を。

 

 始まりは唐突だった。

 

「水偵より入電!?

 深海棲艦を発見。艦数6!

 重巡を旗艦とした水雷戦隊と思われます!」

 

 不気味な程静かな航海を続け、トラックまで順調に通過した翌日、ラバウルまで後三日の所で千歳から発進した瑞雲が敵の襲来を告げる。

 

「隊列変更。副縦陣にて迎撃します」

 

 大和の指令に先頭に大和と長門が立ち、邪魔との事で一旦ワイヤーが外され逃げないよう俺の後ろと右側を千歳と球磨が囲う。

 今なら俺が逃げるには千載一遇に等しいチャンスだ。

 だが、今更逃げてどうなる?

 燃料は都合半分ぐらいは貯まったから全力を出しても二日は走り続けられる。

 だが、その後は?

 目的もなく、ただ死にたくないだけで逃げ続けられるほど俺に気力なんて残っていない。

 それなのに…

 

「大和が撃ち始めたら全力で逃げるクマ」

 

 球磨はそっと、俺に耳打ちした。

 

「馬鹿な事を言ってんじゃねえ!」

 

 怒鳴りたいのを堪え、俺は思い留まれとそう言うが、球磨は聞く耳を持ってくれなかった。

 

「全砲門、斉射!!

 ってええ!!」

 

 長門の咆声を引き金に大和と長門が同時に艤装から砲弾を発射。

 

「今クマ!!」

 

 直後、嫌がる俺を捕まえ球磨と千歳が隊列から離れ始めた。

 

「千歳!?」

 

 何でお前まで!?

 俺を抱き抱える千歳の胸部タンクの感触とか喜んでる暇もなく、いち早く気付いた阿武隈が素っ頓狂な悲鳴を上げる。

 

「ちょっ!?

 何やってんのあんた達!?」

 

 その声にすかさず大和がこちらへと砲を向けようとするが、敵艦隊の至近弾が着弾し長門が怒鳴り付ける。

 

「敵に集中しろ大和!!

 阿武隈、お前はあいつらを追跡しろ!!」

「ふぇ!?

 で、出来るけど…」

 

 しどろもどろに阿武隈が長門に言われるまま追跡を開始。

 大和は何故かその口許だけが笑みの形に歪め憎々しげにこちらを睨んだ後、迫る艦隊へと憤懣を叩き付けるように砲を撃ち始める。

 奴らの目的はともかくあれじゃあ死体蹴り……って、それどころじゃねえ!?

 

「お前ら正気か!?」

 

 こんな真似をした以上鎮守府に帰ることはもう望めない。

 どころか、脱走兵としてどちらからも追われる身となるんだぞ!?

 

「球磨は決めたんだクマ!」

 

 阿武隈の追跡を阻むため直線上に爆雷を撒きながら球磨は言う。

 

「球磨は、お姉ちゃんだから、妹の恩人を見捨てたりしないクマ!」

 

 止めろ。

 

「私もそう。

 千代田を救ってくれた貴女には感謝してる。

 だから」

 

 もう、止めてくれよ…

 

「俺は、お前達の敵なんだぞ…」

 

 俺はただの馬鹿げた性能しか持っていない、なんにも出来ない役立たずなんだ。

 艦娘が可愛いからってだけで中途半端に助けて、見殺しにしたくないって半端な覚悟でなんとかしようとして、結局なにも出来なかった出来損ないなんだ。

 なのに、なんでそんな俺を、どいつもこいつも救おうなんてするだよ?

 いっそ身体だけじゃなく、心まで深海棲艦になっていたらこんなに苦しまなくて済んだのに…。

 なんで、こんなことになるんだよ…

 逆らう気力もなく、俺は数時間千歳に抱えられたままでいたところで、不意に対空レーダーに反応が現れたのを感知した。

 

「空からなにか来る!」

 

 そう怒鳴った直後、俺達から少し離れた場所に砲弾が着弾し水柱を立てる。

 

「あれは大和の零観クマ!!

 着弾観測射撃が来るクマ!?」

 

 狙いは俺以外有り得ない。

 そう思った瞬間、俺は身体を振って千歳から逃れるとそのまま離れる。

 

「イ級!?」

 

 千歳の声に俺は怒鳴る。

 

「俺から放れろ!!

 もう誰も俺のために死なせて…」

 

 そう言い終える前に俺はふと大和の浮かべた笑みを思い出した。

 

 なんであいつは笑っていたんだ?

 あれじゃあまるで、俺が逃げた事が都合が良い(・・・・・)みたいな、そんな…

 

「っ!!??」

 

 ゾワリと悪寒が走り俺は転身と同時に、ほぼ無意識に怒鳴っていた。

 

「大和の狙いはお前達だ!!??」

「クマッ!!??」

「っ!!??」

 

 直後、俺を完全に無視した砲弾の雨が二人に降り懸かる。

 

「球磨!!?? 千歳!!??」

 

 また、俺のせいで艦娘が死ぬのか?

 

「ふざけんな!!??」

 

 今度こそ、今度こそ絶対にさせてたまるか!!

 砲弾の雨を掻い潜り、俺は二人の盾になろうと全力で駆け抜ける。

 

「オオオオオォオォオオオオオ!!」

 

 千歳に迫る直撃弾に身を曝そうとした瞬間、あろうことか千歳は庇おうとした俺を引き寄せ自分を盾にした。

 

「千歳!!??」

「お願い、私の代わりに千代田を守って」

 

 そう俺に告げた直後、千歳に九一式鉄鋼弾が千歳に直撃した。

 鉄鋼弾は千歳に突き刺さるとそのまま爆発。

 亡きがらすら残さず千歳をこの世から消し去った。

 

「あ…あぁ…」

 

 なんで、なんでだよ?

 砲弾の雨が収まった中、俺は涙を流すことも叶わない身体を呪いながら絶叫した。

 

「なんで、こんなことになったんだよ!!??」

 




 ……辛い。
 最初のプロットより大和は黒くなるし、まだ終わらないし、しかもこれ、まだプロローグなんだぜ?

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