なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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 諦めるな。
 お前に期待している奴は、俺だけじゃないんだからな。


まともな奴もいてくれて安心したよ…

 バタンという音と共に肩を落とした球磨が出て行った。

 それを見送りながら俺は静かに溜息を吐いた。

 

「そんな裏事情だったとはな…」

 

 計らずも木曾の脱走劇の真実に着いて知ることとなった俺は複雑な思いに駆られていた。

 木曾の脱走を手引きしたのは球磨だった。

 木曾は重雷装艦への改装が済み次第、回天の試験搭載艦になるはずであった。

 というのも、特攻兵器には搭載のためには艦娘に適性を求める性質があり、横須賀に属している艦娘でそれを満たしていたのは祥鳳、瑞鳳、千代田、北上、木曾、あきつ丸の六人だけだったそうだ。

 しかし北上では回天の搭載にはメンタルへの不安定さが懸念されたため、木曾に白羽の矢が立ったそうだ。

 そして球磨はそれを良しとしなかった。

 しかし、特攻兵器の破壊は不可能であったため、千歳と共に適性を持つ艦娘を脱走させようとしたのだが、最初に木曾を逃がした時点で大和に感づかれそうになり、それ以降動けずにいたまま試験運用が開始されてしまったらしい。

 木曾が瑞鳳達と面識が無かったりそういった知識が無かったのは、木曾が最初からずっと遠征部隊に所属していたために内情に疎く、以前の大規模作戦の折りに実働部隊に転向。適性が認められたためそのまま実験部隊に移動したからだそうだ。

 

「……臭いな」

 

 考えすぎかもしれないが、大規模作戦と実験部隊の編制が繋がっているような気がする。

 とはいえ元が人間でも今は深海棲艦の俺じゃあ考えたって意味はねえし、そもそも軍とか興味なかったからよくわからん。

 

「…ん?」

 

 って、昔の俺は興味なかったのか?

 だったらなんで艦これ始めたんだ?

 MMDとか知ってたし、ミーハーなただのニコ動ユーザーだったのかもしんねえな。

 っと、横道に逸れてねえで情報を整理しねえと。

 余談だが、あきつ丸も同じく遠征部隊からの異動だったそうだ。

 二人はまるゆを接点に友人になったそうだが、そのまるゆは作戦の前に遠征中の交戦で沈んだらしい。

 ゲームと違って遠征でも戦うことはあり、場合によっては沈むこともあるそうだ。

 世知辛いというか、燃料弾薬しか消費しないゲームがどれだけ恩情だったのかと。

 にしてもだ。

 まさか艦娘の中に特攻兵器を容認する者が居たとは思わなかった。

 が、その筆頭が大和と夕張と聞いて納得したがよ。

 といっても大和と夕張では理由が違うらしい。

 球磨が言うには、夕張の目的は特攻兵器を土台とした高性能無人兵器の開発が目的で、あくまで踏み台としてしか見ていないそうだ。

 だが、大和は違う。

 あいつは提督の勝利のための必要な犠牲と完全に割り切っている。

 その病的な献身は妹の武蔵ですらも辟易しているそうで、余計に孤立し更に提督に執着と依存が悪化する完全なスパイラルに突入しているようだ。

 あのさ、もう解体しちまえよ。

 そう言ったらあの大和は最高錬度で何体も姫タイプを撃破した実績を持ち、しかも上層部とも繋がりがあるから提督にすら解体指示は出せないそうだ。

 おまけにダメコンは常に装備しているためどんな状況に叩き込んでも必ず帰還する怪物とまで言っていた。

 ……あいつなら装甲空母ヲ級どころか史実を捩曲げちまうかもしんねえ。

 っと、今はこんなもんか。

 しかしまあ、この先どうなるんだか。

 利用されるのも釈だしだったら標的艦として沈めてくれれば御の字だが、球磨からは多分ラバウル行きだろうと言われた。

 ラバウルは泊地の中でも海域防衛の他に艦娘の研究についても盛んだそうだ。

 これまでの成果だと陸奥を確実に建造させる波長の光を発見しただとか陽炎型から陽炎、不知火、黒潮を確実に建造させる粒子だとか大和の建造で発生する成分を必ず放出させたりとか、周りに迷惑を掛けることしかやってないそうだ。

 元々扱いに困る輩を送る流刑地だったのが、どいつもこいつも無駄に有能だったせいで海域防衛の成果をだした結果ラバウルは泊地になったらしいんだが…おもいっきり変態の巣窟にしか聞こえないんだがいいのか?

 と、不意に妖精さん達が俺の潰れた右目に何かを被せた。

 

「なんだそれ?」

 

 マストかなんかか?

 そう尋ねてみると、俺はその答えに耳を疑った。

 

「……木曾の…眼帯」

 

 漂流している際に回収したが修復の当てもなくとりあえず保管していたのを、さっきのバケツの残りで直したらしい。

 

「外してくれ」

 

 縛られているせいか念力が使えないのでそう頼む。

 

「そいつは球磨に返さなきゃなんねえ。

 だから、外してくれ」

 

 妖精さん達に悪意が無いことは分かっている。

 だが、それでもきついんだよ。

 分かってくれたようで妖精さんが右目に掛けた眼帯を外していく。

 代わりにハンモックを用意しているのに気付き、俺は夕立じゃねえんだぞと内心呟きながら好きにさせておくことにした。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 マリアナ海溝の最も深い海の底。

 人が立ち入ることの叶わぬ深い闇の中で人ならざる者達は語り、嗤っていた。

 

「憐れな姫が狂ったわね」

 

 深い闇の中でなおはっきりと見える姿はどれも白いヒトガタにギラギラと輝く紅い眼を携えた妖しい魅力を孕む美女達ばかり。

 彼女達の今の関心は、レイテに現れた二つの存在であった。

 

「アレは強すぎる。

 あれでは漸く見えた安寧を破壊し何もかもを焼き尽くしてしまいかねん」

 

 一つは装甲空母姫が己を対価に産み落とした哀れな化物。

 かつては同じ存在であったそれも、もはやただの悩みの種としか『南方棲戦姫』は考えていなかった。

 

「いいじゃないの」

 

 いっそ我等が葬ろうと堤する南方棲姫を『飛行場姫』は嗤いながら放っておけと反する。

 

「アレの代わりは産まれ落ちたわ。

 わざわざ私達がでしゃばらなくても、人間達が勝手に始末するわ」

「だが、それまでに奴はどれだけの被害を齎す?」

 

 姫としての知性を捨て、ただ力を奮う事しか出来ぬ存在は強力であればあるほど目障りでしかない。

 事実、イ級が装甲空母ヲ級と命名したあの怪物は艦娘はおろか深海棲艦であろうと構わず襲い掛かり、悪戯に勢力図を壊して回っていた。

 

「私達が蘇ったのは復讐のためでは無い。

 人間に滅んでもらって誰より困るのは我々なのだぞ?」

「滑稽ね」

 

 二人のやり取りに『離島棲姫』が小さく呟く。

 

「所詮アレは『イレギュラー』。

 瑣末な狂いなんて、すぐに塗り潰されて消えるわ」

 

 狂乱するケダモノになんて興味はないと離島棲姫は『戦艦棲姫』に視線を向ける。

 

「そんなことよりも、私は貴女の考えが聞きたいわね」

 

 その言葉に戦艦棲姫は静かに問い返す。

 

「私の考えとは?」

「あら?

 貴女がもう一つの『イレギュラー』にいたく御執心なのは分かっているのよ?」

 

 もう一つの『イレギュラー』、則ち『深海棲艦』でありながら艦娘と同じく『妖精さん』の庇護を受ける異形の深海棲艦。

 

「あの『イレギュラー』が関わった艦娘を囲い何を目論んでいるのか、私はそちらのほうが余程興味深いわね」

「私も」

 

 離島棲姫の問いに『港湾棲姫』も同意する。

 

「あの『イレギュラー』は、怖いのに、どうして?」

 

 定期的に行われるこの集いで全く意見を口にしない、およそ姫とは思えないほど臆病な港湾棲姫でさえ声を出す程の疑問に、戦艦棲姫は僅かに間を置いて答えを口にする。

 

「……たいしたことじゃないわ」

 

 事実、戦艦棲姫にだいそれた考えは無い。

 

「私は知りたいの。

 人間が狂気を繰り返そうとした直後に現れたあのイレギュラーが、何を考え、何を成そうとしているのか」

「それが、『私達の総意』に反するとしてもか?」

 

 詰問にも近い南方棲戦姫の確認を、戦艦棲姫は無言で肯定する。

 

「…フフ」

 

 凍りそうな程冷たい水底でなお冷えていく中、これまでただやり取りを眺めていた『泊地棲姫』が小さく嗤う。

 

「何が面白い姫?」

「全てがよ」

 

 僅かに苛立ちを見せる南方棲戦姫の問いに泊地棲姫は嗤う。

 

「『総意』から外れた私達がこうして一堂に集いながら、まるで人間のように己の意を貫こうとする。

 これほど愉快な事はそうはないわ」

 

 今まで互いに噛み合わぬ事は多かった。

 だが、これほどまでに明確に擦れ違うことは一度として無かった。

 それが、とても楽しくてしょうがないと泊地棲姫は嗤う。

 

「『総意』は笑っているわ。

 『イレギュラー』の到来が、彼等の衝突が分水嶺だと笑っているわ。

 片方が勝てば歴史は繰り返す。

 だけど、もう片方が勝てば『総意』にすら知り得ない未来への足掛かりが産まれる。

 二つの『イレギュラー』のどちらが勝ち、世界が何を望んでいるのかを楽しみに笑っているわ」

 

 謡うような泊地棲姫の囀りに、南方棲戦姫は小さく鼻を鳴らす。

 

「つまり、好きにさせろと?」

「好きにしなさいと言っているのよ。

 私達に序列は無い。

 折り合わなければ、我を通すために殺し合えばいい。

 それもまた、『総意』は否定しないわ」

 

 どう足掻こうが深海棲艦は『総意』の呪縛から逃れる術は無い。

 そして、その足掻きすらも『総意』が望むものだと泊地棲姫は嗤う。

 

「ならば好きにやらせてもらう」

 

 そう言うと南方棲戦姫は闇の中に沈んでいく。

 

「私もそうさせてもらうわ」

「全ては『総意』が望むままに」

 

 離島棲姫はつまらなそうに、飛行場姫はからかうような口調でそう嗤い闇に沈む。

 

「姫、あの娘は?」

 

 港湾棲姫の問いに戦艦棲姫は静かに言う。

 

「相変わらずよ」

「……そう」

 

 その答えを聞き、港湾棲姫は無言で闇に沈む。

 

「気をつけなさい姫。

 『イレギュラー』は、どうあっても『イレギュラー』なのだから」

 

 そう忠告を残し泊地棲姫は闇に沈む。

 

「……言われずとも、飼い馴らすつもりはないわ」

 

 泊地棲姫の忠告に誰もいなくなった闇にそう言い残し、戦艦棲姫もまた闇に沈む。

 

 だれもいなくなった闇の中を、ゆっくりと朽ちていく鋼が小さく軋む音が僅かに響いた。

 

 

〜〜〜〜

 

 

 あれから三日が過ぎた。

 あの日以降球磨がここに来ることはなく、毎日続く艦娘からの尋問やらなんやらを適当に答える日々が続いていた。

 しかも一度として同じ艦娘が現れていない。

 俺の反応が確かめたいのか、それとも別の理由かは定かじゃないが毎回違う艦娘が尋問に来るのが多少面倒なのだが、毎日いろんな艦娘に会えるのは役得なんだろうと自分に言い聞かせる事にした。

 

「よろしくお願いしますなのです」

 

 今日の尋問担当は電と雷。

 因みに一昨日は長門と不知火。昨日は天龍と龍田だった。

 

「んで、今日は何を聞きたいんだ?」

 

 正直なところ、長門と不知火の時点で俺が知っていることは大体話している。

 お陰で天龍と龍田にはめんどくさいぐらい怒鳴られて脅されたんだが、今日はそんな事もないだろう。

 

「特に無いです」

「……はい?」

 

 尋問なのに聞くことが無いってなんだそりゃ?

 

「言葉の通りよ。

 昨日の時点であなたに聞きたいことは大体終わったからもう無いの」

「じゃあなにしに来たんだよ?」

 

 雷の言葉に本気でそう尋ねる。

 つうか、尋問な割りに大分温いんだよな。

 俺が大人しいからかかもしれないが、大和みたいに砲門突き付けることも基本無いし、脅しっつっても怒鳴る程度だし。

 

「なので、今日はお話するのです」

「話って…」

 

 茶でも飲みながら雑談でもする気か?

 

「イ級さんはなんで大和さんが嫌いなんですか?」

「病み具合が気持ち悪いから」

「え〜と…」

 

 苦笑いしている当たり反応に困ってるみたいだけど、だったら質問するなよ。

 つうか、マジで雑談だよこれ。

 

「…無理に答えなくていいぞ?」

「ふみゅう」

 

 可愛く鳴く電を見てロリコンならホイホイされるんだろうなぁと他人事でそう思う。

 

「あ、そうだ」

 

 と、俺はちょうどいいと質問する。

 

「横須賀以外で金剛型を二隻以上抱えている鎮守府ってどれぐらいあるんだ?」

「金剛型を?

 なんでそんな事を気にするのよ?」

「いや、一回やり合って、二回目に会った時に横須賀への海路を教えてもらったから気になってな」

 

 礼を言う気はないが、いい加減所属が気になっていからそう尋ねると、雷は答えた。

 

「悪いけど他鎮守府の戦力を教えることは出来ないわ」

「そうかい」

 

 俺は深海棲艦なんだからそれもしょうがない。

 

「まあ、そうなるな」

「日向さんの真似っこなのです」

 

 そうごちる俺に小さく笑う電。

 

「そういうつもりはなかったんだがなぁ…」

 

 つうか日向って本当にそれが口癖なのか?

 電もなのですとか言ってるしこういうところはゲーム通りなんだな。

 

「あなたは艦娘をどれぐらい知っているの?」

「…知ってるだけなら大体か?

 陽炎型は知らん奴も多いな」

 

 建造とかはまだでもウィキとかで見ただけなら大体見たし。

 

「じゃあ知らないのは?」

「…紀伊とか?」

「なにそれ?」

 

 あ、あれは計画だけの架空戦艦か。

 後は…

 

「信濃は入るのか?」

「どうかしら?」

 

 …成程。

 今回は搦手で雑談から情報を取りに来たのか。

 まあ、明石とアルバコアの事に気をつけていれば大丈夫だろう。

 

「言っとくが会ったことがあるのは一握りだぞ?」

「じゃあなんで知ってるのよ?」

「…分からん」

 

 艦これユーザーだったからとか言ったら面倒になるんだろうなと思い惚けておく。

 

「なんでか知ってたんだ。

 寧ろ俺が教えてほしい」

「……」

 

 疑われているがこればっかりは勘弁してくれ。

 と、そんな中ガチャリと戸が開き大和が姿を表す。

 

「電、雷、尋問は終わりです。

 移送の準備が調ったので運び出してください」

 

 口癖は丁寧だが、相変わらずその目は気に入らない。

 

「移送?

 ラバウルですかホテル大和様?」

「……」

 

 大和は俺を睨み、無言でドアを叩き付けるように閉める。

 

「あわあわあわ!?」

 

 あからさまに怒る大和にテンパりあたふたする電を宥める雷。

 

「ふん。

 さっさと行こうぜ」

 

 今更足掻いても仕方ないとそう促すと、何か言いたそうにしながらも二人は俺の移送準備に取り掛かった。

 




 次回は、書いててすっごく胃が痛い。

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