なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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 俺が優しいのが漸く理解できたようだな?


提督に転生しなくて本当に良かった…

 

 開かれた扉の向こうから最初に見えたのは頭から茶色い髪が触覚のように一房だけ飛び出した少女だった。

 木曾と同じと似た艤装と制服から、多分軽巡の球磨だろうか。

 よく見れば左手の薬指には指輪が嵌めているから、おそらく木曾の事も…

 球磨は俺の様子を暫く観察した後、「大丈夫クマ」と原作そのままの語尾付きで後ろに促した。

 そして次に入って来たのは戦艦大和だろうか?

 見た目は球磨と同じく原作通りなのに、なんというか、見ているとそうじゃないような、言葉にならない違和感を感じる。

 そして最後に現れたのはMMDとかでよく見たことがある白い軍服の男だった。

 因みにイケメンだ。

 ま、俺は深海棲艦だからどうでもいいんだけどよ。

 球磨と大和が砲をこっちを向けていつでも庇えるようにしている辺り、多分こいつが提督か。

 

「……テメエが」

 

 こいつが北上に散々嫌がっていたアレを積ませ、瑞鳳と千代田にまで持たせた揚句あきつ丸を…

 思い出しただけで腸が煮え繰り返り、鎖が無かったら今すぐ食い殺しに掛かっていただろう。

 そうなれば動いた瞬間大和と球磨に蜂の巣にされて終わっていただろう。

 歓迎したくはないが、話をするぐらいの猶予が生まれたこの状況には感謝しておく。

 対して野郎は俺の怒りに表情一つ変えやしねえ。

 

「貴様に聞きたいことがある」

 

 野郎がそう言うが、怒りで頭に血が上っている俺には無い。

 

「艦娘の信頼を裏切るような奴に話す口はねえ」

 

 そう言うとゴリッと大和が副砲を押し付けた。

 

「お前に拒否権はありません。

 命が惜しければ喋りなさい」

 

 命、ねえ。

 脅しじゃないのは感情の見えない冷たいその目が雄弁に語っている。

 だが、

 

「じゃあ殺せ」

「…」

 

 とっくに死んでいないほうが驚きなんだ。

 だったら何を恐れるってんだ?

 

「止めろ大和」

 

 事を起こす前に野郎が止めた。

 

「……」

 

 命令に大和が押し付けていた副砲を下げる。

 

「フン、大した忠義っぷりだこって。

 情で解して、そうやって北上達に無理矢理あんなものを載せたのかあぁん!?」

 

 そう怒鳴る声に野郎と球磨の目が丸くなる。

 

「北上達は無事なのかクマ?」

「さあな。

 あいつら助けたくて装甲空母姫に喧嘩売ったはいいが、そのまま別れたっきりだ。

 上手く逃げ延びたかまではわからねえ」

 

 明石とアルバコアに付いては伏せて俺はそう正直に話してやる。

 

「…そうか」

 

 俺の言葉に野郎が驚きながら安堵するが、俺にはそれが気にくわねえ。

 

「何テメエが安堵してやがんだ?」

 

 あきつ丸は深海棲艦が現れたから艦娘が現れそしてアレを使わざる選なかったと言った。

 確かにそいつは間違っちゃいねえんだろうが、だ!!

 

「お前が北上達にあんなもんを使わせたのが原因なんだぞ!!

 あんなものを持ち出したから姫がキレてあきつ丸も死んだんだ!!??

 テメエに北上を、瑞鳳を、千代田を心配する資格なんかねえんだよ!!??」

 

 そう怒鳴った直後、大和が拳を俺に叩き付けた。

 

「ぐっ!?」

 

 身体のお陰か痛みは感じないが、それでも大和の拳は相当にダメージを与えて来たのを中の妖精さん達の焦り具合から理解した。

 痛くないのは有り難いが、限界が解らないってのは厄介だな。

 

「提督の侮辱は許しません」

 

 ゴミを見るようななんの感慨も無い冷たい目で見る大和。

 なのに、コールタールを焼いたような異様な憎悪を孕む大和に俺の違和感はますます膨れ上がっていた。

 

「止めるクマ!?」

 

 二撃目を喰らわせようとする大和を留めに入る球磨。

 

「放しなさい。

 尋問なんかよりこちらの方が早いわ」

「止めるんだ大和!」

 

 球磨ごとやろうかという勢いで拳を握る大和に、叱咤にも近い野郎の制止の声が飛び、漸く大和が止まる。

 拳を解き本当に申し訳なさそうに提督に謝罪する大和に、俺はようやく気付いた。

 

 こいつ、提督以外何も見ちゃいねえ。

 

 提督以外は全ていらない。

 そんな歪んだ偏愛を俺は無意識に感じ、違和感として感じていたんだ。

 

「ヤンデレ戦艦とか誰得だよ」

 

 気持ち悪さに小さくそうごちる俺。

 聞かれたらしく物凄く怖い目で睨む大和だが、さっきの制止が効いているのか手は出してこない。

 つうか、大和の手には指輪が無いんだが、提督の警護に錬度が低い艦娘が選ばれるなんて事はありえないだろうし、やっぱり…そういうことか?

 

「失礼した」

 

 そう謝罪する野郎に、僅かながら同情を覚えるも、北上達の事を、なにより木曾の事を思い出すとそれを受け入れる気にはならなかった。

 

「悪いと思うならその馬鹿でかいホテルを下がらせろ。

 欝陶しくてしょうがねえ」

 

 逆鱗だと分かっていたが、敢えて俺は刔る。

 直後、再び俺に拳が飛んだ。

 

「誰が、ホテルですって?」

 

 完全に据わった目で俺を睨む大和に野郎の声が飛ぶが、そんな事はどうだっていい。

 

「テメエの事だよ。

 戦艦型ホテル大和様?」

「本当に命が惜しくないようね?」

 

 副砲ばかりか、こんな狭いところでぶっ放せば球磨や野郎まで纏めて吹き飛ぶ事請け合いの46cm三連砲まで向ける大和。 だがなぁ、ここでヘタるぐらいなら最初から喧嘩なんか売らねえんだよ。

 第一、テメエの怒りなんざ、あの姫の慟哭に比べたら餓鬼の癇癪と違いなんかねえんだよ!

 

「従業員の躾がなってねえな大和ホテル?

 まあ、妹の模倣止まりじゃあそんなもんか」

 

 ぶちりと大和の血管が切れた音が聞こえた気がするが、俺は更に畳み掛けてやる。

 

「スリガオで妹見捨てたのもそれが原因か?

 フン、安っい女郎だな。

 そんなんだから、フィクションでしか長門に勝てねえんだよ糞餓鬼!!」

「いい加減にしたまえ」

 

 カチリと撃鉄を起こした拳銃を突き付ける野郎。

 

「貴君の言い分は事実だろう。

 私が至らなかったばかりに多くの部下に苦痛を強いたことを認めよう。

 それだけでなくあきつ丸を死に追いやり、同報からすら化け物と呼ばれる存在を生み出した片棒を担いだことも認めよう。

 貴君の怒りは尤もだ。

 だが、それ以上部下を愚弄するなら、私とて礼儀を忘れてしまいかねん」

「……ハッ」

 

 なんだ、結局そんなもんか。

 全く、最初はあの糞野郎を恨んだが(今もだが)、今はキスしてやってもいいぐらいだ。

 今だけは、深海棲艦に転生させてくれたことを本気で感謝するぜ。

 

「礼儀っつうなら、まずそのクソアマを引っ込ませてテメエだけで来やがれってんだ。

 俺はテメエみてえにおべっか使って口先ばかりの野郎が大っ嫌いなんだよ。

 どうせ、アレの使用だって上から言われたから仕方なくなんて言い訳してるだけなんだろ!!」

 

 ガンッ!

 さっきのがよっぽど効いたらしく、大和が顔を泣きそうに歪めながら俺を殴る。

 

「深海棲艦のお前に提督の苦しみの何が!!??」

「ハッ、手も足も出せねえ奴には強気だなホテル!!」

 

 次いで振るわれたのは46cmによる殴打だった。

 ガゴキンとかレアな金属音と同時に潰れたらしく右目の視界が消えた。

 

「止めろ大和!!

 それ以上は本当に殺してしまう!?」

「ホテルと呼ぶな!?」

 

 とうとう泣き出す大和。

 だが、俺はその姿に悔恨どころか本気で怒りを覚え怒鳴る。

 

「ああそうかよウドの大木!

 テメエはホテルなんて上等なもんじゃなくて、天一号で無駄死にの屍の山しか作れなかった棺桶だったな!!」

「っ……」

 

 自分の最期まで否定し叩き潰す俺の詰りに声も出せず膝を着く大和。

 そんな姿を見せられても、俺のこいつへの感情は変わらなかった。

 

「もう結構だ」

 

 そう言うとガキみてえに泣きじゃくる大和に寄り添い立ち上がらせる野郎。

 

「球磨、そいつに高速修復剤を使ってやれ」

「いらねえ」

 

 消費資材は艦娘と同じだからといって、バケツも効果があるかわからねえからいらん。

 つうか、ついでにデータ録る気か?

 だったら望み通り情報くれてやんよ。

 

「寄越すんなら艦娘の燃料にしろ。

 イチゴミルク味以外認めねえ」

 

 そう言うと球磨が小さく吹き出した。

 

「……」

 

 野郎は異様なものを見る目で俺を見た後、

 

「…将校としては業腹だが、貴君の働きには感謝している」

 

 と、それだけ言って球磨を残し野郎は出て行った。

 その後、球磨は一度出ていくと命令に従い緑色の例のバケツを嫌がる俺に無理矢理ぶっかけた。

 だが、右目は治らない。

 

「……効かないクマ」

「だな」

 

 というか、バケツって単品で効果あんのか?

 ゲームだと通常の入渠に加えて使うがどうなんだ?

 

「ん?」

 

 と、唐突に妖精さん達が騒ぎ出した。

 

「どうしたクマ?」

「いや、妖精さんが…」

 

 と、みるみるうちに全損していたファランクスを始めとする装備一式の損傷がなくなる。

 

「装備には効果があるみたいだな」

 

 そうごちたところで妖精さんの一匹が表に出て来て俺に伝えて来た。

 

「クマ!?

 お前も妖精さんがいるクマ!?」

「まあな」

 

 適当に答えつつ妖精さんの話を纏めると、俺は半ば呆れつつ言葉にする。

 

「単純に足んねえのか」

 

 流石深海棲艦。

 資材消費パネエ。

 

「どれぐらい必要クマ?」

「妖精さんいわく、後10杯分は欲しいとさ」

「ありえないクマ!?」

 

 いや、俺だってそう思うが、妖精さんが言うなら仕方ないじゃないか。

 

「まあ、前に入渠した時も大和型並の資材吹っ飛ばしたらしいしな」

「最悪クマー」

 

 俺もそう思うよ。

 

「因みに燃費は睦月型並だ」

「間違ってる、完全に間違ってるクマ!」

「深海棲艦は使い捨て前提だから大体そうらしいぞ?

 それと、」

 

 前以て盗聴器の有無は確認済みなので俺はレーダーを使用し、俺達以外誰もこの話を聞いていないことを確認してから言った。

 

「球磨、お前はこの鎮守府から姿を消した木曾を知っているか?」

 

 

 




 大和=サンはとっても素敵な女の子デスヨ?
 正妻の暗殺とかは、考えるだけで実行しませんから。
 R-TYPEはこの後絡んでくるので迷わなかったですが、アンチタグが必要かどうか本当に迷ってます。

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