「状況を整理しよう」
一言で言うと大惨事になった現状を纏めなおすため俺はそう言った。
「ちび姫、そっちの被害はどうだ?」
「ひがいはあんまりないけどきたないからそうじしたい」
「被害自体は?」
「あるふぁのゆうどうだんでちょっときずがはいったぐらい」
「わかった。
それと汚いのはアルファに掃除させるから少し我慢しろ」
俺達同様『深きもの』の襲撃を受けたちび姫達はアルファのミサイルによって実質の被害は無かったそうだ。
「他に被害はないか?」
申告を促すと他にはせいぜい近過ぎるからと弾薬けちった山城が下ろし忘れた蛍君で切った張ったしようとしてしくじった挙げ句犯されかかったらしいが自業自得かつアルファのミサイルで事案は防げたようなので無視。
「所詮私の扱いなんてそんなもんよね」
山城が膝抱えて不貞腐れたがんな事よりもだ。
「そいつはなんなんだアルファ?」
再開してみたらいかにもな全長三メートルのロボットと化していた相棒にそう訊ねる。
なんつうか、普通に格好いい件についても答えてもらおうか。
『液体金属デ外見ト性能ヲ摸倣シテイルンデス。
使用ヲ控エテイタノハ使用スル兵装ガバイド汚染ヲ引キ起コス可能性ガ高イカラデシタ』
「成程」
実際ミッドナイト・アイのバイド検知器がバイド係数の上昇を検知してるし然もありなん。
「それはそれとしていつもの姿に戻らないのは何でだ?」
『変身ハ大量ノエネルギーヲ使用スルノデ一度解除シテシマウト暫ク変身出来ナクナルカラデス』
「成程」
簡単に人形になれるなら前からなってただろうし意外と不便なんだな。
そして不意に辺りの気温が低下した。
「で、さあ、イ級?」
まるで氷柱が喋っているかのような超低温の声を発する千代田。
まあ、そうなるよな。
「なんで、
瞳孔が開ききって更に程寒い雰囲気を纏い千代田がそう問いただす。
落ち着けと言いたいところだが、俺も北上も自重しなかったんだから言う資格もない。
因みに当の大和は春雨の僚艦になったという人形の深海棲艦経由で消費した弾薬と燃料を補充している最中だ。
視界に入れるだけで手を出したくなるから見ないようにしつつ千代田の問いに答える。
「『混沌』が来るように手引きしてやがったんだよ。
嫌なのは同じだが『混沌』を倒すまでは手を出すな。
殺るのはその後だ」
「…わかった。今は納得しておくね」
「頼む」
千代田が頷いたのを確認して俺は木曾に告げる。
「木曾、今すぐバルムンクを撃て」
「いいのか?」
無駄撃ちを懸念してるんだろうがそれよりもだ。
「渋って使い損ねるぐらいならまだしも利用される可能性もある。
だったら無駄撃ち上等でぶちかましてやるほうが建設的だ」
「確かにな」
「それにだ」
「それに?」
「折角立ち直った春雨をあんなふうにしてくれやがったんだ。
盛大に
結局のところ、俺はひたすらぶん殴ってやりたいんだよ。
そう言うと木曾は鮫のように笑う。
「ああ、確かになその通りだ」
木曾はそのままカタパルトをルルイエに向けると怒りを込め吼える。
「行け!! ストライダー!!」
カタパルトから解き放たれたストライダーは真っ直ぐルルイエを目指し飛翔。
そして専用ラックに固定された核融合ミサイル『バルムンク』を射程圏に捕らえると同時に発射。
刹那、ルルイエの丸々飲み込む太陽が地上に産み出された。
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「……うわぁ」
誰ともなく漏れたその呻きが俺達の総意だった。
いや待って。
球状の熱源体が海面を含めて周辺を抉りとってるとかなんなの?
「なあ熊野。
俺が喰らったピカってあんな感じだったか?」
「あれに比べたら爆竹と同じでしたわ」
「さよか」
あの大和でさえ絶句して固まる光景に対しとんでもない発言が飛ぶ。
『カナリ減衰シテイルガ威力ハマズマズト言ッタトコロカ』
「おい」
アルファお前…
「あれで減衰しているのか?」
『オリジナルノバルムンクナラコノ距離デモ姫ノ艤装ガ傾ク程度ノ余波ガ来テイル筈デス』
「先に言えよ」
いやほんと、もっとこう、キノコ雲が上がってすげえとかになると思ってたんだが。
つうかこんなんがバカスカぶっぱなされても完全に倒せないバイドって…
マジで今まで使わなくてよかったわ。
十分ほどでバルムンクが産み出した太陽が消え再び波の発てる音が辺りに響いてきた頃に俺は言った。
「金輪際何があろうとバルムンクは完全に封印するぞ」
「そうだね」
こんなん持ち出したら勝ち負けとかそんな次元じゃ済まなくなる。
俺の言葉に皆が力強く頷くとミッドナイト・アイを観測に飛ばしていた千代田が報告を上げる。
「……嘘?
爆心地近くに動体反応有り!?」
「まじかよ」
あれで倒せないとかマジでふざけんなよ。
動揺が駆け巡る中狂った嘲笑が響き渡る。
『アハハハハはははハハハハハハハハハハハハはハハハハハハ!!
実に、実に素晴らしい花火だったよ!』
ルルイエ跡地から『混沌』が変じたという深海棲艦が現れる。
「なんか、でっかくない?」
北上の言うとおり、その全長は艤装を含めると軽く見積もっても200メートルは越えている。
「装甲空母ヲ級の悪夢再びってか?」
二番煎じとか舐めてんのかこら。
とはいえ無傷だった訳じゃないらしく顔は半分砕けてそこから黒い
『今度はこちらの番だ!!』
そう宣うと巨大な化物じみた艤装から山のような球体型の艦載機が飛び立った。
その数は優に200を越えてなおも増え続ける。
「って、多過ぎだ!?」
空が白く染まるなんてどんだけ抱え込んでやがるんだ!?
『ミサイル掃射!!』
先頭が射程に入るなり最も射程が長いアルファが口火を切る。
両肩から放たれたミサイル群は膨大な弾数でその進行を押し留めるもいくらバイドとはいえミサイルを無限に撃てる訳じゃない。
『残弾ゼロ!!
再製造マデ二分、耐エテクダサイ!!』
当然撃ちきってしまい再装填の間に更に接近を許してしまう。
だが俺達だってアルファのおんぶにだっこじゃねえ!!
「晴嵐全機発進!!」
「防げストライダー!!」
「頼むわよMr.ヘリ!!」
「瑞雲だって防空はできますのよ!!」
「かえれ!!」
艦載機を持つ全員がありったけの航空機を迎撃に放つ。
R戦闘機三機を含む防空網をそれでもそれなりの数が抜けちび姫の艤装へと魚雷と爆弾を放り込んできた。
「敵艦載機の魚雷投射を確認!?」
「フロッグマン!!」
北上がフロッグマンを海中へとスローインし艤装へと迫る魚雷を片端から迎撃。
「直上来るぞ!!??」
「クラインフィールド!!」
上空から落ちてくる爆弾を俺が載大規模で展開したクラインフィールドが受け止める。
クラインフィールド越しに広がる爆炎の業火と黒煙で辺りが真っ黒に染まる中漸くアルファのミサイルが再装填を終える。
『第二次掃射準備完了!!』
その報告を聞き俺は叫ぶ。
「対空砲撃用意!!」
しかしそれを止める声が上がる。
「下がってなさい」
それは傘を大和のものだった。
「何をするつもり?」
「一々撃ち落としていたら時間の無駄よ。
あの邪魔な天幕を外しなさい」
一考に介さない態度でそう大和は言いやがる。
「たった一人で何ができるっていうんだ」
「さっさとしなさい。
天幕をごと凪ぎ払うわよ」
……この野郎。
「啖呵切ったんだ一発でも落としたら覚悟しろ」
そう言うも大和は一瞥すらしないでガン無視しやがった。
坊主憎けりゃなんだろうが挙動ひとつにさえ感を悪くさせながらも俺はクラインフィールドを解除した。
当然遮るものが無くなれば爆弾の雨はちび姫の艤装へと落ちてくる。
しかし大和はなんの気負いも見せずただ端的に言いはなった。
「邪魔よ」
直後、神風が吹いた。
何が起きたのか理解しようもない。
分かることは、台風のようなすさまじい暴風が吹き抜け爆弾と艦載機を一切合財吹き飛ばしたことと、それを大和が傘の一凪ぎでなしたということ。
「……って、オイ」
「まだ難癖つけるつもり?
いい加減」
「そっちじゃねえよ」
砲を俺に向けようとした大和を遮り俺は叫ぶ。
「味方の艦載機まで全滅させてどうすんだよ!!??」
大和が起こした暴風は当然識別なんてできる筈もなく瑞雲や晴嵐やちび姫の艦載機どころか虎の子のストライダーとMr.ヘリまで撃墜してしまったのだ。
味方の防空の要まで墜とした大和はしかし鼻で笑い飛ばした。
「対処できなかった方が間抜けなのよ」
「テメエ!?」
やっぱり今すぐ殺す。
しかしそんな俺を止めたのはアルファだった。
『落チ着イテ下サイ御主人。
今ハトモカク『混沌』ノ排斥ヲ』
「クソッ」
掴んで物理的に押さえるアルファについ悪態を吐いてしまう。
暴れたいのを堪えアルファに掴まれたまま俺は話を進める。
「兎に角だ。
R戦闘機が堕ちちまった以上次はもう耐えられねえ。
無茶は承知だが全員で削り落としに掛かるぞ」
序でに春雨がいる今なら論理的に千代田とちび姫を下がらせられると内心算段しつつそう言うもまた大和が余計なことを言いやがった。
「アレは泊地タイプよ。
アレ相手に雷巡程度の有象無象が束になって掛かったところで沈むだけよ」
……もうさ、殺っちゃっていいよね?
「そこまで言うならさ、お前一人で沈めてみなよ」
俺と同じぐらいキてるらしいこめかみをひくつかせた北上の発言に大和は然も当然と応じた。
「元よりそのつもりよ」
そう言うと手摺を乗り越え海面に着地。
そのまま戦闘速度で『混沌』へと向かっていってしまった。
本音を言えばこのまま見捨てて頃合いになったら大和諸共超重力砲で凪ぎ払ってやりたいところなんだが……
「木曾、アルファ、行ってくるわ」
現実的に考えあの『混沌』に勝とうってなら大和は捨て駒に使うわけにはいかない。
そして今のちび姫の護衛にアルファは外せず、R戦闘機無しに『混沌』が放つイカれた量の艦載機群を抜けて射程距離に到達出来るだろう船は俺一人だけ。
「……やっぱりそうなるよな」
俺の頼みに木曾は深く溜め息を吐く。
「文句はこっちの算段を大体御破算にしやがった大和に言え」
「まったくだ」
そう苦笑すると俺はアルファに命じる。
「万が一俺が戻らなかったら後は任せる」
『ソウナラナイコトヲ願イマス』
「当然だ」
なんてったってよ、
「まだ誰のカレーも食ってないんだからな」
そう本気の冗談を飛ばして俺は海へと身を踊らせた。
第三ラウンド 結果、R戦闘機全滅