アーヴァンクと腐れパウの挺身により海へと脱した木曾は一安心する隙も惜しみ千代田へと通信を飛ばす。
「応答してくれ千代田!!」
『木曾?
今まで何してたの!?』
提示連絡が出来なかったことを詫びようと口を開くがそれを遮り矢継ぎ早に千代田が現行を叫ぶ。
『さっきから訳のわからない半魚人が艤装に乗り上がろうって、ああもうしつこい!!』
「千代田!?」
よもや拠点まで進撃が始まっていたことに焦りを見せる木曾に再び通信が飛ぶ。
『とにかく一度戻ってきて!!
強くないけど数が多すぎる!!』
「分かった!」
一旦通信を切ると木曾は春雨に言う。
「春雨、済まないが先に皆と合流してくれ」
「木曾さんは?」
「あいつらをなんとか説得する」
木曾とて大和との協調など勘弁願いたいとは思うが『混沌』はR戦闘機が有ってさえ四の五の言える相手ではない。
後方の千代田達が狙われたとなればイ級達にも海魔の手は延びているだろうがあの三人がその程度で殺しあいを中断するとは思えない。
寧ろ乱戦にこれ幸いと狂乱してる可能性すらありうる。
しかし最悪イ級と北上のダメコンを起動させてでも協力を取り付けねば低い勝ち筋は更に短くなると冷徹にそう判断していた。
「なら私が行きます!」
木曾の思案に双方に憚りの無い自分こそ適任だと述べる春雨。
その言葉に木曾は苦い顔をする。
「…危険だぞ?」
『混沌』が仕組んだ此までを思えば春雨は奴の狂った愉悦の格好の餌に違いない。
だが迷う隙はとうに使い果たしている。
そしてそんな思惑こそ『混沌』は狙い撃つ。
「避けろ駆逐!!」
駆逐艦の叫びに反応する間もなく海面から伸びた幾多の鱗に覆われた手が春雨の艤装を掴みそのまま海中へと引きずりこむ。
「春雨!? っ!!??」
『Iaaaaaaa!!』
囚われた春雨を助けようとするが木曾達へも『深きもの』は鋭い爪を振るって襲い掛かる。
「退けっ!!」
カトラスを抜き駆逐艦と共に果敢に『深きもの』へと斬りかかる木曾。
その間にも海中へと引きずりこまれた春雨は『深きもの』の手により深海奥深くへと沈んでいく。
『深きもの』は何処からか用意したのか鎖で艤装のスクリューを絡ませ浮上を妨げると更に春雨にも鎖を巻き付け艤装から引き剥がそうと引っ張る。
しかし春雨もただやられてばかりではない。
「はな…せ!!」
身動きは取れず肉薄され主砲も魚雷も使えなかろうと春雨は艤装に機銃を撃たせ引き剥がそうとするが『深きもの』共は文字通り水を得た魚のようにするりと射線から逃れ機銃が届かない位置へと陣取り鎖を引く。
「この…はな、っ!?」
好きにさせて堪るかと抵抗していた春雨だが、痺れを切らしたのか『深きもの』の一体が春雨の身体を羽交い締めにした。
「っ!!??」
海中でさえ拭えない滑りを伴う鱗が肌を撫ぜる感触に鳥肌を立てた春雨はそこで背中に押し付けられた妙に生暖かい棒状の物体に気づいてしまった。
その正体に気づいてしまった瞬間春雨の脳裏に嘗て身を襲った悪夢がフラッシュバックした。
「や、やめて…」
どれだけ泣き叫ぼうと終わらない悪夢。
自分をまるで道具のように弄び辱しめた人の形をしたナニカの嘲笑う顔。
そしてその渦中にあってなお忘れようもない愛宕の笑顔を思い出した春雨はパニックに陥る。
「イヤァァァァァアアアアアアアアアア!!??」
一度錯乱してしまうともう止まらない。
「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!!??」
両手を滅茶苦茶に振って暴れる春雨だが、ただでさえ力の入りづらい海中での抵抗は全く意味をなさない。
どころか哀れな生贄と化した春雨に『深きもの』はその邪悪な本能を発揮し悪意のままに春雨の服に爪を立て引き裂くとまだ発育もそぞろな双丘を蹂躙する。
「イヤァァァアアアアアア!!??
離して!? もういたいのもきもちいいのもほしくないの!!!!????」
幼女のように舌足らずに喚き助けを請い続ける春雨だが、身の毛の総立つ不快感は止まるどころか下肢にまで伸び限界を迎えた精神が遂に焼き切れてしまった。
「……………あ……………」
瞳孔が開き糸が切れた人形のように春雨の全身から力が抜ける。
主たる春雨の意思の喪失にそれでも抵抗を続けていた艤装も機能を停止してしまう。
嘗ての恐怖により亡我に陥り抵抗を止めた春雨を『深きもの』達は新たな苗床とせんと連れ去ろうとするが…
ドォッン!!!!!!
まるで落雷のような轟音が海中に轟き春雨を拘束していた一体が身体を上下に真っ二つに引き裂いかれた。
『!!??』
何処からともなく放たれた攻撃に驚きふためく『深きもの』達だが次いで降ってきた黒い銛に一人残らず貫かれた。
『Gyaaaaaaa!!??』
正確に胸を貫かれ絶叫する『深きもの』達は銛に繋がった黒い鎖によりそのまますさまじい速度で海上へと釣り上げられた。
そして、
「よくも春雨に」
「よくもその娘に」
『汚い手で触ってくれたな!!??』
悪神を奉ずる狂気の住人達よりなお恐ろしい、狂気でさえ染め尽くせぬ憎悪に染まった
「藻屑になりやがれ!!」
イ級が鎖付きの銛を引き『深きもの』を引き寄せると五本のチェーンソーを束ね乱回転させた凶悪無比な刃を奮い『深きもの』を触れる傍から微塵に磨り潰す。
「塵一つ残してやるものか!!」
海中へと投擲した傘を大和は錨を使い回収すると槍のように構え踏み込むと同時に振り抜き『深きもの』の胴体を一撃で泣き別れにさせるばかりか素早く引き再度振り抜いて春雨を汚した両腕を血煙に変える。
「いやぁ…なんていうか凄いね」
『深きもの』と一緒に釣り上げられた春雨を介抱しつつそう北上はぼやく。
既に包囲していた『深きもの』は二人が鏖殺し尽くし、逃げようとしたためほんの僅かに残った『深きもの』もイ級のクラインフィールドが捕らえ大和との連携を以て惨殺と殺戮の嵐に磨り潰されていく。
「っ、そうだ!?」
イ級が大和と手を組んだことやその縦横無尽っぷりに惚けてしまった木曾と駆逐艦だが、千代田達の窮地を思いだし急いで告げる。
「イ級! 野郎俺達だけじゃなく後方の千代田達も狙っていやがった」
「…あ"あ゛?」
その言葉にイ級の怒りが有頂天を突破した。
「アルファはどうした!?」
「野郎がバイアクなんとかとティンなんとかをけしかけて亜空間から出れなくしているらしい!」
「バイアク…ビヤーキーとティンダロスの魔犬か」
木曾の説明に即座に正解にたどり着いたイ級は怒りのままに怒鳴る。
「アルファ!!
あの糞野郎春雨を犯そうとしやがった!!
もう許さねえ!!!!
加減もなんもかんも無しだ!!
汚染なんざどうでもいい!!
ぶち殺せ!! 皆殺しだ!!!!????」
砲撃音に匹敵しそうな程空気を震わせたイ級の怒声は亜空間を挟み交戦を続けていたアルファの聴覚まで届く。
『……了解』
何処からともなく現れては即座に消えるティンダロスの魔犬と自身の全速力でさえ追い付けないバイアクへーに苦戦を強いられていたアルファだが、イ級の言葉に彼もまた理性の
『来イ』
亜空間の更に先からアルファは地下室に眠らせていた液体金属を呼びつけるとそのまま全身を覆わせる。
全身を液体金属で覆ったアルファは液体金属に命じ更なる変態を始める。
『メタモルフォーゼ開始。
type『タブロック』』
するとアルファを覆う液体金属が膨張し両肩が異常に膨れた人形ロボットへと姿を変える。
『変身完了。『タブロック』』
最後に全身に橙を基調としたカラーリングが施されると全長三メートルにも届く大型の人形ロボットと化したアルファはスリットのようなカメラを光らせながら腕のマシンガンを構えた。
『遊ソビハ終イダ。
三十秒デコロシテヤル』
そう宣言すると同時にティンダロスの魔犬が死角から飛び出しバイアクへーが視認も叶わぬ速さで同時に襲い掛かる。
だが、
『全門斉射!!』
肩のミサイルサイロが開き全周囲に向けミサイルの瀑布を展開。
僅かな隙間を縫うことも許さず二匹は爆炎の業火に包まれた。
『卑怯ナドト言ウマイ?』
手のマシンガンと見せ掛けミサイルによる飽和射撃で殲滅したことをそう言うとアルファはフォースを介し亜空間から通常空間へと回帰する。
そうしてアルファが目にしたのは艤装内に侵入しようとする数多の『深きもの』を水際で押し止めている北方棲姫の姿。
『弾種変更。
マイクロホーミングミサイル』
状況を把握したアルファは肩のミサイルサイロの種類を変更し即座に掃射。
そうして制海権を取り戻し一同は合流を果たした。
第2ラウンド 結果、『深きもの』全滅、春雨発狂
追伸、伊13捕獲成功