なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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最高のタイミングを邪魔してしまうなんて


腕が鈍ったかな?

 大和を海に叩き込んだ俺は一度離脱し背中に怒鳴り付ける。

 

「『しまかぜ』!!『ゆきかぜ』!!」

『おうっ!?』

『しれぇっ!?』

 

 飛び出した2体は本当に撃つのかと言いたげに顔を見合わしてから大和への砲撃を始める。

 分間60発×2の弾幕が大和へと殺到し大量の水柱にその姿が掻き消えるが効果を確かめるより先に水柱を突き破り大和が砲撃を繰り出してきた。

 

「駆逐艦風情が頭に乗るな!!」

 

 風圧だけで水柱を破壊した六発の鉄鋼弾がクラインフィールドに刺さり黒い障壁が破壊される。

 

「読めてんだよその程度はな!!」

 

 テメエを殺すために山程シミュレーションを重ねてきたんだ。

 クラインフィールドの一枚(・・)がぶち抜かれるぐらい対策済みなんだよ!!

 クラインフィールドを貫いた鉄鋼弾はそのすぐ真後ろに展開させていた二枚目のクラインフィールドか更に威力を削られる。

 だが二枚でも足りない。

 更に展開させておいた三枚目、四枚目を砕き大和の鉄鋼弾がクラインフィールドを貫けず爆砕したのは六枚目のクラインフィールドに接触した時だった。

 

「ざっけんな!!??」

 

 リンガの武蔵のゼロ距離斉射だって三枚目は抜けなかったんだぞ!?

 つうかたった一発で七割持ってかれたとかバイド化した夕立より威力あるって事だぞオイ!?

 テメエは『霧』かバイドで強化してんのか!?

 

「ガッ!?」

 

 雷撃戦に持ち込もうと踏みだした俺の頭を誰かに踏み込まれた。

 誰だ!?

 

「っ、北上!?」

 

 頭の上を横切った白い布に正体に気付くも北上は狂気のまま俺を踏んづけ大和へと全力で走る。

 

「ヤマトヤマトヤマトヤマトヤマトヤマトヤマトヤマトヤマトヤマトヤマトヤマトヤマトヤマトヤマト!!」

 

 血に餓えたケダモノのように歯を剥いた凄絶な笑みで六連装酸素魚雷を大和に向ける。

 

「沈め大和!!」

 

 北上の憎悪の咆哮と共に逃げようもない量の飽和射撃が放たれた。

 しかし大和は主砲を真下に向け発射。

 衝撃で海が逆巻くほど荒れ狂い魚雷が互いに接触して大和に届く前に次次と炸裂する。

 連鎖爆発により水柱が壁のように連なる向こうから大和の副砲が立て続けに火を吹き壁を粉砕する。

 

「貴様が沈め!!」

 

 怒号が轟くも北上の姿はそこにはない。

 

「舐めすぎだよ!!」

 

 北上は誘爆で生まれた水の壁を蹴り大和の上空を取っていた。

 

「喰らえ!!」

 

 真上から投射された魚雷が大和に直撃して爆炎を発てるが真下から突き上げられた槍が北上を叩き飛ばす。

 

「ぐぅっ!?」

「温いのはお前よ」

 

 爆炎が晴れた先に現れた大和はやはり無傷。

 代わりに槍が煤だらけになっている。

 どうやら槍もとい傘を盾として魚雷を防いだらしい。

 叩き飛ばされた北上は海面に叩き付けられるとその勢いを利用して海面を蹴り跳躍して空中で体勢を整え傘を防いで使い物にならなくなった単装砲を捨て着水と同時に再び大和へと走り出す。

 

「北上ぃ!!」

 

 そいつは俺の獲物だ!!

 邪魔してんじゃねえぞ!!

 

 物理的に黙らせようとクラインフィールドを鎖付きの投げ銛に象り北上目掛け放つ。

 

「え?」

 

 俺の攻撃に目を見開く北上。

 狙い違わず迫る銛は、しかし北上に刺さる事はなかった。

 

『Iaaaaaaa!?』

 

 銛は突如海面から飛び出したおぞましい咆哮を上げる半魚人に突き刺さったのだ。

 

「おらぁぁぁああっ!!」

 

 蛙面の魚風情がなに邪魔してくれてんだ!?

 逃れようと暴れる半魚人を鎖を引いて引き寄せるとクラインフィールドでチェーンソーを作りにバラバラに引き裂いてやる。

 生臭い悪臭に不快感を感じていると、ふと冷静な思考が頭を過る。

 …今、俺は北上を狙ったのか?

 途端に凄まじい罪悪感と後悔が全身を駆け巡った。

 

「イ級!!」

 

 そんな俺に向け北上が慌てて駆け寄る。

 

「って、臭!?」

 

 半魚人の体液の悪臭に鼻を摘まんで立ち止まる北上に完全に頭がしき冷えきった俺は取り合えず海水で体液を洗い流す。

 

「北上…」

 

 謝罪の言葉も思い付かずただ名を呼べば北上は苦笑を返した。

 

「ありがとね」

 

 …え?

 

「イ級が攻撃してくれてなきゃあの気持ち悪い魚野郎に何されてたか。

 ホント、イ級は頼りになるね」

 

 ヤメテ!?

 完全に偶然なんだよ!!

 全力で否定したかった俺だが、

 

「あー、でもさ、ホントにイ級に攻撃されてたらショックでキングストン弁開けちゃってたとこだよ」

「そんなわけないじゃないか」

 

 いっそ清々しく嘘を貫き通すことにした。

 なにはともあれだ。

 

「というか今の魚野郎ってさ」

「おそらく『深きもの(ディープ・ワン)』だな」

 

 蛙面の魚野郎なんて他に知らねえしそもそも見たことねえし。

 

『Iaaaaaaa!!??』

 

 身の毛も弥立つような断末魔の絶叫にそちらを見れば傘に貫かれビクンビクンと痙攣する『深きもの』の姿があった。

 

「汚らわしい手で私に触れるな!!」

 

 憤怒を相貌に燃やし大和が傘を振るうと衝撃で『深きもの』の死体が抜け落ち更に追撃の副砲で跡形もなく焼き払われる。

 そうして訪れる静寂。

 大和への憎悪は相変わらず暴れ狂っているが、さっきまでと違いまだ手綱は握れている。

 北上も同じらしく挙動次第で何時でも撃てるよう魚雷菅は開いたままにしてあった。

 しばしの沈黙の後、大和がこちらに振り向く。

 

「答えなさい駆逐。

 あの島に日本を狙う怪物がいるのよね?」

「どこでそれを知った?」

「答えなさい」

 

 答えないなら今すぐ殺すと言うように主砲が俺たちを狙い定める。

 …ちっ

 

「怪物がいるかは知らねえが、核を持ち込んで世界を滅茶苦茶にしようってクソアマがいるのは確かだ」

 

 おそらく『混沌』が大和をルルイエに誘導したんだろうと推測してそう答える。

 

「……そう」

 

 ならもう用済みとでもいいそうな大和だが、そんな最高の(・・・)やり取りに横やりを入れてくれる奴が現れた。

 

『Iaaaaaaa!!』

「ちっ、また来たの?」

 

 俺と大和を囲う形で何匹も『深きもの』が俺達の前に現れる。

 

「…だけじゃねえみてえだぞ」

 

 更にルルイエから地鳴りが響きおぞましい咆哮が轟く。

 

『!"#*$++&((*':=//,@=;>["+#(!,:』

 

 もはや音とさえ把握できないナニカに『深きもの』共が狂喜の讃歌を謳う。

 

『Ia ia Cthulhu!』

『Ia ia Cthulhu!』

『Ia ia Cthulhu!』

『Ia ia Cthulhu!』

『Ia ia Cthulhu!』

『Ia ia Cthulhu!』

『Ia ia Cthulhu!』

『Ia ia Cthulhu!』

『Ia ia Cthulhu!』

『Ia ia Cthulhu!』

 

 どいつもこいつもクトゥルフクトゥルフ…本気でイライラしてきやがった。

 

「おい大和」

「……」

「このナマモノ共とその親玉をぶっ殺し終わるまでテメエはお預けにしてやる。

 北上、いいな?」

「あっちが撃ってくるまではいいよ」

 

 横槍がある状態で大和を殺すのは面倒すぎると北上に振れば北上も魚雷を手に頷く。

 

「……勝手にしなさい」

 

 そう言うと大和は俺達から視線を外し『深きもの』へと傘を構え砲を稼働させる。

 

『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

 

 狂気に身を任せ迫り来る『深きもの』に向け俺はチェーンソーを構え、突っ込む。

 

「ハナアルキで鍛えたこのチェーンソー捌きで一匹残らずバラバラにしてやるよ!!」

 

 感情のままそう声を荒げながら俺は目の前に迫った『深きもの』に向けチェーンソーを降り下ろした。

 

 

~~~~

 

 

 『混沌』が見たこともない深海棲艦に変異した瞬間三人は真っ先に島からの離脱を開始した。

 

「一体なんなのさアレ(・・)は!!??」

「こっちが聞きたいぐらいだ!?」

 

 二人がそう口にしているのは『混沌』が変貌した深海棲艦ではない。

 『混沌』がルルイエから呼び出した怪物のような巨大艤装と共に現れた異形の化け物の事である。

 タコに似た頭部、イカのような触腕を無数に生やした顔、巨大な鉤爪のある手足、ぬらぬらした鱗に覆われた山のように大きなゴム状の身体、背にはコウモリのような細い翼を持った姿の怪物が放ったおぞましい咆哮に三人はその場での戦闘を放棄した。

 最大戦力であるイ級達との合流を目指し走る三人が床に数センチの隙間がある場所を走り抜けた直後、

 

「…え?」

 

 上を通過しようとした春雨がその隙間に引きずり込まれた。

 

「春雨!!??」

 

 急いで踵返しどうやっても通り抜けられないはずの隙間を覗き込むと

、隙間の奥で錨を壁に突き立て暗闇から伸びる影のような手に抵抗する春雨を見付ける。

 

「この野郎!?」

 

 春雨を引きずり込もうとする正体不明の影を追い払おうと暗闇に向け機銃を乱射する木曾。

 駆逐艦は自分の錨を投射し春雨の艤装がしっかりくわえたのを確かめ引きずりあげようと引っ張る。

 

「まったく、馬力はあんまりないってのにさ!!

 あんたも手伝ってよ!?」

「すまない!?」

 

 機銃を撃ちながら木曾も駆逐艦と共に錨を引っ張る。

 二隻分の馬力により艤装と共に春雨の身体が少しづつ引き上がるが、追ってきた怪物が二人に迫る。

 

「私はいいから逃げて!!??」

 

 巨大な怪物の姿に春雨が懇願するが木曾は一喝した。

 

「仲間を見捨てるか!!」

 

 見捨てなければ助からないなんてそんなことは繰り返させない(・・・・・・・)

 

『{_=]<-.*;:>----<$('-@:.!!#>(-'-:<!!』

 

 怪物が理解できない咆哮を上げその鋭い爪を振るう。

 

「ストライダー!!」

 

 木曾の叫びに応えカタパルトからストライダーがバリア波動砲を放ち爪を受け止める。

 

「駄目!?

 持たない!!??」

 

 放たれたブロックは怪物の爪を受け止める事に成功したが、怪物の膂力は凄まじくバリア波動砲ごと二人を引き裂こうと押し込む。

 ブロックに亀裂が走り砕かれる刹那、空間が揺らぎそこから赤い蜥蜴にも見える一つ目の怪物のようなR戦闘機アーヴァンクと腐れパウが飛び出した。

 

『シャアアアアアアッ!?』

 

 アーヴァンクは怪物に向け吠えると全身の鱗を放ちバリア波動砲の真後ろに展開した。

 直後、バリア波動砲が切り裂かれるも今度は鱗の膜に遮られる。

 その合間に春雨を引き上げた木曾達がその場を離れるのと同時に鱗の膜がアーヴァンクごと切り裂かれついさっきまで三人が居た場所を大きく抉る。

 

「走れ!!」

 

 再び逃走を開始する三人だが近付かれ過ぎたため怪物から逃げ切れそうにもない。

 三人を逃がすため今度は腐れパウが怪物へと突っ込んだが怪物は触腕を奮い腐れパウを絡めとる。

 大量の触腕に腐れパウはあっさり絡め取られるが、しかしそれこそ腐れパウの狙いだった。

 腐れパウは己の細胞を活性化させ自信を爆弾に変じさせていた。

 触腕が握り潰そうとする瞬間を狙い腐れパウは自爆を決行。

 強烈な爆発が怪物を打ち付け倒れさせその間に三人は遂にルルイエを脱出した。

 

「中々上手くやるじゃないか」

 

 倒れた怪物が再び立ち上がるのを横目に『混沌』がその結果を称賛する。

 

「だけど、クライマックスが簡単に終わるなんて思わないことだ」

 

 




第一ラウンド 結果:アーヴァンク、腐れパウリタイア

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