なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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その程度で発狂されても困るんだけど?


おやおや

 やっぱりと言うか艦娘と深海棲艦にクトゥルフ神話についての見識は全く無かった。

 そういうことなので這い寄る混沌の驚異について簡単に周知させるため俺はクトゥルフ神話体系の成立のあらましを語り、その一環で有名な一話を語って聞かせたわけなんだが…

 

「ダゴンコワイダゴンコワイ」

「マドカラハイラレナイヨウニシナイト!?」

 

 なんでかイ級と二級がガタガタ震えながら身を縮こまらせチ級に至っては錯乱した様子で窓に板を打ち付け始めてしまった。

 尊氏は尊氏で戻ってきたばかりのカ級達を引き連れ周辺に深きもの達が潜んでないか哨戒しに飛び出したしちび姫は瑞鳳と信長の引っ付き虫になってる。

 

「何故にお前らが壊滅してんだよ」

 

 カテゴリー的にはお仲間だろうに。

 

「いやぁ、イ級の語りがかなり迫真だったしねぇ…」

 

 そう言う北上もあまり顔色は良くない。

 …そうか?

 

「怖くないようなるべく淡々と語るよう気を付けたんだが?」

「思いっきり逆効果だったよ」

「むぅ」

 

 怪談とは斯くも難しいことか。

 

「じゃあ次はもっと感情を込めて」

「普通に怖いから」

 

 じゃあどないせえと?

 

「ってか、木曾達は平気なのか?」

 

 尊氏達みたく壊滅されても困るが全く堪えないのもそれはそれで面白くない。

 そんなめんどくせえこと考えながら聞いてみると木曾は苦笑した。

 

「艦の頃は船員達が暇潰しに怪談やこっくりさんなんかをしょっちゅうやってたからそこそこ馴れてるんだよ」

「……こっくりさんって、十円玉でやるあれ?」

「それ」

「……」

 

 遊びでこっくりさん?

 

「時代って凄いな」

「まあ、阿片窟は違法でも古い畳を刻んで煙草として吸ったりヒロポンが栄養剤として普通に買えた時代だったしねぇ」

 

 薬受法何処にいったよ!?

 

「って、戯けてる暇はあんましないから戻すとして。

 こうなると尊氏達は出せないな」

 

 信長は南方棲戦姫の所在を確認するため出ていってしまったから今回もだが艦娘勢でやることになるだろう。

 

「取り敢えず俺、木曾、北上、山城は確定として」

「なんで私が入ってるのよ!?」

 

 希望者を募ろうとしたら山城が抗議の声をあげた。

 

「なんでって、お前は島唯一の戦艦だろうに?」

「私の意思を聞きなさいって言ってるのよ」

 

 HAHAHAHA、Nicejoke

 

「この状況で戦艦にボイコットの権利があると思ってるのか?」

「……不幸だわ」

 

 ぐうの音も出ないらしく絆創膏を顔に貼った宗谷にすがりついて甘え始める山城。

 もはや恒例なので放置する。

 

「で、だが、散々言っといてなんだが希望者はいるか?」

 

 俺の呼び掛けに手を挙げたのは熊野とちび姫。

 因みに古鷹と鳳翔は万が一に備え残ることが決まっているので手を挙げなくて当然である。

 

「ちび姫、お前大丈夫か?」

 

 まだカタカタ震えているちび姫に聞くとちび姫は怯えながらも言う。

 

「ままをいじめたやつはころすの!!」

「だったらまず瑞鳳から離れろや」

 

 心意気と行動が伴ってねえのはいただけねえんだか?

 

「まあ最悪補給拠点になってくれれば助かるからちび姫も参加でいいか?」

「拠点ってことは明石も連れていくのか?」

「……いや、拠点にする場合今回の補給は千代田一人に頼むことになると思う。

 アサガオがあるから防空ならまだしもダメコンのストックが足りないのが致命的だ」

 

 元帥の計らいで女神が三増えたことで在庫は女神が四とダメコンが三。

 今回は特に相手が相手だから最低一個は持っていて貰わないと戦場になんか連れてけねえ。

 バケツぶっかけるだけなら千代田でも出来るが供給する燃料の管理は明石には出来ないので連れていくなら千代田だけになる。

 

「千代田、行けるか?」

「大丈夫。

 任せて」

「ということで瑞鳳には残ってもらいたいんだが…」

「絶対嫌」

 

 言うと思ったよ。

 苦言を呈そうとするも先じて千代田が嗜める。

 

「気持ちは解るけど瑞鳳が一緒だと姫が艤装呼べないんだよ?」

 

 そうなのだ。

 瑞鳳と艤装の共有をした結果ちび姫は双胴空母として瑞鳳と共に海に出ると泊地型艤装の召喚に制限が掛かるようになってしまっていた。

 理由は『妖精さんの加護』が影響を及ぼしバグを生じさせているのだろうというのが南方棲戦姫(偽)の意見だが、おそらく正しいのだろう。

 敵の言うことを信じるのかと思うだろうが、這い寄る混沌の場合端末が味方ロールプレイをしている間は例え自滅する情報だろうと平然と吐き自身さえ全力で倒そうと行動するイカレた存在ゆえ信憑性が高いのだ。

 まあ本物ではないらしいが、本質は同一らしいしその辺りも同じなのだろう。

 

 閑話休題

 

 どうやって説得したもんだかと考えてるとちび姫から動いた。

 

「ままはしまでまってて」

「姫ちゃん?」

「あいつはままをいじめたからころすの。

 まえはわたしがよわかったからなにもできなかったけど、もうまけないからままはまってて」

「姫ちゃん…」

 

 意思はともかく口から出てきたのは子供らしいちぐはぐな説得なんだが、どうやら瑞鳳には大分効果的だったらしくちび姫からそっと離れた。

 

「イ級、姫ちゃんを頼むね」

「分かってる」

 

 瑞鳳に言われずとも最悪の事態になってしまったら千代田と共に島に下がらせるつもりだ。

 二人とも反対するだろうが情報を持ち帰るためと言えばなんとか言いくるめられると思う。

 

「面子はいいとして奴の本体の居場所に宛はあるの?」

「ああ。

 当たってほしくはないが一応アルファを向かわせた」

「当たってほしくはないって、なんでだ?」

 

 そういぶかしむ木曾に俺は本気でこう言った。

 

「太平洋の南緯47度9分 西経126度43分。

 もしここに奴が拠点を構えていたらバルムンクの使用が確定するからだよ」

 

 もしあの海底都市まで持ち出してきたなら間違いなくあの邪神が出てくるだろうから。

 

 

~~~~

 

 

『コレハ…』

 

 イ級が指示した海域へと到達したアルファは、そこでイ級の懸念が現実のものとなっていたことを知った。

 そこには近付くだけでバイドにさえ精神に負荷を与える異形の建築物が列を為す島が存在していた。

 

『急イデ御主人二伝エナイト…』

 

 同伴させたアーヴィングを監視に残し踵返そうとしたアルファはふと仲間以外の知っている気配を感じたような気がした。

 バイドではない。

 だが、しかしそれは確かに覚えのある気配だった。

 

『…イヤ、今ハ御主人ノ元二戻ラネバ』

 

 もしその気配が本当にアレ(・・)だとしてもアルファに思うモノはない。

 アレ(・・)がこの島に関わる事もないだろうし偶々近くを通りがかったのだろう。

 故にアルファはその事を切り捨てて構わないと無視することにした。

 アーヴィングを亜空間に待機させ来た航路を全速力で引き返すアルファ。

 そうして不気味な静寂が狂気の海底都市『ルルイエ』に満ちる。

 だがアルファは知らなかった。

 アレ(・・)が、イ級の不倶戴天の怨敵にして天敵である『大和』がこの島を目指していたことを。

 そして偶然が…いや、這い寄る混沌の皮を被った『ゲームキーパー』が手繰り練って用意した極上の狂乱の宴がもう間もなく開こうとしていた。

 




今回はかなり短くなってしまった…

次回は四つ巴の混沌まで…いけるか?

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