ナイアーラトテップ、ナイアルラトテップ、ニャルラトホテプ、月に吠えるもの、千の貌を持つ無貌の神、膨れ女、チクタクマン、玩具修理屋、エトセトラエトセトラ。
数多の名を姿を持つとされる偽りの神話のその最も有名な邪神。
その名がイ級から放たれると
『…ああ、本当につまらないなぁ』
這い寄る混沌と呼ばれた
『辿り着く前に盛り上がるようイベントを沢山用意していたのに、いきなり答えに辿り着かれたら全部意味がなくなるじゃないか』
そう文句を垂れながら
文字通り混沌を体言したかのような吐き気を催す異形を前に撃つべきか躊躇う木曾達から一歩前に出つつイ級は吐き捨てる。
「知るかよ。
俺達はテメエラ楽しませるために戦ってるんじゃねえんだ」
口から溢れる言葉のひとつひとつにたっぷり嫌気と憎悪を籠めた
て言いながらイ級は宣う。
「ぶち殺してやるよ。
それで全部終いだ」
そのままイ級は己の相棒と砲を喚ぶ。
「アルファ!! 『しまかぜ』!! 『ゆきかぜ』!!」
蹂躙を指示する召喚に三体は一切の躊躇なく応じる。
『了解!!』
『おうっ!!』
『しれぇ!!』
最初に動いたのはアルファ。
アルファは瞬巡なく這い寄る混沌に向けエネルギーフィールドを展開したフォースを投擲し殺意を解き放った。
『ハハハハハハハ!!
無駄だよ。
この身は端末の一つでしかない。
いくら打ち砕こうとしたって意味なんか無『しれぇ!!』』
フォースが纏う無色の殺意を平然と受け止めながら垂れ流された耳障りな嘲哢を遮り突き刺さった『ゆきかぜ』の魚雷が爆炎を上げる。
「はっ、『ゆきかぜ』はテメエの耳が腐りそうな雑音が消えるなら十分だって言ってるぜ。
ここで殺れねえってのはムカつくが全くその通りだ」
『ゆきかぜ』に次ぎ殺到する『しまかぜ』の魚雷に焼かれる黒い粘性の塊にそう吐き捨てると漸く恐怖から抜け出し戦闘体勢に入った木曾と北上が動き出す。
「ぎったぎたにしてやりましょうかね!!」
「九三式酸素魚雷四十門一斉掃射!!」
フォースに加え『しまかぜ』と『ゆきかぜ』の魚雷を喰らいながらも嘲笑い続ける黒い粘性の塊に向け木曾と北上の魚雷が放たれる。
「イ級!!
こいつは一体何なんだ!?」
数多の酸素魚雷の直撃を受けてなお平然と佇む姿に見るだけで正気が削られていく錯覚を覚えそれを打ち払うため木曾が叫ぶ。
「詳しい話はあのバケモノをぶち殺してからする!!
今はただ全力で叩き込んでくれ!!」
「全くもう、こんなんばっかだよね!?」
説明になっていない説明に北上がそう文句を言いながらもフロッグマンを投下し単装砲を乱射する。
そこに加え他の者達からも更なる追撃が加えられる。
「「「「ゼンホウモンセイシャ!!」」」」
「「「「撃てぇっ!!」」」」
イ級、二級、ホ級、ル級、鈴谷、熊野、酒匂、山城が主砲と副砲を起動させ轟音を轟かせ砲撃を放つ。
「アウトレンジ、決めます!!」
「全機爆装!! 仕留めなさい!!」
「シズメ!!」
「かえれ!!」
「燃え尽きろ!!」
瑞鳳、鳳翔、尊氏、信長、北方悽姫の五隻から策敵機までもを含めた艦載機が飛び立ち爆炎に煙る目標へと持ち得る砲火を全てを放ち攻撃を仕掛ける。
『ハハハハハハHAHAHAHAハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハははははははハハハハハハハハははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハはははははは』
幾発もの榴弾が、鉄鋼弾が、酸素魚雷が、一トンの爆薬を納めた爆弾が這い寄る混沌ただ一体目掛け降り掛かるも、ただ棒立ちに身を曝し這い寄る混沌はその口とは思えない空洞から背骨を掻き回されるような醜悪な嘲笑を繰り返す。
「バケモノが…」
姫級でさえ生存は絶望的と言い切れるだけの火力を叩き込んだのにダダメージの痕跡さえ見えない這い寄る混沌の異様に誰かが毒を吐く。
『だから無駄だと言ったじゃないか。
既にこの端末は死んでいるんだ。
言うなれば君達はずっと影法師を殴っていたにすぎない』
無意味な攻撃に全力を尽くしたイ級達を嘲笑う這い寄る混沌にしかしイ級はそれを鼻で飛ばした。
「だったらこいつはどうだ?
アルファ!!」
イ級の指令を正しく受け止めたアルファがフォースを残し上空へと退避。
その行動に何が始まるのか理解した木曾が大破して機動力の低下したイ級を抱え殺到していた艦載機群が離れ始めると這い寄る混沌はその答えを嘲笑った。
『Δウェポンの超火力で消滅させるつもりかい?
いくら火力をつぎ込んだところでこの端末には無意味だ!!』
『ソレハドウカナ?』
嘲る言葉に挑発的に返すアルファ。
その言葉を肯定するようにフォースが胎動しながら発光を始めるとフォースを中心に空間の歪みが発生する。
『ほう…。まさか空間そのものに干渉できるとはね』
何が始まるのか理解した這い寄る混沌が感心したようにそう言う。
這い寄る混沌の言う通りアルファが行ったのはフォースが産み出した莫大なエネルギーをR戦闘機に搭載された異層時空航行システムを用いて空間そのものを武器として対象を破壊するΔウェポン『ネガティブ・コリドー』を起動したのだ。
元々は『RX-10 アルバトロス』にのみ使用可能な兵器ゆえ性能は多少劣化しているが空間そのものに干渉する機能までは失われていない。
歪みは更に加速し徐々に這い寄る混沌の姿が押し潰されるように小さくなっていく。
『流石にこの端末にこれに対抗する手段はない。
だけどもう同じ手は通用するとは思わない方がいい』
そう最後までイ級達を嘲笑いながら這い寄る混沌は時空の狭間へと弾き出され姿を消した。
「終わった…のか?」
捩れた空間が元に戻ろうとする反発により荒れた海が凪いだ所で木曾がそう漏らす。
「いや…こっからが本番だ」
憎々しげにそうイ級は吐き捨てると全員に告げる。
「先ずは情報の共有を確認する。
全員島に戻るぞ」
そう指示を出すとイ級を抱えたままの木曾が先頭にたち島へと舵を切った。
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イ級が這い寄る混沌と遭遇していた頃、自分の艦隊を作ると書き残して島を飛び出した春雨は迷っていた。
「…どうしましょう」
目の前には燃え盛る漁船の姿。
当然春雨が手を下した訳ではないが、然りとて無関係でもない。
漁船に火を掛けたのは春雨が勧誘した艦の一隻であり、現在その艦は船の中を調べに行ってしまった。
「どうするって、どうしようもないんじゃない?」
ひたすら困る春雨にそう言ったのは砲火を鋳掛けた艦とは別の艦。
ロールさせた黒髪をサイドポニーに纏めた深海棲艦には珍しい振り袖袴姿のその艦の言葉に春雨は深く肩を落とす。
「ですよね」
元々仕掛けたのは向こうであり燃やしたのも正当防衛だったのだから皆殺しにしたのはやり過ぎと言いたくても相手は深海棲艦なので結果的に落ち度は何も無いのだ。
腑に落ちないことがあるとすれば、いくら深海棲艦が全くいない遠海部だからとはいえ武装もしていない漁船の船員が回遊しかつ自分を含めた深海棲艦に襲い掛かってきたこと。
そして彼等がまるで何かに取りつかれたかのように命を省みないで襲い掛かってきたことの二点。
そもそもにしてこんな遠海の真ん中にただの漁船がどうやって来れたのかそれがわからない。
と、謎ばかり増えていく状況に困惑していると中に入っていった艦が姿を見せた。
「何か分かり…」
ましたか? とそう続けようとした春雨の目の前でその艦は艤装の18インチ砲を振り向きもせず漁船に叩き込んだ。
「……」
砲弾は船体を容易く引き裂き貫通。
引き裂かれた漁船はそのまま真っ二つになって沈んでいくが、それをやった本人は全く目もくれず何処かへと向かい出す。
「え、ちょっ、何処に!?」
「船の中に海図があったわ。
おそらく奴等の拠点よ」
まるで当然と言わんばかりにそう言う艦に袴の深海棲艦が問う。
「行ってどうするのさ?」
「根切りの序でに燃料をいただきます」
逆じゃないのかと叫びたい衝動に駈られるもやはり深海棲艦なので言っても無駄だろう。
「どうして私はあの人を勧誘しちゃったんだろう?」
知ってる船に似ていたのでつい誘ったのが運のつきだったのか。
『ぽい~』
諦めろと言いたげに艤装を叩く『ゆうだち』に春雨は再びため息を吐いた。
そんなやり取りを眺めながら袴の深海棲艦は呆れた様子で呟いた。
「だから言ったんだよ。
そんなの作ってどうするのさって」
誰に向けたかもわからない呟きを残し義手の戦艦を追う春雨と『ゆうだち』を追って袴の深海棲艦も舵を切った。
次回はクトゥルフ神話技能追加回。
ちなみにアルファのバイドフォースは三種類のΔウェポンを使えます。
威力を例えると
ニュークリア・カタストロフィー=対城宝具
ネガティブ・コリドー=対人宝具
ヒステリック・ドーン=対界宝具
といった辺りになります。