なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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君達はキーパー泣かせだね。


まったく、

「面白くないわね」

 

 不愉快と顔に描き南方棲戦姫がそう口にした。

 

「それは此方も同じよ」

 

 そう言葉に返したのもまた南方棲戦姫。

 端的に言うとかなりシュールな光景だが、んな事口にする余裕はない。

 どちらかが偽者の筈なのだが、本人達でさえ解らないという始末。

 姿見だけなら片方が南方棲姫の腹と違いがあるも、持ち服のひとつだから理由にならないとの事。

 付き合いの長い鳳翔と信長でさえどちらが本物か解らないという言う時点で俺達に解る筈もなく、最後の手段アルファの波動感知も両方全くの同一存在だという結果を残すのみ。

 

「ホント、どーすんだこれ?」

 

 こっちはクッソ忙しいってのに厄介な面倒事に巻き込みやがって。

 

「いっそ、二人は放置してこっちはこっちでやっちゃえば?」

「そうだな」

 

 鈴谷のテキトーな意見に木曾が賛成の声を上げる。

 

「今の俺達に関わる訳でもないようだし、無駄に首を突っ込む必用も無いだろうさ」

 

 確かにその通りだな。

 とにもかくにも糞女をぶっ殺さなきゃ世界がピンチなんだし、南方棲戦姫の某はその後で…

 そう決定力を出そうとした直前、凄まじい轟音が食堂に響いた。

 

「なっ…」

 

 何事かと発生源を確認すると、南方棲戦姫達が居た場所に二人は居らず、食堂にに大穴が二つ空いていた。

 

「何が起きた?」

 

 見てた奴はいないかと振ってみると半笑い気味に千代田が教えてくれた。

 

「なんか、いきなり殴りあって二人とも吹っ飛んでっちゃった」

「まるで意味がわからんぞ」

 

 いやマジで。

 

「と、とりあえず状況を確認しよう」

 

 ぶっ壊した壁の修繕もあるし。

 そう促し表に出ると、ちょうど二人が艤装と浮遊要塞を展開して殺し合いを開始するところだった。

 

「いきなりなに殺ってんだお前ら!?」

「知れたこと!!」

 

 全力で砲撃を放ちながらそれぞれが理由を口にする。

 

「言葉で己を真と証明するなど無意味!」

「本物であるなら紛い物に負ける道理は無し!」

「故に、」

「故に、」

「「勝ち得た方が真の姫よ!!」」

 

 同時に吠え互いに向け砲撃を放つ二人の南方棲戦姫。

 ……何その脳筋理論。

 もはやゆ○とか明○房とかの超理論じゃねえか。

 端からは凄まじい激戦なんだが、なんつうかこう、どっと疲れた。

 

「もう勝手にしてくれ」

 

 勝った方に賠償させようと島へと反転した直後、どっちかが放ったらしい砲弾が島へと飛んでった。

 

「……え?」

 

 なんかの見間違いだと思いたかったんだが、砲弾は島へと落っこちると建物の一部に当たり爆炎を上げた。

 

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 終わる気配の見えない戦闘音を背後に俺は妙に静かな口調で訪ねた。

 

「あの辺って、何があったっけ?」

 

 そう問うと青ざめた顔でがたがた震えながら千代田が食糧庫だった筈と答えた。

 

「……成程」

 

 そうかそうか。

 漸く収穫が終わってここ暫くで最大の楽しみだった食事会に使う食糧を奴等は駄目にしてくれたのか。

 出払った残りの明石の工作部屋と氷川丸の部屋は砲弾が落ちた辺りの反対側だから実質被害は建物と食糧だけ…か。

 

「……くくく」

「い、イ級?」

「あ~、こりゃヤバイわ」

 

 木曾達が何か言ってるみたいだけどよく聞こえないなぁ…。

 なんでか後退りしながら距離を取り始めてるんだが、まあ、都合がいい。

 さぁてとぉ…

 

「イ級危ない!!」

 

 どう料理してやろうかと思考を巡らせていたのが悪かったのか南方棲戦姫が弾いた砲弾が運悪く俺目掛け飛んできた。

 あ、これクラインフィールド間に合わん。

 回避も防御も間に合わないと察しついダメコン持ってたよななんて妙に間延びした時間の中で悠長に考えてしまう。

 そうして砲弾が目の前に来た刹那、宗谷が俺を抱え無理矢理しようとした。

 

「キャアッ!?」

 

 宗谷の挺身により直撃は免れたが、しかし完全な回避は叶わず宗谷の艤装が砲弾に貫かれた。

 

 

 ブチン

 

 

 艤装を砕かれ海面に倒れ付した宗谷の姿に切れちゃいけない何かが切れる音が響いた。

 

「ククククククククククククケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ!!」

 

 激情とか諸々がぐっちゃぐちゃに混ざりきって俺の口から意図せず笑いが漏れる。

 

「イ級が壊れた!?」

「ぴゃあ!? 宗谷はまだ大丈夫だから落ち着いて姉御!?」

 

 なんか騒いでるけどどうでもいい。

 いっそ楽しい気持ちになった俺は愉快な気持ちをそのまま南方棲戦姫共に向けた。

 なんつうの? 最高にハイってやつか!!??

 

「なんかヤバそうなのが出てきたんだけど!?」

「ヤバそうじゃなくて本気でヤバイやつだよアレ!!」

「超重力砲は洒落じゃすまないから!!??」

 

 大体さぁ、どっちが本物かって深海棲艦なら簡単に解る手段があるじゃないか。

 

 

 沈んで帰ってきた方が本物だろ?

 

 

『タ、退避ー!!』

 

 皆が宗谷を抱え離れきったのを見計らい俺は超重力砲をブッ放つ。

 

「くったばれやぁー!!!!!!!!!!」

 

 俺の怒りを顕す黒い極光が解き放たれる。

 なんか今までより半径の広い黒い光は驚愕する南方棲戦姫を二人纏めて飲み込んだ。

 そして黒い光に飲み込まれた二人は超重力砲を放ち終えると跡形もなく消えていた。

 

「……ああ、スッキリした」

 

 野郎が言ってた通り大破こそしたが超重力砲を撃ってもダメコンは発動していない。

 他にもなんかあった気がするけどなんつうかこう、超どうでもいい。

 今はこう、溜まりに溜まったストレスから一時的にでも開放された爽快感から沸き上がる笑いにただ身を任せることにした。

 

 

~~~~

 

「クヒャッ、キャハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 超重力砲を放ちバックファイヤーによってズタボロになったイ級が狂ったように笑っていた。

 

「うわぁ…」

 

 気が触れたかのように笑い転げるイ級の姿に山城が引いたふうに声を漏らすがそこに北上がフォローを入れる。

 

「最近いろんな事がありすぎて完全に爆発しちゃってるねぇ…」

「イ級の三大逆鱗の二つに手を出されちゃったもんね」

 

 イ級の此れまでを一番知ってる千代田の言葉に山城は冷や汗を流す。

 

「三大逆鱗って、なによそれ?」

「島と私達と、それと球磨とお姉。

 前二つは言わずもがなだけど、球磨とお姉については私達にとっても逆鱗だから何があっても触らないでね」

 

 大事にしている自分達にさえ触れる事は赦されないという千代田の注言に事情を知らぬ者達はイ級のあの様から僅かな好奇とそれを完全に押し潰す恐怖を抱き、知っている木曾達は悔やむように表情をひそめた。

 

「ともかくイ級を落ち着かせないと」

 

 そう言い木曾と北上がイ級を回収しに向かうのを見ながら熊野が疑問を呈する。

 

「ところでなのですが、私達を核から守った黒い守りといいイ級は何者なのですか?」

「姉御は姉御だよ」

 

 その問いに酒匂が答える。

 

「『霧』とかバイドとかいろんな余計なものがたくさん持たされてるけど、姉御は他よりちょっとだけお人好しな駆逐だよ」

「お人好し…アレが?」

 

 頭を冷やさせようと二人掛かりでカトラスと魚雷で頭を叩かれている姿に疑問を上げる山城に酒匂はぴゃんと鳴いた。

 

「だって、酒匂はもう無理だけど深海棲艦(私達)終わりたいと思うだけで終われる(・・・・・・・・・・・・・・・)のに、姉御はいっぱい嫌なことがあっても私達のために終わらないんだよ?

 そんな船がお人好しじゃないわけないよ」

「…え?」

 

 酒匂が深海棲艦についてとても重大な事を口にしたがその真偽を問う隙は無かった。

 

『ハ、ハハハハハハハハハハハハハハHAHAHAHAハハハハハハハははははははははHAHAHAHAハハハハハハハハハハハハハハ!!』

 

 耳障りな、聞いているだけで精神が狂いそうな哄笑が辺りに響き渡る。

 その原因を探るため警戒した酒匂達だが、そうするまでもなくその発生源が姿を顕す。

 

『まサか、こNMA展カいになるなNてソU定がイだよ』

 

 辛うじてそのナニカ(・・・)を言い表そうとするなら、南方棲戦姫を二人分溶かして人の形の鋳型に流し込んだものと表するしかないだろう。

 そんな冒涜的で悍ましいナニカ(・・・)が出鱈目な場所についた口から吐き出す哄笑に混じり人外が無理矢理人間の言葉を発したような声でそう嘯く。

 

「なにあれ…きんもぉ…」

 

 視界に入れるだけで頭痛と吐き気を催すナニカ(・・・)を直視しないよう気を付けながら口に手を当て鈴谷は必死にそう溢す。

 そうしなければ正気が砕け散るようなそんな恐怖を感じたからで、それは鈴谷だけでなくバイドと化し尋常ならざる精神的強度を持ったアルファでさえそう感じた程にナニカ(・・・)は冒涜的であった。

 哄笑が辺りに響き渡る中、正気に返ったイ級はおぞましいその姿を前にただ一言吐き捨てた。

 

「…そういうことかよ」

「イ級?」

 

 要を得ない台詞に疑問を投げる木曾を尻目にイ級はぶちぶちと不快感を纏めた言葉を垂れ流す。

 

両方偽者(・・・・)だから違いがなかったってことか。

 あの野郎が言ってた意味が漸く分かった。

 つか、よくよく考えりゃあヒントは山程あったじゃねえか。

 絶世の美貌の黒い女、燃えるような赤い目、核兵器を持ち込んだ主犯、それであの気持ち悪いナリとくりゃあ答えなんか考えるまでもねえ」

 

 ボロボロの身体で展開できる全ての砲を向けながらイ級はその『名』を口にした。

 

「なあ? 『這い寄る混沌』」

 




ということでようやくボス公開です。

とはいえ伏線と言うか正体についてはあちこちで匂わせていたので気づいていた人は気づいていたと思いますが。

ちなみにガチクトゥルフではなく性質がもっとも近い擬きなんですけどね。

といっても、厄介さは本家とあまり変わりないよう心掛けるので難易度はveryherd。

次回はデスパレード開幕

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