「貴様は相変わらず礼儀がなっていないな」
気がついた瞬間目にしたのが俺を駆逐イ級にした糞野郎だった。
だから殴りかかろうとした。
俺は悪くない。
たとえ健闘する暇すらなく押し潰されていようとだ。
「まあいい。
貴様の不躾も今更だ。
多目に見てやろう」
俺は寛容だからなと言う糞野郎を俺はどう隙を突いて殴るかにだけ頭を回す。
「でだ。
貴様も気付いているだろうから目的だけ済ますぞ」
「…何をだよ?」
そう聞くと糞野郎は心底可哀想なものを見る目をしやがった。
「お前、本気で分かってないのか?」
「だから何がだっつってんだろうが!?」
身動ぎ出来ないことにムカつき怒鳴るも糞野郎は深く溜め息を吐きやがる。
「馬鹿だとは知っていたが阿呆まで患っていたのは予想外だ」
「ぶっ殺す」
超重力砲はなんでか起動しないがそれでもこいつは必ずぶっ殺す。
動け俺の身体!?
「まあいい。
まずはだ、お前、死んだぞ」
「………あ?」
死んだ? マジ?
「よく考えろ。
此処が何処で、何故此処に居るのか」
「………」
糞野郎以外に視界に広がるのは白だけ。
…そういや最初はこの訳のわからねえ場所から始まったんだっけ。
ということは…
「死んだのか…俺は」
最悪だ。
なんもかんも中途半端で投げ出すような真似をしちまった。
だが、それでもあの時二人を庇った事だけは後悔していない。
「…って、待てよ」
そういや俺、宗谷の女神返し忘れたまま持ってたじゃねえか。
なのになんで死んだんだ?
「どういうことだ?」
「今の貴様になら言っても構わないだろうから教えてやる。
本来ならあの世界の深海棲艦を殺しきるには現段階では製造できない核融合兵器を持ち出すか、全人類が二万まで磨り減る必要がある」
「………どういうことだ?」
核融合はまだいいとして、なんで人間が二万まで減らなきゃなんないんだよ?
「今は知る必要はない。
深海棲艦がそういうものだからだとだけ覚えておけ」
「………」
相変わらず上から目線でこの糞野郎は…。
だが、知ること知らなきゃなんにもならねえのは事実だ。
今は我慢して大人しく聞こう。
「次いでに言っておくが貴様の身体には深海棲艦の不死性も復活能力も備わっていない。
今回は特別に生き返らせてやるが、次もあるとは思うな」
「そんなもん期待してもいねえよ」
やっぱり死んだら終わりだったか。
ますますダメコンが外せなくなるな。
「話を戻すぞ。
先に言っておくが貴様を殺したのはただの核兵器だ。
いくら貴様でもここまで言えばこれがおかしい事だと思うだろう?」
「まあな」
今の話が本当なら女神を持っていた俺が此処に居る筈はない。
「本来なら起こり得ない事態が起きた。
それはつまり」
「テメエが何かしたのか?」
そう言った瞬間ぶっ飛ばされた。
みるみる内に糞野郎が遠ざかり地面にバウンドしながら転がるとその先に再び糞野郎の姿。
まさか腹いせに世界一周させやがったのか?
「なんでそうなる?」
本気で不快そうにそう言うから言ってやる。
「あのレ級の皮を被った屑を寄越しておいてよく言うぜ」
「……ああ、なるほどな」
そう吐き捨てると何故か糞野郎は不快そうなままだが険が抜けた。
「あれは俺の差し金じゃなく、今貴様の世界をかき回そうとしている奴の差し金だ」
「なんだと?」
じゃあよ。
「テメエ以外にも糞野郎が居るってのか?」
「当たり前だ。
全ての世界は多重構造の境界線が数多に立体交差して形成されている。
気に入らんが俺の上にも俺をどうとでも出来る存在が掃いて捨てるほど居る」
「………」
つまり、どういうことだってばよ?
「三行で頼む」
「……ストローを貫通させたバームクーヘンでも想像しておけ。
それであながち間違いじゃなくなる」
それならなんとなく解る。
「つまり、テメエ以外の糞野郎が俺の居た世界をぶっ壊そうとレ級の屑を送り付けたって事か?」
「それと貴様を殺した核もだ。
おそらく奴が自身の分身を直接送り込んでいるんだろう」
「……よし、殺そう」
俺はどうでもいいが後一歩で熊野と山城が死んでたんだ。
磨り潰した上で超重力砲を叩き込んでやる。
「無理だな」
「……あ?」
「分身とはいえ奴は貴様達の上の存在だ。
物理的に殺すことは出来ん」
「じゃあどうしろと?」
糞野郎が飽きるまで逃げ回れってか?
「ただし、物理的に追い出すだけなら不可能ではない。
俺達が直接介入を果たすためには自分の性質にもっとも近い存在を器にするしかない。
その器を破壊すれば存在を否定され世界から弾き出される。
そうなればいかなる手段を以てしても二度と介入は出来なくなる」
詰まるところ……
「貴様がやることはいつもと同じだ。
首魁を見つけ出し完膚なきまでに叩き潰す。
そうすれば貴様の世界は守られる」
「そうかい」
こいつにはムカつくが先ずはそいつからだ。
「瑞鳳の借りを熨斗三倍で返してやろうじゃねえか」
そしたら次はこの糞野郎だ。
「で、奴は今何処に居るんだよ?」
「わからん」
「おい」
そこまで来てそれか!?
「そして此処からが本題だ。
奴はおそらくあの世界の何者も太刀打ち叶わない存在を器にしている可能性が高い。
奴に対抗するためだ。
甚だ不本意だが貴様の封印を解除する」
「それは突っ込み待ちなのか?」
言ってることがさっきと矛盾してんじゃねえか!?
それに封印って俺にはまだなんかあるのかよ!?
「気を付けろ。
封印を解除すれば貴様は性能を十全使えるようになるが代償は今までの比ではない」
「代償って、まさか超重力砲が資源三倍で女神持っても沈む仕様になるとかじゃねえだろうな?」
「そちらは逆だ。
再生に必要な資源は変わらないだろうが今の貴様なら大破で留まるだろう」
それでも大破は確定かよ。
「じゃあ一体…」
何を代償とするのか問い質そうとした瞬間、白一色の世界がノイズだらけになった。
「なっ、なんだ!?」
「ち■っ、■■■■■■■■め!?
感■■た■■?」
世界だけでなく野郎の言葉にもノイズが走り聞き取れなくなる。
「■いか■
■様に■■さ■■■■■姫の■■は■■の■■■鍵と■■■■る■
代■■払■■■■■程■は■■■■■■■■■■■」
余裕ぶった態度をかなぐり捨て何かを告げようとする野郎だが、ノイズが酷すぎて何も聞き取れない。
「■■■!?」
突如野郎の胸から黒い腕が飛び出した。
「なっ…」
人間と同じ赤い血を流す野郎の背後にいつの間にか黒い女がいた。
「■■■■■■■■!?」
「駄目じゃないか。
折角用意したシナリオを台無しにしようだなんて」
そう笑う黒い女はその顔に嘲笑を浮かべ俺を見た。
血の泡を吹きながら名を口にする野郎だが、やはりノイズが酷すぎて何も聞き取れない。
このままだとあの世界に帰れなくなる可能性があると俺は野郎から黒い女を引き剥がそうと足を踏み出すも、野郎は俺に手を翳す。
「■け!!
■■■■■■■■■■■!!」
ノイズに遮られながらも野郎は叫び俺は浮遊感に包まれる。
「さあ、君がどんなふうに壊れていくか楽しませてもらうよ」
そう嘲笑いながら俺を見下す黒い女の燃えるような赤い瞳に俺は意識を断絶させられる寸前までしっかりと眼に焼き付け、そして告げた。
「ああ、楽しませてやるよ。
地獄直行のジェットコースターをな」
~~~~
「………」
次に視界が開けた先に見えたものは…
「アメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺すアメリカ殺す」
俺を抱き抱えた体勢で全身をぶっとい鎖でがんじがらめにされながら濁った瞳でヤバイことをぶつぶつ呟き続ける北上の姿だった。
「……」
この世界を滅茶苦茶にしようとしている新たな糞野郎をぶち殺すと決意を新たにしていたんだが……。
そんなどうしたらいいのかと黄昏かけた俺だが、生憎そんな暇はないらしい。
「……イ級?」
何処からどう見てもヤバイとしか表せない北上の首がぐりんと此方を向く。
……ごめん北上。今のはマジで怖かった。
「お、おう」
とりあえずなんか言わなきゃと思い返事をした瞬間、北上がぽろりと涙を溢した。
「えっ、ちょっ…」
返事をしただけで泣き出されて焦る俺を尻目に北上はただ茫然としたままぽろぽろ泣き続ける。
「いきゅうがいきてる…」
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら拙くそう漏らす北上に俺は迂闊な事をしてしまったんだと改めて理解した。
「心配かけてごめんな北上」
妖精さんから借りたハンカチで涙やら諸々を拭いてやりながら鎖を外しつつそう謝る。
「それはそれとして、なんでまた縛られてたんだ?」
切れちゃいけないナニカがぶちギレていたのは察せたが木曾達がここまでするなんてよっぽどの事だ。
聞くのがちょっと怖いとおもいつつそう問うと、北上はさらりと言った。
「一寸ストライダーを借りてアメリカに絨毯爆撃しようとしただけだよ」
「………」
あ艦これ。
「バルムンクで?」
「勿論」
いっそ綺麗と言うぐらいの笑顔を浮かべる北上にGJ木曾と感謝を飛ばす。
そんな内心を知ってか知らずか、北上は壮絶な笑みで宣う。
「大丈夫だよイ級。
イ級を害する奴は皆みぃんなやっつけてあげるからね?」
更には恍惚気味に顔を紅潮させる北上に、これが恍惚のヤンデレポーズかと現実逃避に走った俺は悪くない筈。
「とりあえずバルムンクは無し」
「ぶー」
深海棲艦を殺せる鬼札の禁止を告げると北上は唇を尖らせる。
「むぅ、イ級が駄目って言うならしょうがないなー」
…さっきの見てるせいであっさりし過ぎてるきがするんだが。
ついじーと見ていると北上は嬉しそうに訊ねた。
「何?
北上様が可愛いからってそんなにじっくりみてどうしたの?」
「北上が可愛いのは確かだけど、そうじゃなくて随分素直だなって」
誤魔化す理由もないし正直に言うと北上は顔を真っ赤にして背けた。
「あー、まあね、そうね」
照れるぐらいなら言わなきゃいいのに。
暫くこの距離でも聞き取れない程度の声量で何やらぼそぼそ言ってたが、やがて放置していたのを思い出したらしく俺の問いに答えた。
「ほらさ、自分がその人のために考えてやることが全部が全部その人のためになるなんて独善じゃん?
だからまあ、駄目って言うなら悔しいけど我慢しようかなって」
そう言って更に恥ずかしくなったのか顔が見えない形に俺を抱き直す北上。
位置の関係で胸に思いっきり押し付けられてるのは恥ずかしくないのだろうか?
ともかくかなりヤバかったみたいだけど、最後の一線は越えていなかったらしい。
「……そっか」
「だって、そんなの
私は
ぼそりと吐かれた憎悪に実は最後の一線を既に越えてんじゃないかと背筋に冷たいものが走り思い直す。
「ともあれ他の皆も心配だしそろそろ移動しないか?」
「えー、もうちょっとだけこうさせてよ」
そういいながら俺が逃げないように更に力を込める。
あの、なんか身体からミシミシって嫌な音がしてんだけど?
だけどまあ、それで北上が安心できるなら安い出費か。
「……後一時間だけだぞ」
そう言って俺は北上の好きにさせることにした。
おそらくこれが今年最後になるかと。
介入関連及び深海棲艦についてはこの作品限定と言うことでご了承下さい。
次回はSAN値チェック