なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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招待状はよく読みたまえ。


始めよう

 唐突なんだが狩りゲーは好きだろうか?

 武器を手に仲間と共に巨大な敵に立ち向かい、時に地形さえも武器として強者を打ち倒すカタルシスと狩猟本能とを同時に満たしてくれる神ジャンル。

 レア素材のために半ば作業ゲームと化すこともままあるがそれもまた醍醐味のひとつだと思う。

 なんでそんな話をしているかって?

 

「クソッタレ!! 狩りなんざリアルでやるもんじゃねえなドチクショウ!?」

 

 万感の思いを叫びながら俺は血塗れになりながらクラインフィールドで作ったチェーンソーを降り下ろす。

 凶悪極まりない回転で破壊の威をひけらかす刃の列なりは降り下ろされた勢いを加味しながらハナアルキの胴体を削る。

 そうして身を削れば当然ながら血肉が飛び散り、当然ながら正面に立つ俺は返り血塗れに。

 結果、現在進行形で猟奇殺人鬼みたいになりながら凄まじく生臭い悪臭に濡れる羽目になっていた。

 なんでそんな猟奇的な真似をしてるかというと、巨大ハナアルキがクッソ重たすぎて解体するにもこうして切り分けないとどうしようもないからだよコンチクショウ!!

 

「ああ、もう! 本っ当不幸だわ!!」

 

 そう嘆きながら俺が切り分けたハナアルキの肉を明石がわざわざ大太刀拵えで仕立てあげた傍目斬○な巨大包丁『蛍君』で更に下処理をする山城。

 因みにその姿は晒しに褌とお好きな方には堪らない格好なわけだが、サービスショットとか言う訳では当然なく、単に泥まみれの服で生肉加工の作業なんかされてたまるかと洗濯ついでにひっぺがしたからだったりする。

 余談の余談だけど俺と山城で処理をした肉を海岸際で燻製にしている熊野も制服が泥まみれになったためインナー一枚だったりする。

 二人の服は妖精さん達が丹念に洗っており、帰るまでには乾く予定だそうだ。

 何気で超役得かもしんないが解体作業のお陰でプラスマイナスは絶望レベルでマイナスだからな?

 そうして俺が解体し山城が下処理した肉をアルファが世話しなく運んでいる光景のおまけ付き。

 

『ヨモヤコンナ作業ヲスル日ガ来ヨウトハ』

 

 肉が乗ったトレーを三段重ねに積みワイヤーで吊るして運ぶアルファは言葉の割りに満更でもない様子。

 なんだかんだ言っても戦闘に関わりない作業に従事出来るのはアルファ的に悪くないらしい。

 ……俺が一番割りを食っている気がするのは気のせいだよな?

 ともかく南方棲戦姫の要望した軟骨も手に入れたわけだから、これだけの肉の半分ぐらいは貰って構わないはず。

 元の姿はアレだけど。

 

「そういや山城や」

「何よ?」

 

 俺の呼び掛けに手を休めず応じる山城に気になった事を訪ねる。

 

「今更なんだが、コレ、食うのに抵抗ないのか?」

 

 本気で今更なんだけど、部位を厳選しても百キロは軽く超える肉の山を運ぶのも大変なのに、ゲテモノなんて食いたくないとか言われて腐らされたら泣くぞ?

 

「……あんたねぇ」

 

 そんな俺の問いに本気で呆れた様子で山城は言う。

 

「私達はあの戦争で餓死だけは避けようと、さもしいなんて言葉でも表せない僅かな米や野菜とで必死に食い繋ぐ惨めな食事で戦っていた乗組員達を乗せていたのよ?

 それだって恵まれた方で、中には釣りに使う虫や蚯蚓や海亀(・・)まで食べていたのだって私達は見ているの。

 それを思えばハナアルキなんて珍獣はただの食用肉よ」

「……さいですか」

 

 軽い気持ちで聞いたら圧死しそうなほどとんでもなく重い話を聞かされた俺はどうしたらいいんだろうか?

 

「……次、もうちょいで出来るから」

「分かったわ」

 

 なにも言えなくなったため俺はそれだけ言うと逃げるようにスプラッターな作業に黙って従事することにした。

 

 

~~~~

 

 

 イ級達がハナアルキの解体に精を出しているその頃、ハイアイア島からおよそ3000キロ程離れた空域にて凄まじい空戦が繰り広げられていた。

 金のオーラを纏う白い球体型艦載機に対し迎え撃ち砲火を振るうのは国籍を示す位置に合衆国の国旗である星条旗が描かれた500を超えるF6F『ヘルキャット』。

 二つの小さな殺意がぶつかり合い黒煙を上げて墜ちるその中心には両翼の根元にプロペラを備えた全長20メートルにも迫る大きな輸送機の姿があった。

 人が登場可能なその輸送機だが、しかし操縦席に人の姿はない。

 ならば妖精さんが動かしているのか?

 それも否。

 誰も乗っていない無人の輸送機の客は只一つだけ。

 それはワイヤーによって強固に固定された全長3メートルの鉄の塊。

 しかしあるものが見ればその正体を一目で看破し狂気に触れたように喚き散らし破壊しようとするだろう悪魔の胎児。

 

 深海の者達は気付いていた。

 

 あの悪魔を目覚めさせてはならないと。

 

 だがしかし彼等の憎悪は過剰を通り越した物量の壁を打ち砕くことが叶わず潰えていく。

 何故ならばF6Fとそれらを従える者達にとってあの輸送機は『希望』だからだ。

 故にF6Fの全てが死力を尽くした。

 そしてその結果、彼等の憎悪は届くことはなく、かつて起きた一つの転換期の引き金はもうすぐ引かれようとしていた。

 

 

~~~~

 

 

「二人とも、忘れ物はないか?」

 

 一昼夜を肉の処理に費やした俺達はいよいよハイアイア島を後にしようとしていた。

 

「私は大丈夫ですわ」

「私も同じよ」

 

 ハナアルキの肉をぱんぱんに詰めたドラム缶の縄を確かめつつ反ってきた二人の応答に俺はよしと号令を出す。

 

「じゃあ帰るぞ。

 こんな島、二度と来るもんか」

 

 そう言っていざ飛び込もうとした

ところで熊野が制止の声を上げた。

 

「待ってくださいまし」

「どうした?」

 

 やっぱり忘れ物があったのか?

 

「対空電探に感ありですの!」

 

 え?

 ソナーじゃなくて対空電探にだと?

 一昨日まで周辺100キロ圏内にレ級はもとよりヲ級やヌ級の姿はなかった。

 それどころか深海棲艦そのものさえ綺麗さっぱり姿を消していた程だ。

 見落としがあった可能性もあるが、もしかしたら南方棲戦姫の言っていた偽物の深海棲艦かもしれない。

 

「数は?」

 

 場合によっては一戦交えるかもと緊張を高めつつ問う俺に熊野ではなく山城が答えを示した。

 

「アレじゃないかしら?」

 

 そう指差した先には黒い霧に包まれた小さく見える輸送機の姿があった。

 

「あれって…スカイトレインか?」

 

 イ級の身体に蓄えられた知識から俺はその正体を口にする。

 推定7、80キロは離れてるだろう空域にみえるスカイトレインは雲蚊のような霧につつまれていた。

 …まさか、あの霧は護衛の艦載機なのか?

 だとしたら相対比からしてアレのサイズは有人機ってことになるよな……

 

 凄まじく嫌な予感がしてきた。

 

「一応聞くけど、日本ではレシプロ輸送機って現役なのか?」

「ええ。

 噴式機関の輸送機だと艦載機の直衛が受けられないから空輸に頼る場合はレシプロが主よ」

「じゃあもうひとつ。

 そいつの中にスカイトレインは含まれているか?」

「わざわざアメリカ製なんか使わなくても頑丈な二式大挺があるわよ」

 

 ………。

 

「全力で離脱するぞ!!」

 

 そう叫び俺はレイテを目指し駆け出す。

 俺の言葉に熊野も続くが何故か山城が付いてこない。

 

「なにやってるの!?」

「ドラム缶の縄が絡まって!?」

「ああもう!!」

 

 慌てて引き返し俺はクラインフィールドをナイフ状に象りドラム缶が括り付けられた縄を切り落とす。

 

「早くしろ!!」

「で、でも…」

 

 ドラム缶と俺を交互に見る山城に業を煮やし俺はクラインフィールドで拘束し無理矢理海に飛び込む。

 

「待っ、速っ、怖っ!?」

 

 無理矢理引っ張ったもんだから頭から引きずる形になり山城の悲鳴が途切れ途切れ上がるが競り上がる危機感に構う暇もなく熊野に合流しそのままレイテ方面に逃げる。

 

「アルファに打ち落とさせてしまえばどうなんですの!?」

 

 並走する熊野の案を俺は否定する。

 

「相手はアメリカだ。

 俺が下手に関わると日本と深海棲艦が組んでるなんて謂われが起きる可能性も出てきちまう」

 

 前の会談で元帥にアメリカに属している艦娘に見つかった場合の最悪のケースを聞いていた俺は可能であるなら交戦は避けるよう頼まれていた。

 万が一そんな勘繰りを許せば日本は資源輸入も叶わなくなり国外泊地も撤退せざる得ない。

 だが、それでもまだ取り返しはつく。

 想定される最悪の最悪は深海棲艦との戦争さえ放り出した第二次東亜戦争だ。

 そうなれば艦娘を擁さない中国ロシアも艦娘を得るために武力行使に出るはず。

 それだけは絶対に防がなきゃマズイ!!

 俺達は必死にハイアイア諸島から離脱を計るが艦艇と飛行機の速度差はどうしようもなく間も無く後方10キロの至近にまで接近を許してしまう。

 

『御主人!!

 輸送機ガ後部ヨリ筒状物体ヲ投下!!』

 

 亜空間にてスカイトレインの監視を任せていたアルファが警告を飛ばす。

 

「クラインフィールド!!」

 

 アルファの警告に俺は本能のままありったけのナノマテリアルを総動員して二人をクラインフィールドで包み防護させる。

 直後、アルファの言っていた筒状の何かが光り、俺の視界は極光に埋め尽くされた。

 

 

~~~~

 

 

 スカイトレインから投下された筒状の物体は上空400メートルの地点で内部に搭載された機構を作動した。

 作動した機構により内部に蓄えられていた高濃度反応物質は一瞬で臨界状態に達し発生したエネルギーの全てが熱量となって拡散した。

 拡散した熱は波となり周囲100キロの圏内を焼き払い吹き飛ばしただけに留まらず数億度以上の熱を以ってあらゆる生命体の活動を否定する灼熱地獄を形成。

 更に爆圧によって押し出された空気が元に戻ろうと急速に押し寄せた事により飛散する筈だった粉塵が集束し行き場を求め上空へと押し上げられていく。

 

「…キノコ雲」

 

 イ級が身を守る分までを回して構築されたクラインフィールドにより爆発から守られた熊野が呆然と眼前に伸び上がる雲の形を口にした

 

 同時刻、爆発の威力からギリギリで逃れたスカイトレインより送られた凄惨な映像に歓声が上がっていた。

 映像が映し出されているのはアメリカ国防相の最奥に設置された対深海棲艦対策部。

 彼等はたった一発で島ひとつを消し飛ばしたこの結果が、永らくの悲願であった現行の艦娘に替わる深海棲艦を確実に撃滅し得る兵器の完成であるという確信に狂喜していた。

 歪んだ熱狂に包まれる室内だが、ただ一人、その光景に熱する様子もない者が居た。

 研究者がよく着ている白衣を羽織る黒い髪に黒い肌のその女は映像の先の地獄を眺め静かに笑っていた。

 

「博士」

 

 博士と呼ばれた黒い女が振り向くと彼女を呼んだそのスタッフが手を取り万感の想いを口にする。

 

「遂に、遂に我々はあの忌々しい化物に対抗する手段を手に入れました」

 

 全て貴女のお陰ですと賛辞を送る男性に黒い女は薄く笑う。

 

「こちらこそ私の研究を有効利用していただき言葉もありません」

 

 謝辞を告げる黒い女の炎のような赤い瞳がすうっと細まりえも言えぬ色香を放つ。

 その色香を間近で嗅いだ男がそれだけで魅了されてしまうも、次の句を放つ前に手を放し告げる。

 

「では、当初の予定通りと言うことで宜しいでしょうか?」

「え? あ、ああ」

 

 唐突に仕事の話を持ち出され男は口説くタイミングを奪われたことを残念に思いながらもその答えを告げる。

 

「我々国防相は君の開発した新型核爆弾を採用させていただく。

 至急弾頭に使用するプルトニウムの精製に入ってくれ」

「ええ。分かりました」

 

 艶然と微笑むと黒い女は黒い女の色香に頭を溶かされた男と未だ狂気に染まったように熱狂し続ける職員達を薄く嘲笑いながら部屋を後にした。

 




イベントの最中にボーキが0となり帝国海軍の絶望を味わいました。

しかしながらなんとか乙提督としてイベント完走。

新規は親潮と嵐と山風というまずまずの成果です。

ところで海風の時といい白露型の堀に苦労しないのは何か因縁でもあるのだろうか?

とまあどうでもいい事はさておき次回はピカ直撃を喰らったイ級がどうなったかを中心にあれこれと。

後つ1D100

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