ハイアイア島とは盛大な釣りである。
より正確にいうなら論文の体をなした文体で書かれたSF小説である『鼻行類』という本にのみ出てくる架空の島々である。
しかし著者が戦時中の日本軍から逃げた先でたどり着いたとかその末路等こと日本人の琴線に触れるワードが多く散りばめられていたため特に日本人が真に受けてしまった事件もあったらしいが、とにかく実在はしない。
「…筈なんだけどなぁ」
しかし今、俺はその存在しない筈の島にいた。
白亜期で進化が止まったかのような大振りの葉のシダ科の植物が繁茂しやたらとデカイ蜻蛉やゴキブリがそこかしこに見受けられる古代のジャングルが広がる人の立ち入られぬ未開の島。
『…御主人』
言いたいことはわかってるよアルファ。
現実逃避すんなって言いたいんだよな。
でもさぁ…
「この状況でどうしろってんだ!?」
クラインフィールドで全身を防護しながら俺は叫んだ。
解いたら死ぬ。握り潰されてぺしゃんこにされる。
何でそんなことになったかというと、ハイアイア島に着いた俺達はさっさと用事を済ませて帰るべとジャングルに足を踏み入れたんだが、最中に俺は見たこともない綺麗な花を見付け宗谷のお土産にしようなんて思いホイホイ近付いたら実は擬態したハナアルキの鼻でおもっくそ取っ捕まっとんだよ。
いやな、そいつ自体はそんなにでかくなかったからファランクスの一斉射で簡単に仕留めたられたんだが、銃声が不味かったらしく恐らく島の主とおぼしき全長五メートル大の象みたいな体型の巨大ハナアルキが出てきちまったんだよ。
いくらなんでもそんなふざけたサイズのハナアルキが居るなんて思わなかった俺達は不覚にも固まり、そのせいで巨大ハナアルキの尻尾に山城が捕まりそうになったもんだから反射的に庇ったまではいいものの巨体に相応しい馬鹿力で握り潰されそうになり辛うじて展開したクラインフィールドによって最悪の事態を免れた。
そして現在である。
正直ね、展開したクラインフィールドがギシギシ悲鳴あげてる辺りヤバイのは確かなんだよ。
どうにかしようにもクラインフィールドにこれだけの不可を与える尻尾に締め付けられたら間違いなく数秒でお陀仏にされる。
かといってこのままでもいずれクラインフィールドがダウンしてやっばり両断されるだろう。
結局のところ俺に出来ることは一緒に来た熊野と山城がこの巨大ハナアルキを倒すまで耐えることのみ。
しかしながら取っ捕まってから既に五分近く経ってるのだが一行にハナアルキが倒される気配はない。
…もしかして見捨てられた?
いやいや。流石にそれは…ねぇ?
きっと踏み潰される懸念を避けようと一時離脱を図ってるだけだよ。
…多分。
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「どうしましょう…」
なんとか巨大ハナアルキを撒きジャングルに身を潜めた熊野は泥まみれの姿でそう不安感から口に出してしまった。
そんな自称お洒落な重巡らしからぬ姿に甘んじているのは山城が運悪く底無し沼に嵌まったから…ではなく事前にイ級から嗅覚が異常に発達しているだろうと言われていたため体臭を消すために自ら飛び込んだからだ。
最も、そこが底無し沼で山城が這い上がれず沈みかけたのは事実ではあるが。
差ほど離れていない場所で鼻から延びた指のような部位を気持ち悪く蠢かせ自分達を探し回る巨大ハナアルキ。
熊野の本音を言えばこのまま島からとんずらしたいところだが、尻尾に捕まったままのイ級を見捨てるわけにもいかず、かといって仕留めようにも自身の主砲どころか山城の41センチ砲さえゼロ距離で弾く化け物が相手では成す術がない。
それ以前に砲身に入り込んだ泥を掻き出さねば暴発が怖いので使いようもないが。
いや、倒せる可能性の高い手段自体はあるのだ。
山城が装備するR戦闘機『キウイベリー』の背負う、戦艦娘憧れのマストアイテム『試製46センチ連装砲』を遥かに凌ぐ『大砲』という名の波動砲が。
ただしこの波動砲、アルファでさえ知り得なかった致命的な問題を抱えていた。
1つは発射までに非常に時間がかかるということ。
これ自体は多くのR戦闘機に共通するものでありチャージタイムそのものも一発撃つのに10分必要と威力からしたら破格の短時間と言える。
だがしかし、もう一つの問題点があまりにも問題過ぎる。
「弾道が
キウイベリーの波動砲は例え平射で撃っても大砲から放たれる砲弾は曲線を描くのだ。
それも質が悪いことに射の描く曲線は重力に引かれてではなくキウイベリーを基点とした山なり軌道。
そのため遠距離ならまだしも近距離での命中率はほぼ接射でなければ当たるものでもないという実に意味のわからないネタ兵器と化していた。
鳳翔のアサノガワといい波動とは一体と吐き捨ててしまった熊野も致し方ない。
しかし熊野は知らない。
アサノガワ以外にも波動砲と言いつつ電撃を放ったり蔓を突きだしたりあまつさえ天災を引き起こすようなとんでも兵器がまだまだ控えていることを。
閑話休題
今は巨大ハナアルキをどうするかだ。
現在まともに使える武器は酸素魚雷と当たらない波動砲のみ。
瑞雲があればよかったのだが生憎熊野が載せているの零式水上観測機。
無理繰り酸素魚雷を縛り付けて飛ばす手もあるが尻尾に捕らえられたイ級に当たる懸念があるため使うのは憚られる。
「不幸だわ…」
悠長に事を構えるわけにもいかずどうするべきかと悩んでいると背後から地を這うような山城の愚痴が溢れ落ちる。
「少しは策を練ってくださいませんか?」
そう嗜めそちらに目を向ければ無惨の一言に尽きる山城の姿。
泥まみれでも地の色が茶のブレザーである熊野はまだ見れたものの、白い巫女服がベースの山城は原色が何色だったか解らないほど汚れていた。
「そんなこと言ったって…」
案など思い付かないと言わんばかりにつぐむ山城に苛立ちを募らせる熊野。
そうして沸き上がった苛立ちは熊野の胸中にドス黒い感情を掻き立てていく。
そもそも不幸だ不幸だと口にする山城が
貴様の不幸など自分が受けた地獄に比べてどれ程だというのだ?
艦として、いや、人としてさえ見られない悪夢の中で足掻くために恥辱も汚辱も耐え消えぬ傷跡を穿たれながら牝犬とまで嘲られながらも堪え続けた自分より不幸だと言えるのか?
いっそ貴様なんか…
「熊野?」
「っ!?」
沸き上がるドス黒い感情に身を任せてしまおうという甘い囁きに愉悦を覚え始めていた熊野は山城の呼び掛けに目を覚ます。
同時に自分が何を考えていたのかと激しい自己嫌悪に陥る。
(何を考えていたの私は?
いくら山城の態度が感に障ったからってあんな…)
「何か思い付いたんですの?」
「え、ええ、まあ」
熊野の異様に若干引いたため煮え切らない態度に見える様子で山城は言う。
「思い付いたって訳じゃないんだけど、これが使えないかしらって…」
そう指し示したのは黄色いボディに手足の付いたファンシーとも言える外見の対潜ヘリこと『Mr.ヘリ』。
「それですの?」
なんで陸上で対潜ヘリが役に立つのかと疑問を投げ掛ける熊野に山城はしれっと答えた。
「なんかこれ、宗谷のパウ・アーマーに似てるからなんとか出来るんじゃないかなって…」
いっそ可哀想なモノを見るような熊野の視線に耐えきれず言葉尻が消えていく山城。
確かに宗谷のパウは頭がおかしいんじゃないかと言うぐらい鬼畜な性能を有してはいる。
リンガで確認しただけでも烈風ガン積みした加賀から制空権を悠々奪い去り対空極振りの摩耶改二の凄まじい対空砲火をあっさり掻い潜りあまつさえ自爆する分身で武蔵をワンパン大破に追い込む悪夢をたった一機で体言する機体だ。
そしてなによりここまでやらかしておきながらパウのカテゴリーが『輸送機』だというのだからどうしようもない。
そんな最終鬼畜極悪輸送機に似てるからどうにか出来るかもと変な期待を抱くのもわからなくはない。
「とりあえず試してみましょうか」
「え、ええ」
詰る気力もなくしそう肯じる熊野に山城はMr.ヘリを起動する。
「えっと、いける?Mr.ヘリ」
カ号のような回転翼機の知識はあるが運用について今一把握しきれていない山城が戸惑いがちに問うと、Mr.ヘリはまるで妖精さんがそうするように丸い身体なりに直立敬礼を行いプロペラを展開。
展開したプロペラは忽ち高速で回転を始めると揚力を獲たMr.ヘリはザイオング慣性制御を併用することにより軽く山城のカタパルトを蹴るだけで離陸。
そして二人はここからR戦闘機が例外なく化物だということをまざまざと見せ付けられた。
離陸したMr.ヘリはあろうことか正面から巨大ハナアルキに突撃。
対潜機らしく上空から攻勢にで出るものと思っていた二人が瞠目するのも意に介さず突撃の勢いそのままに推進機でもあるプロペラでハナアルキに斬りかかるという蛮行を始めた。
山城の主砲さえ弾くハナアルキの毛皮だが、Mr.ヘリのプロペラはその毛皮を容易に切り裂くとその巨体に一文字の斬痕を刻み込んだ。
斬られたハナアルキからしたら堪ったものではない。
彼の者に人ほど複雑な思考があるわけではないが、だからこそ島のヒエラルキーの頂点に立ちあらゆる動植物を思うままに貪る権利を有する支配者であった事実は彼の者に絶対の自負と傲慢な自尊心を育て上げていた。
それを鳥にも満たぬ小さな存在が踏みつけて泥を被せようとしたことが、牙を突き立て身を切り裂いて反旗を振るったことが、そしてなにより初めて刻み込まれた『死』の恐怖が彼の者を狂乱させた。
手の打ちようもなかった相手にあっさりとダメージを与えたMr.ヘリに熊野と山城が口を開けてポカンと呆けているのも気付かず巨大ハナアルキは幾多の猛獣のどれとも似ない雄叫びを上げると怒りのままに跳躍した。
その高さはなんと50メートルを越しており身の丈の10倍の高さまで鼻一本で跳躍したという事実はただ恐怖である。
そのまま指のように節張った鼻で押し潰そうとハナアルキが鼻を振るうも、
元より鋼を穴だらけにできるバルカン砲が更に電磁加速を加算されたならばその威力たるはバイドにさえ無視できぬ痛手を与えるほど。
其ほどの凶火力を柔らかい分厚い皮の内側の柔らかい部分に当てればどうなるか言うまでもない。
秒間100発を凌駕する弾幕に肉をズタズタにされた巨大ハナアルキは未知の激痛に立つ気力もなくおぞましい悲鳴をあげてのたうち回った。
嗚呼、だがそれでも彼の者は支配者である。
明確に刻まれた死の恐怖よりプライドを砕かれようとしている現実に煮えたぎる憎悪を燃やし、本能が訴える生への渇望を否定し殺意と憎悪に立つ事を選んだ。
しかし、しかしそんなものは意味を為さない。
Mr.ヘリは『英雄』である。
イ級達が住まうこの世界とも、アルファが戦っていた悪夢の坩堝とも違う遥か彼方の時空にて数多の星を救い幾多の悪を滅ぼしてきた紛れもない英雄なのだ。
如何にしてその英雄の存在をteam R-typeが知り得て可能な限りとはいえ再現出来たのかは誰にも分からないが、只一つ、これだけははっきりとしていた。
Mr.ヘリがでかいだけの珍獣に負ける道理はない。
怒りのままに暴れ狂う巨大ハナアルキに対しMr.ヘリは猛然と前に出る。
宛ら一匹の蜂が象に挑んでいるような光景だが、現実起きているのは蜂よりなお凶悪な
イ級が捕まっている尻尾を、退化しながらも強靭さを失わなかった強靭な筋肉の詰まった四肢を、己の名の由緒となった鼻を滅茶苦茶に振り回すハナアルキの猛攻をMr.ヘリは難なく潜り抜けプロペラで切り刻みながらバルカンと垂直ミサイルと爆弾のフルコースをハナアルキにたっぷり食らわせる。
そのどれもがバイドをして脅威と認識させる威を内包する猛火の群れに
そして限界を迎えた巨駆は無惨の一言のみを表す標識と成り果て地に倒れた。
最早死に体。
放っておいても助かる見込みは一厘の隙間もない程だが、多くの死線を知る
それはモース硬度7にも至る石英の塊、つまりクリスタルである。
どこからともなく取り出した身の大きさに迫る無色のクリスタルにMr.ヘリは何の躊躇いもなく波動を充填し弾丸として打ち出した。
打ち出された弾丸は音を超え光の早さに迫る速度を与えられ、それをそのまま威力として加算しハナアルキの頭部へと撃ち込まれた。
その威力は驚くことにかのアサノガワの切り札であるパイルバンカー波動砲に比肩するほどのものであり、過剰が過ぎる破壊の威力はハナアルキの頭部を肉片さえ残らない血煙へと変えた。
「「………」」
一方的とさえ生温い気違い滲みた惨劇を前に其れを命じた山城はもとより熊野のまたただ忘我の淵に佇むのみとさせられる。
そうして暫くの後、助かったと確信したイ級がクラインフィールドを解除するのを見て山城は万感の思いを口にした。
「私達、居る意味あるのかしら?」
それは、R戦闘機に関わったほとんどの者の頭を一度は過る絶望であった。
皆様イベントの準備は万全ですか?
私はバケツは十分ながらボーキが四万に足らずと不安なじょうたいです。
とまあ近況はともあれ次回は再びイ級側です。
それと今回も以下におまけをおいときます。
『おまけ』もしもイ級がイベント海域のボスに抜擢されたら
【ゲージ破壊前】
台詞『来ちまったのか……』
外見『普段のから深海棲艦っぽい眼帯とペイントに変更のみ』
装備『タービン』『缶』『爆雷』『機銃』『艦載機(バイドシステムα)』
編成『駆逐イ級(flag)』『駆逐二級(flag)』『潜水カ級(flag)』『潜水ヨ級(flag)』『輸送ワ級(flag)』
【ゲージ破壊直前】
台詞『簡単に譲れねえんだよ!!』
外見『塗装が剥げた姿で眼帯オフ』
装備『機銃』『探照灯』『主砲』『艦載機(バイドシステムβ)』
編成『雷巡チ級(flag)』『軽巡ホ級(flag)』『潜水ヨ級(flag)』『軽母ヌ級(flag)』『駆逐棲姫』
ギミック
索敵値未満で到達するハズレマスの北方棲姫にS勝利
【ギミック解除後】
台詞『……殺す』
外見『ゲージ破壊直前の姿に更に黒いオーラ追加』
装備『主砲×3』『機銃』『レーダー』『レーダー』『艦載機(バイドシステムγ)』
編成『無し』or『港湾棲姫』『駆逐古姫』『雷巡棲姫』『水母棲姫』『潜水棲姫』
【ギミック解除後ゲージ破壊直前】
台詞『…ぶす。 潰す潰す潰す潰す潰す潰すツブスツブスツブスツブスツブスツブスツブスツブスツブス!!』
装備『主砲×3』『機銃』『レーダー』『レーダー』『艦載機(バイドシステムγ)』
外見『黒いオーラに覆われ目の光のみ視認可能』
編成『無し』
備考『一巡につき砲撃雷撃艦載機による三回の攻撃手番発生』
【戦闘】
航空戦『撃ち落とせとアルファ!』
砲撃『喰らえ!』
被弾『まだだ!!』
直撃『ガァッ!?』
【ギミック解除後】
航空戦『殺せ。皆殺しだ』
砲撃『沈めよ。あいつらみたいに』
被弾『……これで終わりか?』
直撃『この程度でお前達は俺から……』
ゲージ破壊
『これで、お役御免か……。まったく、なんでこんなことに…なったんだ……?』
ギミック解除後ゲージ破壊
『……そうか。俺も、逝くのか……。俺は……そっちに…いけるの…か……?』
海域攻略
通常状態でも敵艦載機の異常な制空値により制空権はほぼとられるがゲージ破壊直前でも護衛も駆逐棲姫以外は本人も含めそれほど危険ではないため電探ガン積みの戦艦でごり押しすれば其れほど難敵にはならない。
しかしギミックを解除すると一変。
開幕戦で超重力砲を叩き込んだ上で艦載機も攻撃をしてくるようになる。
更に空襲にも参加しバルムンクを基地に叩き込む暴挙を行い資源と航空隊を全滅させにかかる。
勝機は超重力砲と艦載機の攻撃に耐えることを祈るか、女神を抱えた状態で大破進軍を仕掛け超重力砲で轟沈させてからの全力戦に持ち込むこと。
そもそもギミックを解除するためのハズレマスに到達するためには非常に低い索敵値に押さえる必要があり、有志の調査によると装備なしの駆逐艦五隻でもボスマスに弾かれるらしく仮に到達してもS勝利を治めることは奇跡に頼る必要がある。
しかし雷巡二隻と水母を含んだ編成でボスマスから弾かれるという報告も上がっているため解明を急がれる。
はっきり言ってギミック解除後は上位ランカーの甲提督でも絶対に遠慮しておくべき難易度となるため興味本意で手を出して地獄を見ても自己責任であることに留意されたし。
なお、測量艦宗谷は外れマスのS勝利でのみドロップする。