なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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こんなところにも逸材が…


ほう?

 風呂やらなんやらと諸々を済ませて数時間後、尊氏達が帰ってきて明石を除く全員が揃った所で俺は口を開いた。

 明石がいないのに全員? 明石は地下で全身エステのハードコース中だから問題ない。

 

「まずはただいま」

 

 そう言うとそれぞれからお帰りと返してくれた。

 うん。漸く帰ってこれた気がしたよ。

 因みにアルファはあの後よっぽど酷い経験をしたらしく何故か嬉しそうな古鷹に抱えられたまま時折『ウガァ・クトゥン・ユフ』等と意味不明なことを呟いてる。

 古鷹のタンクが当たってるとか普通なら羨ましいんだろうけど……後で謝ろう。

 

「さてと。

 早速だけど此処暫くの関係で北上達が改装して強くなった訳だが、相対的に遠征枠に偏りが出来ちまったって問題が起きてる」

 

 そう前置き俺は元帥からの頼みを口にした。

 

「で、だ。

 その解決になりそうな案として丁度元帥から軽巡1駆逐艦4隻からなる鳳翔の護衛艦隊を受け入れて欲しいって要望が来ているんだ」

 

 表向きはなとそう言うと先ず木曾が挙手した。

 

「表向きって、随分穏やかじゃない気配がするんだが…?」

「まあ、その通りなんだよ」

 

 とはいえこればかりは誰も悪くはないんだがな。

 

「と言っても前みたく屑が関わってるって事じゃなくて、引き取って欲しいのは俗に言う『亜種』って奴なんだよ」

「亜種?」

「分かりやすい例で言うと…北上を毛嫌いしている大井とか?」

 

 そう言うと木曾達は『納得した』と声を揃えてきやがった。

 誰1人首を傾げないとかどんだけなんだよ?

 

「と、とまあさておきだ。

 そんなふうな普通の鎮守府や泊地なんかだと在籍していても艦隊運営に支障を来たしてしまうため居場所がない艦娘を受け入れて欲しいって打診が来てるんだが、この時点で反対だと思う奴は手を挙げてくれ」

 

 そう言うと問題児の受け入れなんて御免だと尊氏達が手を挙げる…と思いきや深海棲艦勢は誰も挙手しなかった。

 因みに俺含む手がない奴はこう言うときは機銃とかで代用してる。

 さておきこの時点で反対したのは以外に鳳翔その人だけだった。

 つか、なんでお前が反対するんだよ。

 

「え~と、なんで?」

 

 皆も意外に思ったらしく鳳翔の言葉に耳を傾ける。

 

「個人的にでしたら特異故に馴染めない娘には悪くない話とは思いますが、此方の都合で折り合えない厄介事を押し付けるのは道理に叶ってはいないかと」

「ああ、そういう」

 

 筋がたたないってそう言う理由なのね。

 

「そっちは気にしなくていいぜ。

 代わりに島への干渉はしないって不可侵条約を正式に結ぶことになったから。

 まあ、公には出来ないから口約束が密約に上がった程度で遭遇戦になったら適宜対応は変わらんけどな」

 

 アルファの脅迫とか含め実質がどうあれ今までは元帥からの好意でしかなかったが、締結すれば大本営の一部が馬鹿をやらかさない限り島に攻め入る輩は深海棲艦のみとなる。

 加えて深海棲艦側も姫がちょくちょく顔を出し信長が拠点にしてるって事実があるから現在の時点で来るのは大概何も知らんニュービーか信長の旗下に入りに来たフリーランスばかり。

 中には俺たち相手に腕試しに来るそれなりに強い奴もいたりするが、そういった物好き以外でヤバイ輩が来ることもないのが現状。

 ……あれ? もしかして俺達ってこの辺りの制海権握ってる?

 まあ、そんなわけないよね。

 忘れがちだけどレイテは戦艦棲姫の領域だし。

 

「それと受け入れるかどうかは全員の了解を得たらって前提で話は進めているから鳳翔はあんまり気にすんな」

「しかし…」

 

 なおも食い下がる鳳翔にふと俺は気づいてしまった。

 

「…もしかして鳳翔は死ぬほどめんどくさい亜種の世話したくない?」

 

 来たら鳳翔の部下になるとはいえ流石にそれはないよな?

 俺の気持ちを代弁した北上の問いに鳳翔はさっと首を背けた。

 

「…そんなことはありませんよ?」

「こっちみて言いなよ」

 

 そう言う北上に鳳翔はぼそぼそ溢す。

 

「だって此処に送られてくる娘なんて、絶対に目も当てられない拗らせかたしてる娘に決まってるじゃないですか…」

 

 もしかして経験ありか?

 まあ艦歴は長いんだしそういう艦との関わりもあったんだろうな。

 

「候補の艦がどんな奴なのか大まかにぐらいは聞いてるのか?」

「ああ」

 

 鳳翔の反応を見なかったことにした木曾の問いに俺は候補を挙げる。

 

「彼方さんが手に余るってのはバーサーカーな皐月と五感に異常を患った長波と両性具有の初雪、それと重度の被虐性癖の若葉とペドフェリアの阿武くm」

「一寸待った」

 

 挙げた途端噛みつく勢いで瑞鳳が詰め寄ってきた。

 

「前四人はともかくその阿武隈は論外よ!!」

「……なして?」

 

 ペドフェリアの歯牙に掛かりそうな奴なんて島に……

 

「姫ちゃんがいるでしょうが!!」

 

 今にもシューティング・スターの波動砲をぶっぱなしそうな勢いで怒鳴る瑞鳳。

 おいおい。

 

「……流石にそれは」

「こんなかわいい娘に欲情しないド変態なんかいないわよ!?」

「ちび姫がかわいいかどうかについて否定はしないが力強く言い切るな」

 

 娘贔屓とモンペが合わさり最強に見えんぞ。

 しかしなんだが……

 

「その阿武隈と皐月がどっちも改二で大発積める…」

「歓迎しよう、盛大にな!!」

 

 メリットを皆まで言う前に瑞鳳を押し退け千代田が盛大に肯定しやがった。

 

「二人に大発押し付ければ私が瑞雲とミッドナイト・アイと甲標的のフル装備になれる!!

 勝てる! そうなればお姉にだけじゃなくて瑞穂にだって絶対勝てる!!」

 

 欲望駄々漏れでそう勢い付く千代田にキレ気味に瑞鳳が掴み掛かる。

 

「自分の目的で姫ちゃんを危険に晒す気!?」

「そっちこそ自分の燃費少しは考えなさいよ!?」

 

 負けじと千代田も胸ぐらを掴むとそのままキャットファイトが始まった。

 

「……うわぁ」

 

 余りの剣幕に周りがドン引きしちび姫が宗谷に半泣きでしがみついてんぞおまいら。

 

「で、他に反対意見は無いか?」

 

 もうどうにでもなーれな気分で視界から外して切り替えると鈴谷が挙手した。

 

「反対とはちょっと違うんだけどいい?」

「どぞ」

「阿武隈は当然として初雪と若葉も島流しな理由はなんとなく予想できるんだけど、皐月と長波のってどんな感じなの?」

「それは俺も気になるな」

 

 鈴谷の質問に他のみんなも教えと欲しいと言う。

 

「皐月は一度スイッチが入ると戦艦だろうが空母だろうが相手が沈むまで戦い続けるらしい」

「それだけならちょっと過激で済みそうね」

「それが演習の艦娘相手でもか?」

 

 その問いにそう言った山城がポカーンと口を開ける。

 

「……それはバーサーカーですわね」

 

 呆れ返った様子で皆の気持ちを代弁した熊野の言葉に大きく頷く一同。

 

「で、だ。

 最後に長波なんだが、どうやら相当ヤバイらしくてな。

 あんまりにも重症とのことで精神病棟に監禁しているらしいんだよ」

 

 

~~~~

 

 

「……ん」

 

 意識が浮上する感覚と共に鼻孔に突き刺さる甘ったるい酷い腐臭に私は私にとって唯一の安息がまた終わったこと知り深い絶望に染まる。

 鼻孔に突き刺さる嗅ぎ慣れた悪臭に目を開ければどどめ色の腐肉色に塗られた壁に囲まれた狭い部屋が映り込む。

 いや、それは間違いなんだ。

 本当の壁の色は気が狂いそうなほどの純白で、鼻に突き刺さる臭いは消毒液の残り香の筈。

 筈と言うのは私は建造されてからこのかた一度もそれを正しく認識できたことが無いからだ。

 色や臭いだけじゃない。

 私にとって夕雲姉というか私以外の艦娘や他のヒトの姿はぶよぶよとした気持ち悪い色の肉の塊にしか見えない。

 声や歌といった音の全ては硝子を引っ掻いたような正気を掻き毟るような騒音だ。

 皆がいい香りだと言う不快ななにかから漂うのはどれも酷い悪臭にしか感じられないし、皆が美味しいと言いながら食べているものはえぐみと悪臭で口にいれることさえ躊躇うような汚泥の塊に感じた。

 

 そう。つまるところ私は狂っている。

 

 それに気づいた周りは私をすぐにこの部屋に押し込めた。

 それを恨むかと聞かれれば答えは否。

 軍事行動に参加させられない失敗作として殺処分される筈の運命を遠ざけて治したいと手を尽くそうとしている相手を恨むのは筋違いだ。

 だけどそれで救われたかと言えばこれも否。

 こんな地獄で生き続けなきゃならないのにどうしてそれを喜べるんだか。

 総括すれば恩は感じるけど感謝はできないってとこかな。

 と、不意に私の耳がカタンという音を捉えた。

 音は腐ったどす黒い赤い色の扉からで、そこを見れば朝食として肋骨のトレーに小さな頭蓋骨に注がれた白濁した液体が置かれていた。

 

「……」 

 

 私はそれを手にすると一気に飲み下す。

 微塵も美味しいなんて思えない粘つく生臭い液体が喉に引っ掛かるけど中に混ぜられた効果のほどなんてあるのか疑わしい精神安定剤を飲まなきゃいけない以上我慢するしかない。

 そうして頭蓋骨を肋骨に戻した私は豚の生皮が敷かれたベッドに横になる。

 いつものようにそのまま時間が過ぎるのを待っていた私だが、今日は珍しく来客があった。

 

『◆◆』

 

 扉越しに聞こえた私の名前を呼んだと辛うじて理解できる吐き気を覚える声。

 

「……どうしたんだい提督?」

 

 提督が私の様子を毎日見に来ているのは知っていたけどこの部屋に入ってから声をかけられた記憶はない。

 

『◆◆◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆◆◆◆』

「……上は正気なのかい?」

 

 提督の言葉に私は耳を疑った。

 

「私を移籍させるなんて何を……」

 

 そこまで口にして私はその意味を理解できた。

 

「ああ、いよいよお役御免ということか」

 

 武勲艦『長波』とはいえ私は数ある長波の一隻。

 居るだけ醜聞の種になる艦なんていつまでも抱えていたくはないだろう。

 

「いいさ。

 上の希望通りせいぜい駆逐艦の一隻でも道連れに死に花咲かせてやろうかね」

 

 狂ったって私は帝国海軍の駆逐艦なんだ。

 無意に死ぬにしたって只でなんか沈んでやるものか。

 

『◆◆◆。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆』

「は?」

 

 提督、あんた今なんていった?

 

「私が治るかもしれない?

 ふざけないでくれ!!」

 

 その言葉に私のこれまで沈殿して積み重なった怒りが吹き出してしまう。

 

「希望なんて何処にあるんだよ!?

 目も耳も舌さえもぶっ壊れた私に何を縁にしろって言うんだ!?」

 

 どうしてだよ!?

 

「どうして私の世界はこんなに気持ち悪いんだよ……」

 

 いっそ心までこの世界が正しいんだって思えるぐらい狂っていたらこんなに苦しまなくて済んだ。

 なのに私はこの世界が異常なんだって、救いなんて願うだけ絶望に沈むだけなんだって分かるぐらいまともなままで壊れてくれない。

 

『◆◆◆』

「……え?」

 

 硝子の軋む耳障りな音が一隻の艦の名を告げた。

 

『◆◆◆◆◆◆◆◆。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆』

 

 その艦の事は名前だけだけど私も知っている。

 確かにその艦なら……いや。

 

「信じられないよ……。

 今更、今更もう一度希望にすがるのは恐いんだ」

 

 その艦にさえお手上げなら今度こそ私は死ぬまでこの地獄で生き続けなきゃならなくなる。

 なのに、私は賎しくも一匙にも満たない可能性にすがり付いてしまう。

 

「助けてくれ、病院船『氷川丸』」




照月掘れたら更新すると言ったな?

あれはマジだ!

ということで最終日前日まで粘りに粘って掘り起こしてやったよ!!

ただしE7ラスダンは資源的に後二回という崖っぷち(白目)

勝てたらこれ奇跡だろ?

閑話休題

島流しにされた面子の選考基準ですが、誰を選んでも絶対の納得はあり得ないので自分が組み込みたい艦娘の中から型が被らないように選んだ上で放逐する以外選択肢無い症状からまだまともといえるものを選びました。

ただし長波だけは例外。

なお言っておきますが自分は長波はガチで好きでゲームでも同じく好きな舞風と一緒に主力級まで育てケッコンカッコカリも視野に入れてます。

次回は信長サイドです。

~追記

E7突破しました。
アイオワの喋りかたが悪いとは言わんけど想像以上にウゼェww


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