なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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以外な伏兵が居たものだ。


おや?

 亜空間を飛翔するアルファだが、緊急時を除き亜空間を経由して個人スペースへの侵入は禁止されてるため廊下で亜空間から出なければならない。

 だがしかし廊下を移動するイ級より先に到着することは確実。

 

『…ッ!?』

 

 古鷹の部屋の前に出ようとしたアルファだが、しかし部屋の前にはクラインフィールドの結晶片が大量に散布されていた。

 あらゆる物質を透過し移動できる亜空間潜航だが、物質空間に帰還する際その周囲に何もない状態でなければ空間が安定せず、最悪の場合亜空間との間に機体が挟まり身体が泣き別れになったり物質との融合といった事故の可能性も非常に高くなる。

 

『小癪ナ…』

 

 イ級の本気の妨害に軽く沸点を下げながらもアルファは結晶が無い場所から亜空間を出る。

 

『ソチラガソノ気ナラ』

 

 仕掛けたのなら報復される覚悟はあろうとアルファは亜空間に控える液体金属を呼び出す。

 既に汚染処理を終えたそれにアルファは波動を流し軽巡那珂を象らせる。

 しかし細部まで詳しくないアルファが作ったのは例えるならミクダヨーの珂ちゃん版。

 

『マア、御主人ダシ大丈夫ダロウ』

 

 しかし御主人は那珂なら何でもいいはずとイ級のもとに送り出すアルファ。

 数秒後、凄まじい殴打音が響き地の底から溢れたような低い声が響いた。

 

「アルファ……テメエは俺を怒らせた」

 

 床が陥没するほどの威力で那珂ダヨーを叩き潰し、バイドの憎悪にも劣らぬ怒りと憎しみに満ちた声を漏らすイ級。

 その怒りは形状を失った液体金属が怯えアルファの下へと逃げ帰るほどであり、アルファもまたその怒りに呼応して上がり気味だったボルテージを更に上げる。

 南方棲戦姫さえドン引きする状況の中、イ級とアルファが相対したのは古鷹の部屋の前。

 

「なあアルファ。

 世の中さぁ、やっちゃいけねえ事ってあるよなぁ?」

『ソチラコソ。

 越エテハイケナイ一線、越エマシタヨネ?』

 

 そう互いにいい合うイ級とアルファ。

 

「クックックックッ……」

『フフフフフフフフ……』

 

 二人は笑いながらイ級はクラインフィールドを使い、アルファは液体金属を使いそれぞれ何処かで見たことある人形を生み出す。

 もはや目的はどうでもいい。

 二人が考えることは只一つ。

 

「『ぶっ潰す」』

 

 怒りに我を見失った馬鹿二人は果てしなくくだらなく、それでいて洒落にならない戦いの火蓋を切った。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!』

 

 クラインフィールドの人形が残像が見えるほどの速さで連打を繰り出せばアルファの液体金属の人形も同じだけの数の殴打を返す。

 拳と拳がぶつかり合う度に衝撃で空気が震え豪風が荒れ狂う。

 

「……なにあれ?」

 

 常識をひっくり返す光景にジャケットがずり落ちるのも構わずそう漏らす南方棲戦姫にこれまた肩の力が抜けた北上が返す。

 

「たぶんスタ○ドバトル?」

「だからなんだよそれ?」

 

 戦艦棲姫の部下のタ級の部屋にあった漫画に似てたのでそう答えた北上にそう突っ込む木曾。

 そうこうしている間に闘争は更に苛烈を極めていく。

 

「ロードローラーだぁっ!!」

 

 イ級がクラインフィールドを更に追加してスクーター並みのサイズのロードローラーを作り出し人形ごと押し潰そうと放り投げればアルファはそれに対抗する。 

 

『WRYYYYYYYYY !!』

 

 アルファの操作する人形がロードローラーを殴り付けると拳から波動が浸透しロードローラーは大量の鳥を模した小型バイドに変化して亜空間へと飛び去っていく。

 

「ちぃぃっ!?

 卑怯な真似を!!」

『貴様ガソレヲ言ウカ!!??』

 

 短い会話を挟み再び人形同士の殴り合いが開始される。

 数多の拳がぶつかり合う激戦だが、埒が明かないと二人は同時に人形を下がらせ武道の型を構えさせる。

 

『コッホォォォ…』

『ホォォォォォ…』

 

 イ級の人形が奇妙な呼吸と共に赤いオーラを纏いながら型を構えるのに対するようアルファの人形もカンフーよろしい呼吸と共に青いオーラを纏いながら型を構える。

 

「あれはまさか、北○神拳!?」

 

 羽黒の本棚というあまりにも場違いな場所に置かれていたため思わず手に取ってしまい、その後全巻読破し神通と二人で格闘戦の参考にもしたバイブルの一幕の再現に興奮を隠せず手に汗を握る鳳翔。

 

「鳳翔……貴女までそっちに行っちゃうんだ…」

 

 ギャグ時空とでもいうような狂った空気に当てられ大事な何かを失っていく様子に黄昏る千代田。

 

「というかさ、そろそろ止めないと不味くない?」

 

 波動砲やら超重力砲などのガチで(周りも含め)相手を粉砕し尽くす主兵装を持ち出さない辺りまだ分別までは捨ててないようだが、それもいつまで持つか。

 そう不安がる山城に瑞鳳はさらりと言う。

 

「終わらせるなら簡単よ?」

「へ?」

 

 見た限りそんな簡単には収まりそうもないのにどうしてと思う間もなく声を大にする瑞鳳。

 

「宗谷ー!」

 

 その声に必殺の一打を繰り出そうとした二人の人形がピタリと止まり、外からパタパタと走ってくる音が続く。

 途端、イ級のクラインフィールドの塊とアルファの液体金属の塊が形を崩し宗谷が廊下から現れた頃には完全に消えていた。

 

「どうしたの瑞鳳……って」

 

 さっきまでの殺意はなんだったのかと呆気にとられる一部を余所に中破した瑞鳳達の姿に宗谷が眉を寄せる。

 

「皆、イ級が何時戻ってきても大丈夫なように手加減するって約束したよね?」

「うっ!?」

 

 矛先が自分に向いたことにばつが悪そうに呻く。

 

「これはそのー」

「それに、明石が使っちゃった資源の補填の遠征だって駆逐達に任せっきりなのをそろそろイ級に黙ってるのもどうかと思うんだけど?」

 

 聞き捨てならない宗谷の苦言に青ざめて冷や汗を流す北上達にイ級が声を漏らす。

 

「…ほう?」

 

 その待ちわびた声に宗谷が振り向くとそこには爽やかながら洒落にならない怒気を孕むイ級がいた。

 

「イ級!?

 何時帰ってきたの?」

「ついさっきだ。

 それよりも…」

 

 表情があれば能面のようになっていただろう様子でイ級は木曾達を見据える。

 

「今の話はどういうことかな?」

「ちょっと待ってね!?」

 

 有らぬわけでもないが完全に正しくもない誤解をしていると北上が代表になって説明に走る。

 

「確かに遠征が尊氏達任せになってるのは嘘じゃないけど、それは改二改造で燃費が悪化したからなんだよ。

 それに今日は行ってないけど酒匂と千代田と木曾はちゃんと遠征してるからね。

 その代わりに遠征に行ってる艦のの分の内番は率先してやってるわけで、決して楽してサボってる訳じゃないからね!?」

「……ふむ」

 

 確かに筋は通っている。

 双胴空母の消費は洒落にならんし改二の北上もそこそこ高めで航巡と航空戦艦は言わずもがな。

 燃費が良い鳳翔はそもそも大本営の監視役なのだから島からあまり出るのはよろしくないだろう。

 結果、遠征の分担が偏ったのも筋は通っている。

 

「とりあえず言い分は理解した。

 宗谷、本当か?」

「そうだけど…」

 

 主張を疑ってかかるイ級に悲しそうに眉を寄せる宗谷だが、イ級はそうじゃないと言う。

 

「北上達を疑ってる訳じゃないぞ。

 ただ、今の話で少しだけ信用が下がってるだけだからな?」

 

 そう訂正を図るイ級に肩を落とす木曾。

 

「そっちのほうがきついぞ」

「信頼は揺るがないから安心しろ」

 

 そう切り捨ててからイ級は仕方ないかと内心溜め息を吐いた。

 

「取敢えず全員入渠してこい。

 それと尊氏達が戻るのは?」

「夕方には帰ってくるはずだよ」

「よし。

 じゃあ1900に全員食堂に集合」

 

 解散とそう号令を下し然り気無くイ級は古鷹の部屋の扉を開けた。

 

『シマッ…』

 

 完全な不意討ちに焦るアルファを横目に詰めが甘かったなと勝ち誇るイ級。

 

「古鷹、ちょっと…」

 

 そのまま中を伺ったイ級は直後に叩き付ける勢いでドアを閉める。

 

『……御主人?』

 

 異様な態度に訝しむアルファだが、事情を知る宗谷が無言でイ級を抱えあげた。

 

「アルファ、後をお願いね」

 

 いったい何を!?

 そう叫びかけたアルファだが、木曾の手が諦めきった声と共に死刑宣告をもたらした。

 

「お前だけが頼りだアルファ」

『ダカラナンノコトナンダ!?』 

 

 アルファの叫びにも誰も答えず南方棲戦姫さえも含めて逃げるようにその場を離れていった。

 1人廊下に残されたアルファが別れた後に何が起きたのかと慄いていると古鷹の部屋の扉が内側から開かれた。

 

「あれ、アルファ?」

 

 出てきたのが肉塊に変わり果てた古鷹だったもの…なんてことはなく、最後に別れた時と何ら変化の無い古鷹の様子に取敢えず安堵したアルファ。

 

「お帰りなさい。

 戻ってきたんですね」

『……アア』

 

 笑みと共に帰還を喜ぶ古鷹。

 取り立ておかしな様子もなく逆に何故イ級があんな態度をとったのか不可思議に感じていると古鷹が言った。

 

「丁度良かったです。

 今しがた完成したんです(・・・・・・・)

『…ハ?』

 

 そう言いながら扉を開ける古鷹。

 だがしかし、本当の恐怖は部屋の中にあった。

 

『…ウ……アァ…………』

 

 一言で言うならそこは猟奇殺人現場であった。

 部屋のあちこちに飛び散る真っ赤な体液。

 調理台の上のまな板は赤黒く染まりまな板に突き立てられた包丁にもべっとりと赤黒い体液が滴り、備え付けのシンクにはぶちこまれた骨やら肉片やらの残骸が捨て置かれていた。

 そしてそんな凄惨な殺人現場とも誤認しかねる部屋の真ん中に置かれたソレ(・・)にアルファの正気がガリガリと音を発てて削れていく。

 

『ソレ、ソレハ……』

 

 赤黒い部屋の中にあっていっそ狂気すら感じさせる白い皿に乗る、バンズに挟まれた葉物野菜と共にその存在を自己主張するそれは……

 

「『バイドバーガー』です」

 

 ソレを認識した瞬間、アルファの正気が音を発て砕け散った。

 

 

~~~~

 

 

 バイドツリーを巡る艦娘と深海棲艦の海戦()は闌を迎えようとしていた。

 

「『羅針盤』が荒ぶり始めた(・・・・・・)!!

 もう時間がないぞ!?」

 

 滅茶苦茶に針が震える羅針盤に声を荒げる那智。

 彼女のが言う『羅針盤』とは応急修理女神と同じく『妖精さんの加護』が凝縮した特殊なアイテムで、この羅針盤の指針に従うことで最小限の戦闘で敵本隊に到達出来るようになる。

 だが、何も利点ばかりではない。

 原因は今だ不明だが海域次第では特定の艦娘の存在が艦隊にいなければ安全なルートを示さないことも多く、海域に入っても渦潮が渦巻く場所へと誘導したり場合によっては敵の姿形もないまるで見当違いの場所へと誘導されてしまうことも多々あった。

 なにより問題なの深海棲艦によって完全に支配された海域での羅針盤の使用には期限があり、その期限を過ぎると一定期間の間全ての羅針盤が役に立たなくなるのだ。

 具体的に言うなら次のイベントが始まるまで(・・・・・・・・・・・・)

 そんな慎重な扱いを求められる羅針盤の期限が迫っているという報告に日向は指令を飛ばす。

 

「今回で終わらせるぞ!!

 索敵機発艦用意!!」

 

 日向の号令に従い彩雲を始め艦載機がそれぞれの飛行甲板とカタパルトにセットされる。

 しかし、仲間の声がその出鼻を挫く。

 

「巻雲より日向へ!!

 探診儀に感有りです!」

 

 いざ飛び立たんとしたその直前にもたらされる報に日向は小さく舌を打つ。

 

「…この間際で」

 

 探診儀という事は相手は潜水艦。

 速度を上げて撒いてしまうことは出来なくはないが、下手を打てば挟撃される恐れもある。

 最小の駄賃で如何に乗り切るか一考する日向に新たな報がもたらされる。

 

「あれを!?」

 

 そう指差す先には巻雲のソナーが捉えたとおぼしきソ級が浮上していた。

 潜水艦唯一にして最大の長所である潜航をしていないことを異様に思う日向達だが、更に驚くべき事にソ級は帽子のような生体艤装に白旗を掲げていた。

 

「降伏…だと……?」

 

 信じられない行動に緊張感を募らせる日向達に向けソ級は声を大に告げる。

 

「オマエタチ、イマスグスベテノカンヲヒキアゲサセナサイ!!」

「ふざけるな!!」

 

 上位種以外の深海棲艦が喋った事に驚くよりも白旗を掲げておきながら手を引けと言うソ級に怒りを露に那智が怒鳴る。

 しかし次いで放たれたソ級の言葉に再び耳を疑う羽目に陥る。

 

「スイキカラノケイコクヨ。

 『今ヨリ此の場ハ『狩場』トナル。1年前ヲ繰リ返シタクナクバ近付クナ』。

 忠告ハシタワ」

「待て!!」

 

 日向の制止を聞かずソ級はそう言い捨て潜航して去ってしまう。

 

「1年前を繰り返す……だと…?」

 

 そう呟いた日向の拳は背骨から這い上がる恐怖から震えていた。

 日向は1年前の『悪夢』を生き延びた一握りの一隻だった。

 だからこそ、ソ級の警告のその意味を正しく理解できた。

 

「…どうするんだ日向?」

 

 同じく『悪夢』から生き延びた那智の問いに日向は震える手を必死に制御し命令を下す。

 

「全ての艦載機を飛ばす。

 半分は世界樹に、残りの半分は他に警告を受けた艦隊がいないか確認させに向かわせてくれ」

 

 今のが時間稼ぎのための弄言でないという証拠は何処にもない。

 そしてもしも真実ならば…

 

「っ!?」

 

 最悪の事態を想定した日向は『悪夢』の中で焼き付けられた伊勢の死に様を彼女の肉が焼ける臭いまでもを想起してしまい強烈な吐き気を催すも、寸での所で胃の中に押し込み感情ごと無理繰りに艦載機を叩き出す。

 しかし表情にそれは出ており、鉄面皮と揶揄される日向の顔に鬼気迫るものが浮かび上がりその心中を察した那智が怒鳴る。

 

「全機発艦!!

 帰りの事は考えるな! 機体を棄てるつもりで全速力で飛べ!!」

 

 そう艦載機達に命じ、それを承った妖精さん達は飛び立つと同時にエンジンを焼け付かせる勢いでプロペラを回し空へと飛び立つ。

 その結果、大湊と湘南の支援艦隊にも同様の警告をもたらされていた事が判明し、そして…

 

「隼鷹より日向へ!?

 世界樹に飛ばした彩雲より報告!!」

 

 印を結んだ指先に呪の火を灯した隼鷹が普段の陽気さを全く感じさせない声で調査結果を叫ぶ。

 

「世界樹に向け多数の深海棲艦の接近を確認!!

 数は……」

 

 推定数を口にしようとした隼鷹だが、妖精さんの報告に息を飲む。

 

「どうした隼鷹!?」

「数は…青が六、黒が四!!」

 

 意味の分からない言葉に反射的に怒鳴り那智。

 

「正確に報告しろ!!」

「無理!?」

 

 那智を押し返す勢いで怒鳴り返す隼鷹。

 

「百や二百なんて数じゃない!! 

 それこそ鰯か秋刀魚の群れみたいに深海棲艦が束になって迫ってるんだよ!!

 あんなもんどうやって数えろってんだ!?」

 

 その報に言葉を無くす一同。

 それを証明するように程なく日向達の水偵からも数えきれない数の深海棲艦が世界樹を目指している姿を目撃したと報告が帰ってきた。

 

「青が六、黒が四……か」

 

 先程の隼鷹の報告は、あまりの数の深海棲艦により海の青さえ翳る様子だったのだと理解させられた那智は『悪夢』という言葉がしっくりくる光景を二度も目撃する羽目になるとはと乾いた笑いさえ込み上げてきていた。

 『絶望』さえ塗り潰す『悪夢』を前に艦隊に沈黙が過る。

 その中で端を切ったのは巻雲の声だった。

 

「撤退しましょう!?

 あんなもの勝てる道理がありませんよ!?

 撤退してこの情報を一刻も早く

提督と大本営に伝えるべきです!!」

 

 一見すれば臆病風に吹かれたと師かいえない巻雲の意見だが、あれを見てなお進軍を提言出来るものが居るならそれは現実を見ない愚か者かあの程度(・・・・)というほどの『地獄』を勝ち抜いた化け物か或いは……

 

「そうだな」

 

 巻雲の提言は当然採用される。

 死地に赴く事に躊躇はなくとも断頭台に喜んで踏み込むような者は最早艦娘ではない。

 

「那智。

 お前に旗艦を委譲する。

 全艦を率いて泊地に帰投しろ」

 

 まるで自分は帰らないと言うかのような口振りに那智はやはりかと思う。

 

「委譲してどうするつもりだ?」

「殿としてここに残り少しでも多く情報を集める」

 

 あれだけの数を前に我武者羅に逃げるより1人差し出して時間を稼ぐほうがより公算が高いと嘯く日向だが、それが嘘だと那智には簡単に知れた。

 『悪夢』から生き延びた日向は時折、それまでの自分を何処かに置き忘れたような顔をする時があった。

 酷く危うい、吹けば消えてしまいそうな様子でも生き残った者の責務が楔として作用し表面的には何事も起きなかった。

 だが、それは那智の勘違いだった。

 日向はあの日からずっと求めていたのだ。

 あの日、『悪夢』の中で燃え尽きた伊勢が居る地獄(場所)を。

 世界樹を巡る戦いで日向が大人しかったのは今回がただのイベントでしかなかったからだ。

 

「……撤退する」

 

 最早説得は通じないと察した那智はその提言を受け入れ抗弁する仲間を黙らせ撤退を開始。

 何度も後ろを振り返りながらも下がっていく仲間達が完全に見えなくなると日向は細く笑う。

 

「随分待たせてしまったな伊勢」

 

 こんなことをしたらきっと彼女は鬼のように叱るだろう。

 だがそれでも、日向の魂は地獄を求めてしまった。

 誘蛾灯に誘われる蛾のように日向(亡者)が地獄へと踏み出した頃、世界樹の一角にて信長は無数の艦を率いれた部外者(・・・)と相対していた。

 

「何者ダ貴様?」

 

 ヌ級のような甲板の帽子を被り装甲空母姫の艤装を装備した完全戦闘形態でそう問い質す信長。

 その深海棲艦は艶やかな長い黒髪に同じく黒色のドレスと一見して戦艦棲姫によく似ていたが、額の角は片方左のみに生え従える巨人型の艤装も首が二つ付いている。

 

「何者?

 ……くっ」

 

 問われた深海棲艦は信長の問いに何故か笑い出した。

 その笑いに見下した嘲りを嗅ぎとった信長は不愉快さを堪え再度問う。

 

「……何ガ可笑シイ?」

「くくく……。

 私が何者かなどと継ぎ接ぎのガラクタらしい問いが真っ先に出ることがに決まっているだろう?」

 

 その嘲笑に信長の不快感は一気に殺意へと昇華される。

 しかし深海棲艦はそれさえ愉快だと言わんばかりに笑いを深くする。

 

「ほう?

 名前ばかり水鬼を与えられた程度で戦艦もどき(・・・)のガラクタが本物の水鬼である私に挑むと?

 頭が高いわ!!」

 

 直後、信長の周囲に数多の着弾が発し多数の水柱が立ち上がる。

 荒れる足場に注水を以て耐える信長に不愉快だと戦艦水鬼は吐き捨てる。

 

「貴様如きガラクタに私が手を下すまでもない。

 ガラクタはガラクタらしくその不様、せめて紛い物の餌となって詫びなさい」

 

 そう言うと戦艦水鬼の周囲に新たな深海棲艦が浮上してきた。

 

「馬鹿ナ……?」

 

 現れ出でた深海棲艦達に瞠目する信長。

 現れたのは戦艦棲姫(・・・・)が二隻。

 信長の知る戦艦棲姫と違い巨人型の艤装の首が一つしかないが、それ以外に姫の姿に違いを見つけることは出来ない。

 信長の驚愕を他所に二隻の戦艦棲姫はその顔に嗜虐の嘲笑を浮かべながら無言で戦艦水鬼の前に並び立ちはだかる。

 しかし、驚愕を治めた信長の内を過ったのは姫二隻を前にした絶望への恐怖などではなく、目の前の紛い物に対する純粋な怒りであった。

 

「貴様等……」

 

 力ばかりを求め人類種の天敵の頂点たる姫の似姿を真似た紛い物達への怒りのままに力を振るおうとした信長だが、浮上してきた更なる追撃に今度こそ言葉を失う。

 

「………」

 

 現れたのは白い髪をポニーテールに結った少女。

 信長が心酔しその生き様を継いで見せると誓った愛しき艦。

 

「……ほう?」

 

 その深海棲艦を見た信長の怒りが凪いだ事に気付き戦艦水鬼は愉快そうに煽る。

 

「久し振りの邂逅がそれほど嬉しいの?

 なんなら一隻くれてやってもいい「黙れよ」」

 

 その口から放たれたのは酷く軽い、それでいながら一切の弁も赦しはしないという『憎悪』の塊。

 

「貴様等は汚してはならないものを汚した」

 

 『憎悪』を糧に信長は更なる変貌を遂げる。

 海月のような飛行甲板がより機械的な光沢を発しながら巨大化すると共にカタパルトを展開し背負った艤装も砲が16インチから18ふインチへと肥大化するのに加え魚雷発射菅を喉に備えた新たな首が生え伸びる。

 

「戦いに挑む意志も持たず誇りもなく」

 

 信長の『憎悪』に充てられ紛い物の姫達が臨戦態勢に移る。

 

「力を振る由も持たず信念もなく」

 

 姫達が殺気立つ中、名前に相応しくより深化(・・)した信長がどうなるか観察するつもりらしく戦艦水鬼は艤装の腕に腰を下ろす。

 

我等(・・)を愚弄した罪は重いぞ紛い物共!!」

 

 信長が宣う怒号と共に地獄の釜が開いた。

 




イベント辛い。

E5のラスダンは終わらないし資源の備蓄がてら照月狙って掘っても出てくるのが春雨磯風浦風天津風って保有枠厳しいからダブっても残せねえんだよ……

あ、作中ですがイ級がアイデアロール成功で一時発狂して激しい恐怖に身動き取れなくなって、アルファがアイデアロール成功プラスバイド知識(神話技能と同じ)のボーナスで不定の狂気に入ってます。

次回は照月掘れるかE7終わったら投下します。⬅

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