なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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これは愉快な茶番だ


ははは

「あれが俺達の島だ」

 

 二隻と共に島に帰ってきた俺は久方ぶりに見る平建ての建物がある島の姿に本当に帰ってこれたんだとしみじみ感動していた。

 

「なあ、島の近くで雷撃の水柱が立ってるように見えるんだけど?」

「俺には見えない」

 

 いやだなぁ。

 一瞬見えた木曾と北上が女の子がしちゃいけない類いのガチギレ顔で互いに向けて雷撃しあってるなんてそんなわけないじゃないか。

 

「え、でも、あっちで千代田達が……」

 

 ないない。

 瑞鳳ちび姫対鳳翔千代田で両方が笑みという名の威嚇をしあいながらガチ航空戦とかあるわけないって。

 

『御主人……』

 

 アルファまでどうしたってんだ?

 まさかお前には殺意全開の鈴谷対酒匂対山城対熊野の砲雷撃戦バトルロワイヤルが見えてるってのか?

 いやだなぁ、殺伐した日常が長過ぎてPTSD患ったのか?

 

『現実ヲ見テクダサイ』

 

 現実逃避する俺にアルファの容赦のない言葉が突き刺さる。

 ……はぁ。

 

「なにやっとんじゃお前らはぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!????」

 

 クラインフィールドでブースター作り二隻を置き去りに初速から100ノットオーバーの超加速で戦場に飛び込む。

 実はこれ、レ級の屑野郎の時に素早く追い付くために発現させてたんだが、燃料を馬鹿みたいに消耗するからよっぽどのことがあっても使わないけど今だけは使わざるをえない。

 

「イ級!?」

「ヤバッ!? もう戻ってきたの!?」

 

 なんか微妙に聞き捨てならない台詞が聞こえた気がするが俺は構わず飛び込むのに使ったブースターを解除しありったけのクラインフィールドを鎖状に展開して全員縛り上げる。

 

「ぴゃあっ!?」

「うわっ!?」

「これは…!?」

 

 驚きの声が上がる中俺は鎖を引き寄せ自分の前に引っ立てる。

 最初は誰も抵抗していたがすぐに諦め、全員漏れなく海上に正座する形になったところで俺は怒り混じりに事情を問いただす?

 

「なんでこんなことになったんだ?」

 

 その問いに反応は様々。

 

「いや、あのね?」 

 

 しどろもどろにだが真っ先に弁明を図ろうと試みた鈴谷に先じて釘を刺す。

 

「演習でしたなら俺が到着したことに焦る必要ないよな?」

「うっ!」 

 

 ついでにカマを掛けたんだが思いっきり引っ掛かるなよ。

 宗谷と明石の姿が無いのに疑問が浮かばないのは二人はR戦闘機が無ければただのイ級相手にも苦戦するから端から除外してるだけ。

 そうこうしている内に北上が代表して説明を始めた。

 

「いやさ、野菜の収穫が終わったら試しにカレーを作ろうって事になったんだけどさ…」

 

 そこで言い淀むなよ。

 まあ、大体察したけどさ。

 

「まさか、カレーに合わせる主食で争ってたのか?」

 

 だしたらみみっち過ぎんぞ。

 

「だけなら良かったんですが……」

 

 ……。

 

「それはもしや?」

 

 なんとなく事情を把握しつつも正解を促すと、その答えはまさかの予想通りだった。

 

「ご飯の代わりにじゃがいもは嫌なの」

「大豆なんてありえないから」

「絶対パンは嫌」

「麦だけの麦飯は麦飯と言いませんわ!!」

 

 そうそれぞれ主張する四人。

 酒匂他は主食で争っていたらしい。

 

「で、そっちは?」

「姫ちゃんが食べられないから辛さは甘口以外あり得ないから!!」

「辛口とは言わないですが甘口は流石に……」

「同じく」

 

 こっちはこっちで辛さの案配に折り合いが立たなかった模様。

 

「んで、二人は何でだ?」

 

 その内容がカレー絡みだというどうしようもなさは脇においといて、主食と味、そのどちらの戦いにも参加せず本気の殺し合い紛いの戦闘に至ったのだから相当に譲れないなんかがあったはず。

 そう思っていたんだが……

 

「イ級はカレーに肉は絶対必要だと思うよな!?」

「はい?」

「イ級は分かってくれるよね?

 肉なんかより烏賊とか海老とかシーフードがいっぱい入ったカレーのほうが美味しいって」

「へ?」

 

 ……まさかこいつら、カレーの主力で争ってたの?

 力強く同意を求める木曾と猫なで声で賛同を促す北上にどっと疲れが沸いてきた。

 俺が呆れすぎて何も言えなくなっているとそれぞれ自分の意見を押し通そうと言い争いが再び勃発する。

 

『コレハヒドイ』

「言うなよ」

 

 惨状にアルファでさえ匙を投げたように漏らす中ふと気になって唯一茅の外気味なちび姫に問う。

 

「結局、古鷹と春雨はどうしたんだ?」

 

 穏健に皆に任せるで済ませたのだろうと期待したのだが……

 

「ふるたかはちかづいちゃいけないっていわれたの」

「は?」

 

 まさか……

 

「とうとうバイド化が「ちがうよ」ん?」

 

 皆が本気になったのも古鷹のためにと度が過ぎたのかと思い直したんだが、ちび姫がそれを否定する。

 

「ふるたかはばいどをおいしくたべるほうほうをためしてるからちかづいちゃいけないっていわれたの」

「……なにそれ?」

 

 バイドを美味しく食べる方法?

 そもそもバイドって食べれるの?

 つうか…

 

「アルファ?」

『私ハ何モ関与シテイマセン』

 

 お前何かしたのか?

 そう聞こうとする前にさっと目を反らしやがった上思いっきり食い気味に答えたよな?

 

「じゃあなんで顔逸らしてんだよ」

『アラヌ誤解ヲ生マヌタメデス』

「それで更に疑われてたら訳ないんだが?」

『ソレデモ私ハ無実デス』

 

 間違いなくなんかあったなこの野郎。

 追求するべきなんだろうけど

 

「エビカニホタテ!!」

「カモメウミガメクジラ!!」

「甘口!! 絶対甘口!!」

「軍艦の誇りに懸けて辛み抜きは認めません!!」

「大豆!!」

「芋!!」

「麦飯!!」

「パン!!」

 

 三人寄れば姦しいを通り越して喧喧囂囂一歩も譲らず喚く仲間共にどっと疲れはて、俺はいつの間にか解けてたクラインフィールドを張り直すのも面倒になりそっとその場を離れる。

 

「……いいのか?」

「限度は弁えてるだろうし燃料か弾が尽きたら帰ってくんだろ」

 

 ホ級の問いにそう投げやりに言うと困惑する二人を引っ張り俺は一足先に島へと帰った。

 

「あ、お帰りなさい」

 

 島に戻るとチ級の手を借りて白い麺みたいなものを干している春雨が俺に気づき笑顔で出迎えてくれた。

 

「……癒しがここにいた」

「はい?」

 

 帰宅早々のばか騒ぎと打って変わる期待した通りの光景に思わずそう漏らして春雨を困らせてしまった。

 

「いやすまん。

 さっき木曾達を見ちまってさ……」

「あはは…」

 

 それだけで察してくれたらしく春雨は困ったように笑う。

 

「オカエリナサイアネゴ」

「ただいまチ級。

 島をちゃんと守っててくれてありがとうな」

「ハイッ!」

 

 そう労ってやるとキラキラが浮かびそうな勢いで喜ぶチ級。

 蔑ろにしてるつもりはなかったが、これからはこまめに感謝の言葉はあげようとそう誓った。

 

「ところでそちらの二人は?」

「ああ、今日から島の仲間になる軽巡と輸送だ」

「分かりやすくホ級と呼んでくれ」

「ワ級です。

 よろしくお願いします」

 

 そう頭を下げる二隻にチ級と春雨も頭を下げる。

 

「駆逐艦春雨です」

「ライジュンヨ。

 センパイトシテイロイロオシエテアゲルワ」

 

 波風立つこともなく普通に挨拶する姿に安心していると視界の端で隠れるように建物へと向かうアルファに気付いた。

 

「なにしてんだアルファ?」

『古鷹ノ様子ヲ確認シニイクダケデスガ?』

「……」

 

 さらりと言うけど俺に断るどころか隠れて向かおうとしてたよな?

 

「俺も行く」

『イエイエ。

 餅ハ餅屋トイイマスシ、私ガ様子ヲ確認シテオキマスノデ御主人ハ先ニ他ノ者ヲ労ッテクダサイ』

「そうもいかねえよ。

 古鷹はバイドとやりあったって聞いてるし汚染の具合とか自分の目で確かめておきたいしな」

『ソレコソ同ジバイドデアル私コソ適任カト。

 ソノ辺リモ含メキチント確カメテオキマス』

 

 なにがなんでも俺を会わせない気かこんにゃろう。

 とはいえここまで強情を張るアルファをどう丸め込んだが。

 

「ア、ソウイエバアカシガアルファガモドッテキタラスグニキテホシイッテイッテタワヨ」

 

 一計図るかはたまた命令でごり押すかとアルファを出し抜く算段をたてるより先にチ級がそう言伝てを伝えた。

 

『エ゙』

 

 まさかの事態に絶句するアルファだがすぐさま体勢を立て直す。

 

『分カリマシタ。

 古鷹ノ様子ヲ確認次第』

「いやいや。

 明石が呼んでるってなれば多分R戦闘機絡みだろうし様子を見るだけなら俺でも十分だから行ってこいや」

『シカシ』

 

 よっぽど俺を先に行かせたくないらしく食い下がるアルファ。

 だが甘い。

 

「さっきいったろ?

 『餅は餅屋』。

 わざわざ呼ぶって事は相当なんだろうし早く行け」

『グッ…』

 

 口惜しそうに言葉に詰まるアルファに勝ったと確信した俺だが、

 

「あら?

 やっと帰ってきたのね駆逐」

 

 軽い口調でそう呼び掛けた南方棲戦姫にひょいっと持ち上げられてしまった。

 つうかなんで居るんだよおい?

 

「……いつから此処に?」

「着いたのは昨日よ。

 ちょっと頼みたいことがあるのんだけどいいかしら?」

 

 リラックスした様子でそう言うけどさ、この状況のどこに拒否権が?

 

『デハ明石ノ所ニ向カイマスネ』

 

 この気を逃すかと言わんばかりに最短距離を駆け抜けるため亜空間に飛び込むアルファ。

 さっさと終わらせて古鷹を押さえる算段か!?

 だがそれは此方も同じこと。

 

「用事って?」

 

 アルファより先に南方悽戦姫の用件を済ませて不貞の証拠を掴んでやらあ!

 そんな意気込みをおくびに出さぬよう気を付けながらそう訊ねると南方棲戦姫は苦笑する。

 

「立ち話もなんだしどこか腰を落ち着けたいんだけど?」

 

 こっちは急いでんだよ!?

 とはいえ相手は最古参の猛者中の猛者。

 下手に不興なんか買って酷いことになるのも勘弁して欲しいしここは素直に要求を飲もう。

 

「食堂でいいか?

 燃料ぐらいしか出せるもんは無いけど」

「いいわよ」

 

 呆気にとられるホ級とワ級をチ級と春雨に任せ俺は南方棲戦姫の小脇に抱えられた状態で食堂へと運ばれた。




ということでカレー戦争勃発しますた。

最終勝利者は果たして誰になるやら⬅

次回は南方棲戦姫の依頼、イ級対アルファの仁義なき戦い、装甲空母水鬼信長覚醒すの三本立ての予定。

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