なんでこんなことになったんだ!?   作:サイキライカ

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君は我々(・・)を愉しませてくれるかい?


Those who look into the abyss
さあ


「博士~」

 

 雷の調整(・・)に勤しんでいた如月を媚びるような甘ったるい声で呼び掛ける愛宕。

 愛宕の声に如月は作業を続けたまま問い掛ける。

 

「どうしたんだい愛宕?

 また大和が脱走しようとしたかい?」

 

 そう問う如月の背中に豊満な乳房を押し付けながら愛宕はええと笑む。

 

「今日はとことん気が立ってたみたいでぇ、逃げられちゃいました」

 

 ブラをしていない双丘は如月の背中に服越しでありながらその柔らかさを十二分に伝えるも、微塵の欲情の気配も見せずそのとてつもなく重大な失態に対して如月は苦笑した。

 

「おやおや、それは困ったことだ」

 

 まるで飼い猫がケージから逃げたかのような気楽さでそう言うと、如月は作業の手を止め雷に言う。

 

「雷。

 聞いていたかい?」

 

 問いかけられた雷は閉じていた双眸を開きそう聞いていたわと答えた。

 

「ならばいい。

 君の新しい艤装の試運転も兼ねて大和を連れ戻してほしい」

「いいわよ」

 

 憎悪に濁った瞳と凍り付いたように固まった表情を両立するちぐはぐな雷はでもと確認する。

 

「間違って殺しちゃっても構わないわよね?」

「構わないよ」

 

 不具合しか感じさせない笑顔で如月はそれを肯定する。

 

「調整が終わっていない方ならまだしも、携行用の艤装程度に殺されるなら大和も今までの失敗作の一つだったというだけだからね」

 

 薄い笑みを湛えながら吐き出されるおぞましい台詞に愛宕も雷も然したる悪感情を抱く様子もなく、愛宕は無言で艶かしげに腰を揺らし雷はそうとだけ口にした。

 

「じゃあ行ってくるわ」

 

 そう言うと雷は身の丈を越える碇が取り付けられた深海棲艦を素材にした特Ⅲ型駆逐艦の艤装を背負い部屋を出ていく。

 

「うふふ。

 雷ってばいい感じに完成(・・)したわね」

「まさか」

 

 愛宕の言葉に如月は言う。

 

「あの娘はまだ適応(・・)出来ただけだよ。

 扱いこなすにはもっと繋がってもらわないと(・・・・・・・・・・)

 

 そう言うと雷の艤装(・・)に目を向ける。

 

「惜しむらくは未だにコレ(・・)を私の手で建造出来ない(・・・・・・)ことか」

 

 そう呟くと愛宕が愉快そうに笑う。

 

「うふふ。

 博士は本当に研究がお好きですわね」

 

 そう言いながら更に胸を押し付けちろりと頬に舌を這わせる。

 

「でも、これだけ誘っているんですから、少しは私にも構っていただけませんか?」

 

 そうおねだりする愛宕に如月はやれやれと眼鏡に手を掛ける。

 

「確かに君の調整(・・)もそろそろ必要だろうからね。

 いいよ。手も空いた事だし相手になってあげるよ」

 

 そう宣うと愛宕を引き寄せそのまま作業台に押し倒した。

 引き倒された愛宕はこれから与えすられる快楽に期待を膨らませながら、同時に気になったことを問う。

 

「ところで博士。

 大和ってば日本じゃなくて太平洋に向かったんですが理由はわかりますか?」

「太平洋かい?」

 

 如月は上着のボタンを外し愛宕の下肢へと伸ばした手を止めることなくその問いに仮説を並べる。

 

「おそらく南極を経由してサーモン海域を抜ける気なのだろう。

 生きて帰ってきたら良いデータが手に入りそうだ」

 

 そう言うと如月は服がはだけ露になった裸身を曝す愛宕に覆い被さり調整(・・)を始めた。

 

 

~~~~

 

 

「漸く帰れるな…」

 

 会談が終わり視察の日程を終えた元帥が乗ってきた護衛艦でリンガを後にしたのを確認し、念のため1日様子を見てから俺もリンガを発とうとしていた。

 (バイドの処理を含め)忘れ物が無いかの確認を終えいざ帰らんと言った矢先に磐酒提督が見送りに来た。

 

「わざわざ見送りに来なくてもいいのに」

 

 ちなみに今日の護衛は武蔵と赤城と神通。

 ついでで見送りに参加しに来た模様。

 そう言うと磐酒は苦笑する。

 

「一応招いた手前、締めはちゃんとしないとな」

「そうかい」

 

 散々迷惑掛けたしさっさと帰れぐらい言っても良いと思うんだが、磐酒は真面目な様相で口を開いた。

 

「レ級の件は本当に感謝している。

 立場上礼は出来んが、それだけは言わせてくれ」

 

 礼は出来んって、もう十二分にもらってるよ。

 

「分かった。

 今後は海で会わないことを祈っとくよ」

「…そうだな」

 

 苦笑する磐酒。

 そこで不意に赤城が俺に問い掛けた。

 

「一つ聞いても良いですか?」

「なんだ?」

 

 オススメのボーキサイトの産出地か?

 大したことない話かと思ったんだが、赤城の表情は真剣だった。

 

「貴女は運命は抗えると思っていますか?」

「……は?」

 

 いや、なにいきなり難しい質問をしてくるんだよ。

 よくわからないが適当な回答をしちゃいけない雰囲気だし、なんでか武蔵と神通もその問いの答えを真剣に聞きたがってる様子。

 とはいえ曖昧な質問と言うか、そんなこと考えたこともないんだが……そうだ。

 

「答えとは違うかもしれないがいいか?」

 

 そう前置くと赤城が頷いたので俺は言う。

 

「これは俺じゃなくて別の奴の言葉なんだが、運命って言葉は言い訳なんだと」

「言い訳?」

 

 首を傾げる赤城に俺は頷く。

 

「運命なんてのは『終った事』を納得させるための言い訳。

 望まない未来なら捩じ伏せて替えちまえ。

 そして勝ち誇りながら言ってやればいい」

 

『これが運命だ』

 

 そう言うと三人はぽかんと呆けた顔をして不意に笑いだした。

 

「成程。

 そいつはいい」 

 

 正直外したかなと思ったし言ってて超恥ずかしかったんだが、結果はまあまあ悪くなかったらしい。

 

「決められた未来なんて存在しない。 

 あるのはただ、己等で築いた足跡のみ。

 貴女らしいですね」

 

 なんかいい感じみたいだし下手なことになる前に俺は海へと向かう。

 

「じゃあな」

 

 これ以上話してボロが出ても困るからそう言って俺は海へ飛び込んだ。

 そのまま沖へと向かう潮に乗って一気にリンガから泊地周辺へと更に暫く奮っていなかった機関を無理ない程度に存分に回し加速して領域外へと飛び出していく。

 

「いやはやなんでこんなことになったんだかねえ」

 

 何事も無ければ今頃島でカレー食ってた筈だってのに。

 そういや主食を米の代わりにじゃがいもとナンのどっちにするかで割れてたけど、いい加減決着着いたんか?

 面子増えて余計に荒れてたりして。

 

『御主人』

 

 んなこと考えてたらカタパルトからアルファが呼んできた。

 

「どうした?」

『先程赤城ニ言ッタ言葉デスガ、誰ガソレヲ?』

 

 ああ、あれね。

 アルファが知らんのも無理はないか。

 

「実はな、あの言葉を言ったのはゲームのキャラなんだよ」

『……ハイ?』

 

 アルファが目を点にしてる気がするけど今更誤魔化せないしな。

 

「細かい内容は省くけど、そのゲームのラスボスが世界の悪意の集合体で、そいつが運命には抗えないって言うのに対抗して主人公達が運命って言葉は言い訳だって反論するんだよ」

 

 ひ○らしの運命は障子紙だってのも悪くないけど、俺的にはやっぱりペル○ナ罰の酸いも甘いも噛み分けた大人達の発言のほうが好みなんだよな。

 

『……』

「もしかして、呆れたか?」

『……少シ』

 

 デスヨネー。

 

『デスガ』

 

 また失望させたかと軽く落ち込んでたらアルファは言った。

 

『御主人ニアレダケノ大言モ吐ケナイデスシ納得シマシタ』

「然り気無くディスられてるのは聞き流すべきか?」

 

 駆逐イ級だしヒエラルキーが低いのは気にしないが流石に堪えるぞ?

 

『一応評価シテマスヨ?』

「何処が?」

『チャントソレガ受ケ売リダト言エルコトガデス』

「それはプラス評価なのか?」

『エエ』

 

 そんなところで評価されてもあまり嬉しくないんだが……。

 

「まあ、貰って困るもんでもないか」

 

 特に内容があるとは思えない会話をしつつリンガからサボを経由しつつ島のあるフィリピン領海のレイテへと向かう。

 特段アクシデントもなく1日が過ぎ、太陽がかなりの高さまで登った頃策敵を任せたアルファが報告を持ってきた。

 

『御主人、スコープ・ダックガ近クニ深海棲艦ヲ見付ケタヨウデス』

「案配は?」

 

 そろそろ戦艦棲姫の縄張りも近いし下手に絡まれると面倒なんだよな。

 

『軽巡ト輸送艦ノ二隻デス』

「ふむ…」

 

 姫の配下ならあんまり珍しくはないけど、だけと二隻だけってのは引っ掛かるな。

 

「状態は?」

『ドチラニモ損傷ハ見受ケラレナイソウデス』

 

 無傷の艦が二隻だけ?

 

「なんか変だな。

 ……バイド化はしてないんだよな?」

『ハイ』

「……そうか」

 

 ほっといても問題は無さそうだけどなんか気になるな。

 

「ちょっと会ってみるか。

 アルファ、先行して注意を引いてくれ」

『了解』

 

 俺の命令を受けたアルファは発艦状態からフォースを装備し先行する。

 わざわざフォースを出したのは撃たれることを警戒してなんだろうけどさ、それって逆に警戒させないか?

 んなこと思いつつアルファを追うこと暫し、水平線の向こうにフォースを構えるアルファとアルファからワ級を庇うように立ち塞がるホ級の姿が見えてきた。

 う~ん。やっぱりああなったか……

 

「双方待て!」

 

 敢えて高圧的に制止の声を出すとアルファが俺の前に移動して二隻もこちらを向いた。

 打ち合わせしてないんだが上手い立ち回りをしてくれたアルファには後で感謝しないと。

 

「お前は…」

 

 他の深海棲艦に比べかなり流暢な言葉を発したホ級が俺に驚いた。

 それはワ級も同じらしいが俺に面識は無い。

 見た目同じなのに違いがあるのかと言われそうだけど深海棲艦の視点だと結構違いがあるから分かるんだよ。

 因みに後ろのワ級を見ればこっちは明確に差異がある。

 その差異はあつみと同じでお腹が殆んど膨らんでないこと。

 それとお腹の代わりかボロ布みたいな帯で覆われた胸が普通のワ級に比べかなり自己主張している。

 目算だと千代田並か?

 ともあれ俺は話しかける。

 

「お前達、何処に向かっているんだ?」

「……答える必要があるの?」

 

 驚いた。

 ホ級だけじゃなくてワ級もかなり流暢な言葉を喋ってる。

 

「いや、この辺りは姫の領海に近いからな。

 知らずに入り込んだら襲われるって忠告しようかと」

「……そう」

 

 疑う様子ながらワ級がそう言うとホ級が訊ねた。

 

「お前は姫の配下なのか?」

 

 なんつうかかなり男前な喋りかたをするホ級だな。

 まるで木曾みたいだ。

 

「領海の離島に拠点を構えてはいるが部下って訳じゃない」

 

 こう見えて鬼扱いだしなと苦笑してみると二人がまた驚きそこでアルファが提案をした。

 

『御主人。

 コノ二隻ヲ配下ニ加エテハドウデスカ?』

「え?」

 

 いきなり唐突過ぎる提案に抜けた声を溢してしまう。

 そりゃまあへ級が酒匂になっちまった上一気に三人も艦娘が増えてバランスが悪くなったのは確かだけど……。

 

「お前の配下には何がいるんだ?」

 

 スカウトするか悩んでいるとホ級がそう質問を投げてきた。

 まあ気になるのも当然か。

 

「直線の部下は輸送艦と潜水艦が二隻。

 後部下と言うか舎弟? そんな感じで軽母と雷巡と駆逐艦が二隻だな。

 それと同居している空母が一艦隊抱えている」

「思ったより少ないのね」

 

 もっといると思っていたらしいワ級がそう漏らし俺は気分だけ肩を竦める。

 

「うちはかなり特殊な立場にいるんでな。

 それと仲間に艦娘がいる」

「「艦娘っ!?」」

 

 その言葉に二隻が凄い勢いで食い付く。

 

「な、何がいるんだ!?」

 

 あまりの剣幕に若干引きつつ俺は正直に答える。

 

「木曾と北上と千代田と瑞鳳と明石と鳳翔と古鷹と春雨と酒匂に鈴谷と熊野に山城と宗谷の十三人。

 それとたまに氷川丸が寄ることがあるが……」

「めちゃくちゃ大所帯じゃないか!?」

 

 なんかテンションが降りきれたホ級に引きつつ俺はいい忘れていたことを思い出す。

 

「すまん。

 それらにプラス姫がいる。

 ついでにさっき言った空母は装甲空母の後任として水鬼に格上げされてたわ」

 

 イベント開始からそろそろ半月だしもうすぐ帰ってくるんかね?

 

「「……」」

 

 被り物のせいで表情は分からんが多分呆れから開いた口が塞がらないんだろうな…。

 

「で、なんだがいいか?」

「お、おう?」

 

 戸惑いから抜けてないとこ悪いが話を進めさせてもらう。

 

「もし行く当てが無いんだったらうちに来ないか?

 さっきも言った通りうちには艦娘と深海棲艦が一緒くたに暮らしてる関係から姫ないし深海棲艦側だけじゃなくて、艦娘の上からも仕事が回される場合がある。

 そういった雑事に関わりたくなければ島の防衛とか資源の回収とか運営に関わる作業だけでも構わないぞ」

 

 勧誘している内になんだかこの二隻を絶対引き入れなきゃいけない気になってそう言葉を並べていた。

 なんでだろうか?

 初めて会ったのになんかもう一度手放したくないってそんな訳のわからない感情が膨れ上がってきてるんだよ。

 俺の勧誘が一段落して沈黙が訪れる。

 二隻は暫し押し黙った後ホ級が口を開いた。

 

「……わかった。

 そこまで言うなら配下には加わる」

「……そうか」

 

 誘いを応じる答えに安堵した俺は自分が思っていた以上に緊張していたらしく無意識に口から溜め息が溢れてしまった。

 

「それで、これからは何と呼べばいいの?」

 

 ワ級も了承したらしくそう訪ねてきた。

 

「鬼でも駆逐でも好きに呼んでくれて構わないぞ。

 艦娘からは見た目のままイ級って呼ばれているな」

 

 そう言うと二隻は俺の事をイ級と呼ぶと告げた。

 

「分かった。

 詳しい仕事の割り振りは島の皆と顔合わせを済ませてからにするとして、島では幾つか注意点があるから向かいながら説明させてもらうぜ」

 

 そう断ると俺は再び島へと舵を切り二隻にバイドとR戦闘機の某を初めとした様々な事を語り始めた。

 




ということでここから新章に入ります。

バラバラになっていた伏線を纏めつつ最終章に向け頑張らねば……

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