※注、今話は可能性のひとつです。
「―――、―――――、」
つんと肌を指す冷気が空の雲を全て払い除けた青い空に歌声が響く。
歌を紡ぐ少女は海風に削られた岩礁に腰を掛け死人と見紛うほどに白い足をゆらゆらと揺らしながら滔々と歌い続ける。
白いのは足だけではない。
身に纏うノースリーブのワンピースとワンピースから伸びる腕も、腕を肘から覆う手袋も、緩やかにウェーブを描く髪も真っ白であった。
白の色彩の中で異彩を放つ赤い瞳は暁に燃える水平線を静かに見つめていた。
「ヒメ」
空を見上げ歌い続ける少女に一隻の深海棲艦が声を発した。
「テキガキマシタ」
「……」
砕けた艤装を纏い杖を突いて足の代わりに立つ深海棲艦の言葉に歌を紡ぐのを止め姫と呼ばれた少女は問う。
「どっちが来たの?」
その問いに深海棲艦は忌まわしそうに答える。
「イツモノトオリ
憎しみに満ちた言葉に姫はそうとだけ口にすると立ち上がり命を下す。
「おそらく今回が最後よ。
動ける者は全て出しなさい」
姫の命令に深海棲艦はハイと応えた後、悔しそうに声を絞り出す。
「ワレワレハ、マケルノデスネ」
ともすれば敗北主義者と処断は避けられないだろう言葉だが、姫は咎める様子もなくいいえと否定した。
「私達はとっくに負けていたのよ」
あの日にね。と言った。
「……ソウデスネ」
あの日、彼女を除外した全ての姫がこの世から姿を消した。
姫だけではない。
艦娘も、バイドも、エレメンタルドールもあの日に起きた戦いで誰一人として生還叶わずこの世から消滅した。
そしてそれは姫の暮らしていた、あの奇妙な駆逐イ級を中心とした小さなコミュニティも例外ではなく、ただ一人戦場から遠ざけられていた『北方棲姫』だけが残された。
一人残された北方棲姫は
最後の悪足掻きの準備をするため下がった深海棲艦を見送り、北方棲姫は不意に吹いた海風に顔を向ける。
「……なんで、」
思い出すのはかつての日。
イ級が、アルファが、陽菜が、瑞鳳が、皆が皆笑っていられた日々。
そこには争うべき間柄であっても相容れぬ隔たりがあっても、そんなものは知ったことかと肩を並べ、食事を共にし、時に些細な理由で砲を向けあってその後でごめんなさいと謝りあって、そんな奇跡が重なりあった夢の日々はもう何処にもない。
「なんでこんなことになったのよ」
涙と共に溢れた問いに、潮騒は答えてくれなかった。
BADEND-【夜鷹の夢】
到達条件:イ級が請けた依頼にて●●との●●を拒否した上でバルムンクを使用し、その後の選択肢で【殺してでも押し通る】を選ぶと突入。
今回のバッドエンドは自分が用意しているエンディングの中でも最悪の結末です。
イ級達は全滅し艦娘もいなくなった灰色の世界で北方棲姫が最後の深海棲艦として駆逐されていく……自分でドン引きするぐらい救いがねえなこれ。