ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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非戦闘主人公なんで、やはりそういったところでは執筆が遅れますね。ゴリ押しが出来ない……。
次回も多分遅れます。
燃えるシーンを書きたいので……。

ネルちゃんは原作主人公ポジなので、そろそろ影を濃くしておかないと……!
ヒロイン?
皆様の思うヒロインが、今作のヒロインです(キリッ
え? 誤射姫? 


夜の帳

 

「……よし、終わりっと」

 

 キーボートに打ち込んでいた指を休め、僕は小さく息を吐く。同時に背骨を大きく伸ばして、骨を鳴らした。

 今、僕がまとめていたのはブラッドの戦闘データ。そしてゴッドイーター達のレポートを元にしたアラガミの生態データである。

 オペレーターと研究者を兼業かつ自称するにおいて、この二つは僕が最も頭に入れておかなくちゃならない事なのだ。

これから製作するアイテムのコンセプトや、オペレートする際の留意を無意識と言う所へ刻み付ける。僕がわざわざ、データをまとめたりするのはそういう訳だ。

 窓から外を見れば、もう真夜中でほとんどの人達はもう眠りに着いている頃だろう。この時間に起きているとすればそれはアラガミか相当手練れのゴッドイーターか、真実を追い求めるジャーナリストかのいずれかだ。

 まぁ、僕はどちらでもないけど。

 

「……」

 

 気が付けば僕は研究室を出て、庭園へ向かっていた。と言うよりも日課だ。

 僕は眠る必要が無い。もっと言えば休息など不要なのだ。僕の体はそうなるように出来ている。

 いや、少し違う。僕がそうなるように望んだだけだ。言うなれば、トランプの山から好きなカードを選んで手札を作るような物と変わらない。

 

「うわ、眩しっ」

 

 庭園への道はそう長くない。――と感じるのも、余り人がいないからだろう。フライアの中は相変わらず明るいけど、意識のある人はほとんどいない。

 

「お疲れ様です」

「うん、お疲れ様」

 

 受付に立っていたフランちゃんに挨拶を返す。彼女もオペレーター成り立てであると聞く。きっと今日一日の振り返りを行っていたのだろう。

 もう深夜だと言うのに、その顔は疲れを感じさせない。僕も見習わないと。

 階段を下りれば、そこには空になった瓶を床に置いて、ソファへ寝転ぶロミオとギルの姿がある。

 この時間まで何を話していたのかは分からないけど、二人の寝顔が心地良さそうなのをいると、余程楽しい話だったのだろう。

 

「ははは、風邪引くよ。二人とも」

 

 フランちゃんから毛布を二枚貰って、二人の体に掛けておく。ゴッドイーターと言っても、風邪は引くし熱は出るのだ。

 他の人と何ら変わらない。

 そのままエレベーターを乗り換えて、庭園に降りる。

 色とりどりの花々が一面に咲き、それは月明かりに照らされていた。僕はこの光景を見るのが好きだ。

 何というか、こういった幻想的な光景が僕は好きなのだろう。

 庭園の奥にある木の幹に座り込んで、目を閉じる。

 

「……」

 

 僕の前の名前――言うなれば転生する前の名前はもう思い出せない。それがどうしてなのかは分からないけれど。

 だから何とか時間を切り詰めて、こうして前の世界を思い出すための事をしている。

 このおかげで、何とか前の世界の両親と親友達は忘れずにいられるんだ。もし、それを忘れてしまったら。僕は恐らく――闘争を求めてしまうから。

 

 

 それは僕には不要だ。剣に選ばれず、牙すら生えない僕には何の意味も無い。

 

 

 

 

「……眠れない」

 

 私、ネルティスはそんな理由でフライアのロビーまで降りて来た。理由は簡単で、エミールの幻聴が喧しいからである。

 本当はそんなことないんだろうけども―と言うか表現がおかしいけど―、何故か彼の声がフラッシュバックされてしまい、眠れなくなってしまったのだ。

 後一言言うけどこれは恋とかじゃない。そもそもときめきの理由が大声とか虚しすぎるし。

 

「……そういえば庭園があったんだ」

 

 ふと案内板を見れば、そこに庭園の案内が書いてあった。庭園は二十四時間開放されていて、フライアに訪れた人ならば誰でも見ていく事が出来る。

 私も一度、訪れた事があるが絶景だった。今の時代、あんな場所があるなんて誰も思わないだろう。

 それに窓もあったから、今頃は月明かりで綺麗に照らされている頃だろう。

 

「よしっ」

 

 なら行くしかない。

 そうして庭園に入った時、誰かが木の幹にもたれかかっているのが見えた。

 

「……?」

 

 よく目をこすると、何となくその人の姿が見えて来る。白い白衣に、見慣れたゴーグル。目を閉じたその表情はどこか、眠たそう。

 

「センさん?」

「……ネルちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で、私はセンさんの隣に座っていた。

 こうして彼の顔を近くで見るのは初めてかもしれない。

 でもジロジロ見てたら、何かこう……女子的にあれだから何か質問をしよう。

 

「センさんは、何されていたんですか?」

 

 出任せな質問だけど、私も聞きたかったことだ。

 何より彼はどこか気になる。今まで私の思っていた研究者とは全然異なるのだ。

 大体の研究者は何と言うか、意地を張ったりプライドが高い人ばかり。けどセンさんはそれと違う。

 何気ない事でよく笑って、私達ゴッドイーターに対してよく気遣ってくれている。私達がレポートを提出する時、何よりも先に「お帰り」と言ってくれるのが嬉しかった。

 

「んー……夢の続きでも見ようかなって」

「なんですか、それ」

 

 あぁ、とこの時もう一つ分かった事がある。

 彼はどこか子供っぽい。けどそれがいい。

 

「ネルちゃんはさ、一炊の夢って言葉知ってる?」

「えーっと……」

 

 記憶や思い出からありったけの文字を引っ張り出すけど見つからない。

 うん、どこで知ったんだろうそんな言葉。

 考え続ける私の反応から答えを悟ったのか、センさんは小さく笑った。

 

「まぁ、簡単に言うとね。ある人が一生を生きる夢を見たんだ。誰もが羨ましく思うような一生を送る夢。だけど、その夢から覚めてみれば一食分のご飯を作る途中――つまりほんの短い時間で見た夢だったんだよ」

「……」

 

 そういったセンさんの表情はどこか寂しそうだった。

 諦めているような、だけどそれを認めたくないような。

 ――その口元が笑っているのが、凄く哀しそうだった。

 

「センさんは……その続きを見ようと?」

「……うん、出来るはずも無いのにね。何してるんだろう、僕。――もう、帰れないのに」

 

 ――帰れない?

 何かが違う。センさんは夢を見ているんじゃなくて、夢に帰りたがっている?

 

「……その夢、私に聞かせてくれませんか?」

「思い出せる限りでよければ」

「話せる限りでお願いします」

 

 そうしてセンさんは、その夢を話し始めた。

 

 

 

 

 

 僕はネルちゃんに促されるがまま、前の世界の事を話し始めていた。

 我ながら上手い事逃げた物だと思う。だけど、余り良い方法とは言えない。

 僕は自身から逃げたのだ。僕自身がしなければならない事に、彼女を巻き込んで。

 だけど、話し始めたのは僕だ。ならば僕が区切りを付けなくちゃいけない。

 

「うん、そろそろ寝なきゃ。明日、エミールさんとの協働任務だったっけ」

「え、は、はい。……そうですね」

 

 どこか残念がるネルちゃんの姿に、僕は笑う。彼女は立ち上がって、出口へと歩いていった。

 巻き込んでしまったけど、聞いている時の彼女は楽しそうだった。なら、彼女には娯楽を提供する見返りとして、僕の記憶の思い出しに協力してもらおう。

 ……我ながらこんなのはキャラじゃない。もうこんなドジは踏まないようにしよう。と、ふとネルちゃんが振り返る。

 

「あの……センさん」

「ん?」

「私、センさんと一緒にその夢を見てみたいです」

「……え?」

「戦いが無くて、好きな人たちと普通に生きていられる。そういうのって凄くステキだと思います」

 

 ――普通。

 そうだ、前の世界では普通を当たり前だと思っていた。生きている事が当然で、自分の好きな事を出来るのが日常だと思ってた。

 それは凄く幸せな事。ネルちゃんはそういった。

 

「……うん、じゃあまた夢を見れたら話すよ。いつか、必ず」

「はい!」

 

 そうしてネルちゃんは立ち去ろうとして足を止めた。

 数秒程固まったその姿に、僕は首を傾げる。

 

「あの……」

「どうかした?」

「センさんの隣で眠っていいですか?」

 

 ――ノックアウト。断れるはずも無い。

 これが僕の研究室じゃなくてよかった。多分、僕は悶々として眠れなかっただろうから。

 っと、そんな事を考えるんじゃなくて理由を聞かなくちゃ。ハニートラップなんて彼女に限って在り得ないだろうけど、こうして警戒する癖はつけておく必要がある。

 信じて裏切られるなんて、僕は御免だ。

 

「何かあったの?」

「……エミールの声が、耳に残ってて」

「……あー」

 

 うん、分からないでもない。と言うか、ネルちゃんが一番ブラッドの中では苦労人だろう。

 今までの思考を反省する。彼女に警戒なんて必要ない。

 

「うん、いいよ」

「ありがとうございます」

 

 そうしてネルちゃんはもう一度僕の隣に座る。それにしても彼女の姿は、本当に綺麗だ。

 言葉にするなら正統派ヒロイン。――ラケル博士? あの人は、どちらかという黒幕的な感じだ。中身は凄く母性溢れる人だけど。

 

「御休みなさい」

「御休み。朝になったら起こすよ」

 

 僕の言葉に彼女はクスリと笑った。

 白衣を脱いで、彼女に体に掛けておく。これで少しは温かいだろう。

 ボーイミーツガール。僕が憧れていたシチュエーションでもあるけど、ある意味逆だ。前を行くのはガールで、後をついていくのがボーイ。

 なら僕は、僕に出来る事を。彼女が――ブラッドや僕の大事な人たちを、僕が導こう。

 剣も牙も無い僕には、それしか出来ない。だから出来る事をする。

 

 

 

 

 

 次の日、僕にオペレーターの緊急要請が届いた。

 内容は僕が聞いた中で史上最悪の内容だった。

 

『セン博士、貴方にオペレーションを依頼する。ある部隊が奇襲被害を受けた。本部隊は通常ミッション後であり、疲弊している事から貴方にオペレーターの引継ぎを頼みたい。

 ロケーションは亡国の黎都。攻撃を受けた部隊名はブラッド。

 内容は感応種マルドゥーク一体、大型種ヴァジュラ三体による奇襲だ』

 

 

 


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